(綱川秀夫著地磁気逆転X年(岩波ジュニア文庫)より)
地球の内部構造
大雑把に言って双極子磁場で近似
- 地球が発電を続けるためには、鉄が多いこと、鉄が溶けていること、鉄が流れるためのエネルギーがあること、の3つの条件が必要である。
つまり、地磁気の中を溶けた鉄が流れて、電流が発生する。その電流がまた磁場を生み出している。
地球の中心には固まった鉄の内核がある。これは溶けていた鉄が高圧になって固まった。
核には鉄よりも軽い元素が含まれているので、鉄が固まるとき、軽い元素が液体に残る。
そうすると軽い元素を多く含んだ液体は浮力で外核の中を上昇し、相対的に重い外核の液体物質は中心に沈降する。このようにして溶けている外核では上昇と下降の流れができる。
更に地球の自転軸がほぼ南北方向であることから、南北方向に伸びた渦によって南北方向の磁場が作られ、双極子磁場のおおもとになっていると考えられている。
シミュレーション結果: 様々な角度から見た地球コア内の磁力線。 左から真横、斜め、真上。
東工大綱川研のHPより(2020年不明)
- 宇宙空間に広がった地球磁場は、太陽から放出された高エネルギー粒子の流れ(太陽風)の影響を受け、太陽と逆側に吹き流されたような形をしている。
この地球磁場が支配する領域を磁気圏というが、地球は磁気圏をもつことで高エネルギー粒子に直接さらされずに守られている。
地球の磁気圏は、太陽風のため昼側では地球半径の10倍ぐらいに圧縮され、夜側では細長い尾を引いている。
地磁気は、時間によって変化する
地磁気は、擾乱のない日では、1日周期で規則的な変化を繰り返す。これは地球磁気圏と大気圏の間の電離層への太陽放射の影響を示すもので、地球の自転に応じて1日周期の変化として観測され、これを地磁気の日変化とよんでいる。
柿岡地磁気観測所の2008年6月3日と4日の地磁気測定値。
IGRF--International Geomagnetic Reference Field
全地球的スケールでの分布を表現するモデルとして最もよく使われるのが国際標準地球磁場(IGRF)である。
一般に地磁気を扱う場合にはその原因が地球内部だけにあるとしてポテンシャルVを以下の式で表す。
地心距離r、地心余緯度θ、経度λを用いて
ここでa=6371.2kmで、gmn、hmnをガウス係数と呼ぶ。
またPmn(cosθ)は、シュミット関数と呼ばれる擬正規化ルジャンドル陪関数であり、cosθ=μとおくと
ここでεmはm=0のとき1、m≠0のとき2になる定数である。
IGRFでは波長4000kmに相当する10次の項(N=10)までが採用されており5年ごとに係数が更新されている。
- また、地磁気は、長期にわたってゆったりと変化している。これは、永年変化と呼ばれている。
1900年と2000年のIGRF
- 東京で磁石の針が示す方向(地磁気の偏角)は、現在は北から7度西だが、伊能忠敬が地図を作製した200年前はほぼ北を向いていた。
350年ほど前に来朝したオランダ船の記録は、約8度東だったことを示している。
このことから日本付近の偏角は、この350年で東から西へ15度ほどずれてきたことがわかる。
このような地磁気が数十年から数百年という長い間に変化することは世界中でよく知られており、これを地磁気の永年変化とよんでいる。
永年変化は場所によりその変化の様子は様々だが、これは地磁気の地球規模での空間パターンが変化していることを示している。
外核起源の磁場の形は地球の中心に南北方向の棒磁石をおいた場合と似ているが、その棒磁石の強さが少なくとも最近200年間減少を続けている。
その速度は次第に加速してきており、最近100年では、あと1000年で0になる減少速度になっている。
さらに、このような単純な棒磁石で説明できない複雑な成分もあり、地表の磁場分布を複雑にしているが、このような成分の増減、移動活動も活発。
柿岡地磁気観測所のページより
地磁気は逆転する
- 過去の地球磁場を調べていくと、現在の磁場方向とは明らかに逆を向いている時代があることがわかっている。
78万年前(2020年現在は77.4万年前と判明)N極とS極は逆転しており、また少なくとも過去360万年の間に11回は逆転したと考えられている。
過去360万年間の地磁気極性と地質年代。
地磁気極性で黒い帯の部分は現在の地球と地磁気が同じ向きをむいていた時期、白い帯の部分は逆転していた時期。
柿岡地磁気観測所のQandAページより
上の図で(イオニアン)となっているところが2つに分けられ、ひとつはチバニアンと名づけられた。解説はこちら
- 逆転のしかたは、双極子成分がだんだん小さくなり、逆転して双極子成分がまた大きくなる、というのが一般的な考え方。
古地磁気で証拠も集められてきている。
(参考:望月伸竜,綱川秀夫,地磁気逆転開始期の地球磁場変動,地学雑誌,114(2),194-200,2005.)
- 地球磁場の変動には周期の長いものから、逆転、エクスカーション、変動、がある。
このうちエクスカーションは「仮想的地磁気極(VGP)の緯度が安定磁極期の方向から45度を超えて変動するもの」と定義されており、かなり頻繁に起きていることがわかって来た。
(参考:小田啓邦,頻繁に起こる地磁気エクスカーション~ブルネ正磁極期のレビュー~,地学雑誌,114(2),174-193,2005.)
磁気探査とは地磁気観測データから磁気異常を抽出し、その解析・解釈から地球の内部構造を調査する物理探査手法。
- 地磁気の三成分
磁場はベクトル量であり、3個の成分の組み合わせで表現される。
X,Y,Zの組の他に、F,D,Iの組もよく用いられる。
- 磁気異常とは
強い磁化をもつ磁性体が存在することによって、局所的にその磁性体周囲の磁場がIGRFのような標準磁場からずれていること。
- なぜ標準磁場にIGRFを使っているのか?
磁気探査結果は通常、大局的な傾向を除去した残差磁気異常図の形で図化表示されるが、その基準としては,古くは各探査区域毎の傾向面解析に基づく1次(または2次)の傾向面が使われた。しかしこの方法によると、隣接する探査区域の間で傾向面が異なるため、磁気図のコンターがつながらないことになり、広域的な視点で磁気図を見るときに不都合である。このため,残差計算の基準として各地域毎でなく全世界的な傾向面を用いることが考えられ、今日では専らIGRFが基準として用いられている。
- 具体的なソフトウエアの説明はこちら
(中塚正:GSJオープンファイルレポートNo423へ)
- Web上である地点の値を計算したい時はこちらが便利
(京都大学のページ)
磁気異常をもたらすもの
- 強い磁性を持つ物体(磁性体鉱物を多く含む岩石や鉄などの金属)が存在すること
- 日本付近では強い磁化をもつ物体が孤立していれば北側に負、南側に正の異常が対になって出る。
- 明らかに隣接物と磁化強度に差がある場合(構造境界)