光ポンピング磁力計のしくみ
物理探査ハンドブック(物理探査学会編(1998)、第9章3節(牧野雅彦)より)
- 光ポンピング技術を利用する光ポンピング磁力計は全磁力を測定し、プロトン磁力計に比べて測定感度と連続測定の点で優れている。
- 原理
- 基底エネルギー準位A1にある原子を高いエネルギー準位Bに励起させるため、
ちょうどこのエネルギー差(B-A1)に等しいエネルギー(hν=B-A1)を持つ光を照射する。
電子はスピンをもつので、基底エネルギー準位は磁場中では2つの微妙な差(約10-8eVオーダー)をもつエネルギー準位のA1とA2に分裂している(ゼーマン効果)。
準位Bに励起された原子は光を自然放出して、同等の確率で準位A1とA2に落ちる。
準位A2にある原子は光エネルギーが異なるので準位Bに励起できない。
さらに光照射を続けると、準位A1の原子は再び光を吸収して準位Bに励起する。
そしてこれを繰り返すことにより全ての原子が準位A2に揃う状態になり光吸収がおこらなくなる。
このように一つのエネルギー準位に揃えることを光ポンピングという。

- 次にこの状態でA2-A1のエネルギー差に相当するエネルギーをもつ電磁波を照射すると、
準位A2にあった原子が基底エネルギーA1にふるい落とされ、光吸収が再現する。
ゼーマン効果(A2-A1)は、弱い磁場強度という条件下では磁場強度に比例しているので、
掛ける電磁波の周波数を光吸収が再現するように制御し、その周波数を測定することにより、磁場強度を導き出すことができる。
- 装置
- 地球磁場を測定するのに適した磁力計は、センサー部にセシウム、ルビジウム、カリウム、ヘリウム等の気体セルが使用される。
光源には同じ原子のランプを用い、干渉フィルターで単色光とし、偏向フィルターで円偏向として気体セルに入射される。
- セルを透過した光をフォトセルで検知し、吸収状況をモニターする。セルにはコイルが巻かれており、これに交流電流を流すことによって電磁波を作る。
この電磁波の周波数を最適にするため、図のようにフィードバックを掛けて光学系を含めた発振器を構成する方法が一般的である。
磁束密度B(nT)の磁場中でこの周波数f(Hz)はルビジウムの場合f=4.67Bであるので、地球磁場強度が47000nTのとき、周波数は約220kHzとなる。
- 一般に光ポンピング磁力計の感度が高いと言われるのは、
この周波数がプロトン磁力計に比して約100倍と高く、磁力値の読みとり桁数も2ケタ程度増やすことが容易であるからである。
- ただし、測定精度としては、ゼーマン効果係数が正確にわかっていないこと、光の吸収バンドが有限の周波数幅をもつこと、
磁場と光軸との角度がわずかながら影響を与えることなどを考慮しなくてはならない。
その他の長所としては、プロトン磁力計に比べて低消費電力であること、連続測定ができることなどが挙げられる。
