随想

「私たちの生活と地圏資源の研究とのかかわり」

 私達が日常生活に使用している工業製品のほとんどすべての原材料は、地下資源と生物資源から得たものを根源物質としています。 食製品を除く工業製品の材料に地下資源が占める割合は、木材などの生物資源に比べて年々増加しています。また、生活に必要なエネルギー資源も、江戸時代には、 菜種油とか薪等の生物資源が主流でしたが、最近では、電力等の国内エネルギー源(一次エネルギー)の95%程度を、石油、天然ガス、ウラン、 石炭等の地下資源に頼っています。
 ところで原材料物質は、無機物質と有機物質に分類することができます。 無機物質については、明治時代から昭和30年代の高度成長期にかけて鉄鉱石や銅、鉛、亜鉛などのベースメタルと呼ばれるものが大量に使用されました。 しかし近年では、少量ではあるけれども、レアメタルと呼ばれる鉱物資源の調達が話題となっています。レアメタルは、 例えば、ハイテク製品の根幹を占める半導体の材料や、航空機の機体やエンジンに使用される軽合金の材料として使用されています。 限りある資源を有効利用するためにベースメタルやレアメタルのリサイクルも確かに必要ですが、 根源的な地下資源を安定的に供給するためには、これらの資源を効率よく探索することが、経済的にも産業的にも重要な課題です。
 一方、石油や石炭等を原材料とする有機物質の普及は目覚しく、例えば、スーパーでの商品の包装の多くは、紙、瓶、缶等に加えてプラスチック、 発泡スチロール等の石油化学製品が使用され、また、家屋やビルの内装材などとしても使用されています。 さらに、石油・天然ガスおよび石炭はエネルギー資源としても重要ですが、これらは一度使用すると再生が不可能なため、 地球上の経済的資源量の有限性を肝に銘じる必要があります。例えば、1973年には、石油資源の経済的な需給バランスの崩壊による第一次石油危機が発生し、 狂乱物価と呼ばれる物価上昇を経験した資源少国日本では、石油天然ガス資源の安定供給が、国民の生活安定に重要な課題となっています。
 最近では地球温暖化への対策として、単位エネルギーあたりの二酸化炭素排出量の少ない天然ガスの需要が伸びてきています。 すなわち、エネルギー需給構造は、長い目で見ると、社会の変化に対応して、時代とともに変遷しています。
 これらの地下資源の利用は私たちの日常生活と密接に関連していますが、地下の鉱物やエネルギー資源の供給に対する探査開発研究の重要性は、 現在、一般的にはあまり認識されていません。しかし、一部の露天掘り鉱床を除けば、地下資源は地表からは目に見えない限られた場所に限られた量が存在するため、 根拠のないまま探しても見つかるものではなく、探索には特に高度な技術が必要となります。
 資源の開発では、まず、個々の資源がどのような地質条件のもとで、自然界で起こるどのような反応または作用で形成されるのかを、 科学的に解明する必要があります。
 しかし、一言に「科学的に地下の姿を解明」というものの、これは目に見えない地下空間を実証的に予測する学問であり、 その学問研究の成果は短時間で評価できるものではありません。

 一般に、地質調査によって得られる地質図 と地質断面図が、地下資源開発や環境保全の分野で利用されていますが、対象とする地下の深度が大きくなると、露頭の地質調査で得られる情報だけでは不十分で、 地下の状況を詳しく把握することは困難になります。ここで、深部予測に役立つのが、岩石や地層の物理・化学的性質を利用する物理探査や地化学探査の併用です。
 例えば、人工地震波を利用すれば、観測波から入力地震波に対する地層や岩石の応答特性が得られ、数十kmまでの深さの地下構造の予測が可能です。ただし、 その結果は間接情報であり、地表地質との対比が特に必要です。このような手法は、例えば、材料科学分野での電子エネルギー弾性応答の解析手法とも類似し、 この面で地球科学に固有なものとはいえませんが、他の研究分野の手法をそのまま利用することもできません。 それは、地球科学では巨大な地球構成物質を対象とするという特異性のためです。 
 一方、地球化学的な探索では、各種岩石は地球内部の高温高圧下で形成されるので、地球が巨大反応装置であるとの認識が必要です。 また、地質的時間は長く、岩石は実験室では再現できない長い反応時間を経て作られます。このような、長時間にわたる高温高圧下での複合的な反応を経た地下の 姿を予測するため、実験室内での基礎的な分析や反応実験による理論が確立されますが、実体解明には巨大反応装置としての地球という視点がさらに必要です。
 ところで、巨大な地球を対象とした場合、演繹的手法のみでは地下深部の把握に限界があるため、20世紀後半からは、プレートテクトニクスというマクロな 仮説理論モデルを立て、それをデータで実証して改良する手法が確立され、地球科学的な研究が急速に発展しました。
 ただし、地球科学の研究では、データから演繹的に実証できる普遍的な事実や理論を明確にすることが必要で、 さらに、既存データで何が実証できるのかも示す必要があります。モデルの提唱者は、データから理論的に明確となる事実と仮定とを分けて明示する必要があり、 データとモデルの精度を示し、新たなモデルをいかに実証するかが重要です。さらに、資源探査では、調査資料の解析によってある程度有望な地域を特定しますが、 その特定地域に対しては、多額の投資をして調査のためのボーリングなどを行い、埋蔵量を求め、経済性を考慮しながら開発方法の検討が行なわれます。 特にリスクが高い資源地質の分野では、成功すれば経済効果が大きいことから巨額の資金を投じた大深度ボーリングなども実施されており、 実証的な研究姿勢が最も必要とされます。
 地圏資源環境研究部門では、このような資源の探査・開発に関わる基盤的研究を行なっており、 その内容は、前述の資源の探査・開発のプロセスの中でいずれか一つには属しています。 個々の資源研究成果の専門的で細かな事象にとらわれずに、研究成果の内容がこれらの視点のどこに属するかを考えることにより、 資源の研究と私たちの生活の関わりが理解できるでしょう。私達の生活に関連する地下資源の探査開発にとって、 当部門の研究成果が少しでもお役に立てるよう、関係する情報の収集と提供を行っています。



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