−南関東ガス田と温泉の安全性について−

図1 南関東ガス田

 1.南関東ガス田とは

神奈川県横浜市・川崎市から東京中心部、東京湾岸および房総半島に中北部にかけては南関東ガス田地帯と呼ばれるガス田地帯が発達しています。古くはこのガス田地帯が南関東産ガス地帯と呼ばれていましたが、昭和36年より「茂原、大多喜、白里、千葉、船橋、江東、江戸川、川崎等の諸ガス田を含み、千葉県、東京都東部、神奈川県東部、茨城県南部、埼玉県南東部にわたる水溶性天然ガスの産出地帯を南関東ガス田地帯と呼ぶようになりました。

 
南関東地区での最初の商業的なガス田は、1931年(昭和6年)千葉県の大多喜地区で大多喜天然ガス株式会社(現在の関東天然瓦斯開発(株)の前進)が開発を始めた大多喜ガス田です。ただし、この地区の天然ガスは、江戸時代末期の1865年(慶応元年)のころから住民の個人的な用途に利用されていました。

その後房総半島では、関東天然瓦斯鰍竅A帝国石油梶A伊勢化学(株)、日本天然ガス梶A合同資源産業梶@日宝化学梶A旭硝子梶A三井化学鰍ネどによって、大多喜、茂原、大網、東金、横芝、成田、千葉市などの房総半島北部で水溶性ガス田の商業的な開発が進み、千葉市を除けば、多くのガス田が現在でも稼業しています。

 東京都では、1948年(昭和23年)に産業技術総合研究所地質調査総合センターの前進である地質調査所による試験研究掘削が現在の江東区南砂2丁目(現在の東京都住宅供給公社南砂住宅敷地内、旧汽車会社跡地)で行われ、深度70m前後の第四紀の浅層ガス兆を確認しました。その後、1951年に東京ガス田の第1井として江東区大島で深度600mの掘削が行われて開発に成功しました。1950年代の前半には、葛飾区新宿(現在の三菱ガス化学工場跡の開発地区)、江戸川区東小松川などで1000mを越す掘削が行われました。また、江戸川を越えて千葉県船橋市(旧船橋ヘルスセンター)や千葉県市川市などでも1000m級の掘削が行われガス田が開発されました。しかし、進行する地盤沈下抑止のために原因となる地下水のくみ上げの総量を規制を理由として、東京都が鉱区を買い上げて、昭和47年以降東京ガス田からの水溶性天然ガス生産は全面的に休止されました。千葉県西部でも最近では同様に生産を休止しています。なお、神奈川県では、川崎市や保土ヶ谷区などでも500m級の掘削が行われ小規模なガス田が開発されました。

 
南関東ガス田地質断面図

 水溶性天然ガス

 多くの場合、気体は圧力が高いと水に溶けやすく、圧力が低いと水に溶けにくくなる性質があります。たとえば、サイダーの栓を抜くと、圧力が低くなって水に溶けていた二酸化炭素が溶けにくくなり気泡となっての二酸化炭素が水から分離します。同様に、圧力の高い地下水を地表にくみ上げれば、地下の天然ガスが地下水から分離します。このように地下水に溶けている天然ガスを水溶性天然ガスといいます。このような天然ガスを生産するには、天然ガスを含む高圧の地下水をくみ上げて、水とガスを分離すれば、ガスが生産できることになります。

塩分濃度など地下水の組成や性質にもよりますが、地下深度500〜2,000mぐらいに存在する南関東ガス田の地下水は50〜~200気圧程度の圧力で被圧しており、地下ではその体積のおよそ2~4倍程度のガスを溶かすことができます。一方、地表で20度の温度の水はその体積の3.3%しかガスを含むことができません。したがって、圧力の高いところにある地下水をくみ上げれば、その中から多ければ水の体積の2〜4倍程度の量のガスを生産することができるわけです。

3 既存の温泉は安全か?

温泉水からメタンが漏れているからといって必ず爆発するものではありません。爆発するには、メタン濃度がある特定の範囲にあることと、発火源が必要です。空気中のメタン濃度が5〜14%の範囲にある時には、ごく小さな発火源でもあれば爆発が発生し、この濃度範囲では微弱な静電気でも爆発する危険があります。しかし、メタン濃度がこの爆発範囲より濃いところでも薄いところで人工的に点火させても爆発はしません。

一般に、地下水が湧き出して、メタンガスを放出しても開放系であれば、爆発する濃度には達しません。メタンは、大量に発生しなければ、比重が軽いため、上方に飛散し拡散します。このため、空気中のメタン濃度が爆発範囲にまで増加する確率が低いためです。昔都市ガスと使用していた一酸化炭素は、爆発範囲が12.5%〜74%とメタンに比べはるかに広いことと、ガス漏れが起きるとその比重が空気の比重に極めて近いため、拡散しせずに濃集しやすい点があり、また有毒性もあります。このため、一酸化炭素が多くの爆発事故やガス中毒の原因となりました。しかし、これに比べれば、現在都市ガスに使用されているメタンの場合は、開放系の場所や、高いところで換気をしている室内で使用していれさえすれば、爆発や、中毒の危険はほとんどないといって過言ではありません。

 温泉水中のメタン濃度の測定はほとんど行われていないのが現実で、精度の高いガス検知器を使用すれば、南関東ガス田地域から産出するほとんどすべての温泉水からメタンが溶け出していることが検知されるでしょう。したがって、メタンを発生するから危険だとして温泉事業を規制することは、温泉の利用を否定することに等しく、非現実的な対応でしょう。

ただし、爆発の危険度を知るためには、温泉水から遊離するメタンガスの定量的な測定が必要です。特に、温泉利用の場合は、空気中のメタン濃度を定量的に正確に把握することが長期間にわたり必要で、そのためには検知器のメンテナンスも必要です。ただし、ガス検知器があれば、事故防止にある程度有効であるのは事実ですが、ガス検知器があるからといってすべての事故防止に役立つとは言いきれません。

また、温泉水中のメタンの含有量測定はほとんどなされていませんが、ほとんどの温泉で水のイオン濃度分析がなされています。この中でリスクを判断するひとつの材料としては、得られる温泉水の塩素濃度結果がメタン産出量を推察するひとつの目安になります。従来の南関東ガス田の地下水の化学分析の結果、塩素濃度が濃いとメタン産出量が増加する傾向があり、塩素濃度と遊離するメタン量に相関が認められる傾向にあります。文献上で知られる既存の温泉水分析好評データから見ると、江東区、荒川区、市川、船橋の他、柏、吉川、板橋、足立、太田、目黒、品川などにある温泉の中にはかなり高い塩素濃度データが認められるものもあり、高濃度のメタンを遊離する可能性があります。これらの温泉の安全対策は早急に検討されるべきものと思われます。

 
東京および川崎ガス田地質断面図と塩素濃度プロファイル

 

 

 

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