御嶽火山の概略

「木曽福島地域の地質」(竹内・中野ほか,1998)を一部修正・加筆

 御嶽火山は古い時代の古期御嶽と新しい時代の新期御嶽に二分されます.新期御嶽は,古期御嶽の中央にできたカルデラを埋め立てて成長した継母岳火山群と摩利支天火山群です.現在の山頂部には,新期御嶽の後半に活動した,南北に並んだいくつもの火口があり,南から一ノ池,二ノ池,三ノ池,四ノ池火口などと命名されています.最高峰は一ノ池火口縁の剣ヶ峰(標高3,067m)です

 古期御嶽火山は4つの火山の集合体です.約75万年前に活動を開始し,約42万年前に活動を停止しました.それぞれの火山は少しずつ火口を移動しながらそれぞれ数-10万年間活動していました.古い順に,東部火山群(75-65万年前)・土浦沢火山(68-57万年前)・上俵山火山(54-52万年前)・三笠山火山(44-42万年前)と命名されています.いずれも安山岩質の溶岩・火砕岩を主体としていますが,玄武岩やデイサイトも含まれています.残っている噴出物の体積は約40立方kmです.

古期御嶽と新規御嶽の区分
竹内・中野ほか(1998)の第41図.木曽川泥流堆積物は新期御嶽火山の山体崩壊堆積物.

 古期御嶽火山の活動終了後,約30万年間の活動休止期がありました.その間には山体の崩壊や浸食が繰り返され,山は著しく開析されました.この休止期におこった大規模な山体崩壊に由来する土石流は,木曽川沿いに岐阜県中津川市まで約80kmも流れ下っていることがわかっています.


 新期御嶽火山の継母岳火山群は,約10-9万年前の大規模な軽石(御岳第一軽石)の噴出で始まり,古期御嶽火山の中央部では山体が陥没して直径5-6kmのカルデラが形成されました.おんたけスキー場最上部の三笠山は,そのカルデラ縁の一部です.その後引き続いて,流紋岩やデイサイト質のシン谷溶岩層・湯ノ谷溶岩層・濁滝火砕流堆積物・三浦山溶岩層と呼ばれる溶岩や火砕流が噴出しました.現在,その噴出物は継母岳を中心に山体を構成しています.現存する山体は約20立方kmであるが,降下軽石層を含む総噴出量は60立方km以上と推定されています.

 引き続いて8万年前からは安山岩質の摩利支天火山群の活動が始まりました.8つの火山からなり,古い順に,濁河火山・金剛堂火山・奥の院火山・草木谷火山・継子岳火山・一ノ池火山・四ノ池火山・三ノ池溶岩層と命名されています.カルデラ内で火口を移動しながら活動し,カルデラはほぼ埋め立てられて現在の南北に並ぶ山頂群が形成されました.溶岩や火砕物からなる噴出物の体積は約40立方kmです.約5万年前には大規模な山体崩壊がおこり,くずれた岩屑は開田村末川から西野川沿いに広がり,さらに王滝川から木曽川沿いに土石流となって流下し,200km下流の愛知県犬山市や岐阜県各務原市まで堆積物が残っています(木曽川泥流堆積物).おそらく濃尾平野を通過して伊勢湾に流れ込んだでしょう.この火山群の活動はほぼ2万年前に終了しました.最後のマグマ噴火は五ノ池のスコリア噴火といわれていますが,その噴火年代はよくわかっていません.

御嶽火山の活動史
竹内・中野ほか(1998)の第42図

 

 最近2万年間は,水蒸気爆発を中心とした,比較的静穏な時期です.このうちの最近6,000年間には,1979年以前に4回の水蒸気爆発がおこっていたことが火山灰の研究からわかっていました.1979年10月28日,剣ヶ峰の南の地獄谷上部において水蒸気爆発がおこりました.この時の火山灰は東北東方向を中心に降灰しましたが,遠くは群馬県前橋市まで達しています.1991年5月には,きわめて小規模な噴火がおこりましたが,火口近傍にうっすらと火山灰が積もった程度でした.このような水蒸気爆発をおこしたと考えられる爆裂火口跡は,1979年噴火がおこった地獄谷の上部だけでなく,剣ヶ峰の北に位置する二ノ池からサイの河原にも認められます.

 ところが最近、2万年前以降は静穏期である、という見解が否定されてきました。2万年よりも新しいマグマ噴火がいくつも見つかり、また水蒸気噴火ももっと頻発していたことが分かってきています(鈴木ほか、2009;及川・奥野、2009)。もう少しすれば、これらの成果がきちんとまとまって報告されることでしょう。

 なお,1979年の噴火は有史以来初めての噴火といわれていますが,島田安太郎の著書『御嶽山 地質と噴火の記録』(千村書店)によると,西暦774年“御嶽地鳴りをおこし,御神火を噴出した”(『御岳縁起』,1768年)そして1892年“御嶽鳴動”(『西筑摩郡誌』,1915年発行)という記事があるようで,歴史時代の噴火記録の有無については再検討の余地が残されているかもしれない,と考えていました.しかし最近,これらの過去の噴火記事は存在しないことが明らかにされました(及川,2008,地調研報).

 

 


野麦峠スキー場から見た御嶽山

御嶽火山の地質図は1988年の「御嶽山」,そして1998年の「木曽福島」図幅として地質調査所から刊行されました.
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