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国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 合成生物工学研究グループ
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 生命機能分子工学分野 宮崎研究室

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リボソーム進化機構の理解、翻訳システムの再構築と宿主機能改変への応用

生体内の翻訳装置リボソームは、生命の設計図であるゲノムを最適に運用するよう、ゲノムと協調的に進化してきました。そのため、リボソームには、種の個性が色濃く刷り込まれています。特に、小サブユニットの中核分子である16S rRNAは水平伝播しない分子、すなわち種固有な分子と見なされ、生物の系統を反映する分子マーカーとして利用されてきました。これに対し我々は、大腸菌に含まれる7つの16S rRNA遺伝子が「完全に同一」ではないことに着目し、配列の「あそび」の程度を見積もる実験を行い、その結果 16S rRNAの種間互換性を発見しました(Kitahara et al., 2012; Tsukuda et al., 2017)。これを踏まえ、従来のComplexity仮説 〜複雑な系に組み込まれた成分は水平伝播しない〜 に基づくリボソーム進化モデルとは真っ向から対立し、種固有性と種間和合性を両立したCradle Modelを提唱しました(Tsukuda et al., 2017)。さらに最近、進化系統的に生命の起源に近いとされるThermus thermophilusを用いた実験では、大腸菌で見られた種間和合性に加え、遺伝的交雑性も観察され、Cradle Modelを精密化したRandom Patch Modelを提唱しました(Miyazaki, Tomariguchi, 2019)。リボソーム成分の遺伝的変化は、リボソームの機能変化を招き、ひいては細胞内のタンパク質発現全体(プロテオーム)に影響します。ゲノムは変わらないまま、その「運用法」が変わることで、生物は新たな振る舞いを見せ始めます。変異株の中には、元株にはない新たな(有用な)機能を持ったものが現れることも期待されます。我々は、リボソーム改変により誘起される生物システムの変化を駆動力とする独自の微生物進化工学に取り組んでいます。
 眺めて理解するリボソーム研究から創って理解するリボソーム研究へ 〜進化機構解明を通じて得られた学術知見と人工水平伝播という独自の分子工学技術を両輪に、我々独自のリボソーム研究を多角的に展開しています。

【キーワード】 16S rRNA | リボソーム | 種固有性 | 種間和合性 | 水平伝播 | Cradle Model | Random Patch Model | 宿主開発 | 異種遺伝子発現 | 抗生物質耐性 | 大腸菌 | Thermus thermophilus

リボソーム成分の種間和合性とリボソーマルRNA遺伝子の進化機構の解明

キメラ16S rRNAからなるリボソームリボソームは3個のRNAと57個のタンパク質から成る超分子複合体で、翻訳機能を担っています。その生理的役割の重要性と立体構造の複雑性から、進化的に極めて保守的な分子と考えられてきました(Complexity Hypothesis, Jain et al., 1999)。特にリボソーム30Sサブユニットに含まれる16S rRNAは、生物種間での入れ替え(水平伝播)できない生物種固有の分子であり、その遺伝子配列は、バクテリアの系統分類学の指標となっていました(Woese, 1999)。
 これに対し我々は、大腸菌の16S rRNA遺伝子欠損株に異種生物16S rRNAを導入し、生育相補性に基づく機能評価を行いました。様々な16S rRNAの供給源として「メタゲノム」を活用し、数万規模の異種16S rRNA遺伝子発現ライブラリーをスクリーニングした結果、大腸菌とは「綱」レベルで異なる遠縁の生物の16S rRNAであっても大腸菌内で機能することを実証しました(Kitahara et al., 2012)。さらに、大腸菌とは「門」レベルで異なる16S rRNAによる機能相補も確認しました。さらに配列が大きく異なる異種16S rRNAの変異解析により、16S rRNA遺伝子が中立進化していることを初めて実験的に明らかにするとともに、種特異性を満たしつつ種間和合性を同時に説明する新たな進化モデルとしてCradle Modelを提唱しました(Tsukuda et al., 2017)。さらに、大腸菌とは進化系統的にも生育環境的にも大きく異なる高度好熱菌Thermus thermophilusを宿主とし、Cradle Modelの一般性の検証を進めた結果、種特異性・種間和合性に加え、種間交雑性も見出し、Cradle Modelをさらに精密化した Random Patch Modelを提唱しました(Miyazaki & Tomariguchi, 2019)。

  1. Kitahara K, Yasutake Y, Miyazaki K (2012) Mutational robustness of 16S ribosomal RNA, shown by experimental horizontal gene transfer in Escherichia coli. Proc Natl Acad Sci USA 109(47):19220-19225. プレス報道
  2. Kitahara K, Miyazaki K (2013) Revisiting bacterial phylogeny: Natural and experimental evidence for horizontal gene transfer of 16S rRNA. Mob Genet Elements 3(1):e24210.
  3. Miyazaki K, Sato M, Tsukuda M (2017) PCR primer design for 16S rRNAs for experimental horizontal gene transfer test in Escherichia coli. Front. Bioeng. Biotechnol. 5:14 | DOI: 10.3389/fbioe.2017.00014
  4. Tsukuda M, Kitahara K, Miyazaki K (2017) Comparative RNA function analysis reveals high functional similarity between distantly related bacterial 16 S rRNAs. Sci Rep, 7: 9993 | DOI:10.1038/s41598-017-10214-3. プレス報道
  5. Miyazaki K, Tomariguchi N (2019) Occurrence of randomly recombined functional 16S rRNA genes in Thermus thermophilus suggests genetic interoperability and promiscuity of bacterial 16S rRNAs. Sci Rep 9:11233 | DOI: 10.1038/s41598-019-47807-z. Access the recommendation on F1000Prime

リボソーマルRNAの系統ネットワーク解析により明らかにされた組換え進化

16S rRNAは微生物進化系統マーカーとして長年使われてきました。しかし、分子時計としての特性(種固有性、中立性等)を実験的に検証されることなく「暗黙の了解」として受け入れられてきました。我々は実験的な立場から、16S rRNA遺伝子が部分配列の水平伝播を繰り返しながら進化して来たことを示唆して来ましたが、バイオインフォマティックス手法である系統ネットワーク解析により、16S rRNA遺伝子が異なる生物種間、ゲノム内のコピー間で頻繁に組換えを繰り返しながら進化してきたことも明らかにしました。種特異性と種間和合性が両立しているからこそなせる技です。この知見を元にリボソーム改変のさらなる技術の深化も進めています。

  1. 佐藤允治(2014)「水平伝播による腸内細菌目16S rRNAの進化」日本ゲノム微生物学会 ニュースレター 9:9.
  2. Sato M, Miyazaki K (2017) Phylogenetic network analysis revealed the occurrence of horizontal gene transfer of 16S rRNA in the genus Enterobacter. Front Microbiol. 8:2225 | DOI: 10.3389/fmicb.2017.02225

リボソーマルRNAに潜む新たな機能の発掘

リボソームはタンパク質合成装置として知られていますが、我々は、リボソームに秘められた新たな機能を見出しました。すなわち、16S rRNAのhelix 41がペリプラズム酵素であるRNase T2の特異的な阻害因子であることを明らかにしました。タンパク質合成とは無縁の機能が他にも潜んでいるのではないか? こうした観点からも研究を進めています。
 リボソームはDNAからRNAに転写された遺伝情報をタンパク質へと翻訳する役割を担います。一方、RNase T2は細胞外RNAの侵入阻止や栄養の取り込みなどに関わっています。大腸菌ではRNase T2はペリプラズム層に存在しており細胞質内のRNAとは隔絶されていますが、培養定常期やストレス条件下で細胞内膜に損傷が起きるとはRNase T2が細胞内に流入し、自己のRNAが分解される恐れがあります。このため、細胞内にはRNase T2からRNAを守る仕組みが必要であるが、この仕組みが不明でした。一方、RNase T2を大腸菌から精製すると、リボソームと結合した不活性体として単離されることが以前から知られていました。しかし、複合体形成の生理的意義や翻訳機能との関わり、相互作用の様式などについては不明でした。我々は、大腸菌16S rRNAの変異解析を通じ、RNase T2とリボソームの相互作用部位が16S rRNAに存在すること、RNase T2と結合することで細胞内の自己RNAの分解を防ぐことを発見しました。

  1. Kitahara K, Miyazaki K (2011) Specific inhibition of bacterial RNase T2 by helix 41 of 16S ribosomal RNA. Nat Commun 2:549 | DOI: 10.1038/ncomms1553 プレス報道 Nature Asia

リボソーマルRNAに由来する薬剤耐性変異の解析

抗生物質は感染症の予防や治療に役立つ物質ですが、耐性菌の出現が大きな問題となっています。抗生物質の半数がリボソームを攻撃すると言われていますが耐性変異についての知見は極めてわずかです。特にrRNAは翻訳活性の中心を担い、その主要なターゲットでありますが、耐性変異がどの程度存在するかについて、ほとんど知られていません。これは、rRNA遺伝子がゲノム内に複数存在することが多く、全コピーの一部が耐性化している場合でも、生物全体としては耐性が顕在化しないことがあります。こうした我々は、大腸菌のrRNAオペロン欠損株を使い、rRNA遺伝子を個別に機能スクリーニングする手法を抗生物質耐性に適用することで、未知の耐性変異の発見に成功しています。

  1. Miyazaki K, Kitahara K (2018) Functional metagenomic approach to identify overlooked antibiotic resistance mutations in bacterial rRNA. Sci Rep 8:5179 | DOI:10.1038/s41598-018-23474-4 プレス報道 Access the recommendation on F1000Prime

 北大サイトでの研究紹介 | Dental Tribuneでの紹介記事 | European Pharmaceutical Reviewでの紹介

リボソーム改変を起点とした細胞機能工学 〜ゲノム運用術〜

時空間制御されたタンパク質合成を行うリボソームの機能が少しでも変化すると、細胞内のタンパク質発現プロファイルの全体(プロテオーム)が変化します。これにより、代謝全体が変動し細胞の振る舞いが変化します。我々は、ゲノムを変えずに生物の特性がどこまで変わるのか、限られた遺伝子素材をどこまで利活用できるか? という問いを発します。遺伝子を足したり引いたりすることなく、生物がそもそも持っている遺伝子を活用することで、何ができるのか? どこまでの潜在能力を持っているか? という問いに対し答えを求めます。上述のT. thermophilusの系では、異種16S rRNAとの間で生まれたキメラ16S rRNAを含む変異株は、野生株の生育できない45℃で生育するなど、適応進化に寄与することが示されています。

何も足さない、何も引かない –– 宮崎

  1. Miyazaki K, Tomariguchi N (2019) Occurrence of randomly recombined functional 16S rRNA genes in Thermus thermophilus suggests genetic interoperability and promiscuity of bacterial 16S rRNAs. Sci Rep 9:11233 | DOI: 10.1038/s41598-019-47807-z.
  2. Hosokawa-Okamoto R, Miyazaki K (2011) Escherichia coli host engineering for efficient metagenomic enzyme discovery. in "Metagenomics: Current Innovations and Future Trends" (ed. Diana Marco, pp. 241-252, Horizon Scientific Press)
  3. Uchiyama T, Miyazaki K (2009) Functional metagenomics for enzyme discovery: challenges to efficient screening. Curr Opin Biotechnol 20(6):616-622.