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国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 合成生物工学研究グループ
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 生命機能分子工学分野 宮崎研究室

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未利用微生物遺伝資源開発の切り札

微生物は地球上のあらゆる環境に棲息しています。その数は莫大で、1グラムの土にも数億の微生物がひしめいているとされています。しかしその大半は実験室での分離培養が困難な難培養性です。微生物ダークマターとも呼ばれるこれらの存在は、その実態解明が環境微生物学の中心課題であるとともに、未利用遺伝子資源の宝庫としても注目されています。
 我々は、培養を介さないメタゲノミクスの手法により、自然界の微生物多様性を生かした有用遺伝子の探索を行ってきました。様々な環境試料から混合物のまま微生物ゲノムを抽出し、大腸菌を宿主にメタゲノムライブラリーを構築、機能(活性)に基づきスクリーニングします。これまで、土壌・海洋・堆肥・活性汚泥・発酵食品・温泉等、様々な環境から、新規遺伝子(バイオマス糖化酵素β-グルコシダーゼ・セルラーゼ・キシラナーゼ、環境汚染物質分解に関わる芳香環分解酵素(群)、芳香環応答性転写因子、抗生物質耐性等)を取得してきました。こうして一定の「成功」を収めてきましたが、得られた遺伝子を徹底的に解析した結果、現行のメタゲノミクスの「限界」も見えてきました。宿主大腸菌内で、環境ゲノム由来の遺伝子の多くが機能発現しないことが明らかとなったのです。これでは死蔵ライブラリ。宿主を改造し、異宿主発現の壁を乗り越えなければ、未利用生物資源の高度利用は「絵に描いた餅」となります。
 我々は、多段階の遺伝子発現プロセスの中でも、特に種特異性の刷り込まれた翻訳過程こそが最大のボトルネックであると見定めました[Uchiyama, Miyazaki, 2009; Hosokawa-Okamoto, Miyazaki, 2011]。翻訳装置(リボソーム)そのものを改造することで異宿主発現の問題を抜本的に解決できるのではないか? メタゲノミクスからリボソーム工学へ 〜研究テーマの舵を大きく切りました。

【キーワード】 糖化酵素 | 芳香環分解 | 薬剤耐性遺伝子 | 転写因子 | 異種遺伝子発現 | リボソーム

芳香環分解酵素の多様性と進化

フェノール類のメタ開裂酵素(Extradiol dioxygenase, EDO)をターゲットに、活性スクリーニングにより多数の酵素を取得しました。一つの酵素活性に着目し、EDO酵素の環境中での分布(どのようなファミリーがどれだけ)で存在するかを明らかにするとともに、分解系遺伝子群の多様性と進化について明らかにしました。

  • Suenaga H, Koyama Y, Miyakoshi M, Miyazaki R, Yano H, Sota M, Ohtsubo Y, Tsuda, M, Miyazaki K (2009) Novel organization of aromatic degradation pathway genes in a microbial community as revealed by metagenomic analysis. ISME J 3(12):1335-1348.

  • Suenaga H, Mizuta S, Miyazaki K (2009) The molecular basis for adaptive evolution in novel extradiol dioxygenases retrieved from the metagenome. FEMS Microbiol Ecol 69(3):472-480.

  • Suenaga H, Ohnuki T, Miyazaki K (2007) Functional screening of a metagenomic library for genes involved in microbial degradation of aromatic compounds. Environ Microbiol 9(9):2289-2297.

バイオマス糖化酵素の探索

バイオマスの酵素糖化に有用な酵素をメタゲノムライブラリーから取得しています。生成物阻害を受けない特殊なβーグルコシダーゼ等、ユニークな機能を持つ酵素を多数発見しています。

  • Uchiyama T, Yaoi K, Miyazaki K (2015) Glucose-tolerant β-glucosidase retrieved from a Kusaya gravy metagenome. Front Microbiol 6:548. doi: 10.3389/fmicb.2015.00548.

  • Uchiyama T, Miyazaki K, Yaoi K (2013) Characterization of a novel β-glucosidase from a compost microbial metagenome with strong transglycosylation activity. J Biol Chem 288(25):18325-18334.

  • Verma D, Kawarabayasi Y, Miyazaki K, Satyanarayana T (2013) Cloning, expression and characteristics of a novel alkalistable and thermostable xylanase encoding gene (mxyl) retrieved from compost-soil metagenome. PLOS ONE 8(1):e52459.

転写制御因子の探索(SIGEX)

SIGEX法により、特定の化合物に特異的に応答する転写因子を獲得しています。とくに芳香族化合物に応答する転写因子などは、大腸菌の代謝系に干渉しないため、有用な遺伝子工学ツールとしての利用も可能です。

  • Uchiyama T, Miyazaki K (2013) Metagenomic screening for aromatic compound-responsive transcriptional regulators. PLOS ONE 8(9):e75795.

  • Uchiyama T, Miyazaki K (2010) Substrate-Induced Gene Expression (SIGEX) screening: a method for high-throughput screening of metagenome libraries. Methods Mol Microbiol 668:153-168. Metagenomics - Methods and protocols - (eds. Streit WR and Daniel R, Springer)

転写制御因子を活用した酵素の探索(PIGEX)

「化合物P」に応答する転写因子を利用し、「化合物P」の前駆体にあたる「化合物S」を含む培地でメタゲノムライブラリーをスクリーニングします。「化合物S」が「化合物P」に変換された場合にのみGFP蛍光を発すると言う仕組みを利用して酵素を取得します。

  • Uchiyama T, Miyazaki K (2010) Product-induced gene expression, a product-responsive reporter assay used to screen metagenomic libraries for enzyme-encoding genes. Appl Environ Microbiol 76(21):7029-7035.

メタゲノム機能解析と異種遺伝子発現問題

環境から得た多様な微生物ゲノムを大腸菌を宿主にクローニングしたとしても多くの遺伝子は発現されないままの状態になります。単なる「死蔵ライブラリ」は機能解析という点では無用の長物です。これを意味のあるものにするには、大腸菌に遺伝情報を解読してもらわなければなりません。我々は、異種遺伝子発現において問題となる「翻訳」に注目し、翻訳バイアスの少ない宿主開発に取り組んでいます。我々の取り組む「リボソーム工学」はこの問題に端を発しています。リボソームの改変手段としてはrRNAの改変を行いますが、この際に宿主大腸菌のrRNAを異種のものと置換するという方法をとります。この「異種rRNA」の由来を環境ゲノムにしています。より詳細は、リボソーム工学のページにあります。

  • Hosokawa-Okamoto R, Miyazaki K (2011) Escherichia coli host engineering for efficient metagenomic enzyme discovery. in "Metagenomics: Current Innovations and Future Trends" (ed. Diana Marco, pp. 241-252, Horizon Scientific Press)

  • Uchiyama T, Miyazaki K (2009) Functional metagenomics for enzyme discovery: challenges to efficient screening. Curr Opin Biotechnol 20(6):616-622.

その他の関連論文

  • Miyazaki K, Kitahara K (2018) Functional metagenomic approach to identify overlooked antibiotic resistance mutations in bacterial rRNA. Sci Rep 8(1):5179.

  • Tsukuda M, Kitahara K, Miyazaki K (2017) Comparative RNA function analysis reveals high functional similarity between distantly related bacterial 16 S rRNAs. Sci Rep 7(1):9993.

  • Kitahara K, Yasutake Y, Miyazaki K (2012) Mutational robustness of 16S ribosomal RNA, shown by experimental horizontal gene transfer in Escherichia coli. PNAS 109(47):19220-19225.

  • Mori T, Mizuta S, Suenaga H, Miyazaki K (2008) Metagenomic screening for bleomycin resistance genes. Appl Environ Microbiol 74(21):6803-6805.

  • Mori T, Suenaga H, Miyazaki K (2008) Metagenomic approach to the identification of UDP-glucose 4-epirase as a menadione resistance protein. Biosci Biotech Biochem 72(6):1611-1614.