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国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 合成生物工学研究グループ
東京大学大学院 新領域創成科学研究科 メディカル情報生命専攻 生命機能分子工学分野 宮崎研究室

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進化による「ものづくり」

いかに精密かつ巧妙に機能するタンパク質(あるいはさらに高次な生物機能)も、それらは例外なく「進化」の所産であり、何ら知的な造作物ではありません。生物が望むと望まざると身につけている「進化」という属性が、高度に洗練された生物機能を実現します。膨大な試行錯誤の産物であるため、「進化」は一見非合理的な方法であると思われがちですが、進化は成功に裏付けられた万能なものづくり技術です。人類はこれまでにも「進化」を利用してきました。動植物の品種改良・育種などがこれにあたります。我々はこの進化によるものづくり 〜進化分子工学〜 を、酵素・タンパク質・システム・生物個体等、あらゆる生物機能の改変・改良に適用します。
 自然界における進化は緩慢です。正確な遺伝子複製系と変異修復系は遺伝情報を保護し、遺伝子変異バイアス(トランジションバイアス)や遺伝暗号表におけるコドン配置の妙は、塩基レベルの変異がすぐにはアミノ酸変異に結びつかないようレイアウトされています[Miyazaki, Arnold, 1999]。こうした遺伝学的な舞台装置の数々は、生物(や生体分子)がゆっくりとしか進化しないように仕組んでいるかのようです。そのため、生体分子を進化的に機能改変するには、自然界に張り巡らされたこれらの「安全網」をかいくぐらなければなりません。進化を「工学」として利用するためには、単に自然進化を真似るのではなく、適応進化のエッセンスを取り出し、進化能を引き出す一工夫が必要となります。進化工学のデベロッパーとして、この問題を主題とします。

【キーワード】ランダム変異 | 変異PCR | サチュレーション変異 | DNAシャフリング | 耐熱化 | 活性向上 | 発現向上 | フォールディング改善

ノーベル賞関連

酵素進化工学の研究をリードしてきたCaltech教授のFrances Arnoldが2018年のノーベル化学賞を受賞しました。基本コンセプトから最新版のレビューについてはノーベル賞講演をぜひご覧ください。英語教材にもなるように聞き取りやすい講演です。

  • 2018 Nobel Prize Award Ceremony:授賞式の様子。物理学賞、化学賞、生理学・医学賞、経済学賞の順で、Frances登場は途中からです。

  • Banquet speech:晩餐会でのスピーチ内容。これぞFrancesの真骨頂です。この言葉のシャワーを毎日のように浴びていたんだなぁと。知的でユーモアに溢れた名スピーチです。動画はこちら

  • 授賞理由(公式):今回の授賞理由が書かれています。温度適応に関する私の論文も4つ(3つ)引用されています。名前がMiyasakiとか、引用すべき論文の重複など、なぜだかミスが目立ちます(TT)。

参考文献 日本語で酵素進化工学(およびファージディスプレイ)のダイジェストを、という方は以下を参考にしてください。酵素進化工学については「古典的」な内容を書いています。

  • 宮崎健太郎(2018)「進化分子工学ー進化によるものづくりー」(2018年ノーベル化学賞解説論文)現代化学 273:21-25(現代化学12月号)(東京化学同人) | 簡易版ダウンロード

  • 宮崎健太郎(2019)「進化分子工学〜分子設計ツールとしての進化〜」(2018年ノーベル化学賞解説論文)科学 2月号(岩波書店)ダウンロード(岩波書店許諾済み)

  • 宮崎健太郎(2019)「進化分子工学 〜進化によるものづくり〜」じっきょう理科資料85:1-5(実教出版) 高校理科の副教材です。 ダウンロード

酵素の温度適応 ー耐熱化と低温適応ー

好冷菌Bacillus TA41由来のsubtilisin様プロテアーゼの耐熱化を通して、低温での活性が高く耐熱性も高いという酵素を創り出しました。自然界ではこのように好冷菌蛋白質の形質と好熱菌蛋白質の形質を合わせ持つキメラ蛋白質が発見されることはきわめて稀です。このため「蛋白質の低温での活性と耐熱性は両立しない」というのが通説になっていました。換言すると、低い温度で十分に機能するような「柔らかい」蛋白質は熱に不安定であり、逆に熱に安定な「固い」蛋白質は低温では十分な揺らぎが確保されずに活性が低くなる、とされてきました。しかし実際には、自然界に存在しないような選択圧を人工的に設定することで、機能的にキメラな蛋白質を得ることができました。自然界にはこのようなキメラを生み出す環境が存在しないことが発見されにくい原因ということになります。

  • Arnold FH, Wintrode PL, Miyazaki K, Gershenson A (2001) How enzymes adapt: lessons from directed evolution. Trends Biochem Sci 26(2)100-106.

  • Wintrode PL, Miyazaki K, Arnold FH (2000) Cold adaptation of a mesophilic subtilisin -like protease by directed evolution. J Biol Chem 275(41):31635-31640.

  • Miyazaki K, Wintrode PL, Grayling RA, Rubingh DN, Arnold FH (2000) Directed evolution study of temperature adaptation in a psychrophilic enzyme. J Mol Biol 297(4):1015-1026.

  • Miyazaki K, Arnold FH (1999) Exploring nonnatural evolutionary pathways by saturation mutagenesis: rapid improvement of protein function. J Mol Evol 49(6):716-720.

 一方、Bacillus subtilis(常温菌)由来のキシラナーゼを耐熱化も行いましたが、若干様相が異なります。活性のスクリーニングに対しては比較的弱い選択圧をかけ、耐熱性スクリーニングを行った結果、耐熱性を獲得した変異蛋白質はいわゆる〈好熱菌型〉となりました。すなわち低温での活性の低下のかわりに高温での活性が向上しました。先のプロテアーゼの耐熱化とは異なり、活性に関する選択圧の弱さが自然進化に多く見られるパターンに準拠して進化しました。

  • Miyazaki K, Takenouchi M, Kondo H, Noro N, Suzuki M, Tsuda S (2006) Thermal stabilization of Bacillus subtilis family-11 xylanase by directed evolution. J Biol Chem 281(15):10236-10242.

遺伝子発現効率の改良

大腸菌は、異種遺伝子発現の宿主として頻用されています。しかし、遺伝子によっては目的の発現量を得られない場合があります。その原因の一つである翻訳効率が低いことにありますが、翻訳過程は極めて複雑で、具体的な解決手段がほとんどありません。当研究室では、翻訳装置としてのリボソームに焦点を当て、変異解析研究を行ってきましたが(Kitahara & Miyazaki, 2011, Nature Commun.; Kitahara et al., 2012, PNAS)、本研究では翻訳される側の遺伝子に着目し、翻訳効率を左右する配列因子の特定を試みました。
 我々は、7種類の生物種(キノコ、枯草菌、大腸菌、出芽酵母、放線菌、糸状菌)に塩基配列の特性を合わせたGFP遺伝子を全合成した(アミノ酸配列は同一)。それらの遺伝子を大腸菌内で発現させると、遺伝子ごとに蛍光強度が異なっていました。そこで我々は、大腸菌型GFP遺伝子に比べ約1/13程度の発現効率しか示さない枯草菌型GFP遺伝子(塩基配列の相同性;78%)に着目し、進化工学的な発現改良を試みました。変異PCR法により得た高蛍光性の枯草菌型GFP変異体をサチュレーション変異、DNAシャッフリングなどを用いてその原因を調べた結果、開始コドン直後の4番目のアミノ酸コドンに点変異が入ることで発現効率が劇的に向上することを見出しました。本領域は変異前では5’UTR領域と強固な二次構造を形成していました。そこで次に5’UTR領域の変異実験を行った結果、劇的に発現効率が向上しました。以上の結果から、開始コドン付近のmRNAの二次構造により翻訳効率が著しく低下し、これを解消することにより、更に下流(4番目のアミノ酸以降)の遺伝子配列が枯草菌型のままでも大腸菌型GFPと同等に発現されることがわかりました。

  • Tsukuda M, Miyazaki K (2013) Directed evolution study unveiling key sequence factors that affect translation efficiency in Escherichia coli. J Biosci Bioeng 116(5):540-545.

酵素の可溶化発現効率の改良

タンパク質のフォールディング過程を設計することは未だに困難です。このような問題に対しては進化工学が大きなアドバンテージを発揮します。

  • Yaoi K, Kondo H, Hiyoshi A, Noro N, Sugimoto H, Tsuda S, Mitsuishi Y, Miyazaki K (2007) Structure basis for the exo-mode of action in GH74 oligoxyloglucan reducing end-specific cellobiohydrolase. J Mol Biol 370(1):53-62.