速報4/28(20000529-11.28.49)
From: SHINOHARA
地質調査所 有珠火山噴火対応状況速報 - 2000.04.28
■4/28の有珠火山活動状況情報
◎噴火活動は継続
西山西麓と金毘羅山西側山麓で各々複数の火口から白っぽい噴煙が上がり噴火活動が
継続。
金比羅山火口群には新たに直径50メートルを超える火口が形成。
4/21-22には降雨があったが、4/23の上空からの観測によると、泥流の発生は確認さ
れていない。
◎地殻変動は鈍化傾向
西山の火口群付近を中心とした地盤の隆起は、1日10cm程度に鈍化。洞爺湖温泉地
区、虻田町などの周辺部の地殻変動も鈍化傾向。
上空からの調査では二つの地域の火口の周辺やその間にできていた多数の断層が亀裂
のように長く伸びていることが確認された。また、洞爺湖温泉街の西側に南北方向走
る新たな断層が見つかった。
◎観測井からのガス組成
昭和新山北の観測井から沸き上がるガスのH2およびCO濃度は、4/4以降減少傾向。マ
グマ起源のガスの寄与が減少していると判断。
■地質調査所の調査
◆現地調査
◎自動光波測距装置による連続観測
有珠山西側について自動光波測距装置による観測を継続。
◎セオドライトによる地殻変動観測
西山西側の地殻変動状況を観測するため、セオドライトによる観測を継続。
この周辺では、西山西の火口群の近傍の地溝状に断層群が発達した中心付近の隆起速
度が最も大きく、4/13-4/26の間に約5m隆起している.隆起速度は最近やや減少して
きている。
詳しい観測結果は、地質調査所北海道支所のホームページ
http://www.aist.go.jp/GSJ/bHOK/usu-HP/photo/theopic/theopic.html
に掲載されている。
◎ 噴煙の熱映像観測
西山の火口から出ている噴煙の温度を測定するため、火口から1.4km地点において熱
映像観測を実施。
◎火山ガス観測
有珠山山頂火口内の火山ガス調査(噴気孔分布および活動状況、ガス温度および地温
測定、ガス組成分析のための試料採取)の実施を予定。
◆分析・解析
◎噴出物分析
3/31の噴火による火山灰中のガラスの含水量が約2.5 wt%であることが判明した。こ
の結果から、3/31の噴火を起こしたマグマは、噴火直前に深さ1-1.5kmにおいて発泡
・破砕していた可能性が高い。
【参考】マグマへの水の溶解度はマグマが受けている圧力が減少するにつれ、低下す
る。そこで、マグマの急冷物であるガラスの含水量を測定することにより、噴火直前
のマグマの深さを推定することができる。
◎衛星画像(熱赤外画像)の地質学的解析
通商産業省が開発したASTERセンサ(Terra衛星搭載)により、4/14に有珠火山周辺域
の観測が行われた。熱赤外放射計での観測画像には、現在活発に噴火活動をしている
複数の火口や泥流の痕跡が明瞭に捉えられている。今回の結果は,ASTERシステムを
用いた熱赤外画像による繰り返し観測が,火山活動の推移を把握する上で有効な監視
観測であることを示している。
解析結果は、地質調査所「有珠火山関連情報」ホームページ
http://www.aist.go.jp/GSJ/~imiyagi/Works/Event/Usu2000/
に掲載。
■参考:ASTERは,可視バンドから熱赤外バンドまでを観測することができる高性能
光学センサ(可視近赤外放射計,短波長赤外放射計,熱赤外放射計などのセンサーか
ら構成)で,NASA(米航空宇宙局)が打ち上げた人工衛星(Terra)に搭載されてい
る.また,短波長赤外放射計,熱赤外放射計による観測では,地表の温度観測が可能
である.
■ 見解
◎最近の地殻変動に対する議論のまとめ
昭和新山の形成(1943-1944)の記録によると、地盤の隆起活動がいったん鈍化し
た後、その隆起によって形成された屋根山のほぼ平坦な頂部の一部が,一旦凹型にな
った.これは,局所的に隆起速度の遅い地点ができたためで,沈降活動が起こったの
ではない.結果的に,凹地のそのほぼ中心部から溶岩ドームが出現し,昭和新山とな
った.
火口群周辺で最近観測されている隆起速度の低下が,今回の火山活動の沈静化を示
すのか,それとも昭和新山の場合と同様に溶岩ドームが出現する前兆を示すのかはま
だ明確ではない.
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