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産業技術総合研究所
大久保雅隆

エレクトロニクス・製造領域研究戦略部
上席イノベーションコーディネータ

構造材料ナノ物性計測分析ラボ ラボ長
aist nanometronics lab for structural materials

     筑波大学 数理物質系 客員教授

     経済産業省 安全保障貿易管理調査員

     規格開発エキスパート
    

「薄利多売から高利少売の産業構造へ」

 日本は、今後急激な人口減を経験します。何の対処もしないと50年後には江戸時代の頃まで戻ってしまうかもしれません。どの程度の人口を維持できるか、そのために国際競争力のある国内産業をどの程度維持できるかが、日本の50-100年度の国力を決めるのではないでしょうか。数年単位で勃興と衰退を繰り返すのではなく、安定的な成長が見込める市場であって、日本が得意とする分野はないでしょうか?私は、その有力な候補の1つが研究開発で使われる計測分析機器ではないかと考えています(nanotechJapan Bulletinをご参照下さい)。また、最先端の工業製品を生み出す生産設備も考えられます。これらの機器を核にして、最先端のナノテクノロジーなどを駆使した工業製品の研究開発から製造までのトータルソリューション提供、受託サービスといったソフトや制度まで含めて、日本ブランドを確立できないでしょうか?その過程で、日本はさらに先の高い研究開発力や人材育成能力を獲得し、付加価値の高い高利少売の製品を世界に供給する役割を担えないでしょうか?これらの最先端機器の開発には、研究開発法人や大学の有する施設を活用した製造が重要になってくると考えます。私は、下記のように超伝導計測技術の開発に携わってきました。その開発施設であるCRAVITYでは、超伝導デバイスはもちろん、多くの微細加工に関する所内外のニーズに応える体制を作ってきました。約款制度で使いやすくなったSCRや他の共用施設(IBEC)とも協力し、失敗することが多いチャレンジングな製品開発への取り組みに貢献できればと考えています。

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超伝導分光グループHP(e)

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主なプロジェクト

主な論文

依頼論文

超伝導X線検出器によるX線吸収微細構造分光(SC-XAFS)

超伝導検出器を搭載した先端質量分析装置

主な受賞歴

アメリカ質量分析学会における発表

著作

主な招待講演

国際会議委員

主な学協会等の活動

所属学会

リンク

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連絡先
tel: 029-861-5685
e-mail: m.ohkubo@aist.go.jp

「計測技術を分析技術に仕上げて普及させる」

 今まで測定することができなかった対象を見えるようにすることは、新規材料開発、工業製品開発、サイエンスの進展に寄与します。しかし、新しい "計測技術" で対象を測定できるようになっただけでは研究開発やサイエンスにおける課題解決を行うには不十分です。課題解決の方法を提示できるレベルの "分析技術" として仕上げるためには、計測データを使って分析を試みて、課題解決の成功例を積み重ねる必要があります。この過程では、オリジナルの先端計測分析機器をユーザーに公開して、市販の計測分析装置では対応できない事例の解決にチャレンジします。成功事例が積み重なると、計測データと比較できる知識として蓄積されます。このレベルに達すると、新しい計測技術は分析技術として仕上げられたことになります。この過程で、IECといった国際標準化に取り組み、ユーザーのために信頼性のある使いやすい分析技術として世の中に広めます。

 私が多くの共同研究者とともに取り組んできたのは、超伝導現象を活用した検出器を質量分析装置(Mass Spectrometer : MS)と、X線吸収微細構造分光装置(X-ray Absorption Fine Structure: XAFS)に搭載するという取り組みです。超伝導検出器としては、主に、超伝導トンネル接合(Superconducting Tunnel Junction :STJ)検出器と、超伝導ストリップ検出器(Superconducting Strip Detector: SSD)を開発してきました。昨年、産総研にあるクリーンルームを集約化し、超伝導デバイス開発のための拠点として、Clean Room for Analog & Digital Superconductivity (CRAVITY) を所内外に公開しています。超伝導検出器開発の初期には、微細加工技術開発や、放射光を使った検出器の性能評価を行いました。研究開発の当初は、計測対象が検出器そのものでした。現在は、この超伝導検出器を使って、タンパク質や化合物半導体というサンプルを超伝導検出器で分析できるレベルに仕上がってきました。

 超伝導検出器を搭載した先端計測分析機器は、市販機器の限界と考えられていた性能を凌駕しています。市販計測分析装置の原理的限界の一例は、通常の質量分析装置は、分子の質量を一意に決定できないことです。電磁力に対するイオンの応答は質量/電荷数比(m/z)によって決まります。MS装置ではイオンのz値を決定する手段がありませんでした。通常のイオン検出器は、数keVという運動エネルギーのイオンをカウンティングするだけですが、超伝導検出器は????、その運動エネルギーを測定することができます。イオンの運動エネルギーは、加速電圧とz値の積に比例するためm値を一意に決定できる真の質量分析が可能です。

 X線分析では、超伝導検出器は半導体X線検出器の理論限界を上回るエネルギー分解能を達成できます。材料中の微量 軽元素からなる化合物半導体中の微量軽元素ドーパントは、透過電子顕微鏡では見るのが困難ですし、X線分析でもマトリクス軽元素の強い特性X線に隠れてしまいます。超伝導検出器は、半導体の理論限界を上回るエネルギー分解能で、微量軽元素ドーパントのみを抽出することができます。KEK PFに設置している超伝導X線吸収微細構造分光装置装置(SC-XAFS)を使うと、ワイドギャップ半導体中のドーパントのような従来の装置では不可能な微量軽元素の格子位置を決定することができます。

 超伝導検出器の普及を促進するために、国際電気標準会議 IEC-TC90 において、新たなワーキンググループを設置することを目的に、臨時グループのレポーターを務めました。2014年5月には国際投票を経て、WG14(超伝導センサと検出器)が設置され、コンビーナを拝命しました。