情報処理学会誌「情報処理」
2012年5月号(Vol.53, No.5)
特集「CGMの現在と未来: 初音ミク、ニコニコ動画、ピアプロの切り拓いた世界」

2012年4月15日発行

「第44回星雲賞【ノンフィクション部門】」を受賞しました! (2013/07/20)

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Excerpt of IPSJ Magazine: Front cover

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(最終更新: 2013/07/22 15:00)

box 本特集の概要:

日本の技術・社会・文化の強みの相乗効果により, 一般の人々が活発な創作活動を繰り広げるCGM(Consumer Generated Media,消費者生成メディア)の未来を切り拓く画期的な現象が起きている. その現象の中核に焦点を当てた特別セッション 「CGMの現在と未来: 初音ミク,ニコニコ動画,ピアプロの切り拓いた世界」 を, 情報処理学会 創立50周年記念全国大会のイベント企画として, 2010年3月10日(水)に東京大学で開催した.

本特集は,この日本発の画期的なCGM現象が, 海外も含めてなぜそこまで注目されているのか, どうしてそんな素晴らしい現象が可能になったのかの一端を知っていただくことを目的としている. そこで上記のイベントで登壇いただいた, 剣持秀紀氏、伊藤博之氏、戀塚昭彦氏、濱野智史氏の4名の第一人者の皆様に記事の執筆をお願いした. また,本イベントを企画し,司会を担当した後藤真孝も記事を執筆した.

  1. <エディタからの特集企画説明>
    後藤 真孝, 奥乃 博: 特集「CGMの現在と未来: 初音ミク,ニコニコ動画,ピアプロの切り拓いた世界」 編集にあたって, 情報処理(情報処理学会誌), Vol.53, No.5, pp.464-465, May 2012.
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  2. <全体を俯瞰した解説>
    後藤 真孝: 初音ミク,ニコニコ動画,ピアプロが切り拓いたCGM現象, 情報処理(情報処理学会誌), Vol.53, No.5, pp.466-471, May 2012.
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  3. <歌声合成の解説> by 「VOCALOID」の生みの親の剣持秀紀氏(ヤマハ(株))
    剣持 秀紀: 歌声合成の過去・現在・未来: 「使える」歌声合成のためには, 情報処理(情報処理学会誌), Vol.53, No.5, pp.472-476, May 2012.
  4. <初音ミク、ピアプロの解説> by 「ピアプロ」「初音ミク」の生みの親の伊藤博之氏(クリプトン・フューチャー・メディア(株))
    伊藤 博之: 初音ミク as an interface, 情報処理(情報処理学会誌), Vol.53, No.5, pp.477-482, May 2012.
  5. <ニコニコ動画の解説> by 「ニコニコ動画」の生みの親の戀塚昭彦氏((株)ドワンゴ)
    戀塚 昭彦: ニコニコ動画の創造性: 動画コミュニティサービス「ニコニコ動画」の5年間, 情報処理(情報処理学会誌), Vol.53, No.5, pp.483-488, May 2012.
  6. <ニコニコ動画の先進性の解説> by 「擬似同期型アーキテクチャ」「N次創作」等の概念の生みの親の濱野智史氏((株)日本技芸)
    濱野 智史: ニコニコ動画はいかなる点で特異なのか: 「擬似同期」「N次創作」「Fluxonomy(フラクソノミー)」, 情報処理(情報処理学会誌), Vol.53, No.5, pp.489-494, May 2012.


box 閲覧方法:


後藤 真孝, 奥乃 博: 特集「CGMの現在と未来: 初音ミク,ニコニコ動画,ピアプロの切り拓いた世界」 編集にあたって, 情報処理(情報処理学会誌), Vol.53, No.5, pp.464-465, May 2012.

編集にあたって

後藤 真孝 (産業技術総合研究所)
奥乃 博 (京都大学)

 日本の技術・社会・文化の強みの相乗効果により,一般の人々が活発な創作活動を繰り広げるCGM(Consumer Generated Media,消費者生成メディア)の未来を切り拓く画期的な現象が起きている.その現象の中核に焦点を当てた特別セッション「CGMの現在と未来: 初音ミク,ニコニコ動画,ピアプロの切り拓いた世界」を,情報処理学会 創立50周年記念全国大会のイベント企画として,2010年3月10日(水)に東京大学で開催した.本イベントは開催前に2件,開催後に8件報道されるなど,注目を集め,700名の会場がほぼ満員となった.インターネットでの無料ライブ動画中継も実施して,ニコニコ生放送で約4,000名(同時接続視聴者数の平均は約610名),Ustreamで約1,200名(同時接続視聴者数の平均は約260名)の方々にご覧いただいた.

 本特集は,この日本発の画期的なCGM現象が,海外も含めてなぜそこまで注目されているのか,どうしてそんな素晴らしい現象が可能になったのかの一端を知っていただくことを目的としている.そこで上記のイベントで登壇いただいた,

という4名の第一人者の皆様に記事の執筆をお願いした.また,本イベントを企画し,司会を担当した後藤真孝(産業技術総合研究所)も記事を執筆した.

 本特集の最初の記事『1. 初音ミク,ニコニコ動画,ピアプロが切り拓いたCGM現象』(後藤真孝)は,このCGM現象を俯瞰して何がすごいのかをさまざまな角度から解説している.そして,日本が海外に対して圧倒的に優位に立っていると言えるこの現象を踏まえ,情報処理技術の力で切り拓かれつつある素晴らしい未来が議論されている.次の『2. 歌声合成の過去・現在・未来: 「使える」歌声合成のためには』(剣持秀紀)は,長年研究開発がなされてきた歌声合成システム「VOCALOID」がついに広く利用されるに至った経緯を紹介しており,今後の発展の方向性も興味深く議論されている.この「VOCALOID」に基づく歌声合成ソフトウェアでかつキャラクタでもある「初音ミク」は,2007年8月31日に発売されて以来,初音ミク現象とも呼べるぐらいさまざまな創作活動の中心となり,多くの連鎖反応を引き起こして話題となっている.『3. 初音ミク as an interface』(伊藤博之)を読めば,これが決して偶然ではなく,まさにそうした創作の連鎖反応を引き起こすために,いかに適切に環境を整え続けてきた結果であるかがよく分かる.権利を開放してユーザが安心して創作できるライセンスの整備や,投稿サイト「ピアプロ」の思想の議論は,きわめて本質的で今後大きな波及効果を持つに違いない.ただし,その連鎖反応は2006年12月に登場した「ニコニコ動画」がなければ,起きなかった可能性がある.それがなぜかは,『4. ニコニコ動画の創造性:動画コミュニティサービス「ニコニコ動画」の5年間』(戀塚昭彦)を読めば納得できる.創作活動を促す先進的な思想を,誰でも利用できる機能として実現しながら巧みに運営されてきたのであり,単なる動画共有サービスとはまったく異なるのである.その違いをさらに浮き彫りにするのが,最後の『5. ニコニコ動画はいかなる点で特異なのか:「擬似同期」「N次創作」「Fluxonomy(フラクソノミー)」』(濱野智史)である.ニコニコ動画は単に動画にコメントやアノテーションを付与できるサービスではなく,視聴体験の共有や,多様な創作の連鎖反応を引き起こすコミュニティサービスであることが明らかとなる.

 このように,さまざまな立場から「創造(クリエーション)する環境」を意図的に創造してきたこと,そこでのユーザ主導のコミュニティやコミュニケーションを重視してきたことが,CGM現象を連鎖させた本質である.以上の記事に登場する「N次創作」等の新たな概念や用語は,他の記事の中でも頻繁に登場し,本特集は重層的な構造を持っている.そのため,一通り読んだ後に再び読み直すことで,各記事の内容がより深く理解できる.

 冒頭のイベント企画が広く注目を集めたのは,このように登壇者として「生みの親」が勢揃いし,タイムリーで重要な話題だったからである.ただ,企画側でもそれを後押しするために,学会参加の呼びかけにもCGM的な発想と歌を取り入れる(我々の知る限り)世界初の試みを実施していた.開催1カ月前に,本イベントを宣伝する「初音ミク」の歌(研究用楽曲「PROLOGUE」の替え歌による宣伝動画)を「ニコニコ動画」で公開した上で,「あなたも,初音ミクで,このイベントを宣伝してみませんか?」と呼びかけた.宣伝動画を一次創作,N次創作して,ニコニコ動画等に投稿することを促した結果,上記の歌に新たな映像を付与した作品や,歌詞を再利用した別楽曲等,少なくとも4件の動画の投稿があり,試みが成功して投稿者に感謝している.

 CGMは,「UGC(User-Generated Content,ユーザ生成コンテンツ)」とも呼ばれ,本特集で取り上げた現象以外にも,さまざまな取り組みがなされている活発な分野である.情報処理研究者の立場から貢献できる技術課題は多岐にわたっており,CGMによるコンテンツを対象とした研究開発も未開拓の研究テーマの宝庫といえる状況である.本特集をきっかけに,より多くの人々が興味を持ち,さまざまな形でかかわっていただければと願っている.

(2012年3月13日受付) [情報処理学会の許可のもとに掲載]
後藤 真孝(本特集ゲストエディタ): 編集室, 情報処理(情報処理学会誌), Vol.53, No.5, p.550, May 2012.

編集室

後藤 真孝 (産業技術総合研究所)

 情報処理学会誌の表紙に「初音ミク」が登場して,皆様,驚いたのではないでしょうか.本特集「CGMの現在と未来: 初音ミク,ニコニコ動画,ピアプロの切り拓いた世界」をゲストエディタとして企画した私ですら,「表紙に初音ミクを載せましょう!」とご提案を受けたときには,「本当に載せるんですか?!」と驚きました.しかし,初音ミクは単なるキャラクタではなく,このCGM現象の象徴です.本分野の研究成果である歌声合成ソフトウェアです.近年注目を集める活発な創作活動と連鎖反応の源泉である初音ミクならば,情報処理技術が切り拓く明るい未来の象徴としても本学会誌の表紙に相応しいと考え,私も強く賛同しました.本特集を読んだ後に表紙を見れば,ご納得いただけるのではないかと思います.学会関係者の柔軟な発想と,掲載をご快諾頂いた伊藤博之社長に感謝いたします.

 初音ミクについてアツくポジティブに語る大学の先生や研究者が日に日に増えているように感じます.それが,キャラクタの顔や声が好きで語っているのだと誤解を受けた場面が過去にあったかもしれませんが,このCGM現象の素晴らしさに魅了されたからこそ語っているのだということを,本特集を通じて多くの方々に知っていただければ幸いです.ニコニコ動画を研究者が絶賛する場合も同様で,動画の中身だけでなく,その先進性や現象,文化に魅了されているのです.

 若い人に情報系の人気がなくなりつつある,という話を聞くことがありますが,音楽情報処理や歌声情報処理,あるいは初音ミク周辺の現象を見ている限り,研究・技術への関心は高く,熱気に溢れています.私は研究成果のデモビデオをニコニコ動画に投稿することを呼びかけ,我々自身も実践中です(たとえばhttp://www.nicovideo.jp/mylist/7012071/).それは研究成果を広く知っていただく重要性,人の記憶に残す重要性からですが,ニコニコ動画を日常的に観ている中・高・大学生にアピールできるのも大きな理由です.情報系の研究分野や職業の魅力に気付いて,動画をきっかけに将来の進路の選択肢として考え始めてもらえればと願っています.そういう意味でも,社会に開かれた学会として,近年活発に実践されている研究発表の無料ライブ動画中継を拡大する必要性は高まっていますし,そこで生き生きと楽しんでいる情報系の研究者・技術者の姿を見て,あこがれて情報系を目指す人たちが増えていくことでしょう.

 最後に,第一人者として日々新たなことに挑戦する大変お忙しい日々を送る中,執筆をご快諾いただき,CGM現象の魅力と素晴らしさをさまざまな角度から分かりやすく解説いただいた執筆者の皆様に,深く御礼申し上げます.本特集が明るい未来を切り拓く一助となることを心から願っています.

(後藤真孝/本特集ゲストエディタ) [情報処理学会の許可のもとに掲載]

後藤 真孝 (情報処理学会 正会員) m.goto [at] aist.go.jp

1998年早大大学院博士後期課程修了.博士(工学).現在,産業技術総合研究所 情報技術研究部門 上席研究員 兼 メディアインタラクション研究グループ長.音楽情報処理(http://songle.jp 等)を20年間,音声言語情報処理(http://podcastle.jp 等)を14年間研究.


box 参考:


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Masataka GOTO <m.goto [at] aist.go.jp>

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last update: July 22, 2013