KUTSUKAKE Mayako's Homepage

産総研
last updated 2024.4.2
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Profile
沓掛 磨也子(KUTSUKAKE Mayako)
国立研究開発法人 産業技術総合研究所
細胞分子工学研究部門(ウェブサイト
副研究部門長
〒305-8566 茨城県つくば市東1-1-1 中央事業所6群
TEL:050-3521-1648
E-mail:m-kutsukake(at)aist.go.jp
研究業績はこちら(researchmap
学歴
  • 1999年3月 お茶の水女子大学大学院 人間文化研究科 博士課程修了
  • 1999年3月 博士(理学)取得
経歴
  • 1999年4月 生物系特定産業技術研究推進機構 派遣研究員
  • 2005年1月 産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門 研究員
  • 2013年3月 産業技術総合研究所 生物機能工学研究部門 主任研究員
  •   (2016年4月~2017年3月 本部組織に異動)
  • 2020年5月 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 研究グループ長
  • 2022年2月 産業技術総合研究所 生物プロセス研究部門 研究グループ付
  •   (2022年2月~2024年3月 本部組織に異動)
  • 2024年4月 産業技術総合研究所 細胞分子工学研究部門 副研究部門長
研究内容

主な研究テーマ

  • アブラムシ社会の成立・維持に関わる分子基盤の解明
  • アブラムシにおける社会性の進化に関する研究
  • ゴール形成アブラムシにおける昆虫-植物間相互作用に関する研究
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    アブラムシの一部は、ハチ、アリ、シロアリ のように社会を形成して集団生活しています。 このような社会性アブラムシのコロニーには、「兵隊」とよばれる利他階級が存在し、コロニー防衛や巣内の労働を担っています。 私はこの兵隊アブラムシに着目し、分子から行動、進化にいたる幅広い研究をおこなっています。

    また、兵隊階級をもつアブラムシのほぼ全ての種が「ゴール(虫こぶ)」とよばれる巣を寄主植物に形成します。 このことから、アブラムシにおける社会性進化には、ゴール形成が重要な役割を果たしてきたと考えられています。 私は社会性アブラムシとゴールの関係、およびゴール形成の分子メカニズムについても興味を持って研究を進めています。

     

    1.兵隊アブラムシの攻撃毒タンパク質に関する研究

    兵隊アブラムシの攻撃方法は種によってさまざまですが、ある種の兵隊は、毒物質を口から敵の体に注入して攻撃します。本研究では、真社会性のハクウンボクハナフシアブラムシを対象に、兵隊に特異的発現する遺伝子を解析したところ、兵隊の消化管で大量に発現するカテプシンBプロテアーゼが、攻撃時の毒物質として機能していることを明らかにしました。

  • Kutsukake M., Shibao H., Nikoh N., Morioka M., Tamura T., Hoshino T., Ohgiya S.,and Fukatsu T. (2004) Venomous protease of aphid soldier for colony defense. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 101: 11338-11343. 産総研プレス発表(ウェブサイト
  • Rispe C., Kutsukake M., Doublet V., Hudaverdian S., Legeai F., Simon J.-C., Tagu D.,and Fukatsu T. (2008) Large gene family expansion and variable selective pressures for cathepsin B in aphids. Molecular Biology and Evolution 25: 5-17.
  • Kutsukake M., Nikoh N., Shibao H., Rispe C., Simon J.-C.,and Fukatsu T. (2008) Evolution of soldier-specific venomous protease in social aphids. Molecular Biology and Evolution 25: 2627-2641.
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    2.兵隊アブラムシによるゴール修復に関する研究

    モンゼンイスアブラムシの兵隊は、コロニー防衛のほかに、ゴール(虫こぶ)修復というユニークな社会行動を示します。ゴールが外敵によって攻撃され、穴があけられると、内部の兵隊が穴周辺にすばやく集合し、自らの体液を大量に分泌し、脚で混ぜ固めて穴を塞ぎます。分泌体液を構成する成分を解析したところ、体液の凝固にはフェノール酸化酵素を介したメラニン合成、およびその過程で起こるタンパク質の架橋が重要な役割を果たしていることがわかりました。また、兵隊はその後もゴール組織を刺激しつづけ、穴周辺の植物組織の再生を誘導していることも明らかにしました。

  • Kutsukake M., Shibao H., Uematsu K., and Fukatsu T. (2009) Scab formation and wound healing of plant tissue by soldier aphid. Proceedings of the Royal Society B. 276: 1555-1563. 産総研プレス発表(ウェブサイト
  • Kutsukake M., Moriyama M., Shigenobu S., Meng X. Y., Nikoh N., Noda C., Kobayashi S., Fukatsu T. (2019) Exaggeration and co-option of innate immunity for social defense. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 116: 8950-8959. 産総研プレス発表(ウェブサイト
  • 写真2 写真6

     

    3.兵隊の階級分化に関わる分子機構と内分泌制御に関する研究

    アブラムシの階級分化は表現型多型の一例です。兵隊も普通の幼虫も、単為生殖によって産まれた遺伝的同一クローンにも関わらず、環境因子による遺伝子発現パターンの違いにより、異なる形態、妊性、行動を示します。本研究では、人工飼料飼育が可能なハクウンボクハナフシアブラムシを対象に、兵隊の階級分化に関わる遺伝子基盤や内分泌制御を明らかにしようとしています。

  • Shibao H., Kutsukake M., Matsuyama S., Fukatsu T, and Shimada M. (2010) Mechanisms regulating caste differentiation in an aphid social system. Comparative and Integrative Biology, 3:1-5.
  • Shibao H., Kutsukake M., and Fukatsu T. (2021) Temporal division of labor in an aphid social system. Scientific Reports 11: 1183.
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    4.アブラムシにより誘導されるゴール内の排泄物処理システムの研究

    アブラムシのゴールは、開口部の有無によって開放型と閉鎖型に分類できます。開放型ゴールのアブラムシは、内部で生じる自身の排泄物(甘露)を開口部まで運んで外に捨てることができますが、閉鎖型ゴールではこのような掃除はできません。どのようにしてアブラムシは不衛生なゴミを処理しているのでしょうか?調べた結果、閉鎖型ゴール内の甘露はゴールの内壁によって吸収され、除去されていることがわかりました。さらに驚くべきことに、このゴール吸水という植物の性質は、植物自身ではなく、アブラムシによって誘導されているということもわかりました。

  • Kutsukake M., Meng X.-Y., Katayama N., Nikoh N., Shibao H. and Fukatsu T. (2012) An insect-induced novel plant phenotype for sustaining social life in a closed system. Nature Communications 3:1187 産総研プレス発表(ウェブサイト
  • Uematsu K., Kutsukake M., Fukatsu T. (2018) Water-repellent plant surface structure induced by gall-forming insects for waste management. Biology Letters 14: 20180470. 東大プレス発表(ウェブサイト
  • Kutsukake M., Uematsu K., Fukatsu T. (2019) Plant manipulation by gall-forming social aphids for waste management. Frontiers in Plant Science 10: 933.
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    5.アブラムシによるゴール形成メカニズムに関する研究

    ゴールは、昆虫が植物の形を操作してつくった異常な構造物です。ゴールの形は、昆虫の種によって厳密に決まっていることから、昆虫由来の何らかの化学物質が植物の発生プログラムを改変し、正確かつ再現的に植物の形態形成メカニズムを操作していると考えられますが、そのしくみはほとんどわかっていません。本研究では、エゴノネコアシアブラムシのゴールを対象に、ゴール形成に関わる分子基盤を昆虫・植物の両面から明らかにしたいと考えています。

  • 2024年度 学術変革領域研究(A) 共進化表現型創発:延長された表現型の分子機構解明(ウェブサイト
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    6.アブラムシの分類・系統に関する研究

    ヒラタアブラムシ亜科(Hormaphidinae) のツノアブラムシ族 (Cerataphidini) やムネアブラムシ族 (Nipponaphidini) を中心に、分類および系統学的な研究を共同でおこなっています。

  • Kurosu U., Kutsukake M., Aoki S., Wang C.-C., Lee H.-J.,and Fukatsu T. (2008) Galls of Cerataphis bambusifoliae (Hemiptera, Aphididae) found on Styrax suberifolius in Taiwan. Zoological Studies 47: 191-199.
  • Aoki S., Kurosu U., Kutsukake M., Hsieh T.-J., Yang M.-M., Choe J. and Fukatsu T. (2013) The aphid Ceratovacuna nekoashi (Hemiptera, Aphididae, Hormaphidinae) and its allied species in Korea, Japan, and Taiwan. Entomological Science 16: 203-221.
  • Aoki S., Kutsukake M., Kurosu U., Yeh H. T., Sano M., Fukatsu T. (2015) Nipponaphis species (Aphididae, Hormaphidinae) that form green galls on Distylium racemosum in Japan. Entomological Science 18: 420-434.
  • Kurosu U., Aoki S., Uematsu K., Kutsukake M., Fukatsu T. (2016) Defensive nymphs of the woolly aphid Thoracaphis kashifolia (Hemiptera) on the oak Quercus glauca. Psyche 2016: 4036571.
  • Aoki S., Kurosu U., Uematsu K., Fukatsu T., Kutsukake M. (2018) Dermaphis coccidiformis sp. nov. (Hemiptera), an aphid species with asymmetrically sclerotized apterae and “winter alates”. Entomological Science 21: 142-153.
  • Aoki S., Kurosu U., Uematsu K., Fukatsu T., Kutsukake M. (2019) Two closely related species of Nipponaphis (Hemiptera: Aphididae) that migrate between Distylium racemosum and Machilus trees in Japan. Entomological Science 22: 220-229.
  • Aoki S., Kurosu U., Uematsu K., Fukatsu T., Kutsukake M. (2019) Dimorphic sessile apterae of the aphid Neothoracaphis glaucae (Hemiptera) on the evergreen oak Quercus glauca. Psyche 2019: 1280414.
  • Aoki S., Kurosu U., Fukatsu T., Hsin-Ting Y., Kutsukake M. (2021) Revision of the Japanese species of Metanipponaphis (Hemiptera, Aphididae) and its allied genera. Entomological Science, 24: 302-319
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