三宅島火山2000-2002活動におけるSO2(二酸化硫黄)放出量の観測

風早康平      
産業技術総合研究所 
地質調査総合センター

Kohei KAZAHAYA
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1.はじめに
三宅島火山の2000-2002年活動では,2000年6月27日の海底噴火から始まり,7月8日に確認された山頂の陥没事件,そして,山頂における一連の小規模噴火と推移してきました。当初,山頂火口内から火山ガスの放出はほとんどみられませんでしたが,8月中旬以降になって,陥没により生じた山頂火口内から噴煙が絶え間なく観測されはじめました。8月18日の噴火は,成層圏に噴煙が到達し,多くの噴石が島内に落下し,被害を生じました。この噴火以降,山頂からの噴煙はその量的規模を増し,連続的になりました。本ページでは, COSPEC(相関スペクトロメータ:Resonance社製)V型を用いたSO2放出量の繰り返し観測結果(気象庁・産総研・東工大の共同観測)について解説するとともに,それらの観測結果から得られる火山活動の状況とマグマの脱ガス過程について述べます。

COSPEC観測は,現在,気象庁が産総研の装置を用いて,火山監視任務の一環として行っています.産総研は,装置の提供,改造調整,観測手法の改良,データ解析手法,観測結果の解釈などを担当しています.観測は海上保安庁,防衛庁などの協力により,ヘリコプターを用いて週1-3回の頻度で行われています.)

2. COSPEC観測手法

SO2放出量の観測にはCOSPECを用い,主にヘリコプターによるトラバース法で行われています。測定では,既知のSO2濃度のセルを用いて,キャリブレーションを行っています。三宅島火山からの噴煙中のSO2濃度は,これまで観測されたことのないほど,高濃度であることがわかりました。2000年9月中旬から,観測されたデータの妥当性について検討を開始し,観測されたSO2濃度で最も高いものは,8000ppmmに達していたことがわかりました。

3. SO2(二酸化硫黄)放出量の推移(グラフはこちら

三宅島で2000年8月26日にSO2の放出量観測を開始した当初は一日に数千トン規模の観測値でした。しかし,9月初旬までは,完全なトラバース観測法は用いていないことから,噴煙のSO2濃度を大幅に過小評価している可能性があります。9月中旬以降,観測手法が確立し,SO2放出量は数万トン規模に達していることが明らかになりました.その後,変動を伴いながら,三宅島は大量のSO2を放出し続けています。これまでで最大の火山ガス放出量を示したのは昨年12月7日で,実に日量23万トンに達しました(ただし,これは観測時の瞬間値を日量値にしただけなので,実際一日に23万トン放出されたわけではありません。
 2000年9月中旬から2000年12月末までのSO2放出量の平均値は日量42000トンであり,世界でも前例がないほど多い量でした。2001年8月末現在でSO2の放出総量は,約1500万トンに達します。

4.脱ガス過程

三宅島2000年噴火に伴い大量放出されているSO2ガスは,熱水プロセスでSO2を生成するのが非常に難しいことなどから,マグマ起源であると考えられます。マグマ中のSO2濃度が約0.25%であることから,一日に40000トンのSO2を放出させるに必要なマグマの量は1600万トンにもなります。脱ガス開始以来,現在まで(2001年8月末)に,1500万トンのSO2が放出されているので,脱ガスしたマグマの総量は約60億トンあるいは約2km3に達します。
 現在,もっとも可能性の高い定常的な脱ガスモデルは,火道内マグマ対流によってマグマ溜まりそのものが脱ガスするモデル(Kazahaya et al., 1994による)です。火道内マグマ対流のメカニズムは,火道上部で脱ガスしたマグマの密度が増加し,火道下部にあるガスを含んだマグマと比べて重くなることにより生じるというものです.マグマ火道がマグマ溜まりとつながっていれば,この対流により火道内へ新鮮なマグマが供給され,最終的にはマグマ溜まりそのものが脱ガスします.このモデルは,マグマ中の水が,マグマから非常に出にくい物質であるにもかかわらず,なぜ,多くの火山から大量に放出されているのかについても,よく説明することができます。逆に,この過程が働かない場合は,非常に低圧(200気圧以下)な環境に一日数万トンの水を供給可能なマグマ溜まりが存在していないと説明できません。 このモデルによると,一日に1600万トンのマグマが対流するのに必要なマグマ火道の直径は9mとなります。直径1.6kmの巨大な陥没火口を生成した三宅島火山において,実効値として9mのマグマ火道が存在すると考えることは非現実な話ではありません。

5.なぜ,大量のガス放出が起きるのか?

火道内マグマ対流モデルでは,9mのマグマ火道があれば,三宅島火山の放出するSO2の量を説明することができます.

では,もっと火道が太ければ放出量は増えるのでしょうか?

脱ガスの速度を決める要素の内重要なものとして,マグマ対流を生じるための必要条件としての火道径と気泡がマグマから分離される速度のふたつがあります。気泡(ガス)がマグマから分離される過程が律速段階になる可能性があります。この過程は,マグマヘッドの表面積が大きいほど速くなります。すなわち,今回,巨大な火口がピストンシリンダー型の陥没により生じたことにより,大きな表面積をもつマグマヘッドが地下浅所に誕生したと考えれば,世界でも例がないほど大量に放出される火山ガスの量がうまく説明できます。この場合,マグマ火道は必要条件として直径9m以上のものが存在していればよいことになります。
 一方では,高効率の脱ガスのための条件として,気泡がマグマから効果的に分離される必要性があります.気泡あるいは溶解しているガス種はマグマ中を短時間で移動できないため,もっとも効率の良いマグマからガスを分離する過程は気泡の合体による分離プロセスです.
 三宅島のマグマに含まれるガス含有量・組成を用いて,マグマに含まれる気泡とメルトの体積比の計算をしました.気泡の体積が6-70%になると泡同士が合体することによりマグマからガスが分離されます.三宅島火山では40気圧以下の圧力で効果的にガス分離が起こることがわかります.

つまり,1)低圧でマグマから気泡が分離されることと,2)火道が太いこと,の2点が火山ガスの放出量を決める重要な要素だということです.

 このような低圧の場所までマグマが上昇したのは,山頂の陥没事件の時にマグマストーピング過程が働いたためと考えられます.

6.いつまで続くのか?

もっとも重要なのですが,むずかしい問題です.

 大量の火山ガス放出は,
1)マグマ溜まりのマグマがすべて脱ガスし終えるまで続く可能性があります.

しかし,
2)脱ガスの進行などとともに生じるマグマヘッドの降下によって,火道上部が閉塞すれば,脱ガスは停止する可能性があります.本モデルによればマグマヘッドの圧力が40気圧を越えれば大量のガス放出機構が働かなくなり,ガス放出は停止します.

 長期予測のためには,マグマ溜まりの大きさを知ることが必要であると同時に,マグマヘッドの位置の把握も重要であるといえます.

謝辞
COSPEC観測は,気象庁火山課の監視業務の一環として行われています.観測に際しては,海上保安庁および陸海空の自衛隊等の協力によりヘリコプターを用いて行っています.関係機関および関係者に深く謝意を表します.

ヘリコプター観測において,および,高濃度SO2を観測するノウハウについて伝授していただきました米国地質調査所ハワイ火山観測所のJeff Sutton博士に深く感謝します.