モデルの概要
(1) 移流・拡散モデル
- 移流拡散モデルの入力データとして必要となる気象場は、多くの場合、
局地気象モデル(MM5など)の計算により得られたものを用いる。当モデルでは、中部山岳地帯を
含む600×600kmの領域を対象とした局地気象モデルの計算結果より、関東平野を中心とした200×200kmの領域内の気流場を切り出して入力データとした。格子間隔は水平5×5km、鉛直方向に
は5200mまでを18層に分割している。 局地気象モデルは降水過程、簡易化された放射過程を含ん
でいるが、ここでの解析対象日には降水は観測されていない。乾性沈着については、ガス状物質
に対しては空力学的抵抗、層流層内抵抗、表面抵抗の和の逆数として乾性沈着速度を物質毎に与
え、粒子状物質については乾性沈着速度を0.1cm s-1として一律に与えた。
(2) 発生源モデル
- 一次粒子としては、元素状炭素(EC)・有機炭素(OC)についての固定・移
動発生源からの排出係数がほとんど得られないことから、筆者らのグループでは1996年お
よび1997年に実施した沿道観測により排出係数の設定を独自に行った。ガス状物について
は、NHO3の前駆体としてのNOxと炭化水素(HC)類、SO42-
を作るためのSO2の発生源に限れば、これまでの研究でまがりなりにもデータは
集められてきている。しかしNH4NO3, NH4Clの前駆ガス
であるNH3とHClについては入力データとして実用に耐えるものは存在せず、筆者
らのグループでも独自にインベントリーを行い発生源データを作成した。右に、ECの発生源
データの例を示す。これより、関東南・西部での発生量が多い傾向がみられる。
(3) 化学反応モデル
- 気相光化学反応モデルとしてはCBM-IVを採用した。
NH4NO3
およびNH4Clを生成する無機平衡反応モデルについては、冬季の低湿度・低温条
件下ではその高濃度が形成される時間帯は気-固平衡であることから、熱力学的に得られる平
衡定数を用いた比較的単純な平衡モデル(Pio et al.,1987; Harriosn et al.,1990)を採用し
た。粒子状有機物の二次生成モデルに関しては、現在のところ組み込まれていない。将来的
にはPandis et al.(1992)のモデルなどの適用を検討中であるが、HC類の発生源データの貧弱
な我国の状況を考えると、そのまま適応することは困難であると考えられる。
(4) 境界値の設定と検証データの取得
冬季の集中観測では可能な限り多くの観測地点を設けるべく努力したが、
地上観測は5〜6地点(うち上層気象は2地点)での実施が限度であった。また、高時間分解(例え
ば昼間は2時間平均)でのサンプリングの多地点での実施は人的・予算的な制約から長期間続け
ることはできず、高濃度汚染の出現をシノプティックな気象状況から予測し、前日に観測開始
の決定をして2〜3日の短期集中観測を実施した。しかし、予想が外れて高濃度出現を捉え損な
う場合が多く、現在までに得られた観測結果のうちモデルの検証としての使用に耐えるデータ
セットは、1991年の2日連続の episodeが二回、1994年の3日連続のepisodeが一回のみである。
以下では、1994年12月23〜25日に出現した高濃度エピソードについてシミュレーション結果の例
を示す。
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