岩手県二戸市のガイア融雪システム
(世界で最初の融雪システム)


システムの主な仕様
融雪対象面積266 m2
DCHE (地中熱交換器)長さ150.2m×3基
ヒートポンプ1台 (電動機出力:15 kW)
循環ポンプ0.75 kW×2台
システムの熱出力約 50 kW

 二戸市のガイア融雪システムは、二戸市によって市道 (二戸市安比市道足沢線) に設置され、1995年12月から運転されています。
 地中熱交換器とヒートポンプを利用する融雪設備としては世界で最初の設備です。

 これまでの運転によって、十分な融雪能力を有していること、電力の消費量が極めて少なく、二酸化炭素削減効果が極めて大きいこと、また、電力費が安いことなどが実証されています。

 電力消費量と二酸化炭素排出量に関しては、同市にある電熱線あるいは遠赤外線電熱線を用いる融雪設備に比べて85%程度の削減を実現しています。
また、市内にある電熱線を用いる設備に比べ、ランニングコスト(電力費)を73%程度削減しています。

ボタン 二戸市のホームページ


システムの概要   
二戸坑井掘削 二戸DCHE坑口 二戸ヒートポンプ
DCHE建設工事地下150mまで設置されているDCHE
(DCHEの外径:8.9 cm)
制御盤(中央)とヒートポンプ(右)


融雪状況
二戸坂の上

 二戸市は本州で最も冬季の気温が低い都市の一つですが、ガイア融雪システムが十分な融雪能力を有していること、また、設計が適切であったことが確認されています。

二戸坂の下


電熱線方式や遠赤外線電熱線方式と比べた実績の年間電力消費量と電力費の割合

年度 単位面積当たり年間電力消費量(%) 単位面積当たり年間電力費(%)
対電熱線方式対遠赤外線
電熱線方式
対電熱線方式対遠赤外線
電熱線方式
199617.018.9
199718.319.0
199818.5調整中18.9調整中
199914.813.716.927.2
200012.313.514.425.3
200112.215.215.428.7


 ガイア融雪システムの単位面積当たり年間電力消費量は、同市にある電熱線方式あるいは遠赤外線電熱線方式融雪設備の15%あるいはそれ以下になっています。
 これは、二酸化炭素の排出量を85%以上削減していることを示しています。
 ガイア融雪システムが、地球環境とエネルギーの制約の問題に大きく貢献できることが実証されています。
 また、電力費は、ランニングコストが安いといわれている遠赤外線電熱線を用いる設備に比べて、3年間の平均で27.1%になっています。
 ガイア融雪システムのランニングコストが極めて安いことも実証されています。

 なお、電熱線方式と遠赤外線電熱線方式では、単位面積当たりの電力消費量に大差ありませんが、電力費が大きく異なっています。この電力費の違いの大部分は、電力契約の種別の違いによって生じていると考えられます。
 この例では、電熱線方式は低圧電力契約、遠赤外線電熱線方式は融雪電力契約となっています。
 融雪電力契約の方がかなり有利なことがわかります。



二戸市の気温図

現場は寒さがかなり厳しいところです

 図は、二戸市内のアメダス観測点における2000年冬の日最低気温と、現場で観測された日最低気温を示したものです。
 アメダスによる観測では、日最低気温が−10℃以下の日数が23日でした。また、シーズン中の最低気温は−17℃でした。
 アメダスの観測点が市内にあるのに対し、ガイア融雪システムは奥羽山脈に近い郊外にあること、また、現場の地形的な関係などから、現場で観測された気温はアメダスで観測された気温に比べて、かなり低くなっています。
 ちなみに、2000年冬に、現場で−15℃以下の日最低気温を記録した日数は15日でした。
 ガイア融雪システムの1号機は、このような寒さが厳しい条件で活躍しています。



 詳細 二戸市のガイア融雪システムの運転データ


世界で最初の融雪システム

 この二戸市の設備は、地中熱交換器とヒートポンプを利用した融雪システムとしては世界で最初の融雪システムです。
 研究所が開発した世界的に例がないシステムのためか、試験的な設備という書き方をしている報告書や資料がありますが、この設備は実用設備として二戸市が建設したものです。

 通常、このような設備を開発するためには、地中熱交換器による現場での熱抽出実験、地中熱交換器とヒートポンプを組み合わせた小規模システムによる融雪実験、そして実用設備の建設というステップを踏みます。
 しかし、私どもは、システムの開発と設計に際して現場実験などを一切行っておりません。その必要がないと考えていたからです。

 私どもは、1994年に、地中熱交換器とヒートポンプを含む冷暖房システムや融雪システムの運転挙動を模擬可能な数値シミュレータを開発していました。また、地中熱交換器による地熱エネルギーの抽出に関して、長い研究実績がありました。
 二戸市の設備は、これまでの研究成果を踏まえて、この数値シミュレータを用いてシステムの運転挙動を徹底的に検討した上で設計したものです。
 地中熱交換器のデザインや必要数、ヒートポンプの必要容量あるいは必要馬力、地中熱交換器中を循環する不凍液の流量など、全て数値シミュレーション結果に基づいて決定しました。(その後の設備も同様な手法で設計しています)
 また、このシステムのために、独自の制御システムを開発しました。
 現場実験などを一切せずに、数値シミュレーションのみによって開発・設計したシステムという点でも、このシステムは非常に珍しいシステムです。
 日本における従来の地熱や地中熱の研究開発のやり方とは全く異なっていますが、設計が極めて適切であったことが、これまでの優れた運転成績によって証明されています。


それにしても相当勇気と不安が・・・

 ガイア融雪システムは、1994年に札幌市役所道路維持部の融雪担当者から相談を受けて開発したものです。
 当時、札幌市の融雪設備の70%が電熱線、残りの30%が都市ガスによるものでしたが、設備数が300箇所、年間の維持費が10億円になろうとしていたときでした。
 この担当者は、このままでは札幌市の融雪はランニングコストが嵩んでどうにもならなくなるという危機感を持っていたようですが、たまたま、小生が「地熱」という雑誌に書いた地中熱に関する資料を読んだそうです。この資料は、「地熱の新たな可能性を示唆するスイスの例」という題で、地中熱のスイスにおける暖房への利用を紹介したものです。これを読んで、地中熱を利用すれば、ランニングコストが安い融雪設備ができるのではないかと思って、小生に相談したということでした。この担当者は素晴らしい点に着目したと思います。(実に優れたアイデアマンだったと思いますが、今どうしているのでしょうか?)

 早速、システムの開発にかかりましたが、数値シミュレーションの結果、化石燃料の消費量と二酸化炭素の排出量が極めて少なく、非常にランニングコストが安い、良いシステムができることがわかりました。
 しかし、実績がないことから上司の反対にあい、札幌市には採用されませんでした。残念なことでしたが、当然のことかもしれません。
 この時に、優れた融雪システムを実現できることが分かりましたので、その後、あちこちに採用を働きかけましたが、どこも採用してくれませんでした。
 最近地中熱の利用に積極的になった岩手県の県庁にも、当時、何回も足を運びましたがダメでした。
 「たとえ、国立研究所が開発したものであろうがどうであろうが、実績がないものは採用しない」とA市(秋田県)の担当者に言われたこともあります。実にもっともな考えです。

 このような苦労の末に、ようやく採用してくれる自治体が見つかりました。それが二戸市です。
 しかし、何しろ、世界的に例がないシステムですし、実験設備すらありません。
 しかも、この研究者は、現場実験も何もやらずに、いきなり実用設備を建設するとか言っています。
 何から何まで、実に常識はずれのことばかりです。地熱や地中熱の伝統的なやり方を尊ぶ研究者などから、気違い沙汰だと非難されてもおかしくありません。
 にもかかわらず採用してくれたのは、地球に優しい新しいシステムの導入に非常に積極的だったからだと思います。
 「進取の気性」という言葉が浮かんできます。
 当時、「アラブでもどこのエネルギーでもない二戸市のエネルギーを使うのが良い」と言った担当者がいましたが、それも導入理由のようです。
 とはいいながら、二戸市は相当思い切った決断をしたものです。
 採用に際してはかなりの勇気が要ったと思います。

 その後、当時の通商産業省から補助金を得て、平成7年度地域エネルギー開発利用モデル事業として、記念すべきガイア融雪システムが建設されました。9月の市議会で補正予算の承認を受けて10月に契約、完成したのは12月8日でした。
 建設はガイアエナジー研究会が行いましたが、今から考えると、短期間でよくやったものだと思います。

 設備の竣工式の際に、市長さんから、「盛田先生、本当に大丈夫なのでしょうか・・・。」と聞かれました。
 実に心配そうな表情でしたが、常識のある人なら心配するのが当然です。
 加えて、安い設備ではありませんし、翌年に市長選を控えていましたからなおさらです。
 小生は自信満々でしたが、市長さんは相当不安をかかえていたようです。


そして・・・

 この二戸市の設備によって、ガイア融雪システムの電力消費量と二酸化炭素排出量が著しく少ないこと、ランニングコストが非常に安いことが実証されました。
 私どもが開発したDCHEの性能が極めて優れていること、制御システムが優れていること、設計が極めて適切であったこと、設計技術が実用設備の設計上、十分な水準に達していたことも実証されています。
 地中熱交換器の単位長さ当たりの熱抽出率に関しては、DCHEによって世界的に例がない高成績を達成しています。

 その後、数が少ないながらも、ガイア融雪システムが増えつつあります。問い合わせも来るようになりました。
 最近は、ガイア融雪システムを真似たシステムもでてきました。
 今後、ますますこのようなシステムが増えていくと思われます。

 もし、あのときに二戸市が勇気をもって採用してくれていなければ、このようにはなっていなかったと思います。
 二戸市の並々ならぬ勇気と決断に感謝しています。
 また、地球環境とエネルギー問題への積極的な取り組み姿勢と熱意に敬意を表します。


前のページへ戻る

浅部低温地殻のページへ

K. Moritaのトップページへ