ブタ大脳のin-vivo Indentation試験 ○鎮西清行,カロル・ミラー* 工技院機械技研バイオメカニクス研究室,*西オーストラリア大 In vivo Indentation Experiment of Swine Brain Kiyoyuki CHINZEI, Karol, MILLER* Biomechanics Div., Mechanical Eng. Lab., MITI/ Japan, *Dept. Mechanical & Materials Eng., Univ. Western Australia Key words: in vivo indentation, in vitro compression, constitutive equation, Young's modulus Abstract The authors have observed compressive behavior of swine brain tissue in vitro and established a new constitutive equation. It's validation as the governing equation of the living body, in vivo, remained a question. For this purpose we designed a finite deformation experiment of in vivo swine brain by indentation. By introducing elastic halfspace assumption, Young's modulus is analitically derived from indentation depth, indentor diameter, and inclination of force - displacement curve. We obtained Young's modulus ranged 1.3 to 4.4 kPa. We obtained 3.8 kPa from our in vitro compression. In literature, it ranged 1.2 to 2.6 kPa from dog brain indentation[3]. As far as comparing Young's modulus, our result is in a proper range. We are preparing to simulate the experimental condition by FEM. 背景  我々はブタ大脳組織をin vitroに圧縮してそのひずみ−応力特性を得て,これをもとに新しい高次非線形構成方程式を提案してきた[1, 2].しかし,in vivo状態でのモデルに適用可能であるかどうかは,課題として残されてきた.類似の実験報告は頭蓋内での脳脊髄液(CSF)圧亢進などの影響のなどに関するものがある[3, 4]が,いずれも微小変形にとどまっており,手術シミュレーションで必要と考えられる数%〜20%程度のひずみでの挙動について得るところが少ない.そこで同程度のひずみを加えるin vivo実験を行い,幾つかの方法でin vitro実験の妥当性評価を試みた. 実験方法  麻酔管理下に硬膜まで開頭処理を行ったランドレース種のブタ3頭(体重およそ50 Kg)の大脳表面に,以下に述べる設定条件でindentationを行った. Indentation depth (mm) vs. rate R, indentor diameter F R (mm/sec) F 7 10 20 (mm) 0.5 10 10 - 1.0 10 6, 10 - 2.0 - - 10 5.0 5 5 - 圧子はロードセル(共和電業LU-10KSB34D;定格荷重10Kg)を挿んでステッピングモータ駆動の直動テーブル(シグマSTM50)に装着した.圧入はくも膜上の一ヶ所に対して行った.圧入したまま2分間圧子を停止して除荷過程を記録した後圧子を初期位置に戻した.次の実験までに2〜3分の休止時間をおいた.この長さは[3]に準拠した.  また,実験条件を再現する有限要素解析を行うために,ブタ頭骸骨上に4個,圧子軸上に8個のマーカを設定し,それらの位置関係を光学式位置計測装置で記録した.実験後にブタ頭部のMRI撮像を行った.本報告ではこの結果は省略する.図1,2に実験の様子を示す. 結果  図3に深さ10 mmの際の計測された荷重の時間経過を,図4にその変位−荷重関係を示す.図中,F10R0.5などは,それぞれF10 = 圧子直径10 mm,R0.5 = 圧入速度0.5 mm/sを意味する. ヤング率の推定  半無限弾性体での解析解から,ヤング率Eは E = (1 - n2) dF / R Eq.1 ここで,nはポアソン比,dFは変位−荷重曲線の傾き,Rは圧子直径である.青柳はイヌ大脳へのindentationにより,ヤング率を1.2〜2.6 KPaと報告している[3].青柳は2 mmを60 msecで圧入している.イヌ大脳直径を3 cmとすると,ひずみ速度は1.1 (1/s)と近似される.ブタ大脳直径を4 cmとすると,本実験での1.0 mm/secの圧入速度は2.5x10-2 (1/s)となる.ひずみ速度が大きく異なるため直接比較は難しいが,本実験では変位2mmにおいて1.6〜5.5KPaを得た. 圧子直径の影響  式1が成り立つとき,即ち半無限弾性体近似が成立するとき,ヤング率を一定と仮定すると dFオ R となる.そこで,図4の結果を平滑化して,値が安定している変位10 mm付近のdFと比較した.すると直径10 mmに対する直径7 mmのdFの比はおよそ78〜83%となった.実際の直径の比は70%である.圧子引き揚げ後の変位の復元が完全でないことが観察されている事から,誤差の原因は実験を繰り返したことで変位が復元しなかったため,後から行った直径10mmの系列の実験が過小に観測されたものと推定される. まとめ  青柳はイヌ大脳のindentationにあたり正中部以外の両側をほぼ大脳全体が露出するまで大きく開頭している.このため大きな圧入深さを取ることができない.一方,我々の実験では開頭部が数cm四方とごく小さく,深く圧入しても脳全体の移動を起こさない.しかし閉容器の内部を圧迫する構造になり,半無限体近似を適用するのはより困難になる.今回は決着をつけることができなかった.今後,より小さな半径の圧子とより高感度なセンサーを導入したうえで実験数を増やしたい. 文献 [1] 鎮西清行, Miller K.: 新鮮ブタ大脳の圧縮試験, 機械研所報, 50(4), 106-115, 1996. [2] Miller K., Chinzei K.: Constitutive Modeling of Brain Tissue: Experiment and Theory, J Biomech, 30(11/12), 1115-1121, 1997. [3] 青柳訓夫ほか: 脳のコンプライアンス, 脳神経, 32(1), 47-56, 1980. [4] Sahay K.B., et.al: Elastomechanical Characterization of Brain Tissue, J Biomech, 25, 319-326, 1992.