K. Chinzei, K. Miller, "Modeling Stress-Strain Relation of Brain Tissue (in Japanese)," in Proc. 6th Annual Meeting of Japan Soc Comput Aided Surgery, 1997, pp. 75-76. 大脳組織のひずみ−応力関係のモデル化 鎮西清行,*Karol Miller 工技院機械技研バイオメカニクス研究室,*University of Western Australia Modeling Stress-Strain Relation of Brain Tissue CHINZEI Kiyoyuki, *Karol Miller Biomechnaics Div., Mechanical Eng. Lab., MITI, *Univ. of Wester Australia Abstract A new constitutive equation representing the stress-strain relation of brain tissue is reported. Equation was derived from the derivative of strain enegry, in the form of polynomial with the coefficients which models the history dependent behavior. Parameters were determined by the adaptive fitting to the in vitro experiment (1)(2). The obtained model was ready to apply by combination with standard FEM package software, ABAQUS, for instance. はじめに  前報にてブタ大脳を用いたin vitro圧縮実験により得たひずみ−応力曲線を示した.これをもとにその構成式を導いた.構成式は手術操作などによる臓器の変形をシミュレートする際に,基礎的な物理関係を表す基本的関係である.微小変形域ではヤング率によるひずみ−応力関係(バネの公式 f = kx の一般形)が代表的であるが,有限変形域ではひずみなどをテンソル表記する必要がある.以下の議論は全てテンソル表記による. モデル化の方針  前報では実験的事実として,(1)何れのひずみ速度においても,またひずみが0.1〜0.3程度の範囲でも非線形である,(2)応力はひずみ速度に依存する,などを明らかにした.  関節部の軟骨のモデル化で大きな成果をあげた線形固・液二相モデル(KLMモデル)(3)は,上記項目2に反するため成立しない.KLMモデルでは急速な圧縮と準静的な圧縮の比が,最大で1.5を越えることができないことによる(4).  そこで,単相粘弾性モデルにより表現する事を目差した.ひずみエネルギーWを以下の多項式形式で表現する(5). (Eq. 1) ここで,J1〜J3はひずみテンソルの不変量である. (Eq. 2) BはCauchy-Greenの左ひずみテンソルである.  式(1)は組織が初期的に等方性である事だけを仮定している.圧縮性に関しては,前報の実験結果で断定できるだけの精度を得る事ができなかった.ポアソン比として従来の他の研究が仮定しているn = 0.5(非圧縮性)を仮定した.すると,式(2)中のJ3 は 1となる. 前報の実験条件をあてはめると,Bは対角項のみとなる. (Eq. 3) ここで,lzは軸方向の伸長率である.これを式(2)に適用すると,となる.応力は軸方向応力だけが非零項となり, (Eq. 4) と表される.ここで,応力は工学応力表記である. ひずみ速度依存性  粘弾性モデルは履歴依存を意味する.一般により直近の履歴に強く依存すると考えられている.そこで,式(1)中の係数項に,履歴が時間の経過と共に指数的に減衰する効果を持たせる(6). (Eq. 5)  これを式(1)に代入するには,コンボリューション積分に書き換える. (Eq. 6)  式(4)から,前項の実験条件では応力は以下の様に表される. (Eq. 7) 定数項の決定  式(7)を実験結果に対してあてはめる事で式中の定数を決定する.ひずみエネルギの多項式のOrderを示すNは小さいほどシンプルなモデルとなって好ましいが,前項の実験結果にあてはめるにはN=2程度必要な事が判明した. (Eq. 8)  N=2とおくと,定速圧縮の条件下(lz = 1 - (loading velocity) エ time)で式(8)は解析解を求める事ができる.結果は長大になるので省略する.重要なのは応力が係数Cijkにつき線形となる事である. 以下,詳細は省略するが式(5)中の時定数項のOrderを示すnを2に設定して,最小二乗法を用いて定数項を求めた. Table 1: Obtained parameters for Eq. 8 and Eq. 5. Unit is [sec] for t* and [Pa] for C*** t1 t2 C10・ C20・ C101 C201 C102 C202 =C01・ =C02・ =C011 =C021 =C012 =C022 50 0.5 81 0 26 395 163 84  これらを式(9)に適用し,実験的に求めたひずみ−応力線図と比較したものを図1に示す. 考察  本研究で用いた試料は,くも膜・灰白質・白質とこれに含まれる血管などからなる複合組織である.このため,類似の複合組織に対してのみ適合する結果が得られたに過ぎないという批判が予想される.が,ここでの目的は複合材料の振舞いをparametricなかたちであれ何であれ記述することにある.従って複合組織の平均的性質として表現されることには問題はない.  本研究で提案した構成方程式(式(6))は,汎用有限要素法パッケージABAQUSなどが用意する非線形粘弾性要素にそのまま適用可能であり,直ちに応用可能である.但し,3次元的にこの要素を用いて有限大変形問題を解くにはスーパーコンピュータクラスの計算機を必要とする.計算量の削減を目的とする近似法の研究が必要である.  また,本研究ではin vitroのブタ大脳を試料に用いた.人間の手術に応用するにはブタとヒトの大脳組織の力学特性の比較と,in vivoとin vitro状態の関係を明らかにする必要がある.in vivoでは豊富な血流と脳髄液の寄与が予想されるのでin vivoでの検証が今後の課題である. Reference 1 鎮西,Miller,「ブタ大脳の圧縮試験〜CASのバイオメカニクス」,第5回日本コンピュータ外科学会論文集,89-90,名古屋,1996 2 K. Miller, K. Chinzei, "Constitutive Modeling of Brain Tissue; Experiment and Theory", J Biomech (accepted for 1997 issue) 3 Mow, V.C., Ateshian, G.A. and Spilker R.L., "Biomechanics of Diarthrodial Joints: A Review of Twenty Years of Progress", Trans. ASME, J. Biomech. Eng. 115, 460-467, 1993 4 Miller, K. and Chinzei, K., "Modeling of Soft Tissues Deformation", Journal Computer Aided Surgery, 1, Supl., Proc. of Second International Symposium on Computer Aided Surgery, Tokyo Women's Medical College, Shinjuku, Tokyo, 62-63, 1995 5 Mooney, M., "A Theory of Large Elastic Deformation". J. Appl. Phys. 11, 582-592, 1940 6 Rivlin, R.S., "Forty Years of Nonlinear Continuum Mechanics", In Proceedings of the IX Int. Congress on Rheology, Mexico, pp. 1-29, 1984 本研究の一部は,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)提案公募型・最先端分野研究開発事業の「先進MRI画像化手法の基礎研究」として実施された. Fig. 1 Stress-Strain Curves. Continuous curves for the experimental results [1], and dotted curves for the simulated results by Eq. 9. The agreement was good ranging over 105 difference of loading speed.