抗癌活性薬剤の赤外円二色性(VCD)絶対配置、立体配座解析

抗癌活性を有するタキソールは、微小管を構成するチューブリンと呼ばれるタンパク質と結合安定化することにより脱重合を阻害する結果、癌細胞の分裂を阻害することから、その活性種の構造が創薬も含めて構造活性相関の観点から興味をもたれています。その中で、現存する装置の空間分解能の制約や核磁気共鳴(NMR)装置特有のNMRタイムスケールの制約、分子力場計算の精度の問題などから、様々な活性種の立体配座が提唱され、議論になっています。そこで、赤外円二色性(VCD)を利用して、抗癌活性薬剤をはじめとする薬理活性化合物の絶対配置、立体配座解析を進めて、構造活性相関解析に役立てる研究を行っています。

世界ではじめて観測した溶液中における偶奇効果の解析(J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 194-198)を進める中で、符号化立体配座表記を用いる解析技術を思い付き、赤外円二色性(VCD)に限らず様々な溶液の観測手段に適用可能であることから、知的財産化(特願2007-77133、特願2003-324999)を進めています。

別の薬剤であるサリドマイドは、催奇性で大きな社会問題化し販売が中止になりましたが、ハンセン病の痛みの特効薬となることや多発性骨髄腫に対する有効性から個人輸入が盛んに行われており、その管理方法が問題になっています。その動向も踏まえて、本解析技術を活用しサリドマイドの赤外円二色性立体配座解析を行ったところ、これまで代謝に関わる構造活性相関においてまったく考慮されていなかった二量体構造に関する新たな立体配座の知見(J. Org. Chem. 2007, 72, 277-279)を得ており、構造活性相関解析への活用が指摘されています。

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