5万分の1地質図幅「姫島」−縄文人御用達の黒曜岩(黒曜石)の島− 

伊藤順一1)・星住英夫2)・巖谷敏光2)  [1)環境地質部 2)地質部]

キーワード:地質図幅,姫島,国東半島,丸石鼻層,唐戸層,姫島火山群,マグマ水蒸気爆発,黒曜岩,黒曜石

 「姫島」図幅は,国東半島の北縁部と,国東半島の北方沖合い約4kmに位置する小さな火山島である姫島を含んでいます.

 国東半島の北縁部には,鮮新世から更新世前期に噴出した火砕流堆積物や土石流堆積物などの火砕岩(竹田津凝灰岩および両子山凝灰角礫岩)が分布しています.一方,姫島は瀬戸内海に浮かぶ唯一の第四紀火山で,鮮新世以降の堆積岩類と,更新世中期に形成された姫島火山群から構成されています.姫島に分布する堆積岩類は,従来の研究報告では整合関係にある2つの地層に区分されていました.しかし,今回の図幅調査で行った花粉分析の結果,上部層と下部層の間には少なくとも30万年以上の時間間隙が存在する可能性があることが判りました.これにより,姫島に分布する堆積岩類を下位から丸石鼻層,川尻礫層,唐戸層の3つの地層に区分しました.

 今から約20-30万年前に珪長質マグマ(普通角閃石デイサイト〜ざくろ石流紋岩質)の噴火活動によって,7つの火山(大海[ルビ;おおみ],矢筈岳,金[かね],稲積[いなづみ],城山[しろやま],達磨山,浮洲[うきす]火山)が形成されました.それらを総称して姫島火山群と呼びます(第1図).各火山は空間的な分布だけでなく,火山体を構成する溶岩・火砕岩の記載岩石学的特長も異なっています.姫島火山群を形成した珪長質マグマは,未固結状態にあった丸石鼻層などの堆積岩類を隆起・変形させながら上昇・貫入したため,堆積岩類には小規模ですが複雑な褶曲構造が形成されています.

 姫島火山群の各火山は主に溶岩ドームを形成しましたが,火砕丘の形成や小規模な火砕流や火砕サージの噴出を行った火山もあります.火砕丘は高さが低い(数10m程度)わりに火口径が大きく(数100m程度),タフリングやタフコーンに分類されるものです(第2図).この様な地形的特長を示す火砕丘は,地下深部から上昇してきたマグマが地表近くで水と接触する事で起こる激しい噴火活動(マグマ水蒸気爆発)によって作られたものです.このほかにも,高温のマグマと湿潤堆積物との爆発的な相互作用により形成されたペペライトや,地表に噴出した溶岩が水域を覆った為に引き起こされる爆発現象によって形成された火砕岩脈(スパイラクル)などを観察することができます.姫島火山群において,マグマ水蒸気爆発による火山活動の例が多いのは,噴火当時,各火山が海岸近くに位置していたためと考えられます.また,海上保安庁水路部発行の海図(12,500分の1「周防灘および近海」)には,姫島と国東半島を境する海底にも数個の高まりが認められます.これらも姫島火山群の活動に関連した海底火山かもしません.

 姫島は,国産み神話において12番目に生まれた島(女嶋[ルビ;ひめしま])として登場しますが,縄文時代から弥生時代にかけて北九州を中心に使用された黒曜岩石器の原石の産地として広く知られています.姫島北西の城山火山の北縁(観音崎)には黒曜岩が高さ約20mの崖として露出しており,大分県により天然記念物に指定されています(第3図).姫島では,堆積岩類の堆積構造(リップルマークやコンボルート葉理)や褶曲構造,各種の化石(木の幹や実などの植物化石や淡水生〜海生の貝化石),鉱物(藍鉄鉱や砂鉄),珪長質マグマの活動によって形成された火山地形やマグマ水蒸気爆発による噴出物など,地学的な観察ポイントが数多く点在しており,巡検地として見どころの多いところです.巡検後は,姫島鉱泉の湯船にゆっくりと入って,疲れをとるのも如何でしょうか.

図説明
 第1図 姫島火山群の層序関係図.実線は被覆関係,縦の矢印は貫入関係を,横の矢印は挟在することを示す.
 第2図 稲積火砕丘. 矢筈岳山頂より撮影.
 第3図 観音崎における黒曜岩の露頭.お堂(千人堂)の建っている部分から下が,黒曜岩質になっている.