圧力測定法

産総研
研究者 山脇浩 > 圧力測定法

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  Ruby蛍光シフト法による圧力計算
  Sm:YAG蛍光シフト法による圧力計算
  SrB4O7:Sm2+蛍光シフト法による圧力計算


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DACにおける圧力測定法

Ruby蛍光シフト法
ダイヤモンドアンビルのラマンスペクトルからの圧力決定
Sm:YAG蛍光からの圧力決定
SrB4O7:Sm2+蛍光からの圧力決定
状態方程式からの圧力決定


Ruby蛍光シフト法

DACの実験では圧力を決めるのに、試料部にRubyを共に入れておき、
その蛍光の圧力シフトを用いるRuby蛍光シフト法が一般的です。

Ruby蛍光スペクトル

Ruby蛍光スペクトル(図作成 山脇)



Ruby蛍光のR1線の波長λ(nm)と圧力P(GPa)の関係式は以下のとおり。
圧力範囲や静水圧性などにより、異なる式が提案されている。
λ0は、常圧でのRuby蛍光R1線の波長(nm)である。

Piermarini
 
  P = (λ-λ0)/ 0.365
 
  J. Appl. Phys., Vol.46, pp.2774-2780 (1975).
   ・19.5 GPaまで適用可能(信頼区間95%)
   ・メタノール+エタノール(4:1)混合液を圧力媒体として使用。
    (静水圧は10GPaまで)
   ・NaClを基準。


Mao

  P = 1904 * ((λ/λ0)5 - 1) / 5

  J. Appl. Phys., Vol.49, pp.3276-3283 (1978) . ---- 6 GPaから100 GPaまで
  その後180 GPaまで延長。550 GPaまでは外挿?
   ・一般的に使用されている。
   ・非静水圧条件下の式
   ・10 GPaまでは、メタノール+エタノール(4:1)混合液を圧力媒体として使用。
   ・100 GPaまでは、rubyをCu, Mo, Pd, Ag などのmetalと共に圧力媒体無し
    及び有り(MeOH+EtOH or H2O)の状態で加圧して測定。
   ・6 GPaから100 GPaまでの間で誤差は±6%以内。
   ・後日180 GPaまで、rubyをAu(圧力媒体も兼ねる)などと共に測定して延長。

Mao-quasi(旧 Revised Mao)

  P = 1904 *((λ/λ0)7.665 - 1) / 7.665

  J. Geophys. Res., Vol.91, pp.4673-4676 (1986).
   ・80 GPaまでの準静水圧条件下での式
   ・rubyをCu, Agなどと共にアルゴン圧力媒体下で加圧して測定。
   ・古いMaoの式と±6%以内では一致している。

Mao-hydro

  P = 1904 *((λ/λ0)7.715 - 1) / 7.715

  Proc. Natl. Acad. Sci., Vol.97, pp.13494-13499 (2000).

   ・ヘリウム圧媒体を使用した55 GPaまでの静水圧条件下での式
   ・圧力マーカーなしで、ヘリウム圧力媒体下でMgOのブリュアン散乱および
    X線回折測定のデータからルビー蛍光シフトと圧力の関係式を導いている。
   ・55 GPaまでで精度 ±1%

実際の計算はここで行えます。

圧力とともに、ルビーを励起するための吸収帯もシフトして行きます。
使用するレーザー波長と吸収帯の関係にも注意が必要です。

35 GPaまでの吸収帯シフトについては、
  S. J. Duclos et al., Phys. Rev. B, Vol.41, pp.5372-5381 (1990)

圧力測定用ルビーとして、うちの研究室では、Ruby ballという
5〜30μmの球形に加工したRubyを購入し用いています。
適当なサイズのものを選びやすく、ゴミ等との区別も容易につきます。



ダイヤモンドアンビルのラマンスペクトルからの圧力決定

メガバール領域では、ルビー蛍光測定も困難になる。
そこで、加圧しているダイヤモンドアンビル自身のラマンスペクトルから圧力を求めるというもの。
ダイヤモンドアンビルのラマンピークの高波数側のedgeの位置から圧力を算出する。
ラマンスペクトルを一次微分することでedgeの位置を決め、次式によって計算する。

  P = 66.9 - 0.5281ν + 3.585×10-4 ν2 : 250 GPaまで


文献
 Y. Akahama and H. Kawamura, J. Appl. Phys. Vol.96 pp.3748-3751 (2004)



Sm:YAG蛍光からの圧力決定

高温・高圧実験では、ルビーの代わりに
温度による蛍光シフトを無視できるSm:YAG(Sm doped Y3Al5O12)を
使うことがある。

文献
 Nancy J. Hess et al., J. Appl. Phys. Vol.68 pp.1953-1960 (1990) DOI:10.1063/1.346593
 Hitoshi Yusa et al., J. Appl. Phys. Vol.75 pp.1463-1466 (1994) DOI:10.1063/1.356380



SrB4O7:Sm2+蛍光からの圧力決定

SrB4O7:Sm2+(Samarium-doped strontium tetraborate)

5D0 - 7F0 emission line ( 0 - 0 line)はsingletであり、
圧力や温度によるブロードニングが小さい。
温度によるシフトもほぼ無視できるので、高温・高圧実験にも使える。

文献(1)では、
  ・0 - 0 lineのシフト量は、0.255 nm/GPa
  ・1atmでのピーク位置は 685.41nm
  ・圧力媒体としてメタノール+エタノール(4:1)混合液を使用してrubyと共に20GPaまでの蛍光シフトを測定。
  ・ピーク高さは、ruby R1 lineの25 %程度。
  ・温度依存性は、400℃まで -0.0001 nm/K

  # 0 - 2 lineの一つは、0.450 nm/GPaと大きな圧力シフトを示す。

文献(2)では、

  P = 139.33 ((1+5.788×10-2Δλ)0.5 - 1)

  もしくは、この式を変形して
   P = 4.032Δλ(1+9.29×10-3Δλ)/(1+2.32×10-2Δλ)

  ・ヘリウム圧力媒体を使用してrubyと共に124GPaまでの蛍光シフトを測定。
  ・圧力に伴うピークシフト量の変化が小さく、40GPa以上ではrubyよりもシフト量が大きくなる。
  ・圧力に伴うピーク強度の減少も小さく、100GPa付近ではruby R1 lineの2倍程度強くなる。
  ・温度依存性は、900Kまで negligible。
  ・非静水圧の影響もrubyより小さい。
  ・thermal broadeningが小さい。

  SrB4O7:Sm2+蛍光シフト法による圧力計算


文献
 (1) J. M. Leger et al., J. Appl. Phys. Vol.68 pp.2351-2354 (1990).
 (2) F. Datchi et al., J. Appl. Phys. Vol.81 pp.3333-3339 (1997).




状態方程式からの圧力決定

ユゴニオ測定などから状態方程式が求められている金属などを圧力マーカーとして、
X線回折測定から既知の状態方程式をもとに圧力を計算することもある。

百数十GPaを越えてルビー蛍光が弱くなり測定が困難になる場合や、
容易にX線回折測定できる放射光などのX線実験の場合などでしばしば使われる。

ガスケットに用いられているレニウム(Re)のX線回折パターンを測定して
unit cell volumeを求め、既知の状態方程式から圧力を計算している例もある。

  Yogesh K. Vohra et al., Phys. Rev. B, Vol.36, pp.9790-9792 (1987)
    DOI:10.1103/PhysRevB.36.9790

35 GPaまでの低圧領域でのReの状態方程式は、

  Lin-Gun Liu et al., J. Phys. Chem. Solids, Vol.31, pp.1345-1351 (1970)
    DOI:10.1016/0022-3697(70)90138-1

Reの構造は、hcpであり、
空間群は、 No.194  - P63/mmc (d site)となる。

ReのX線回折パターン

                (図作成 山脇)

 図 10 GPaにおけるReのX線回折パターン・シミュレーション
   Reのatomic cordinateは、(2/3, 1/3, 3/4)である。
   文献:Lin-Gun Liu et al., J. Phys. Chem. Solids, Vol.31, pp.1345-1351 (1970)の
   データをもとにシミュレーションした。



#参照元の特に記載が無い図は、このサイトのために準備したものです。