DACの実験では圧力を決めるのに、試料部にRubyを共に入れておき、
その蛍光の圧力シフトを用いるRuby蛍光シフト法が一般的です。
Ruby蛍光スペクトル(図作成 山脇)
圧力とともに、ルビーを励起するための吸収帯もシフトして行きます。
使用するレーザー波長と吸収帯の関係にも注意が必要です。
35 GPaまでの吸収帯シフトについては、
S. J. Duclos et al., Phys. Rev. B, Vol.41, pp.5372-5381 (1990)
圧力測定用ルビーとして、うちの研究室では、Ruby ballという
5〜30μmの球形に加工したRubyを購入し用いています。
適当なサイズのものを選びやすく、ゴミ等との区別も容易につきます。
メガバール領域では、ルビー蛍光測定も困難になる。
そこで、加圧しているダイヤモンドアンビル自身のラマンスペクトルから圧力を求めるというもの。
ダイヤモンドアンビルのラマンピークの高波数側のedgeの位置から圧力を算出する。
ラマンスペクトルを一次微分することでedgeの位置を決め、次式によって計算する。
P = 66.9 - 0.5281ν + 3.585×10-4 ν2 : 250 GPaまで
文献
Y. Akahama and H. Kawamura, J. Appl. Phys. Vol.96 pp.3748-3751 (2004)
高温・高圧実験では、ルビーの代わりに
温度による蛍光シフトを無視できるSm:YAG(Sm doped
Y3Al5O12)を
使うことがある。
文献
Nancy J. Hess et al., J. Appl. Phys. Vol.68 pp.1953-1960 (1990) DOI:10.1063/1.346593
Hitoshi Yusa et al., J. Appl. Phys. Vol.75 pp.1463-1466 (1994) DOI:10.1063/1.356380
SrB4O7:Sm2+(Samarium-doped strontium tetraborate)
5D0 - 7F0 emission line ( 0 - 0 line)はsingletであり、
圧力や温度によるブロードニングが小さい。
温度によるシフトもほぼ無視できるので、高温・高圧実験にも使える。
文献(1)では、
・0 - 0 lineのシフト量は、0.255 nm/GPa
・1atmでのピーク位置は 685.41nm
・圧力媒体としてメタノール+エタノール(4:1)混合液を使用してrubyと共に20GPaまでの蛍光シフトを測定。
・ピーク高さは、ruby R1 lineの25 %程度。
・温度依存性は、400℃まで -0.0001 nm/K
# 0 - 2 lineの一つは、0.450 nm/GPaと大きな圧力シフトを示す。
文献(2)では、
P = 139.33 ((1+5.788×10-2Δλ)0.5 - 1)
もしくは、この式を変形して
P = 4.032Δλ(1+9.29×10-3Δλ)/(1+2.32×10-2Δλ)
・ヘリウム圧力媒体を使用してrubyと共に124GPaまでの蛍光シフトを測定。
・圧力に伴うピークシフト量の変化が小さく、40GPa以上ではrubyよりもシフト量が大きくなる。
・圧力に伴うピーク強度の減少も小さく、100GPa付近ではruby R1 lineの2倍程度強くなる。
・温度依存性は、900Kまで negligible。
・非静水圧の影響もrubyより小さい。
・thermal broadeningが小さい。
SrB4O7:Sm2+蛍光シフト法による圧力計算
文献
(1) J. M. Leger et al., J. Appl. Phys. Vol.68 pp.2351-2354 (1990).
(2) F. Datchi et al., J. Appl. Phys. Vol.81 pp.3333-3339 (1997).
ユゴニオ測定などから状態方程式が求められている金属などを圧力マーカーとして、
X線回折測定から既知の状態方程式をもとに圧力を計算することもある。
百数十GPaを越えてルビー蛍光が弱くなり測定が困難になる場合や、
容易にX線回折測定できる放射光などのX線実験の場合などでしばしば使われる。
ガスケットに用いられているレニウム(Re)のX線回折パターンを測定して
unit cell volumeを求め、既知の状態方程式から圧力を計算している例もある。
Yogesh K. Vohra et al., Phys. Rev. B, Vol.36, pp.9790-9792 (1987)
DOI:10.1103/PhysRevB.36.9790
35 GPaまでの低圧領域でのReの状態方程式は、
Lin-Gun Liu et al., J. Phys. Chem. Solids, Vol.31, pp.1345-1351 (1970)
DOI:10.1016/0022-3697(70)90138-1
Reの構造は、hcpであり、
空間群は、 No.194 - P63/mmc (d site)となる。
(図作成 山脇)
図 10 GPaにおけるReのX線回折パターン・シミュレーション