私論・ロボット学

− ロボット技術の今日的意義 −

油田 信一 (筑波大学)

1.序

「人工的に人間やそれに替わる『もの』を作ってみたい」 太古からの素朴な希望

人類は未だ誰もが満足する「人間に替わるもの」を作り出すことには成功していない.

20世紀の技術の進歩:それが本質的に難しいことを浮き彫りにした.

しかし,ロボット技術は現代の科学技術社会にとって,きわめて重要な意義をもつ.

 

2.現代の機械・技術の分類とロボット技術の特徴

「人工的な人間を作ろう」「人間に替わる機械を作ろう」という動機 技術と科学の進歩を大きく牽引

現代:一般の人々が追いつけない急激な技術の発展,行き過ぎた高度な技術社会 ロボット工学の(新しい)大きな社会的意義

現在存在する機械や技術についての分類・整理 3つのタイプの技術

 

2.1 タイプ(1)の機械と技術

人間に代替する「何か」を作り出して,過重な労働から人間を解放

(例:車輪,エンジン,機関車…)

実現すべき機能の検討と追求

機能を追求する着実な努力による進歩と普及

 

2.2 タイプ(2)の機械と技術

人間をはるかに越えた能力の「夢」の技術による実現

(例:電話,インターネット…)

人間をまねる はるかに大胆かつ冷酷な発想

 

2.3 タイプ(3)の技術

上記2つのタイプの機械や技術を支える基盤としての要素技術

(例:半導体,各種材料技術…)

高度な要素技術の蓄積 現代の技術社会の最も大きな特徴

人間の生活から生まれる想像力やアイディアをはるかに越えた発想

科学に対する論理的な理解 理論と技術の蓄積,体系化

技術者の興味や目的意識を越えた,社会への大きな影響

 

2.4 ロボット技術の特徴

 ロボット技術:タイプ(1)に属する.

 ロボット技術の特徴

 きわめて地道な(華々しさのない!)技術.

 

3.技術が社会に与える負の影響

科学技術文明:

 人類が持っていた希望や夢の実現,豊かで快適な暮らし

 技術の進歩による広範囲な社会の変化

 (例:IT技術による便利で忙しい社会,人々の生活のパターンの変化)

社会の変動には必ずプラスのファクタのみでなくマイナスのファクタが存在.

 (例:自動車の普及 +移動の容易化 −大気汚染)

プラスとマイナスのファクタを事前に評価することは難しい.

20世紀における技術の進歩

最近の科学技術の社会への影響:行き過ぎの面がある(技術者の責任も大きい).

 

4.技術の社会的影響のアセスメント

新しい技術の受け入れ:その時代の社会による決定

問題:プラスのファクタのみ見えてマイナスのファクタに気づかない危険性

  → 社会が新しい技術を受け入れるとき、それが及ぼす影響を良く吟味する.

一般に、新しい技術に対するアセスメントは極めて難しい.

  → 社会に与える影響がわかりやすくアセスメントの可能な技術を選ぶ.

(アセスメントができ影響の想像できる技術だけを受け入れ、

 影響のわからない技術は確かめながらゆっくりと受け入れていく.)

 

5.ロボット工学の今日的意義

新しい技術・機械の目標が日常の想像力の範囲内にあれば,吟味は楽になり,アセスメントも現実的になる.

ロボット工学の立場:

  → 技術の影響のアセスメント,技術のマイナスファクタの回避を可能とする.

   (現在の技術社会の中でロボット工学が持つ意義)

ロボット工学

  … これからの時代にはこのタイプの技術こそ重要.

 

6.オリジナリティあるいは新しいコンセプトの提案について

研究者:オリジナリティこそ重要だという根強い意見と立場,斬新なアイデアの称揚.

上に述べたロボティクスの立場:必ずしもその意見に賛同しない.

オリジナリティやアイデアの価値:

 (×「オリジナルなロボットを作っておけば、そのうち誰かが使い方を考えてくれるだろう」)

新しいコンセプトの提案:

ロボット工学の現状

 … 単なる商品コンセプトであっては無意味

ロボット工学に求められている役割:

 今までの歴史で求められながら残されてきた数多の問題を解決すること.