人工技能とロボティクス

吉川 恒夫 (京都大学)

1.はじめに

  ロボット:人工技能を実現する機械

  ロボティクス:人工技能を実現するための方法論の体系

 という考え方をもとに,ロボティクスの現状と今後の方向について述べる.

 

2.人工技能

新たな技能の定義と,それに基づく人工技能の概念

 

2.1 技能とは

技能の一般的な定義:「ものごとを行ううでまえ,わざ」

 修得の難易,先天的技能(本能的作業能力)と後天的技能の区別は不明確.

 人間や動物の行う作業を機械化ないしロボット化する立場

  … 習熟の必要性:あまり本質的な区別にはならない.

 →「人間ないし動物に特有の意識的な動作ないし作業の遂行能力をすべて技能と呼ぶ」

人間の日常作業(何らかの目的を持った活動):知能作業+技能作業

 ・知能作業:頭脳を主に使う作業

(文字を読む,計算をする,会話をする,数学の問題を解く,ゲームをする,外国語を日本語に翻訳する…)

 ・技能作業:身体の運動が主要な役割を果たす作業

(物体を目で追いかける,歩く,物を運ぶ,自転車に乗る,コマをまわす,畑を耕す,旋盤で部品を削る…)

 

2.2 人工技能の概念

知能作業の機械(コンピュータ)による代行:「人工知能」

技能作業の機械化,ロボット化:「人工技能」

人工技能(Artificial Skillとは,機械がなんらかの作業を行うのを人間が観察,体験して,人間または動物の技能と類似のものであると感じるとき,その機械が実現している技能の事であると定義する.」

(チューリングテストによる人工知能の判定法を意識して導入)

上記の人工技能ならびに人工知能の定義:客観的基準を欠く.

 ある機械が示す機能が人工知能ないし人工技能と呼べるかは,各人の個人的判断による 個人差,時代的背景による判断の違い

(例:電卓,産業用ロボット…)

人工技能がいったん実現されれば,それはもはや人工技能とは思えなくなる 逃げ水的性質

 

3.ロボティクスの現状と今後について

ロボット:人工技能を実現する,ないしはその実現を目指す機械

ロボティクス:人工技能を実現するための方法論の体系

 

3.1 人工の足と人工の手

人間型ロボットの人工技能:足による歩行,手による把持操り

歩行技能:ホンダの歩行ロボットによって一応実現

ホンダの歩行ロボットと同程度の,把持操り技能をもつメカニカルハンドが実現されるのはいつごろか?

 ハードウエア(ハンド機構,センサ,情報処理/制御部):触覚センサをのぞいては,人間の手の動作を実現できる水準

 ソフトウエア:初歩的レベル

人間の足と手に期待される技能の困難さの比較

 手および手編を含む当用漢字と足および足編を含む当用漢字の個数:8811で8倍

 (この他,人間の大脳の体性感覚野および運動野における手と足の分担領域の面積の比も良いデータの候補).

 コンピュータの演算速度の進歩(年率30%)→約8年で8倍

 ホンダの歩行ロボットの発表:約4年前

 → あと4年あまりで人間の把持操り技能をある程度保持したメカニカルハンドが実現される可能性?

 

3.2 自然技能の検討

人間の手の技能の基盤

例:人間によるボルトとナットの締結

複雑な計画 適切なセンサ情報,適切な制御則を用いた要素動作

ロボットハンドでの実現

人間技能の検討が重要 人間技能の計測データが必要

人間技能の実作業時の計測:意外に難しい 力覚人工現実感技術を利用?

 

4.おわりに

人工技能(ロボットの器用な動作)の研究:自然技能の研究と表裏一体

今後の進展…両者が互いに影響をおよぼし合いながら