ロボットとは何か

広瀬茂男 (東京工業大学)

1.ロボットとは何か

武道の学習過程:「守破離」

 「守」基本を型として忠実に学ぶ.

 「破」それを打破する.

 「離」型から脱却した独自の世界を構成する.

模倣から独創へ → 工学技術の進化プロセスとのアナロジー

 「守」ヒントを生物界などに求めて模倣する.

 「破」機能性を追及する過程で模倣の柵が打ち破られる.

 「離」最終的にまったく別の形態へと進化する.

   (例:自動車,飛行機,工作機械...)

ロボットは?

 「人に代表される生物を真似た機械」という定義 → 技術の自然の流れ(「破」「離」の過程)と矛盾

ロボットを以下のように定義すべきである.

ロボット:「生物的な機能を有する未来機械」

・「生物的な機能」:×単純な生物の形態の真似

 生物からインスピレーション → 実現するための技術を進化の流れに任せて合理的に展開 → その究極の姿としてはじめて実現.

 (自動車…知能的な移動マシンへの進化)

 生物からインスピレーション 生物から離れる 再度生物に近づく(ロボット化)?

・「未来機械」:ロボットという定義の相対性

 一定レベルの生物的な機能性の達成 → 技術レベルの向上に従ってただの機械と見なされる傾向

 (例:全自動洗濯機:かつては洗濯ロボット? ホンダヒューマノイドもやがては...)

 より生物的な機能性を持った機械の象徴,永遠に前方に存在しつづける技術進化の目標

 

2.ロボティクスとは何か

   … ロボティクス:いずれにも属さない,新しい定義が必要

ロボティクスを構成する基本的な核となる学問は?

 ベクトル解析理論,ダイナミクス,メカトロニクス工学… + 応用分野に応じた関連の学問すべて

 … 膨大な分野の学問から成り立つ,独自性のない寄せ集めの学問体系?

他の学問との決定的な相違点・ロボティクスの特異性:目的指向(目的達成のプロセス自体)

 実現すべき目標 = 生物による多様で知能的な機能性

 あらゆる学問,知識,方法論を駆使して実現

ロボティクス:「生物的な機能を有する未来機械を実現するための目的達成学」

 従来の学問 :解析(analysis)中心

 ロボティクス:総合(synthesis)中心 → 例外的で本質的なロボティクスの特性

 

3.ロボットとロボティクスの将来

「感情移入型機械」としてのロボット

  利点:人材,工学教育,エンターテインメントロボット

  欠点:過剰な期待と幻滅の原因(産業界)

 このような側面の特性に過度に依存すべきでない.

研究開発の方法論の確立が重要

 ロボット:「生物的な機能を有する未来機械」

 ロボティクス:「それを実現する目的達成学」

 → 企業からの真の関心

総合の学問としてのロボティクス … 工学を結束する中心的学問として確固たる地位へ