日常物理学への挑戦
有本 卓 (立命館大学)
1.はじめに
日常生活において人間ならごく普通に行う作業ほどロボットに代行させ難い.
… その原因,克服するための研究課題,ロボットの学問体系で何が不足しているか?
代表例:柔軟指による物体把持と器用な操作への挑戦的取組み
2.常識的物理学への挑戦
日常の生活の中で,人間なら何気なく遂行できる作業ほどロボットに代行させることは困難である.
人間の手に似せて精巧に作られたハンドは多いが,人間がこなす作業は,そのようなハンドでも困難
→ そこにどんな技術が不足しているかに気がつく.
ロボットハンド
- メカニズム,物体把持のためのプランニング,そのための視覚についての研究は多い.
- 作ったハンドを様々な作業に適用し,器用に動かして対象を操作し,望み通りに作業させるにはどうすべきかについての研究は少ない.
← メカニズム,センシング,プランニング,制御:ばらばらに研究
◎これらの融合,統一的な観点からの広く深い考察が欠如
対象物体を柔らかい指先をもつ多指ハンドで操作
動作の全体像のダイナミックモデルによる表現,構造の探究,物理的原理の発見が先決
… そのような方向は看過されてきた.
そのような研究方向への第一ステップ
- 柔軟ハンドによる物体把持と操作に関する研究の七不思議
- 何を研究すべきかの一例
3.ロボットの手の研究に関する七不思議
- 手先と物体との接触はrigid contact, 点接触としている(柔らかく,フレンドリーな接触と操作が必要といいながら).
- 安定把持は静的(static)にしか解析しない(物体操作と把持は動的に行われ,互いに関係している).
- 安定把持と物体操作はすべてopen-loop制御,従ってplanningにだけ研究が集中(人間は眼や触覚でセンシングし,フィードバックしているのに).
- 人間の手指を真似たメカニズムにどうして固執するのだろう(作業によってはもっと簡明なメカニズムの方が有効かもしれないのに).
- 視覚についても指先と物体との相対的な位置関係の測定を行う最小限だが高速のイメージ処理を何故やらないのか(モーメントの総和をゼロにするにはサーボサイクル内にこれらの測定ができさえすればいいのに).
- 人間の指先のように形状変化にもなじむ分解能の高い触覚は何故作れないのか(ubiquitous sensingの重要性).
- 柔らかい材料をインターフェースしたとき,剛体と柔軟材と対象物を合体したトータルなダイナミクスモデルを何故導出しないのだろう(人間介護にはヒューマンフレンドリーネスが必要だと言いながら).
4.ダイナミクスの導出
平面内のみに動きを限定した2自由度の指2本が長方形対象物を操作するときのシステム全体のダイナミクスを求めた.
- 指先は柔軟材で覆われ,形状は半球とした.
- 指先の変形による復元力は柔軟材の質量移動が小さいとし,"massless spring"が充填しているとして集中定数化した.(接触面に起る圧力を総和して,接触中心から曲率中心に向う復元力で表す)
一見複雑な,14次元の幾何拘束つき非線形微分方程式が導出できた.
- 拘束力が入る.
- 非線形である.
- 対象物は制御入力によって直接制御できず,指の関節入力から間接的にしか制御せざるを得ない.
しかし入力と指の関節速度ベクトルの対の間には"passivity"が成立する
5.物理的原理の導出
- 視覚か触覚によって面接触の中心の相対差が実時間測定可能 → 動的安定把持を実現できるフィードバック入力が見つかる。
- 動的安定把持の上に対象物体の回転角を調節できる入力が見つかる。
- 双対的な指を用いるとき、対象物体の質量中心の位置のx座標を制御する入力あるいはy座標を制御する入力が見つかる。
- 人間の親指と人差指に対応する2自由度と3自由度の指2本を用いるなら、上述のフィードバック制御入力が全部見つかり、これらはそれぞれが関節角速度ベクトルと"conjugate power pair"を作れるように選べる。
- このとき、制御入力は重ね合せの原理(principle of superposition)で設計できる。
ダイナミクスが拘束条件つきの非線形微分方程式であるにもかかわらず、重ね合せの原理が適用できる稀な物理的原理が成立する。
… 人間の脳内の神経ネットワークや記憶、情報処理との深い関係?
6.おわりに
人間が日常的にやる知的作業のエッセンスが,(簡単な動作といえども複雑な物理的モデルになってしまうが,)確かに取り出せる.
- 3次元運動では同じようなことが成立するか?
- 指先の柔軟材の形状は一般化できるか?
より厳密なダイナミクスの導出
→ 新たな原理 + 多くの挑戦すべき課題