ミレニアム討論会 発言録
2000年9月13日
立命館大学 びわこ・草津キャンパス プリズムホール
[小坂雅博(HEW(Humanoids for Every Where)リサーチ)] ただいまの講演をお聴きしまして,ロボットの実用化と言いますか,社会に入ってくる時期がいつごろかなあと,考えた次第です.ロボットの実用化について,非常に大きくロボット学会とロボット研究者の方々に期待してるわけです.私は長年,家電メーカーで実用化技術を担当しておりまして,そういう立場から言ってやはりロボットの実用と言うことを真剣に考えたいと思っています.
先ほどから話がありましたが,やはり最初の革命は,動力革命ですね.人間を牛馬のごとき労働から解放してくれる.‥人間も牛馬のごとく働いておりました‥その後,先ほどお話のありました,やはり通信とかコンピュータとか,マイクロエレクトロニクスとか言った技術で,知能もどんどん発達してきました.しかしながらまた‥お茶碗をこっちへ持ってきたりとか‥,もう本当に単純な作業もできません.巨大な知能といわゆる手足,マッスルとの組み合わせで,最初は非常にプリミティブな能力しか発揮できませんが,ぼつぼつ実用化されてきてもいいんじゃないでしょうか.ということを21世紀のロボットに期待しているんです.
しかしながら,いま梅谷先生も,また先ほど有本先生からもご指摘ありましたように,やはり現在でも人間が,きわめて過酷な労働をしているというか,非常に非人間的な,繰り返し労働をしています.私なども家で家内の仕事などを見ていても,掃除・洗濯にしろ,もう非常に非人間的な労働をしてます.そういうことは社会のあちこちで見られるわけですね.実用の観点から,当初は人間のようなレベルは期待できませんけれど,まだまだ社会のあちこちでやっている,人間の単純労働を,家庭なりオフィスなり工場なりというところで,ロボットが人に代わって行う事を期待しています.もう21世紀です‥,いつごろそうなるのかなぁ,と思っている次第です.もちろん自分たちも努力せねばと思うのですが,ロボティクスの,社会に貢献するという,みなが抱いている夢だと思うんですけれど,そういう夢の実現に真剣に取り組む事を考えるべきではないでしょうか.
もちろん要素技術の研究,また研究そのものも非常に大事でしょうけれど,それと平行して実用化という観点から見た研究の動きというものをいよいよ大きく期待しているわけでございます.まだそこまでムードが来ていない面もありますが,‥先ほども一部で実用化は考えるべきでない≠ニか実用化を考えない方が良い≠ネどの論議があり,物足りない思いをしました.ロボット技術の社会貢献,実用化をどう考えるかとの観点での真剣な討議ができればありがたいと思います.ロボット学会が社会に貢献する非常に大きな道の一つであるんじゃないかなあと,口はばったい言い方をすれば,そんな気がしております.
[司会] ありがとうございます.先ほどの兵藤先生のお話にもありましたが,やはり人間の労働を代替,自動化ということにロボティクスの本来の役割があるのではないかという見方をされる人がやはり多いと.研究者の中に多いというよりは,外側に多いという面が見られるわけです.それについてどういう風に考えるか,どういう風に研究者がそれを受け止めていくかということが非常に重要であるというのは確かに言えるだろうと思います.
[井上博允(東京大学)] 先ほど兵藤先生が問いかけをなさいました.産業革命の時に道具から機械へと進化した.普通の機械とロボットを比べたときに,それに匹敵するくらいの進化をしているだろうか,目指しているだろうか,という問いかけ.この中で何人の方がイエスとおっしゃられるだろうかなあと思いながら僕は聞いていました.今日はミレニアム討論という大変いい機会なので,日頃感じていることをコメントさせてください.
私は,ロボット学会はある意味では閉塞状況にあるんじゃないかと思っています.というのは,この数年の間に必ずしもロボットをやっていなかった企業が新しいことをしましたよね.ホンダのP3,SONYのAIBO.あのような出来事を我々は時代の流れとして深く受け止めるべきだと思います.企業はビジネスとして考えれば考えるほど,ハードウェア・ソフトウェアを公開しないでしょう.でも,もし,あれを完全に公開されて,みんなで全部使えるような具合になったときに,私たちの何人が研究者として生き残れるかということも考えなきゃいけないのじゃないかと思います.ちょうど世紀が変わろうとしているんですが,今のロボット学会には新しいことを起こそうという活力が少ないような気がするんです.活力のある企業は動いているのに,学会は世の中から置き去りにされかねないと思うのです.
P3やAIBOのような汎用性の資質をもっている機械というのが出来てきたときに,それを社会に広めていって,応用に拡げていく,そういうときのキーになるのはソフトウェアですよね.基本のソフトウェア,応用のソフトウエア.ロボット学会の研究発表を見てみますと,ばりばりのソフトウェアの人が非常に少ない,という気がするんです.それはこれからの発展を担う層が薄いと言うことです.もし仮に,ロボット学会がこれから3倍くらいに人数が増えるとするならば,今ここにいらっしゃる方はそのまま続けてよろしいかと思いますが,増えてほしいのは,機械をもっと汎用のものとして育てていくような観点の新しい分野の人たち,それからアプリケーションについて本当にビジネスまで持っていくような人たちだとおもうのです.その様な人たちにとってロボット学会は魅力があるか,あるいは敬遠されるか,それが来世紀のロボット学会の発展を左右するのではないかと思います.この学会は設立時には,広がりを強く意識して,ロボット工学会ではなく,ロボット学会となづけたのだと思います.でも,今,ロボット学会は技術中心の成熟への道を歩んで,ロボット工学会へ向かっているようにも思えます.ロボットは作る対象から生かして使う対象にかわって行くことによって,大きな広がりがでてくるのだと思います.
有本先生がおっしゃったように,日常物理学の研究もロボット学の基本としてすごく大切だと思います.でもそれはロボットの全てではないと思います.私たちはロボットは創造学であるということを忘れちゃいけないし,それからロボットが汎用の機械である,というのも忘れちゃいけない.それを考えると,これから先,私は個人的には,研究は3つの方向があると思っています.一つはロボティクス・コアをもっともっと進めていく研究ですね.これは今日OSで議論されたと思います.それから次は,やはり本当に世の中に役立つようなアプリを真面目に考えること.アプリを支えるような技術をちゃんとやらなきゃいけないだろうということです.それからもう一つは谷江さんもおっしゃったことですが,サイエンスの話.サイエンスといっても,例えば技量とかね,そういうようなサイエンスでは僕は小さいという気がします.ロボットをサイエンスとして考えるときには,例えば何でしょうかね,普通の人が普通に考えて何か興味があるような大きな問題,例えば人間とは何か,人間の行動とか,人工物の行動とか,それくらいのレベルで,サイエンティフィックに考えていったら一般の人にもわかってもらえるのではないかと思うんです.谷江さんは,そういう仮説を立てて,それを検証するときに,機械を作るのだが,ロボットをやってる人は機械を作ってることで研究発表にして満足してしまう傾向がある,やるべきことはサイエンスとしてやるべき検証であるのに,と言うようなお話だったと思います.P3やAIBOのような商品がでてきたという事実は,そういうような実験をするときに,皆さんは必ずしも自分の実験のために作らなくても良い時代がそこまで来ているんだ,ということを申し上げたい.
そういう3つの方向があると思いますので,新しいミレニアム世代即ち20代の人たちに頑張って頂きたい.菅野さんは若いから何を言っても許されるとおっしゃったんですが,僕から見れば不惑を越えた教授の人なんだからあれは年寄りだと思います(笑).今の人たちがiモードのような感覚で,ロボットにどういうような未来を構想できるかということが,ロボティクスの将来が発展するかどうかではなかろうか.ちょっと長くなりましたが,私の常日頃考えていることです.(拍手)
[司会] 今回のオーガナイズドセッションの中には,たしかに知能関係の研究者の方のご発表が少なかったという点を気にしておりまして,この中でも何人かの方に直接予稿をお送りしまして,この討論会に参加してご意見を述べて頂きたいというようなことをお願いしております.その中でもうおひとかた,そうですね,阪大の浅田先生ひとことお願いできますでしょうか?
[浅田稔(大阪大学)]今の井上先生のご発言で,私もかなりサイエンス風なものを目指したいと思っています.一つ言えば,単に検証だけではなくてむしろその,例えば自然科学であるとかブレイン・サイエンスとか,そういったところと,それから社会科学を結ぶブリッジの役割,それから新たな人間理解の方法も含めて,実はロボティクス・リサーチャーだけが,かなりポテンシャルを持って出来るんじゃないかという部分が残っているような気がします.井上先生もおっしゃいましたが,かなりわれわれやらなきゃいけないことがいっぱいあるような気がします.そのための方法論であるとか,いろんなディスカッション,しなきゃいけないんですが,今日はさぼっちゃいまして,出なくて申し訳なかったんですが,かなり僕自身は大きな期待というか,やらなきゃいけないという使命感を持っておりまして,そこら辺を皆さんと議論できればなあと思ってます.
[司会]ありがとうございました.サイエンスとしてのロボティクスという面,それから工学としてのロボティクスという面,オーガナイズドセッションの方でもかなり議論が行われたわけですが,その点につきましてどなたか…
[新井民夫(東京大学)]いまサイエンスという言葉で皆さんが表現したということは,やはりそれは解析の学問と設計の学問の乖離というものに対して,何となく感じているということのあらわれではないかと思ってます.われわれが今までやってきたロボット学会においても同じなんですけども,大変な作業というのは解析をやってきた.それもモデルを作って解析をするということを試みてきた.最近なるたけモデルを作らないで,何となく解析をしたようなことをやってみようということがずいぶん行われてますけども,基本的に何が行われているかである.そういう意味ではロボティクスというのは,昔ロボット学会の討論会で申し上げましたけれども,ロボティクスは将来人間学になる,という解析の流れで同じ方向を向いてるだろうと思います.ところがもう一つ,設計をすると,多様な色々なモデルであったりあるいは事実の中から組み合わせてですね,どのような実現をするかという点に関しましては,われわれがやはり,全体としてですね,設計という話全体として体系を持っていない.そのために,外から見ると,何かからくりを作ってみたというような形でしかいろんな物を実現できないというところに,われわれの持っている二面性のうち一面が非常に弱いという悲劇があるんだろうと思います.
じゃあ設計の学問というものが今後ちゃんと完成するかというと,相当悲観的なイメージを持たざるを得ない.というのも,カットアンドトライというような手法であってみたり,あるいは,何となく出来てしまったというところでやってかなきゃいけない,というところがあるだろうと思います.それには,ちょっとまだ数十年の時間がかかるでしょう.その手がかりは何かというと,今の時代だったらやはり情報です.われわれ情報に関しまして何となく扱えるように思ってはいますけども,例えば,これはまた私が主張していますことですけども,例えば冷えたビールをですね,伝送するということを考えてみようとしますと,何か物を伝送しようと思うと,物の持ってる情報量というものはきわめて高い.E=MC2という形でアインシュタインはエネルギーと質量とを比較したわけですけども,同じように物を情報で表現しようとしたらどのくらいになるか考えてみると,われわれが扱っているのは本当に形であったり,性質のほんの一部であったりするわけでありまして,そういったものを相当はっきり表現できる時代にならないと,本当の意味で設計全体を見て,カバーして物事を考えるということは出来ないだろうと仮定しています.ということで,無理して設計と解析を分ける必要はありませんけれども,それをごちゃ混ぜにして議論すると,いろんな点で議論ができなくなるだろうと私は思っております.
[司会]オーガナイズドセッションの方でも,広瀬先生からシンセシスによる目標達成学というお考えが述べられまして,それから菅野先生からシステムインテグレーションということが強調されました.その点につきまして新井先生のような割合悲観的な見通しを立てられる方もあるわけですけれども,その点について広瀬先生か菅野先生がおられたらちょっとひとこと頂けないでしょうか.
[広瀬茂男(東京工業大学)]私は午前中のセッションでロボットというのは生物的な機能,形態ではなくて機能を達成する未来機械であると定義すべきである.そしてロボティクスは,それを達成するための目的達成学と定義すべきであると話しました.ただし,目的を達成するための方法論というものは,あることははっきりしているが,それを体系化することはまだ暗中模索で,試行錯誤を繰り返す過程で作って行かなければならないと考えています.しかしそのような体系化は無理かといわれると,実は意外になんとかなると,私自体はうすうす楽観視しているところがあります.
そして,もしもロボティクスがそのような目的達成学として体系化できるとなると,これは面白いんですね.なぜなら,工学の中にはいろいろなものがありますが,目的を達成する工学を面と向かって標榜する工学はこれまで無かったからです.材料工学や流体工学のように対象物を詳細に解析する工学や,自動車工学や原子炉工学のように出来合いの製品の工学はありますが,何かを作り上げようとする工学は事実上無かったと言っていいのではないですか.ところが,ロボット研究者は,最終的にはロボットというイメージに沿ったものを実際に作り上げようと常に努力して来ている.そしてその活動の中にはメカニクス,エレクトロニクス,コンピュータ技術などがすべて含まれ,対象とする事象にかかわるあらゆる工学を利用して目的を達成しようとしている.
もちろん我々がこれまで行っていることは非常にプリミティブな試みでしかないのですが,それでも,我々がやっていることは,ほかの工学者が重箱の隅を突くような研究に比較すると,むかしダヴィンチが描いていた夢を実現するような活動そのものという色彩があり,工学の核心をつかんでいるという気がします.ロボット研究が多くの人を引きつけて止まないのはまさにこの点ではないでしょうか.そんな意味で言うと,目的達成の体験を積み上げてロボティクスを体系化できると,ロボティクスは工学をバインドする中核の工学に成り得るのではないでしょうか.非常にオプティミスティックな考え方ですが,このようにロボティクスをその特異性が最大限生かされる方向へ発展させる努力はいずれにしろ大変面白いと感じてます.
[新井]私は別に批判的じゃないですよ.それだけ分野が残ってるんだから,やることたくさんあるよと言っただけですから.
[司会]まだまだたくさんやることがあるということですね.
[渡部透(立命館大学)]私はロボティクス学科に一番最後に,2,3年前に入ってきましてですね,今年の3月にロボティクス学科の最初の卒業生が出たんですけど,最初の4回生に対して私に割り当てられたのは応用ロボット工学というタイトルの授業で,新しい学科を作るために目新しい授業名を適当に挙げて文部省に申請して作ってしまっているので,いざ授業をするときになってどういうことをしゃべろうかと思ってだいぶ心配したんですが,色々調べて,講義をやってみると大変面白い.鍛造とか溶接とかプレス,射出成形とか,従来の生産システムで教えている順番,普通は切削加工から入るのですが,これと逆の順番からいろんなものにロボットが使われているのですね.詳しく調べるとずいぶん使われてる.それでびっくりしたのは,かなりの,人間にとって危険な作業に対する置き換えが1960年代に,相当行われてしまっている.で,ずいぶん世の中の役に立っている,怪我をする人が少なくなっている,ということで,ロボットというのは既にものすごく大きな役割を社会の中で果たしている.
その基本となっているのが一番簡単なティーチングプレイバック,簡単じゃないんだけれども,ティーチングプレイバックの方式だと,割に,楽にセッティングしてもいろんな機能ができるということですね.私自身は元々は工作機械の数値制御の方から研究をやって,先ほどの兵藤先生もNCとかFMSとかその辺を言われたのですが,ロボットをそちらの方へ持っていこうと思うとなかなかいけない.やはりロボットのベーシックなところは,一つはティーチングプレイバックで,セッティングが楽である,ということであり,それが,1983年に日本ロボット学会を作る発起人になった人たちが,今ここにたくさんおられますけれども,それで,私が言いたいのは,いったい,1983年,学校の人たちにとってはロボット元年だとか何とか色々言ってやってきたのだけど,本当のところはどうなのでしょうか?
それで,ちょうど1985〜6年頃,梅谷先生と話していたら,ロボット産業というのは年間3千億円の売り上げで,味噌産業とちょうど同じくらいだということで,もう少しどうにかならないだろうかというようなことを言われたのですけれども,このロボット学会ができてですね,ところが私が勉強したところでは,主だったところはもうほとんど終わって,大学などの先生らが1980年代から乗り出してきて色々やってるのだけど,そこで具体的なものが何か出てきているかどうかということは検討してみる必要があるかもしれません.
まあ一つは,ここ2,3年で非常にビジョンが発達して,移動ロボットでビジョンを利用して,いわゆる生産ラインを構成しなくてもロボットが適当に動いて生産ラインをこしらえられるようになり,これと組み合わせて大変面白い工場が出てきているから,一つはそういう方向も良いだろうし,今色々発言されている,極限作業用のもの,あるいは,家のまわりで土木工事を盛んにやってそれが非常にうるさいのですが,国はずいぶんの金をゼネコンへつぎこんでますが,土木建築作業は非常に大きな装置を使っていて,まわりに住んでる人にとっては迷惑至極で,本来ならもっと屋外で働くロボットというものを工夫していれば,相当いろんなものが改善できる作業が残っているにもかかわらず,われわれが真剣にアプローチしているかどうか,というようなことを思っております.
私たちはここもう一つロボットを進化させる何かがないかということを考えたいのですが,まあ懇親会等でまた色々教えてもらいたいと思いますが,ロボットというのはずいぶん既に役に立っているということを強調しておきたくて,発言した次第です.
[司会]ありがとうございました.私としては,どうしてもぐるぐる戻るような形になるわけですけれど,やはり役に立つべきというところにどうしても意見が出てくると.一方でやはりこういった方向に学問としては進むべきっていうような,やっぱりそこがなんかどうも私には分離しているように感じて,そこは本当に何とかしてかなくちゃいけないっていう,それがまあ一種のSOSとして,皆さんに声をかけてこういうオーガナイズドセッションとか討論会を開いて頂いているわけなんですが,そうですね,ここで一つ,産業界の何人かの方にもオーガナイズドセッションの予稿集をお送りして,実際に何人かの方はご発言いただいたわけですが,オーガナイズドセッションの方でご発言頂いてない方で,何かご発言をお願いできないでしょうか.そうですね,藤江さんいかがでしょうか.
[藤江正克(日立製作所)]先ほどから井上先生からのご発言を聞いてて,ちょっと私ギャップを感じていることがありまして,率直なところで一つお話をしたいと思うんですけど,一番大きなポイントは,先ほど井上先生が言われたのは,私もそうだなあと思ったんですけど,ハードウェアはこれから要らなくってソフトウェアであるとおっしゃった話だと思うんですね.ソフトウェアというのは,たぶん井上先生がおっしゃったのは単にコンピュータのソフトウェアだけではなくって,使い勝手のソフトウェアも言っておられると,勝手に解釈します.それでですね,もう一つ先ほどからのお話で面白いお話があったのは,大学の先生方が,先ほど自らおっしゃったんですけども,からくりをちょっと作ってみてですね,動かしてみて満足しておられる,という話を聞きましてね,私も本当にそうだと思うんですよね.それで,物作りだったら企業に任せりゃ良いわけですよね.大学の先生方が素人技術でですね,物を作らなくたって良いわけで,それがそこそこ出来たよって,こんなのが出来たって学会で発表して,でもここを直さないと実用にはまだならないし,もうすぐここを直すことで実用化されますよって言って,新聞とかテレビでお話されるんだけれども,30年たっても物はできてこない,という状況が実際の状況だと思うんですね.
それから,ロボット学会そのものの機能が閉塞状態だというのは本当にそうで,ロボット学会が変わらなければいけないなって常々思っているんですが,悪い方に今は行っているような気がするんですね.というのは今回のパネルディスカッションも,荒井先生には途中でちょっと申し上げたんですけども,パネラーが全部大学の先生,その先生方も企業の経験が一切ない先生ばかりで構成されている.で,これはサイエンスでもあり工学でもあるわけですから,そうするとロボット学会ってのは産業界の物作りの立場とサイエンスである大学の立場を両方一つの土俵の上に乗せなければいけない学会のはずだったと思うんですね,学会が出来たときには.それが動いていない.
だから先ほどの井上先生のお話のように,例えばペットロボットの話であっても,ヒューマノイドの話であっても,ディスカッションの中で出てきたものではなくって,勝手に彼らが,彼らがって言うとおかしいな,それぞれの会社の中だけでお作りになった.あるいはその中で,この学会の中でいろいろ歩行ロボットなら歩行ロボットのアルゴリズムやなんかがこうなっているから標準化されてこう載ったとかですね,そういう感じにロボット学会がなってない.ですから,大きなギャップができてしまってるんじゃないかなって思います.だから,その辺少しシェアをしたいですね.
逆に言いますと産業界にとってたぶん今のロボット学会あるいはロボットそのものってのは,ロボットブームって言葉自身ほとんど魅力がない言葉なんじゃないかなあという風に考えられるんですね.でも本当は私なんかはですね,すごく魅力を感じてまして,そこでぜひ頑張っていきたいなと思ってます.
ちょっと何言ってんのか,わからなくなってきたところがあるんですが,要するに,皆さんがこういう所で言ってんのはポイントを突いていて,分担分担をうまくして,ロボット学会が発信源になって,そういうものを整理して発信するということが,今までやられてなくって,ただばらばらばらばら,何となく俺はこれをやったあれをやったというプレゼンの場だけになっているというところが,これから21世紀に入るんだから,30年たったし,ロボットがそこそこアプリになりはじめてからですね,そろそろそういう形でロボット学会を少し固めれば良いんじゃないかと思いますし,私も,若いつもりでいるんですけれども井上先生は若くないって言われると思うんですが,そういうことでロボット学会の中でも少しでもお役に立てれば頑張っていきたいなという風に思ってます.かなり過激に言ったので反論があるでしょうね.
[江尻正員(日立製作所)]今までわれわれロボットをやってきたんですが,そのロボットの定義がだんだん狭くなってきてるように思うんですね.ロボットらしくないロボットをロボットと呼ばなくなってきたと,最近私は考えておりまして,例えば自律ですとかヒューマノイドとか,そういうところしかロボットと呼ばないからまだ応用が足らないっていう,そんな感じで,したがって今研究をやっておられる方みんな何か閉塞感を感じていて,俺たちの将来どうなるんだっていう風な考えを持ち過ぎるんじゃないかという感じがします.
どなたか先ほどおっしゃいましたけれども,渡部先生でしたか,ロボットってのは今まで歴史を考えると私自身は非常に役に立ってきたと思ってるんです.私共と一緒に仕事をした会社の仲間がいろんな所で活躍しておりますしね,開発したいろんな装置は,ATMですとか,半導体組立装置ですとか,電子線描画ですとか,最近の郵便自動機ですとか,あるいはシミュレーションライドですとか,私共の会社で言いますとですね,藤江君が作っている歩行支援機ですとか,いろいろロボット,ヒューマノイドだ何だという感じではなしに,もっと広いものですね.そういう意味でもう少し広く見れるようなそういうロボット学会になったら良いんじゃないかなと,そういうものを排斥しないで,排斥しているわけではないとは思いますが,ですから,やってる方は自分の研究ってものをただ自律型のヒューマノイドだけに応用するってのじゃない,もっと別の視点で広く見た方が良いと,そんな気がしています.
私も今までの経験から言って,ロボット工学っていうのはきわめて役に立ってきたと思います.ただ,今やっておられる研究ってのは,人間の機能の中に閉じこもった一部の機能を実現しようとしておられるんですけども,その実現した技術ってのは人間の機能以下なんです.人間を越えてないんです.一部をやっておられるんですがそれを越えてない.人間の枠をはみ出した機能を持ったとしたら,ものすごく実用性があると思います.例えばスピードがものすごく速いロボット.先ほどちょっと馬の話をしましたが,馬を題材にしてあのスピードを持たせた移動機械だったら,これは実用として何かあるかも知れない.今は人間の一部の機能を制限された形でしか実現していないから夢が広がらない.だからちょっとでも良いから人間の機能を超えるような,そういうものを作られると良いと思います.私共がやってきたのは半導体の組立にしても人間を超えてます.そういうようなことで,何か超えるようなそういう努力をされると将来が開けてくる,そういうように思います.
[司会]今のお話はオーガナイズドセッションの方で広瀬先生のされた守・破・離という,技術の発展過程のお話とも共通する面があったように思います.
稲葉先生,なにかご発言がおありだったようですが…
[稲葉雅幸(東京大学)]あのセッションね,他とパラレルじゃなくて,あそこだけもっとやるべきだよね.あっち行ったりこっち行ったりして,全部聞けなかったんですが,菅野さんの夢を追いかけるという話で,時間がなかったんでちょっと質問できなかったんですけど,やっぱり僕があそこで菅野さんに聞きたかったのは,皆さんにも聞きたいんですけど,自分の研究をどう評価してますかってこと.それで,結局大学だと,もちろん新しいことをやってこうとみなが思ってるんだけども,それで今,井上先生のような3つの方向はということを考えてそれぞれやっていく,俺はここだ,という具合に皆さんやってるんだと思うんだけれども,それの評価の仕方はやっぱりそれぞれの先生方が皆さん持っていると思う.
で,僕は今日午前中どきっとしたのは,やっぱり企業の方が,実用的じゃない!っていう風にずばっと言われると,役に立たないじゃないか!ってこう言われると,うーん,とこうなってしまう.だから,評価の主軸は役に立っているか立っていないか.もちろんこれは一つある.これも重要だと思うんだけど,それは忘れちゃいけない主軸なんだけども,大学の中でやっぱり今までこんなにたくさんの人がやってて,子供の持ってるようなものがどうしてこんなに遠いんだろうとかね,だから,皆さんやっぱりブレークスルーになるのは何だ,それをやろう,なかなかできないけど,それを追い求めている人はやっぱりいるんだと思うんですね.で,自分のやったことがそれになったかどうかというようなことで評価してる人も僕はいるんだと思う.それが結果として出てくれば,それを見たみんなが,おおすごいなと.だから結局,人がすごいなと思ったかどうかというような評価の仕方もある,と僕は思ってるんですね.
ということで,皆さんにアンケート取ってね,皆さん自分の研究はどう評価しますか,というようなことを,あのとき菅野さんに聞きたくて,菅野さんどう評価しますか,というようなことだったんです.菅野さーん,どこにいる?
[手嶋教之(立命館大学)]すみません,もう時間がだいぶ過ぎておりまして,ちょっと簡単にそろそろまとめて頂きたいと.大会委員長がビールがあったまるということで…(笑)よろしくお願いします.
[司会]そういうことですので,川村先生の方からも,どっちにしてもこの討論会は最終結論というのはまとまらないだろうから(笑),というお話もありまして,ただの時間切れ,という形になるわけですが,一つ気になってたことは,今日の中で若手の発言が非常に少なかった,ということですね.若い方にもっと元気良く意見を言って欲しい.これからもこういった企画を機会をとらえて続けていきたいと思ってます.ですからそういう場を使って自分の意見をどんどん言って欲しい.それがこれからロボット学会をどんどん盛り立てることになるんじゃないかと思います.
[司会]ということで,なんだか,ええと…(笑)あの,こういう形で本音をぶつけ合うってことがやっぱりどうしても大事だなあと思います.企業の方も大学の方も学会に来ておられるんですけども,こういう公の場でお互い意見を言い合うということは本当に滅多にない.それは良くないことじゃないかと.本音をこういったみんながきいている所でぶつけ合うってことが,何か事態を進めてけるんじゃないか.そういうことを考えましてオーガナイズドセッションを企画しましたし,こういう討論会も,これは川村先生の方からのご提案ですが,開いたわけですけども,そういうことで,今回は,長時間にわたりどうもありがとうございました.(拍手)