第18回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2000)特別講演

「科学史・技術史から見たロボティクス」

立命館大学 経営学部
兵藤 友博

2000年9月13日

立命館大学 びわこ・草津キャンパス プリズムホール



問題提起:
「ロボットは産業革命期(道具から機械へ)の技術進歩に匹敵する,機械の新しい段階の技術なのか?」

産業革命期:道具から機械への技術の発達
機械が支配的に生産活動を担う … 技術の歴史の中で大きな変換点
機械を越える技術 → ロボット(70年代後半以降)?
(技術史研究の視点)
 ・新しい技術の段階の始まり?
 ・依然として機械が高度に発達した段階?

チャペック(1920年代) … アメリカの高度システム(ライン生産)の始まり
人間労働の奴隷化状態 → その克服を夢見た?

自動機械への発達の歴史(機械が連鎖して自動化)
道具から機械という転換

古代ローマのヘロン
汽力球,からくり人形(玩具的)
・洗練された機械的な要素
・技術:加工精度が低い

中世
水車,風車等の機械動力
・加工精度の向上
・機械的機構の出現

産業革命期
ワットの蒸気機関
・安定的な動力の供給
・機械的機構でフィードバック制御を実現

産業革命期以降
初期の工業:紡績,織布の機械化
・機械で機械を作る,という観点:産業革命の機械は未完成
 → 工作機械の登場が重要である
   初期の工作機械:非常に粗野(操作は熟練者に限定)

アメリカにおける高度システムの展開
・単能専用機の登場
・専用機の連鎖 → 生産ライン
・工作機械:汎用性をもつ → 単能化,プロダクションマシーンへの転化
  工作機械(マザー・マシーン)からいろいろな機械が登場
  (非熟練の作業員でもかまわない)

ここまでの制御機構…機械的機構(カム等)が中心
・ワットの蒸気機関:遠心調速機(風車〜)
・大型高速蒸気船の櫂:補助動力機関
  …現在の電子化された制御とは違う

20世紀に入って新しくなった点
電動機 → 小型化,正確な動き
電気的信号で電動機を制御:電動機と工作機械の連動
1930年代〜:センサーの導入,プリミティブなフィードバック制御

マイクロエレクトロニクス技術(1970代)
ジョブマシーンからプロダクトマシーンへの転化
自動車のライン(塗装,溶接…)等
フィードバック制御機能のソフトウェア化,チップ化(情報処理労働手段)
汎用機の連鎖の制御
   ↓
各機械がコンピューターを内蔵 … プログラム化された動作
工場:ネットワークシステムの中に構築
FMCS,CIMの登場(経営を含めた全体が結ばれてくる)
生産の直接工程(工場)だけではなく管理工程も自動化
(企業経営の観点から新しい)

ただし,全工程が自動制御技術を吸収しているわけではない
実際の工場の自動化率はきわめて低い … 自動化は第1段階が始まったばかり
市場原理が基本的には支配 → かえって自動化が進んでいかない

自動機械装置:「制御機構は独立した要素になっているか?」
機械を大きく分けた時にどういう要素があるか?
1)作業要素:作業する機械、実際に物を作る機械
2)動力要素:動力を生み出す機械,動力を操作する機械
3)伝動要素:ビルト,歯車,連接機構
独立した第4の構成要素はあるのか?

第3の要素:伝動機構の発達
水車機構−石臼(紀元前〜)
初期:水平に回転する水車/石臼と直接に接続
動力の有効利用 → 水車を垂直に → 歯車など伝動機構の明確化
伝動機構:最初は不明確 → だんだん発達してくる
[第4の要素(制御,コンピュータ)も?]

第4の要素=制御?
一方で否定的な議論もある
・動力の制御は必須:二重性の関係
(蒸気機関−紡績機械の関係にも存在)
 → 制御を独立した要素と見るのは疑問

第4の要素=コンピュータ?
プログラム → 物質的な媒体(労働手段の一部)
・コンピューター:作業機械ではない.コントロール(補助的な役割)
→ コンピューターを第4の要素と見る必要はない?

現在のロボットやコンピュータ:
×行動評価、行動蓄積能力
客観的知能はあるが主観的知能はない … 人間の知能とは違う
機械を超える技術と言えるか,評価が難しい

人間(生物体)の生理的・身体的能力はロボットと違う
人工的構造物,無機質的自然の産物
×自己保存性,自己修復性能力
マイクロマシンやナノテクノロジーへの期待 … 機械を越えるもの?

ロボット技術はどのように発達するのだろうか?
道具から機械がどのように生まれたのか:2つのタイプ
・各種の単能化された道具が組み合わされて機械になっていく(印刷機など)
・技能の機械的再生,操作的道具の機械化(紡績機械など)
汎用機から単能専用機へという道筋
(ジョブマシーンからプロダクトマシーン)

科学技術の革新はどうやって展開されるのか
電子の波動性の発見
科学研究:技術がないとできなかった
X線(1913年)
第1次世界大戦:軍事技術の中で形態の小型化
戦後:無線電波→ラジオ放送→電子管の発達
企業内研究所の技術者との提携が重要:科学研究がうまくいくかどうかの試金石
典型例:ゼネラルエレクトリック社,ベル研のノーべル賞研究

CPU,コンピュータ:汎用性をもつ
→ ロボット技術という構成の中に取り込んでいる
ロボット技術:いろいろな基本原理を持った要素技術 … 階層構造
目的基礎研究−実用化開発研究(企業などとの連携?)

科学と技術のマネージメント
・専門的にマネージメントする人(経営感覚,社会・経済を見る目)が必要
(例)ワットの助言者:蒸気機関の紡績工場への応用
(例)マンハッタン計画…なぜあんな短期間にできたのか
   科学行政官と組織が重要な役割,あらゆる可能性を追究


(メモ作成:荒井裕彦)

・機械の構成要素に関する技術史上の議論については下記文献も参考になると思われます.
佐野正博:現代オートメーションの技術史的位置づけ −現代オートメーションに関する「技術の発展段階」論的考察−,『経営論集』(明治大学経営学研究所),第44巻 第3・4合併号(1997),pp.199-232