第19回日本ロボット学会学術講演会 (RSJ2001)

オーガナイズドセッション「ロボティクス論」

東京大学 本郷工学部キャンパス,2001年9月19日 9:00-11:20



[オーガナイザー]

 ロボティクス論WG:

  荒井 裕彦(産業技術総合研究所,世話人)
  新井 民夫(東京大学,講演会プログラム委員長)
  稲葉 雅幸(東京大学,講演会準備委員会幹事)
  川村 貞夫(立命館大学)
  淺間  一(理化学研究所)
  藤江 正克(早稲田大学)
  柴田 智広(川人学習動態脳プロジェクト)
  松本 吉央(奈良先端科学技術大学院大学)


[口  上]

 現在,ロボティクスという学問ははたしてうまくいっていると言えるのでしょうか?たしかに,学術的なロボット研究は一見盛んに見えます.多すぎるほどの講演会やシンポジウムが開催され,無数の研究発表が行われています.しかし一方で,バブル崩壊以後,大手企業はロボット事業から次々に撤退し,ロボティクスが新産業を創出したという話も聞きません.また,ヒューマノイドやペットロボット,ロボットコンテストがマスコミの注目を集めていますが,学問とは異質な世界の出来事という印象を拭えません.このような中,細分化した研究分野に没入する研究者にとってロボティクスの全体像はますます捉えにくくなっていると言えます.

 さらに,学術研究を取り巻く社会的な状況として,国立研究機関や国公立大は独立行政法人化や再編統廃合に直面し,少子化の影響はあらゆる大学に及びつつあります.こうした研究環境への外部的なプレッシャーが迫る中で,ロボティクスというもの,研究というものの本質について俯瞰的に再考することはどんな研究者にとっても必要ではないでしょうか.つまり,人間の営みとして見たときロボティクスとは一体何か,という問いかけです.

 上記のような一種の危機感のもとに,昨年の第18回日本ロボット学会学術講演会(RSJ2000)では,オーガナイズドセッション「ロボティクス史・ロボティクス論」およびミレニアム討論会が開催されました.また第6回ロボティクスシンポジアにおいても特別企画「ロボティクス論」が開かれました.

 本オーガナイズドセッションはこれらの議論を継承するものとして,ロボティクスの学問や技術としてのあり方や,産業・社会・教育との関わりなどを論じることを目的としています.個々の技術に関する研究成果の発表ではなく,その前提となる研究の枠組み自体にスポットを当て,ロボティクスの存在意義は何か,ロボティクスは人間の知的活動の一つとしてどのような意味を持つのかを問い直すことを目指します.

 本年は特に昨年のセッションで不足が指摘された産業界および若手研究者からの講演を中心に構成しています.講演終了後に短い時間ながら討論会も予定しておりますので,皆様のふるってのご参加と活発なディスカッションを期待しております.


[講演概要]

「人間共生ロボットはなぜ万能型か?」
 小坂 雅博 (HEW)

 家庭やオフィスで人間のパートナーとして、一緒に仕事をする人間共生ロボットの汎用性について検討した。多種類の仕事が処理できる万能型ロボットと特定の仕事しかできない専用型ロボットについて、稼働率と経済性の観点から評価した。人間と共生するロボットは、人間との双方向通信、環境や対象物の認識、移動などの能力を高める必要がある。そのオーバヘッドの上に、掃除などの特定業務処理の能力を付加する必要がある。このオーバヘッドを軽減するには多種類の業務をこなす万能型が人間共生ロボットにもっとも適していると結論した。

「人間と環境の数理科学的記述と解析 − ロボットの理解と人間の理解 −」
 岡田 昌史(東京大学)

 人間を支援することを目的として作られたロボットは,複雑系としてその姿を変え,人間の環境の中に入ろうとしている.従来は「機械」として運動方程式で記述されていたロボットは,多様化・多自由度化によってその表現が困難になりつつある.いまやロボットは単なる物理機械の枠を越え,身体を備えた知能機械として認識されようとしている.なぜ我々はロボット工学を学問とし,研究し,ロボットを作り出しているのか.その答えは「ロボットを理解すること=人間を理解すること」にあると思われる.本稿では,人間と環境をロボットという形で数理モデルで記述することにより,これが人間の理解につながることを議論する.

「ロボット研究者に求められる特性は? − ロボット屋の私論と持論 −」
 高梨 伸彰(NEC)

 ロボット学会が設立された年と時期を同じくして社会人となり企業でロボット研究に携わってきた者として、ロボット屋とは?ロボット屋はどこに役に立つのか?ロボットを生み出す立場にあるロボット研究者・開発者の求められる特性を通して「ロボット論」を論じたい。ロボット学会への企業からの発表件数の減少、学界と産業界の間のギャップ、など言われて久しい。一方で、パーソナルロボットなど新しい応用に対して共通に取り組むべき視点も多い。私見を公論に、とのセッション企画に意を強くし、これらの課題に対する私論と持論をまとめる。

「私のロボティクス考(実際にロボットを動かす研究の大切さ)」
 永谷 圭司(岡山大学)

 現在,ロボット学会では,多くの研究者が各々の研究分野をバックグラウンドとして,ロボットの要素技術の研究を進めている.しかしながら,この成果がトータルなシステムとしてのロボットの実現には,なかなか結びついていないように思われる.ここに,現在のロボティクスの問題点があると,私は考える.そこで,本発表では,「ロボティクスで大切なことは,どんなことなのだろうか?」と原点に立ち戻り,動くロボットを作ることの大切さ(研究で実際にロボットを動かすことの重要性)について,焦点をあて,考えていく.

「知能ロボットのビジネスモデル」
 大道 武生(名城大学)

 これまでのロボット事業化取り組みで反省することがあるとすれば,“ロボットは必要である”という前提に立って議論がなされてきたことではないかと思う.産業用ロボットを除けば,実はこれこそがロボットを事業と遊離させてきた最大の原因なのかもしれないのである.そう見ると,ロボット研究・開発者が事業化に向けて実施していかなければならないことがいくつか見えてくる.近頃の流行で言えば,いわゆる“ビジネスモデル”である.無謀にも,この巨大な課題について,論述してみることにする.

「ロボット工学研究のイロハ − リサーチモデル −」
 琴坂 信哉(埼玉大学)

 現在のロボット研究の抱える問題点の解決策として,研究環境の多様性の維持とビジネスモデルのアナロジーからリサーチモデルを提案する.


このページおよびOSに関するご意見・ご質問等はロボティクス論WG・荒井()までお願いいたします.