レスキューロボット・極限作業ロボットに関する議論

20031231日〜2004118日 RSJ-Forumメーリングリストにて)

 

この議論は,イラン地震20031226日,M6.6,死者約4万人)に触発されて,ロボット研究者のメーリングリストRSJ-Forumrsj-forum@m.aist.go.jp)上で行ったものである.2011311日の東日本大震災ならびにそれによる福島第一原発事故におけるロボット技術の適用状況を見ると,ここでの議論はいまだ有効であると感じられるのでここに掲載する.

 

発言者:

 神戸大学工学部   田所 諭 助教授(現 東北大学教授)

 産業技術総合研究所 末廣尚士 タスク・インテリジェンス研究グループ長(現 電気通信大学教授)

 大阪大学大学院基礎工学研究科 升谷保博 助教授(現 大阪電気通信大学教授)

 東京大学生産技術研究所 平原清隆(池内研究室 大学院生)

 産業技術総合研究所 荒井裕彦 主任研究員

 

[荒井]

イランの地震は大変なことになっているようですね.

日本のレスキューロボットは出動したのでしょうか?

 

[田所]

残念ながら出動しておりません。

出動のためには、ロボット以外にも組織と体制作りが必要です。

2年後には是非。

 

[荒井]

田所先生,ご回答ありがとうございました.

NY世界貿易センタービル事件では研究者が現場に駆けつけてロボットで捜索活動を行ったという話を聞いておりましたし,その後日本でもレスキューロボットの研究やコンテストやシンポジウムが非常に盛んですので,かなり期待していたのですが,大変残念に思います.

 

[田所]

荒井先生が言われていることは,文面通り受け取れば,消防ロボットを作った技術者が火災現場に入って消火できますか,という質問と同じことです.研究やコンテストやシンポジウムだけで人命が救えるはずがありません.

まず,イランに入国するVISAの手配すらできません.実績のある組織しか,即時のVISAがおりず,航空機で仮に到着できたとしても,入国が拒否されます.米国のCRASARの人たちからも,援助要請がくるのを待っている,との連絡が入っています.日本レスキュー協会(レスキュー犬)は,日本政府を通じて出動要請がきたものと思われます(未確認).

出動できるためには,平時からの訓練が必要です.論文を読む時間を短くして,トレーニングをすることが必要です.それでも,最前線にいくには全く不足ですから,最前線に行くことができる部隊との同行が求められます.

要するに,レスキューを完結できるシステムのために,研究サイドからどんなソリューションを提供できるのか,という問題です.さらに,同時に,研究サイドもそれ以外の分野も含めて,どのように社会のシステムを構築していったらいいのかという問題でもあるのです.

と,書きましたが,これらことは100%ご理解された上で,あえて,荒井先生はこの発言をされたのだということを,私も,実はわかっています.このような警鐘は常に必要なことであり,それがなければちゃんとしたシステムは作られないものと確信します.

その前提の上で,この現状を打破するためには何をすればいいのか,ということを建設的に考えていくことが重要です.そのために必要な手だてを着実に打っていくこと,それができる体制を作っていくことが求められているのです.

 

[荒井]

田所先生,建設的に受け取って頂き,ありがとうございます.

大事なのは「研究のためにレスキューをやる」ではなくて「レスキューのために研究もやる」という姿勢なのだろうと思います.

極限作業ロボットが結局は画に描いた餅に終わったのは,それが逆転していたためではないかと疑っています.レスキューロボットがその轍を踏まないよう念じております.

阪神淡路大震災を実際に経験され(もうじき9年目ですね)それをレスキューロボット推進のモチベーションとされている田所先生や松野先生がリーダーシップを取っている限り,そうなることはあるまいと期待しています.

 

[末廣]

このメーリングリストは若い人の場ということで、創設以来ほとんど発信をしていませんが、どうしても見過ごせない議論があり、出てきました。

荒井さんは、十分理解した上でのご発言だと思うのですが、若い方、とりわけロボットを学ばれて他の分野へと出ていかれる方に誤解が残ると困るので言わせて頂きます。一言のつもりが長くなりましたが、、、、

Hirohiko Arai <h.arai@aist.go.jp> wrote:

> 大事なのは「研究のためにレスキューをやる」ではなくて「レスキュー

> のために研究もやる」という姿勢なのだろうと思います.

研究者としては、ここは「レスキューのための研究をやる」で良いのではないでしょうか。でなければ、レスキュー隊の隊員でなければ研究が出来なくなります。というか役割り分担が必要だと思います。

> 極限作業ロボットが結局は画に描いた餅に終わったのは,それが逆転し

> ていたためではないかと疑っています.

ここが一番問題となる部分です。JCOの事故のときにも、行政、マスコミから(驚くことに一部研究者からも)極限作業ロボットの成果が活かされていない(暗にそれに携わった研究者が悪い)という意見が多数ありました。本当に、この責を負うのは研究者であるとのご意見でしょうか。

具体例を挙げますと、JCOの事故の後、1999-2000年に、通産省の「原子力防災支援システム開発」という事業が行なわれました。当時、電総研にも参加意向の問い合わせがありましたがこれは研究のフェーズではないということでお断りしています。

(蛇足) 研究者としての良心からお断りしたのですが、一部役人が、そのような非協力的な組織には、今後そういった予算は行かないと思えと言ったとか言わないとか、、、。単なる噂です。が、こういう予算の取り合いという構造があるのも確かです。そのためにこの予算も、科学技術庁と通産省とで分割されてしまいました。

その後、国内企業数社と仏の1社とが参加して原子力防災支援ロボットシステムを開発しました。しかし、その成果はいったい今どこに行ってしまったのでしょうか。この事業の目的は明らかに「開発のために原子力防災支援をやる」ではなく「原子力防災支援のための開発をやる」でした。でもダメ。そういう意味では「原子力防災支援のために開発もやる」べきという荒井さんのご指摘は正しいと思います。

(蛇足) 実際は「予算のために原子力防災支援をやる」だったかもしれませんが、、

しかし、その主語は、責任を負うべきは、開発者や研究者でしょうか。

仏の1社(サイバネ社)から購入した(開発ではない)ロボットシステムは、アントラ社(Groupe Intra)という仏の原子力防災組織に24時間体制で配備されているものです。決して「使えない技術」ではないのです。では、何故、日本では使われないか。簡単です。日本にはそれを使う組織がないからです。アントラ社は、仏政府が電力事業者に義務として作らせた防災組織です。そこでは電力会社から派遣された人が(研究者ではありません)、日々、ロボット操作の訓練を行なっています。

田所先生は、

>出動できるためには,平時からの訓練が必要です.論文を読む時間を短くして,

>トレーニングをすることが必要です.それでも,最前線にいくには全く不足です

>から,最前線に行くことができる部隊との同行が求められます.

と、お書きになりました。日々の訓練が必要というのはその通りです。しかし、メーカ(たとえばサイバネ社)の人間、ましてや研究者がそうしたことをするわけではありません。

当時、調査には参加させて頂き、日本でもアントラ社のような組織を作るべきだと報告したのですが、実現しませんでした。おまけでそのときの資料を後ろにつけておきます。

で、誰が悪いのでしょうね。

一つ言えることは、こうした研究者の活動や研究成果が活かされない構造がこの日本にはあるということです。この点に関しては、沢山言いたいことがあるのですが、言えば言うほど虚しくなるので、この辺でやめにしておきます。

研究者の役割りという点で補足させて頂きますと、サイバネ社はCEA(仏原子力庁)の研究者から技術供与を受けています。私は、ユーザ(アントラ)・メーカ(サイバネ)・研究者(CEA)3者が上手く機能して初めて研究が社会に活かされると考えています。

さて、このような構造を作るのは誰の責任でしょう。もちろん分野によって違いますよね。一般商品なら分かりやすい。では、原子力防災やレスキューの場合はどうでしょうか。皆様で、いろいろご議論して頂ければと思います。

 

[升谷]

> 具体例を挙げますと、JCOの事故の後、1999-2000年に、通産省の「原子力防災

> 支援システム開発」という事業が行なわれました。

                                   :

> その後、国内企業数社と仏の1社とが参加して原子力防災支援ロボットシステ

> ムを開発しました。しかし、その成果はいったい今どこに行ってしまったので

> しょうか。

20013月に行なわれたこのプロジェクトの成果発表会に参加しました.

不思議なことにそこにはロボットの研究者はほとんどいませんでした.

 

[田所]

私の意見は,末廣先生のご意見とほとんど同じです.研究者が災害地に行っても,救助の実務には役立ちません.いかに,研究者とレスキュー専門家とが協力するかという問題だと思います.

ただし,研究者として受け身の立場ではいつまでたっても望ましい姿が実現しないことは確かで,誰かが組織を作ってくれるのを待つのではなく,組織ができるような運動を続けていくことは必要だと思います.つまり,研究成果が活用されるマーケットを作る活動です.ヒューマノイドでは,産総研もマーケット作りにご尽力されているのではないでしょうか? また,新技術ができたときには,さまざまな売り込み活動を行うのはふつうだと思います.

なお,JCOの一部(原子力安全センター)については,六ヶ所村のオフサイトセンターで出動に向けての準備やトレーニングがなされていますから,ゼロではありません.

 

[荒井]

まず,一般論からお話しします.

仮に,ロボット研究の内情とかを知らない一般の人の立場に立ってみます.私の一番最初の質問も,末廣さんが問題にされた発言も,そういう目線から発したもの(発される可能性のあるもの)です.

そういう立場から見れば,ロボットの開発というのは,国の予算を使ってやるのならば,公共事業です.道路とかダムを作るのと,金額の大小はあれど大した違いはありません.踏み込んで言うならば,将来のロボットの市場が何兆円とかはじき出して見せるのも,高速道路の交通需要予測を甘めに見積もるのと,その底に見え隠れする論理は相似しています.利権の誘導です.

それで,末廣さんの質問に立ち戻って,

>本当に、この責を負うのは研究者であるとのご意見でしょうか。

100%ではないにせよ,責任はあるはずだ,というのが私の考えです.外から見れば研究者も役人も企業も同じ穴のムジナでしょう.ましてやプロジェクトを発案したのが研究者であり,そのプロジェクトの中で予算を使って研究者としての恩恵を受けた場合には,なおさら責任は重大です.

「(自分の)○○の技術は××に役立つ」と発言した時点で,研究者には責任が発生します.(最近そう思うようになりました.私も振り返れば論文のイントロなどで随分無責任な発言ばかり繰り返してきたものですが.)そして,それを理由として研究予算を獲得するならば,さらに重い責任を負うと考えるのが自然でしょう.

極限作業ロボットは,私の理解では,原子力保守や海底石油開発や防災の側の要請で立ち上がったプロジェクトではなく,ロボットの側の研究者が立案したものです.その時点では私は参加していなかったので詳しいことはわかりませんが,たぶん,ロボット研究のプロジェクトを立ち上げるにあたり,いくつかの研究したい手持ちのシーズの最大公約数的な理由付けとして極限作業が使われたというところだろうと思います.

そもそも需要の受け皿などないところに供給側の論理で立ち上げた(このあたりも高速道路などと似ています).しかも研究者は研究フェーズまでで撤退してそれ以上ははなからタッチする気がないと.それで,ロボット技術のシーズは研究が進んで潤ったのかも知れないけれど,極限作業ロボットとしてはあとには何も残らなかったわけでしょう.JCO事故の際の批判も私は無理もないことと受け止めています.

それでは,こういう場合にはどうしたら良いか.社会の側に技術を受け入れる体制が整っていない場面では,研究者が技術の用途を主張しても無駄に終わってしまうのか.結局,技術が本当に使われるところまで持っていくには,言い出した研究者が最後まで(バトンタッチする相手が現れるまで)ある程度面倒を見るしかないのだろうと思います.田所先生のご意見の通りです.

Satoshi Tadokoro wrote:

>ただし,研究者として受け身の立場ではいつまでたっても望ましい姿が実現しな

>いことは確かで,誰かが組織を作ってくれるのを待つのではなく,組織ができる

>ような運動を続けていくことは必要だと思います.つまり,研究成果が活用され

>るマーケットを作る活動です.ヒューマノイドでは,産総研もマーケット作りに

>ご尽力されているのではないでしょうか? また,新技術ができたときには,さ

>まざまな売り込み活動を行うのはふつうだと思います.

たぶんそのためには,半分研究者を放り出してでもこのロボットを実用化するんだというような個人的な思い入れや執念が必要で,少なくともレスキューではそれがあってほしい,というのが私の期待するところです.

 

[田所]

研究者を放り出すなんて,とんでもない.研究の成果を継続的につぎ込むからこそ,意義があるんじゃないですか.そうでなければ,企業に発注して終わり,というJCOと同じでしょう.そんなやり方でうまくいくはずがありません.

第一,そんなやりかたをしたとして,多くの人がその話に乗れますか? 誰がそれに乗ってくれるんでしょう? 誰も乗れないとすれば,そんな案は机上の空論です.その場合,どうやってそれを継続するんですか?

荒井先生の言われている「責を負う」ということは具体的に何を意味するのでしょうか? 観念論じゃあすみません.具体的なアクションとして,何をすればいいとお考えなのでしょう? 断っておきますが,荒井先生がご自身でできないなあ,と思われることは,他の方もやはりできないですし,やりたくないと思うのではないでしょうか.

 

[荒井]

Satoshi Tadokoro wrote:

>研究者を放り出すなんて,とんでもない.研究の成果を継続的につぎ込むからこ

>そ,意義があるんじゃないですか.そうでなければ,企業に発注して終わり,と

>いうJCOと同じでしょう.そんなやり方でうまくいくはずがありません.

  >

>第一,そんなやりかたをしたとして,多くの人がその話に乗れますか? 誰がそ

>れに乗ってくれるんでしょう? 誰も乗れないとすれば,そんな案は机上の空論

>です.その場合,どうやってそれを継続するんですか?

すみません,自分の文章をもう一度読み返してみたら,書き方が舌足らずでとんでもない誤解を招いてしまったようです.「自分が研究者であることを半分放り出してでも」というつもりで書きました.研究して学会で発表して論文を書いてというような従来の研究者像の枠組みにとどまらない活動に重点を置くことが必要になるということを言いたかったわけです(言い方が強すぎましたが).具体的には,技術をあちこち売り込んで回ったり,NPOとかベンチャーを立ち上げたり,行政にはたらきかけたり,分野外のグループと連携したりといったような,まさに田所先生がなさっているような活動などをさしています.

>荒井先生の言われている「責を負う」ということは具体的に何を意味するのでしょ

>うか? 観念論じゃあすみません.具体的なアクションとして,何をすればいい

>とお考えなのでしょう? 断っておきますが,荒井先生がご自身でできないなあ,

>と思われることは,他の方もやはりできないですし,やりたくないと思うのでは

>ないでしょうか.

「責を負う」という表現を出したのは末廣さんの方ですが…

まず考えているのは「予算の食い逃げをしない」ということです.例えば,これこれの役に立つロボットを開発しますという口実で予算を取っておいて,実際は部分的な技術シーズや理論だけの研究をして論文書いて終わり,というやり方では駄目,という当たり前の話です.そのためには予算を獲得するときに「無闇に風呂敷を広げない」,「できもしない法螺は吹かない」.研究を始める前に「この技術に誰が金を出すか,いくらまでなら買うかを考える」「架空のマーケットをあてにしない」.研究では「自分の技術シーズに固執しない」「理論の一般化よりも目の前の問題に特化した解を優先させる」「理論にのめりこまない」「重要なのは,『面白い』ではなくて『使える』」.

あとは上にも書いたようなプラスアルファの活動でしょう.

とりあえずの最低ラインとしてはこのくらいだと思います.しかし,自分のこれまでの研究を振り返ると,恥ずかしいくらいにほとんど守られていませんでした.この程度のことが守れないのは要するに実用化を標榜する研究としては筋が悪いということですから,すっぱり打ち切りにしました.一昨年くらいから新規まき直しで自分なりに最後まできちんと責任を負うことができると考えるテーマに取り組んでいて,慣れない企業回りなども始めたところです.

 

[田所]

うーん,私が考えていることは,ロボット学会を立ち上げたときにそれに携わった先生方が考えていたこと,立ち上げた理由と同じようなことだと思っています.そんな立派な自己犠牲などでは全くありません.

個人的には,役にも立ちたいですが,研究もしたいのです.昔のpeg-in-holeのような問題を,この中で見つける,あるいは,作ることができると考えています.重要な問題に先鞭をつけることが大学人の研究における最大の醍醐味だと思っていますから..

ただ,レスキューの問題の多くは手がつけられていないように見え,ちゃんとやればある程度の役に立つものができるとも考えており,だからこそプロジェクトとしても立ち上げられていると思います.鉄腕アトムはできるはずありませんが,それなりに役立つレスキューロボットはできると信じていますし,そうなりつつあります.また,それをしゃぶり尽くすことが,おもしろい研究のネタにもなっていると思っています.

 

[平原]

> 荒井先生の言われている「責を負う」ということは具体的に何を意味するのでしょ

> うか? 観念論じゃあすみません.具体的なアクションとして,何をすればいい

> とお考えなのでしょう? 断っておきますが,荒井先生がご自身でできないなあ,

> と思われることは,他の方もやはりできないですし,やりたくないと思うのでは

> ないでしょうか.

研究プロジェクトと国家予算との関わりにおける、研究者個人の責任問題は軽々には論じられないかもしれません。ただ、無責任(?)が野放しも困るかと思います。

もう少し個人レベル(?)の責任問題についてですが、

自発的に「責を負う」ことは、その個人に高い倫理観が求められるため、困難を伴うと思います。一方で、「責を負わせる」ことは、困難であるかもしれませんが、具体的方策があるように思います。

卑近な例ですが、重大な医療ミスを犯した医師が医師免許の取り消し・停止されるのと同様の責任の取り方では、いかがでしょうか。(実際には、困難のようですが)

一例として、博士の学位の取り消しなどは、どうでしょうか。

科学技術論文への虚偽の記述が、米国で問題として大きくなってきたと伺ったことがあります。やってもいない実験を行ったと論文中に記述された方は、博士の学位を失うというのはどうでしょう。告発行為の全面的な支持は、現実には困難を伴うかもしれませんが。

飛躍があるかもしれませんが、さらに、「責任問題」としてより扱いが困難であると思われるのは、研究に対する考え方(研究観)の違いに根ざすものではないでしょうか。

ミンスキーへのインタビューの中で、人口知能学会誌、191号、pp. 125の左段・第2パラグラフの部分は、とてもナイーブな問題かもしれません。

 

[荒井]

Kiyotaka Hirahara wrote:

>一方で、「責を負わせる」ことは、困難であるかもしれませんが、

>具体的方策があるように思います。

いくらなんでも制裁までは考えもしませんでしたが…

>やってもいない実験を行ったと

>論文中に記述された方は、博士の学位を

>失うというのはどうでしょう。

さすがにそこまで悪辣なことをする人はいないでしょう,と信じたい感覚があります.裏返せば,もしそういうことがあれば研究者として許しがたいという感覚でもあります.

私がむしろ問題として取り上げているのは,そういう場合ではなくて,研究者が善意で研究していてまた研究上の誤りもないのに技術としては使えない場合がある(むしろ多い),ということです.理論は正しく,実験も公正に行われていて良い結果も出ている.なのに使えない,あるいは使われない.とすれば問題があるのは,その研究が役に立つ技術を生み出すと主張している,論文ならばイントロダクションに相当する部分ではないか,というのが私の疑いです.

私自身もそうですが,論文のイントロダクションではその研究の意義を,これこれに役に立つというようなことを,さしたる厳密な証拠もなく,時には大げさに書きます.それについてさほど良心の痛みは感じない.査読においても,イントロダクションの内容は,そこそこ妥当に読めることが書いてあって本文と矛盾がなければほぼノーチェックに近い状態です.その部分にクレームをつけることは「著者と査読者の考え方の相違」として嫌われる場合すらあります.

それと似たことが研究予算のプロポーザルにもあります.そうしなければ通らないということもありますが,研究の目的とか予想される研究成果といった部分で,この研究は有益だということを針小棒大に主張することは日常的に行われています.こちらは審査側のチェックもより厳しくなりますが,そういう書き方をすること自体に研究者が罪悪感を感じることはあまりないと言えるでしょう.

この倫理観の落差は一体どこから来るのか.理論や実験の部分で捏造を行うことは悪辣とまで感じるのに,論文のイントロダクションや研究予算のプロポーザルで虚構の有用性を主張することはなぜ平気なのか.またそれらに論文の本文のような厳密さが要求されないのはなぜか.自分自身も含め研究者の不思議なところと言えます.

研究者だけの世界ならばそれでもまずくないのかも知れませんが,社会との接点では途端に問題が生じます.というのは,マスコミ等を通じて社会に伝わるのは論文のイントロダクションに相当する部分だけと言ってもよいですから.技術として使われないだけでなく,研究への信頼すら失いかねないわけです.

>飛躍があるかもしれませんが、

>さらに、「責任問題」としてより扱いが困難であると思われるのは、

>研究に対する考え方(研究観)の違いに根ざすものではないでしょうか。

>ミンスキーへのインタビューの中で、

>人口知能学会誌、191号、pp. 125の左段・第2パラグラフ

>の部分は、とてもナイーブな問題かもしれません。

会員でないので読んでいないのですが,どういうことを言っていたのでしょうか?大変興味があります.

 

[末廣]

=== 要約 ======================================================

荒井さんが指摘しているような問題点が研究者自身の中にあるのも確かだと思います。

しかし、その例として極限作業ロボットやレスキューロボットを取り上げるのは相応しくないし、実際にそれらプロジェクトが直面している問題点をすりかえる間違った議論だと思います。

===============================================================

荒井さんが問題にしている点、不正確かもしれませんが、「研究者が自分の研究の出口に対して不誠実であるため、研究成果が十分に世の中に還元されていない。」ということについて特に反対するつもりはありません。

しかし、その例として極限作業ロボットを取り上げるのは、私としてはどうしても納得が行きません。極限作業ロボット、原子力防災支援システム開発などは、むしろ失敗の原因が研究者ではいかんともしがたい社会的な構造にあることを示す良い例だと思っています。

Hirohiko Arai <h.arai@aist.go.jp> wrote:

> 極限作業ロボットは,私の理解では,原子力保守や海底石油開発や防災の側

> の要請で立ち上がったプロジェクトではなく,ロボットの側の研究者が立案

> したものです.その時点では私は参加していなかったので詳しいことはわか

> りませんが,たぶん,ロボット研究のプロジェクトを立ち上げるにあたり,

> いくつかの研究したい手持ちのシーズの最大公約数的な理由付けとして極限

> 作業が使われたというところだろうと思います.

はい。

このプロジェクトは「シーズ研究のためのプロジェクト」として位置付けられていました。

> そもそも需要の受け皿などないところに供給側の論理で立ち上げた(このあ

> たりも高速道路などと似ています).

当時は「需要の受け皿」は仮想のものであり、それが認められていました。

ですから、仮に荒井さんの意見が「実際の需要の受け皿がないところには、公的な研究費を投入すべきではない」というものであったとしても、「高速道路などと似ています」というのは、研究者の立場からいえば的外れな批判です。

さらに言えば、当時は「原発は事故は起こさない」という大前提があり、それを議論することすら政治的に許されていませんでした。ですから原子力防災的なテーマは入っていなかったはずです。仮に、そのような研究項目を立てたらその部分の予算は削られただろうと思います。というかプロジェクト全体が潰された可能性もあります。

> しかも研究者は研究フェーズまでで撤

> 退してそれ以上ははなからタッチする気がないと.それで,ロボット技術の

> シーズは研究が進んで潤ったのかも知れないけれど,極限作業ロボットとし

> てはあとには何も残らなかったわけでしょう.

当初目的通り技術的な蓄積が残りました。そのおかげで「原子力防災支援システム開発」では、そのプロジェクトに参加していた国内企業が極めて短期間でシステム開発ができたのです。

>JCO事故の際の批判も私は無理もないことと受け止めています.

この批判がロボット研究者に対するものであるとすれば誤解の上に成り立った間違ったものです。批判されるべきは、

「原発は事故は起こさない」という大前提の下に、まじめに事故の検討/対策を行なわなかったこと(誰の責任?)

得られた技術的な蓄積をニーズへとつなげるフレームワークを発進させなかったこと。具体的には、独のKHGや仏のGroupe Intraのような組織を作らなかったこと(誰の責任?)

などでしょう。

私は、こういう問題点を外に向かって指摘することが研究者としての義務だと思っています。これを研究者の意識の問題として取り上げることは問題の本質を隠蔽する良くない行為です。ですから研究者内部からそのような取り上げ方をされるのを見ると非常に残念な気がします。

> それでは,こういう場合にはどうしたら良いか.社会の側に技術を受け入れ

> る体制が整っていない場面では,研究者が技術の用途を主張しても無駄に終

> わってしまうのか.結局,技術が本当に使われるところまで持っていくには,

> 言い出した研究者が最後まで(バトンタッチする相手が現れるまで)ある程

> 度面倒を見るしかないのだろうと.

つまり研究者は実用に向けての十分な努力をしていないというご意見ですね。私は、その具体的反論として「原子力防災支援システム開発」の例を挙げさせて頂きました。この例では、サイバネ社のものは他国で本当に使われている技術でシステムが構築されています。研究者のできることとしてこれ以上何を望まれますか?でも日本にはそれを使う組織がない。これはやはり研究者の責任ですか?

これを研究者の意識や努力の問題として矮小化して欲しくはありません。研究者に責任があるとすれば「使う組織がない」という指摘を十分にしなかったことです。実際にはそういう指摘をしても行政には取り上げられませんでした。

「仮想の需要の受け皿」が研究者/開発者のある種のモラルハザードを引き起こすという指摘はあながち間違いではありません。原子力防災支援システム開発の例では、国内企業のシステムは実用性の点からは疑問の残るものでした。ここで実用性に力を入れても将来の儲に繋がらないのが明らかなので企業の経済活動としては当然の結果だと思います。これが実際の防災組織で採用されるかどうかのコンテストであれば力の入れ具合も違ったでしょう。これも研究者/開発者の責任でしょうか?

田所先生を始めとする、真面目に研究に取り組んでいる研究者の方々には申し訳ないのですが、残念なことに私はレスキューロボットプロジェクトにも類似の構造を感じています。JCOや阪神大震災の教訓を活かして24時間体制で出動可能な災害救助隊を作り、その中でロボットの利用の枠組が明確化されていれば、イランの地震への派遣に関しても何の問題もなかったでしょう。年間約5兆円の防衛費の1%でも、こちらに向ければ相当なことができたはずです。

 

=== 要約() ==================================================

荒井さんが指摘しているような問題点が研究者自身の中にあるのも確かだと思います。

しかし、その例として極限作業ロボットやレスキューロボットを取り上げるのは相応しくないし、実際にそれらプロジェクトが直面している問題点をすりかえる間違った議論だと思います。

===============================================================

 

[田所]

末廣先生のご意見に98%賛成です.

最後にご指摘の,レスキューロボットの構造的問題点については,私自身が痛感しているところであり,それではだめだということをここ5年間くらいいろんなところで言い続けています.その成果として,若干情勢が変わる気配がでてきており,わずかながら改善のきざしもあります.それが,100%でない,−2%の理由です.

研究者はこのようなことには全く無力ですが,問題点を言い続けることは重要だと考えています.

 

[荒井]

私は,極限作業ロボットの功罪の総括というのはいまだにきちんと行われていないと考えます.特にそれが失敗だった側面があるとすれば,なぜそうなったかを分析することは,レスキューロボットだけでなくこれからのロボットのプロジェクトにとって大いに役に立つはずです.時代の背景とか行政・企業・研究者のからんだ複雑なプロジェクトの構造をはしょってある一つの側面だけをとらえたのは単純化が過ぎたかも知れません.しかしそれによって末廣さんから別の側面からの失敗原因の考察を頂いたことは,怪我の功名だったと思います.失敗の分析をタブー視してひたすら忘却するのではなくどんどん議論すべきです.

さて,私は別に失敗原因が100%研究者の側にあるとは言っていません.しかし0%だとは到底言えないとも思っています.失敗は研究者の意見に耳を貸さない無策な役人の責任であって,研究者には一つの間違いもなかった,というのもまた単純化が過ぎると思います.

プロジェクトにはいろいろな段階があり,それぞれに意思決定が行われます.私が特に問題視したのはプロジェクト立ち上げの段階です.

私が最初に極限作業ロボットに言及した発言:

>大事なのは「研究のためにレスキューをやる」ではなくて「レスキュー

>のために研究もやる」という姿勢なのだろうと思います.

>極限作業ロボットが結局は画に描いた餅に終わったのは,それが逆転し

>ていたためではないかと疑っています.レスキューロボットがその轍を

>踏まないよう念じております.

これをより具体的に言ったものが次の発言になります.

>極限作業ロボットは,私の理解では,原子力保守や海底石油開発や防災の側

>の要請で立ち上がったプロジェクトではなく,ロボットの側の研究者が立案

>したものです.その時点では私は参加していなかったので詳しいことはわか

>りませんが,たぶん,ロボット研究のプロジェクトを立ち上げるにあたり,

>いくつかの研究したい手持ちのシーズの最大公約数的な理由付けとして極限

>作業が使われたというところだろうと思います.

この点については末廣さんも事実として認めておられます.つまり最初から「研究のために極限作業をやる」だったわけです.

この時点で,納税者に対する説明としては原子力保守や海底石油開発や防災のための有用なロボットを開発するというお題目を唱えつつ,研究現場の実情はロボットのシーズ研究という,ねじれた二重構造が生まれたと言えます.これが最初のボタンの掛け違えで,それは最後まで尾を引きました(というよりもそもそも「最後まで」ということを考えずに立ち上げたプロジェクトだったとも言えます).私が言いたいのは,こういう立ち上げ方をした研究者やそれによって恩恵を受けた研究者には責任はないんですか,ということです.

むろん,最初の隠蔽した意図の通りにロボットのシーズ研究としては実りの多い成功したプロジェクトだった,という言い方ができるのも理解できます.しかし,いざJCOの事故などで「極限作業ロボットできてないじゃないか」という批判が起こったとき,研究者の側から見てそれが誤解であったとしても,彼らからすれば誤解などではない.研究者は彼らに「極限作業ロボットを作ります」と宣言してプロジェクトを立ち上げたんですから.いまさら,「あれはロボットの技術シーズの研究で極限作業は単なる口実でした」とも言えないでしょう.だからこそ,そういう批判も甘んじて受けるしかあるまい,と考えるわけです.そういう意味で,プロジェクトを立ち上げた研究者にも,(私も含め)それと知りつつ予算を使って研究していた研究者にも,「責任はある」と言いたいわけです.

末廣さんが主に問題視されているのはプロジェクト後半および終了後の出口についてです.そこに「研究者ではいかんともしがたい社会的な構造」の問題があることは確かです.しかし一方でそこでの困難は上記のような二重構造的なプロジェクトの立ち上げ方に対する尻ぬぐいという要素があったことも否定できないと思います.

20年も前の意思決定を現在のモノサシで評価することは無茶かも知れません.しかし極限作業以後のロボットプロジェクトの多くにも同様の二重構造を見て取ることができ,しかもそれらの大半がやはり同じような失敗を繰り返しているのを見てきた以上,これは現在の問題でもあります.私が田所先生に確認したかったのも,少なくとも大大特にはこういう二重構造はないのでしょうね,ということだったわけです.

また,末廣さんは研究者の意識に注目することを「すりかえ」「矮小化」と表現されました.それは間違いです.

意識とか倫理観というと,個人のもの,自分だけの内面のものと考えがちです.だから矮小化という言葉も出てくるのでしょう.しかしここで取り上げているのはロボットの研究者が集団として共有している特殊な意識の問題です.研究者として行動するうちに指導者や同僚を通じて知らず知らずに植えつけられた,研究者特有の倫理観です.ですからそれは個人を越えた構造的な問題です.それがあるからこそ,研究者には共通した行動傾向が見られます.上で挙げた「研究のために○○をやる」というのもそういう行動傾向の一例です.別の稿でも他の例を書きました.そしてそういう倫理観が内輪でしか通用しないことに気づかないために,外部との軋轢も生じるのでしょう.

繰り返しますが,プロジェクトの失敗の要因をたどってゆくと研究者の意識がその中に含まれていることは多々あり,極限作業ロボットもその例外ではありません.また,それは決して小さい問題ではなく,そうした意識がなぜ蔓延しているかという構造にまで立ち入らなくては解決できない根深い問題だと考えています.

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付録:

Groupe Intra(Groupe d'INTervention Robotisee sur Accident) 視察調査結果(末廣尚士氏提供)

 


(1)日時

200037()9:00-15:30

 

(2)場所

B.P. N°61 37420 Avoine Cedex - France

 

(3)対応者

Director: Jean LEBE

Secterary General:

Alain LABROUCHE(GIntra@compserve.com)

Deputy Director:

Jaques DUMAS(JERUMAS@compuserv.com)

Operators: 現在訓練中の派遣員

(通訳: 菊池)

 

(4)概要

設立1988年。EDF,CEA,COGEMA3社による経済利益団体。

遠隔ロボットによる原子力事故対応組織。

 

(5)調査結果

 

5-1) 原子力事故にたいする考え方(Groupe Intra設立の経緯)

  原子力事故の発生に関して以下のような対策を検討する中でGroupe Intraが設立された。

IPSN(原子力安全防護委員会)EDF,CEA,COGEMAが予想される事故内容の検討を行った。

Intraを設立しEDF,CEA,COGEMA,INTRAが具体的なミッションの策定を行った。

使用設備(ロボットなど)についてINTRAがメーカーと協議の上、策定を行った。

INTRAが全体の組織運営、実施計画を決定した。

 

5-2)予算

・現在年間 40,000,000 フラン

運営:30,000,000 フラン

研究・開発:10,000,000 フラン

・設立からの総費用

  260,000,000 フラン

装備は、

土木機器

放射線防護、遠隔

ロボット導入

と段階的に増強されて来た。

 

5-3)人員体制

(a)常駐人員(常時24時間連絡がとれる体制)

GIE3社出身の25名体制で、下記を実施する:

・企業の経営・運営(5)

・事故対応機器、作業員、器材全体の管理

・事故対応機器のメンテナンス

・事故対応作業員への訓練

・新規プロジェクト及び機器開発の実施とフォロー

 

(b)分散人員

GIE3社に所属する90名の人員はINTRAの各種ロボット機器の使用方法について訓練を受けている。15人が1週間ずづ6週間のサイクルで、週末を含めた24時間体制で臨んでいる。初めに2回の5日の訓練の後、6ヵ月ごと3日の訓練を行っている。

入れ替わりは年間約5%程度。

 

(c)臨時対応人員

公認され、有資格者の臨時対応人員はINTRAグループ社員として下記を行う:

・器材のメンテナンスと保守:24(メーカなど)

・作業員と器材の輸送:運転とトラックの頭を外注

・放射線防護の支援:6

・計測へりコプタ(Helinuc Team):5(CEA/DAM)

・器材の管理

・作業員向けの特別教育

 

5-4)事故時の出動体制

・事故発生時には、地元発電事業者、知事の協議の上でGroupe Intraに要請が行われる。

  GIE3社の各原子力施設固有の事故対応スキームをベースに、INTRA24時間以内にその活動を開始することができる(Intraからの出動は7時間以内)

  これら以外の事故対応スキームが識別されてない施設については、この24時間に準備時間と輸送時間が加算される。

 

Groupe Intraの対策チームはサイトの対策チームと合流し、ロボットの運用に関しては地元チームとGroupe Intraチームとの協議により決定される。

 

55)事故時の組識体制(事前情報のみ、現地では未確認)

  発動された場合には、対策チームは下記の人員構成による:

・対策チーム責任者1

・調整役           2

・保守責任者       1

・対策本部責任者   1

・中継ポストオペレーター3

・施設内用ロボット操縦者6

・施設外用ロボット操縦者9

・土木作業ロボット操縦者3

・空中放射線分布図作成作業員とパイロットで5

・放射線管理者5

・車両輸送運転者数名

・メンテナンス作業員数名

 

5-6)事故時の対応措置内容

  (a) 現状把握

    ・検査

    ・汚染検査、放射線測定

    ・サンプル採取

  (b) 器材の検査

    ・進入器具

    ・防災保護用ポンプ

    ・避難器具

    ・計器、測定器等

  (c) 作業の実施

    ・遮蔽

    ・作業人員配置

    ・器物の回収

  (d) 作業員の現場派遣の準備

    ・土壌の準備

    ・アクセス方法の偵察

    ・進入路の整備

    ・開扉

    ・生態防護の発動

 

5-7)使用機器概要

(a) 空中放射線分布地図の作成システム

放射線の分布により地上の汚染度合を色分けした地図の作成。本システムはヘリコプターを利用したもので、15KM22時間で測定できる。

(b) 施設内部の対応システム

遠隔操作ロボットで、ビデオ検査、現場確認検査、放射線量・温度検査、サンプル採取、各種取扱い、軽作業を実施する。

(c) 施設外部の対応システム

無線操作ロボットで、中継システムにより10km程度までの遠隔操作により、ビデオ検査、現場確認検査、放射線量・温度検査(分布図作成)、サンプル採取、各種取扱い、各種作業を実施する。

(d) 土木作業

無線で遠隔操作により、土木工事、進入路の整備、地面の整地、土壌や器材の輸送を行う。

(e) ロジステイックと輸送システム

ロボット機器、大型ロボット、ロボット搬送車、防護服に関わる配備手段、除染方法、メンテナンス用スペース、作業員の輸送

 5-8)配備システム詳細

○広域測定

(a)HELINUC

ヘリコプタ搭載の広域γ線量測定システム。(遠隔操縦のプロジェクトは200010月予定)

3秒ごとの計測(話では2)、データ収集後1時間でマップ作成。

    開発:CEA

    速度:22 m/s

    高度:40 m

    γ線エネルギーレベル:30 から 2800 KeV

 

○屋内作業

(b)CENTAURE 2B(現在改良中、200012月予定)

4クローラ式、マニピュレータ搭載、遠隔操縦作業車。

歴史的には最初の屋内sites inspection vehicle the INTRA fleet. 1台配備

    開発:CEA

・台車

    寸法:0.98/1.57m(L)*0.5m(W)*1.15m(H)

    質量:313 kg

    速度:0.25 m/s

    バッテリ持続時間: 3 hours (=> 7 hours 使い捨て)

    操縦:有線200m。バッテリー消耗後ケーブルを通して再充電可能。 (=> 無線を検討中)

・マニピュレータ

    自由度:6

    垂直リーチ:1.25m

    水平リーチ:2.22m

    負荷:5 daN

・環境条件

    最大傾斜:42.5°

    高さ:0.60

    通り抜け:0.6m

    温度:-18°C 36°C (=>-20°C 55°C)

    耐放射線性:10**4 Gy

  ・操縦

    2人での操縦が可能

(c)ER2

6クローラ式、マニピュレータ搭載、遠隔操縦作業車。 3台保有。

  ・台車:Remotec(USA)

    寸法:1.0/1.60m(L)*0.72(W)*1.05m(H)

    質量:306 kg

    速度:0.25 m/s

    バッテリ持続時間: 3 hours

    操縦:有線150m。バッテリー消耗後ケーブルを通して再充電可能。

    ケーブル耐加重:250 daN

  ・マニピュレータ

    自由度:5

    垂直リーチ:1.67m

    水平リーチ:2.05m

    負荷:16 kg

  ・環境条件

    最大傾斜:45°

    高さ:0.55m

    通り抜け:0.6m

    温度:-18°C 36°C

    耐放射線性:10 Gy

  ・操縦

    2人で操縦が可能

  ・デモ内容

    段差乗り越え(段差不明、50cm程度)

    階段昇り、旋回、降り(傾斜不明、30度程度)

    扉開閉、通過

 

○屋外作業

(d)CAT 973 CB(特に説明無し、旧タイプ)

クローラ式 NBC(Nuclear Bacteriological Chemical)

     放射線、細菌、化学物質用作業車。

     車載シェルター運転。γ線量の減衰率は10

     放射線環境は 0.01 Gy/h まで。

    製造:Caterpillar(USA)

    寸法:6.92m(L)*2.85m(W)*4.05m(H)

    質量:32600 kg

    キャビン質量: 6700 kg

    速度:不明

    耐放射線性:0.01 Gy/h

(e)VERI 2A(特に説明無し、旧タイプ)

     8輪式、γ線量測定用遠隔操縦車。

     歴史的には最初の屋外sites inspection vehicle the INTRA fleet.

     1台配備

    開発:CEA

    寸法:3.42m(L)*1.80(W)*1.82m(H)

    質量:1520 kg

    速度:3.3 m/s

    エンジン:65HP空冷

    自走時間: 5 hours

    通信:無線 1km

    温度:-20°C 40°C

    耐放射線性:不明

  ・操縦

    車載シェルター型操縦室

    2人で操縦が可能

  (f)VERI 2B

     クローラ式、遠隔作業車。

     1台配備

    開発:THOMSON

    寸法:4.30m(L)*2.80(W)*2.40m(H)

    質量:5000 kg

    速度:6.9 m/s

    エンジン:152HP空冷

    自走時間: 10 hours

    通信:無線 2km

・マニピュレータ

    自由度:5

    リーチ:2.85m

    負荷:290 kg

 アタッチメント:バケツ、チェーンソー、ケーブルカッター、キリ

 (人が事前にセットする必要がある)

  ・環境条件

    最大傾斜:30°

    温度:-20°C 50°C

    耐放射線性:10 Gy

  ・操縦

    2人で操縦が可能

  ・デモ内容

    移動

    マニピュレータによる木材片の把握

 

○土木関連

  (g) EBENNE

     遠隔操縦ダンプトラック。

  ・デモ内容

    移動

  (h)ERASE(特に説明無し)

     クローラ式、遠隔操縦車。

  (i)EBULL(特に説明無し)

     遠隔操縦ブルドーザ。

  (j)EPELL(特に説明無し)

     遠隔操縦パワーシャベル。

  (k)EPPB(特に説明無し)

     EBULL,EPELL用操縦車。

  (l)ERELH(特に説明無し)

     シェルター車載の無線中継車。2台配備

  (i)ERELT(特に説明無し)

     クローラ式無人無線中継車。2台配備

    開発:THOMSON

    寸法:4.60m(L)*4.50(W)*2.75(H)

    質量:6510 kg

    速度:4.2 m/s

    エンジン:152HP空冷

    無線中継時間: 80 hours

    5kmの光ファイバーによる通信

  環境条件

    最大傾斜:26°

    湿度:80%/30°C

    温度:-20°C 45°C

    耐放射線性:1 Gy/h    1000 Gy

 

ロジステイック関連

ロボット搬送車、除染、メンテナンス用車、居住車など

 

(6)反映事項

(a)予算40,000,000フラン/年、しかし原子力災害での出動経験は無し。

 このような設備、体制を維持するためにはこれだけの覚悟が必要。

(b)これまでの費用は260,000,000フラン。

    立ち上げは、             

      土木関連設備          

           

      遠隔、放射線防護

           

      遠隔操縦ロボット

    と段階的に行って来た。

体制を整えるには、それ相応の試行錯誤と期間が必要とされる。

(c)原子力事故の発生に関して以下のような対策を検討する中でGroupe Intraが設立された。

IPSN(原子力安全防護委員会)EDF,CEA,COGEMAが予想される事故内容の検討を行った。

Intraを設立しEDF,CEA,COGEMA,INTRAが具体的なミッションの策定を行った。

・使用設備(ロボットなど)についてINTRAがメーカーと協議の上、策定を行った。

INTRAが全体の組織運営、実施計画を決定した。

すなわち、ロボットの使用策定前に、シナリオの検討と対策の実施主体が明確にされている必要がある。

 

(7)添付資料

配布資料2

ビデオ40


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