日本ロボット学会誌,Vol.13,No.2,1995.
構造材料技術の最先端
−ロボット工学者のための先進材料入門−
− 編集後記 −

 まず,先日の大地震で亡くなられた多くの方々のご冥福をお祈り申し上げます.また本特集に解説をご執筆頂いた神戸大の高森年先生,特集担当委員の田所諭先生も,その後いろいろとご不自由を強いられているとのことで,心からのお見舞いを申し上げます.

 さて,1月号の特集「学習とロボット」から一転して,今回の特集は「材料」です.ロボット研究者の多くの関心がロボットの知能へ,「モノ」と「ココロ」という対比で言えば「ココロ」へと流れてゆく中で「モノ」の極限である「材料」ということを言い出すのも,自分ながらちょっとヘソ曲りなように思えます.けれども,一方で昨年の日本ロボット学会学術講演会にしても,600件を超える講演の中でロボットの材料を正面から扱った研究が5本の指にも満たないというのも少しヘンな気がします.学会誌のバックナンバーをひっくり返してみても,アクチュエータやセンサの材料を扱ったいくつかの論文を除けば,ロボットの構造材料についての解説は,井口信洋:ロボット素材系と設計(材料から見たロボット設計),4-4,pp.417-422,1986. くらいしか見当りません.上記の解説記事における考察はいまだにほぼそのまま通用するように思われますが,それはこの分野での進展があまり見られないということでもあります.こうしたことに気づいてみると,私自身は制御屋のはしくれながら,足元がぐらつくような心もとない感じを覚えたわけです.(ここで思い返されるのは先日の大地震の被害−建物・道路の崩壊や火災−がやはり構造材料の問題でもあったことです.)こうした発端で,ちょうど特集ではロボット以外の周辺分野も扱おうという編集委員会の方針もあって,本特集が日の目をみる運びとなりました.材料分野の専門家の方々による歯ごたえある解説記事の数々は,この分野の広がりと深さを感じさせるものばかりです.これらをどうやって料理してゆくかは,これまでも関連分野の成果を貪欲に取込んでは成長してきたロボット研究者の腕の見せどころだと思います.

 最後に,毎回ながら原稿の催促を辛抱強く続けて下さった事務局の皆さんに深謝致します.(ロボット分野以外の方にも記事を書いて頂こうという方針の裏には,どうもロボット関係者には締切を守らない人が多いけれど,他の分野ならば…という内山委員長の思惑もあったのですが,そちらは見事に外れてしまったようです.)

(荒井 裕彦  機械技術研究所)