微量水分測定の注意点

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 微量水分測定の難しさ


まずは「微量水分測定は難しい」と言うことを、しっかりと心に留めて下さい。それほど安くない価格で購入した装置に測定対象ガスを導入し、スイッチを押して何かの数値が出たとしても、それが測定対象ガスに含まれている水分量を正しく示しているとは限りません。これには以前から知られていた理由に加えて、最近になって少しずつ明らかになってきた理由があります。微量水分測定を既に行っている人も、この辺でもう一度おさらいをしておきましょう。




 吸着・脱離の問題



水蒸気は大気中に大量に存在し、多くの種類の物質に対して吸着しやすい性質があるため、わずかの時間でも大気に曝された物質表面には、非常に多くの水分子が吸着します。吸着する水分量や吸着後の脱離のしやすさは材質や表面処理法に依存しますので、微量水分領域の水分測定では、測定装置を繋ぐサンプリング用配管に使うチューブや継ぎ手等の配管材料の選定に注意が必要です。また吸着水分の影響は、ガスと接触する配管材料の表面積が増える程大きくなりますので、配管の長さはできるだけ短く、継ぎ手の数はできるだけ少なくが基本です。


適切な配管材料を選んだ場合でも、測定を開始する前に、乾燥ガスによるパージ(吸着水分の除去)が必要です。パージに要する時間は、配管材料の水涸れ性、管路の設計、乾燥ガスの品質、測定領域に依ります。


  1. 参考まで

  2. 一度大気開放した産総研の拡散管方式発生装置を、再起動して10 nmol/mol (ppb)付近の発生を行う場合、 通常、管理人は、 1 nmol/mol以下の乾燥窒素ガスを使って、10日間以上のパージを行います。チューブはSUS316Lで内面を特殊処理したものを使用しています。


以上の注意を怠ると、目的とするガス中の微量水分測定をするつもりが、配管材料から脱離する水分をそれと知らずにいつまでも測定する羽目となります。また、その様な状況で装置の校正を行えば、装置の指示値は当然正しくなりません。




 標準整備の問題



少し前まで、微量水分の国家標準は、世界のどの国でも供給されていませんでした。測定装置の性能を客観的に評価をする上で、装置の指示値と標準値との比較は非常に大切です。しかし、標準が無い状況ではこの比較ができませんので、どのような原理の測定法であれ、指示値の信頼性の確保は難しくなります。


最近になって、日本を含むいくつかの国で、微量水分標準の整備が進められています。しかし、これらの標準は現在、各国ごとに個別に開発・管理されている状況にあります。各国で維持している国家標準の同等性は、国際比較という作業を通して確認されますが、微量水分標準に関しては、国際比較は現時点まで行われていません。国際比較の下限は現在、霜点-60 ℃となっています(詳しくはここ)。つまり、現在整備されている微量水分の国家標準は、各国ごとのローカルなものに過ぎず、他国でも認められるグローバルなものではありません。


  1. 追加情報(2012年5月)

  2. 世界で初めて行われた微量水分標準の国際比較にNMIJも参加しました。簡単な報告はここ




 測定装置の問題



国家標準が整備されていない厳しい状況の中で、各装置メーカーは独自の努力により、様々な原理の微量水分測定装置を開発してきました。しかし、それらのいくつかの装置を同じ現場で使うと、指示値が一致しないことがあります。どれが正しいのか、標準との比較ができない状況でははっきりとは分かりません。また、これは当然かも知れませんが、定量性、安定性、再現性、応答性、経済性の全てに優れると評価された微量水分測定装置を管理人は知りません。定量性・再現性を重要視すれば、経済性を犠牲にせねばならないかも知れないし、経済性を優先すれば、その他の多くの性能を犠牲にせねばならないかも知れません。それぞれの装置にはどんな特性があるのか、また特定の測定装置を選んだ場合、犠牲となる性能は何か、それは実際どの程度なのか、これらも標準との比較ができない状況でははっきりとは分かりません。


微量水分測定装置の性能については、今まであまり客観的な情報がありませんでした。しかし、近年、標準が整備されたことによって、標準との比較を通して少しずつ情報が得られるようになっています。


  1. NPL(英国物理学研究所)とBOC Edwards社の研究グループは、標準となる霜点発生装置を使って、13機種の市販の微量水分測定装置の性能評価を共同で行いました(機種名は伏せた形)。装置の種類は、キャビティリングダウン分光装置(1機種)、吸収分光装置 (1機種)、鏡面冷却式露点計 (2機種)、五酸化リン吸収電解方式微量水分計 (2機種)、静電容量式センサー (7機種) です。この結果は、2004年に開かれた国際シンポジウムTEMPMEKO2004で報告されました(参考資料[8])。内容の一部を簡単に紹介しますと、ドリフトに関する試験では、霜点-90 ℃の測定に関して、12ヶ月間に15 ℃もドリフトする 測定装置がありました。応答性に関する試験では、ガス中の水分量を300 nmol/mol (ppb)から850 nmol/molへと変化させた場合、その応答(90 %応答)に8時間以上かかるものがありました。一方で、ドリフトが小さく応答性のよい装置もありました。また、同じ原理の測定装置でも、機種によって性能が異なるものがありました。これらの結果は、全て実験室環境下での話であり、実際の現場ではさらに悪くなることが予想されています。


今後、同様の情報が徐々に増えていくと思いますが、現時点ではまだ十分とは言えません。測定装置の性能に関しては依然としてよく理解されてない部分があり、このことも微量水分測定の難しさに繋がっています。


  1. 追加情報(2009年9月)

  2. 微量水分計の問題点の記述を含む論文が、産総研が発行している学術ジャーナル「シンセシオロジー」第2巻第3号に掲載されました。ここからダウンロードできます(PDF)





微量水分測定装置に関しては、管理人も1ユーザーに過ぎませんが、参考までに、管理人が考える機種選定におけるポイントを以下4つ記します。



指示値の信頼性

どんな装置においても、指示値の信頼性の確認は重要です。これには、例えば、以下のような注意点があります。


  1. 装置の値付けはどのようにして行われるのか。

  2. 標準(メーカーの標準でもよい)との比較は行うのか。また、それはいつ行うのか(納品直前か)。

  3. ユーザーが考えている測定点付近で、標準による校正は行うのか(測定点は校正点から遠く離れた内挿点・外挿点ではないか)。

  4. 装置の定期的な校正は可能か。

  5. 不確かさはいくらか。

  6. トレーサビリティは確保されているか。


あまり多くを望むと、必然的に高額になりますのでご注意下さい。



応答性

多くの微量水分測定装置が、水分量が少ない領域では、良好といえない応答性を示します。「そんなの当然」と思う方もいるかと思いますが、ユーザーのイメージと実際の装置の応答性とであまり大きなズレがあると後々困るでしょうから、念のため購入前にきちんと確認をした方がよいです。



ドリフト

装置の種類によって、ドリフトの程度が大きく異なります。微量水分測定装置には、NPLのテストにあったように、霜点-90 ℃の測定に関して、実験室環境下でも1年間に15 ℃もドリフトするものがあります。またどのような原理の装置でも、多少の差はあれ、ドリフトは必ずあると思った方がよいです。購入を検討している装置のドリフトはどの程度なのか?これについては、定期的行われた過去の校正のデータを見る以外、きちんと知る方法はありません。



測定の目的・領域

何を目的に、どの領域で測定を行いたいかを明確にすることが、適切な装置選びにとって大切なことです。これがはっきりしないと、不必要に高額な装置を購入したり、また、装置の性能が足りず測定したいものが計れていない(しかもそれに気付かない)といったことが起こりえます。


どの測定方式でも、水分量の少ない領域へ行くほど測定限界に近づいていきます。なるべく低い領域まで計れる装置を選びたくなるのが人情でしょうが、実際に測定を行う領域での性能に注目して装置を選ぶ考え方もあります。大は小を兼ねると言いますが、過ぎたるは猶及ばざるが如しとも言います。何が目的か、どの領域で測りたいのか、もう一度よく考えましょう。