産業技術総合研究所   地質調査総合センター

有珠火山における過去の噴火の推移の例

  by A.Tomiya (2008/01/23改訂)


2007年秋に「有珠火山地質図(第2版)」が出版されました(改訂作業は東宮が担当).
以下の解説も,この第2版に基づいて改訂しました (2008/01/23).


ここでは過去の噴火の推移を眺め,有珠火山とはどのような噴火を繰り返してきたのかを考えてみます.
なお,以下で“#”で始まる文は東宮の個人的見解であることをお断りしておきます.

参考:「有珠火山地質図(第2版)」(曽屋ほか,2007),1981年IAVCEIの巡検資料 (Katsui et al., 1981) など.

(もう少し長いタイムスケールの活動史については,有珠火山−洞爺カルデラの活動史をご覧下さい.)


歴史時代の噴火活動の概要

噴火年 噴火間隔 前兆地震の期間 場所 活動内容の概要 テフラ体積 形成ドーム
1663数千年3日間山頂プリニー式,火砕サージ,(ドーム??)2.5 (km3) ??
17世紀末?20-30年???????ごく小さい??
176970-80年?前兆有り,期間不明 山頂プリニー式,火砕流(熱雲),溶岩ドーム0.11 (km3)小有珠
1822533日間 山頂プリニー式,火砕流(熱雲),潜在ドーム(※)0.28 (km3) オガリ山
18533110日間 山頂プリニー式,火砕流(熱雲),溶岩ドーム0.35 (km3)大有珠
1910574日間 山腹(北) 水蒸気爆発,潜在ドーム0.003 (km3)明治新山(潜在)
1943-45336ヶ月間山麓(東) 水蒸気爆発/マグマ水蒸気爆発,火砕サージ,溶岩ドーム0.001 (km3)昭和新山
1977-783232時間山頂プリニー式,水蒸気爆発/マグマ水蒸気爆発,潜在ドーム0.09 (km3)有珠新山(潜在)
2000224日間山腹(北西)水蒸気爆発/マグマ水蒸気爆発,潜在ドーム<0.001 (km3)2000年隆起域(潜在)

(※) 1977-78年噴火時の隆起で地表に露出.

【用語解説】

プリニー式:
爆発的に噴煙柱を上げて,広範囲に軽石や火山灰を放出する噴火.
 
溶岩ドーム:
雲仙普賢岳噴火のように,流動性の低い溶岩が火口付近に積み上がっていくタイプの噴火.溶岩自体が姿を見せずに地形を盛り上げるだけで終わる場合は“潜在ドーム”といい,溶岩が現われた場合の“溶岩ドーム”とは区別する.
 
火砕流(熱雲):
高温(数百℃)のガスと岩片が高速(時速100kmを超えることもある)で流下する噴火.最も恐ろしい災害をひき起こす.溶岩ドームの崩落に伴って起こる場合のほか,噴煙柱が崩壊して起こる場合,火口から直接溢れ出す場合,などがある.
 
火砕サージ:
火砕流(熱雲)に似ているが,ガスと細粒成分に富み,流動性が極めて高い.火砕流(熱雲)に伴って起こることが多い.
 
テフラ:
マグマが破砕されて吹き上げられたものの総称.軽石や火山灰がその代表例.もう少し意味を広く取っていわゆる火砕物とほぼ同義にとらえる研究者もいる.
 
水蒸気爆発/マグマ水蒸気爆発:
マグマが地下水層に接近して地下水が加熱・沸騰させられることによって起こる爆発を水蒸気爆発と呼ぶ.このとき吹き飛ばされるものは主として地表付近に既存の岩片などである.マグマが直接地下水に接した場合は“マグマ水蒸気爆発”と言い,このときはマグマそのものの破片も一緒に放出されるほか,コックス・テール・ジェット(鶏の尾のような形の鋭角で直線的な煙)と呼ばれる特徴的な噴煙形態が現れる(下図参照).

phreatic/phreatomagmatic eruption
[注:コックス・テール・ジェットは,強い水蒸気爆発でも見られることがある.]



過去8回の噴火の推移のパターン

数日間の前兆地震活動の後,数週間程度の爆発的ステージで始まり, その後数カ月程度のドーム形成を行なって終わる, というのが一般的であるが,その中にも次に挙げるようないくつかの活動推移のタイプがある.
なお,歴史時代に放出されたマグマ(本質物質)はいずれも珪長質(SiO2=68-74%)である.
●1663年タイプ:
山頂からの大規模な軽石放出を中心とする活動.山麓では降下軽石が最大2m程度堆積する.
噴火に伴い広範囲(半径数km)に火砕サージが流下し,周辺は壊滅的になる.
大規模な軽石放出は数時間〜1日程度で終わるが,噴火全体は半月程度続く.
溶岩ドームは形成されない??

●1769/1822/1853/1977年タイプ:
有珠火山では最も典型的なタイプ.
山頂からの軽石放出で始まり,火砕流(熱雲)の流下を伴いつつ,溶岩ドームを形成する.
ただし1977では火砕流(熱雲)は流下しなかった.#ドームが潜在だったためか?
降下軽石は山麓で最大数十cm堆積する.
火砕流(熱雲)は火口から2-3km程度,火砕サージはその2-3倍の範囲まで到達する.
火砕流(熱雲)は爆発的ステージで生じる(1822)こともあれば,
ドーム崩壊で生じる(1853)こともある.
爆発的活動は数週間程度続き,
その後,溶岩ドーム/潜在ドームを形成する活動が数カ月〜1年程度続く.
ドーム形成に伴い水蒸気爆発/マグマ水蒸気爆発を行なうことが有る.

●1910/2000年タイプ:
山腹での水蒸気爆発で始まり,潜在ドーム形成で終わる.
北麓(洞爺湖沿岸)の豊富な地下水に接触した場合にこのような噴火になると思われる.
軽石放出はないが,周辺には激しい爆発によって火山灰がまき散らされるほか,
火山泥流(火口から直接流出)によって谷沿いの低地が埋められる.
1910の場合,東西2.7kmに渡って45個の爆裂火口が生じた.
爆発的活動は数週間程度続き,ドーム形成は数カ月続く.

●1943年タイプ:
山麓での水蒸気爆発/マグマ水蒸気爆発で始まり,溶岩ドーム形成で終わる.
ある意味1910タイプに良く似ているが,1943では前兆地震活動が半年間も続いたことが
他との際立った特徴である.(他は前兆期間は数日間)
噴火に先立って顕著な地殻変動が起こる.
1943では,前兆(先噴火期)が半年,爆発期が4ヶ月,ドーム形成期が10ヶ月続いた.
爆発期には火砕サージも発生している.
#昭和新山(1943)のときだけ前兆期間が長いのは,
 山麓の全く新しい場所に火道をつくりながらマグマが上昇したためか?


#噴火する時には過去のドームを避けて火口を形成する傾向があるらしい.
 火口の位置によっては,山体崩壊(山崩れ)が起こる可能性もある.
 また,有珠では実績が無いが,セントへレンズ火山1980年噴火のときのように,
 山体崩壊と共に大規模な爆発(ブラスト=衝撃波を伴うような横殴りのすさまじい爆発)
 に移行する可能性も無いとは言えない.
 もしブラストが起これば,洞爺湖の対岸ですら安全とは言えない.

 →推移を図(ブロックダイアグラム)に表したもの(地質調査所版)


有珠火山−洞爺カルデラの歴史概説

有珠火山は洞爺カルデラ火山の一部として捉えることが出来ます. そこで,洞爺カルデラも含めた火山活動史を以下に示します.
かつては巨大噴火や山体崩壊などの破局的な活動がこの地域で起こっていたことが分かります.

参考:「有珠火山地質図(第2版)」(曽屋ほか,2007),「火山灰アトラス」(町田・新井, 1992) など.


1.洞爺カルデラ形成

約10万年前に巨大な噴火が起こり,それによって洞爺カルデラ(今の洞爺湖にほぼ相当)が形成された.このときに放出された噴出物(洞爺火砕流)の総体積は実に150km3以上にものぼり,広範囲に渡り数十mの厚さで堆積している.(長流川東岸の崖はほぼ全てそのときの堆積物)
#このような巨大噴火は数万年に1度あるかないかのものなので,次回噴火でこのタイプが起こる可能性は極めて小さいと考えられる.

2.中島火山形成

洞爺湖のまん中に浮かぶ中島も,実はかつての火山である.数万年前に活動した溶岩ドーム群である.

3.有珠火山

(1) 外輪山形成期

有珠火山は,途中の休止期間を挟んで2つの活動期に分けられる.
まず,1〜2万年ほど前に外輪山形成期があった. 玄武岩質マグマを中心とした活動で,有珠火山の主たる山体(現在“外輪山”と呼んでいる部分)を形成した.また,山体の東にあるドンコロ山(スコリア丘)もこのときの産物である.

(2) 山体崩壊(善光寺岩屑なだれ)と長い休止期間

8000年ほど前に,有珠火山の山体は大崩壊を起こした(現在の磐梯山のような状態).このときの崩壊堆積物は善光寺岩屑なだれ堆積物と呼ばれ,有珠の南麓はこの堆積物にうめられている.有珠町付近に多く見られる小さな丘は,このときの 岩屑なだれ で流されてきた山体のかけら(“流れ山”という)である.
#今このタイプの崩壊が起こったら,山麓の半分は壊滅するが,その可能性はおそらくあまり大きくないと考えられている.

山体崩壊の後,有珠火山は数千年間の長い休止期間に入っていた.

(3) 歴史時代の活動

西暦1663年,有珠火山は長い眠りから覚めた.
以後,2000年噴火までに,記録に残るだけでも8回の噴火を起こしているが,この活動はデイサイト〜流紋岩質マグマの活動で特徴付けられ,1〜2万年前の外輪山形成期とは全く対照的である.
歴史時代の活動では,爆発的な噴火によって大量の軽石が放出され,火砕流によって山麓を焼き払い,最後は溶岩ドームを形成するというタイプの噴火を繰り返した.
この歴史時代の活動の詳細については,下記をご覧いただきたい.

 →有珠火山における過去の噴火の推移の例


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Created:March,28,2000