産業技術総合研究所   地質調査総合センター

磁鉄鉱の消失(分解)とSO2量の増大
〜8月10日から8月13日における変化

                   by A.Tomiya (2000/10/06, 21:10改訂)

はじめに

地質調査所では三宅島の火山灰の岩石学的な観察を続けています.
磁鉄鉱に着目するといろいろなことが見えてくる,ということはこれまでのいくつかの報告(「三宅島2000年火山灰の組織形態と磁鉄鉱組成」など)でお知らせした通りです.
その磁鉄鉱が,8月10日から8月13日の間に急速に消えていったことが分かりました.
 ●8月13日以降の微斑晶磁鉄鉱の消失(噴火予知連提出資料)
 ●8月13日以降の磁鉄鉱の分解の様子(噴火予知連提出資料)

それに呼応するかのように,SO2ガスの放出が始まり, また,8月18日には最大規模の噴火が起こりました.
磁鉄鉱は,こうした変化の予兆を捉えていたのでしょうか?
ここでは,その意味について考えたいと思います.

ちなみに,8月10日噴火は,26日ぶりのものでした.
また,8月10日以降は噴煙が連続的に出されるようになりました.


磁鉄鉱の消失とSO2ガスの放出の関係

磁鉄鉱の消失とSO2ガスの放出は,以下のいずれか(もしくは両方)で説明できます:
(A) マグマの温度の上昇
(B) 硫黄分圧の上昇(?)

その理由を以下説明します.
なお,本件に関しては,高木さん@地調・資源エネルギー地質部に大変お世話になりました.

まず,今回の現象には,2種類の酸化還元反応が関与しています.

[GB] 2H2S+3O2=2SO2+2H2O(ガスの硫黄の酸化還元)
  硫化水素(H2S)が酸化されて亜硫酸ガス(SO2)になる反応.

[RB] 6FeSiO3+O2=2Fe3O4+6SiO2 (AMQ bufferの場合)(マグマの鉄の酸化還元)
  単斜輝石(の一端成分であるFeSiO3)が酸化されて
  磁鉄鉱(の一端成分であるFe3O4)とシリカ(SiO2; ここではメルトの一構成要素) になる反応.

Takagi & Tsukimura (1997): Econ.Geol.,Vol.92,81-86 による図によって, 簡単な解説をします(図中の温度の絶対値は今は目安程度とお考え下さい).
Takagi & Tsukimura

マグマ−ガスの共存する系を考えると, 高温ではGB (Gas Buffer; 高温側の矢印) が支配し, 低温ではRB (Rock Buffer; 低温側の矢印) が支配します. この境目が,図の矢印の屈曲点にあたります.
さて,磁鉄鉱が安定な場合は, 温度Tと酸素フュガシティfO2の関係は,図の低温側の矢印(RB)の上の1点にあります.
何らかの原因によって温度が上昇すると, その点は矢印(の逆方向)に沿って右上に移動します. これは,磁鉄鉱が消えていき,同時にガス中のSO2/H2Sが増大していくことを意味します. そのことは,反応式GBとRBを組み合わせて得られる次の反応式を見れば分かることでしょう
  9FeO+SO2+H2O=3Fe3O4+H2S
つまり,この関係から,「温度の上昇」「磁鉄鉱の消失(分解)」「SO2の増加」はセットになっていることが分かるのです.
もし8月10日から8月13日にかけて温度が上昇したのだとすると, 8月18日に最大規模の噴火が起きたことと考えあわせると大変興味深いことだと思います.

なお,さらに温度が上昇して屈曲点に達すると,今度は高温側の矢印に点が乗り換えます. このときにおいて,磁鉄鉱は完全に消滅します. それと同時に,SO2/H2Sの比はある一定値に落ち着きます. 現在の三宅島のマグマがどうなっているのか,今後の分析で明らかにしていきたいところです.

一方,磁鉄鉱の消失は硫黄分圧(fS2)の増加によっても説明可能です.
この場合,磁鉄鉱(Fe3O4)はピロータイト(FeS)さらにはパイライト(FeS2)へと 変化することになります.
8月13日の噴火では大量のパイライトが火山灰に混じっていたとの報告があり, 本件との関連が注目されます. ただし,火山灰に混じっていたパイライトは変質起源である可能性もあり,話はそう簡単ではありません. 高木さん@地調・資源エネルギー地質部のコメントによれば, ピロータイトから変化してできたパイライトは細長く伸びているが, 変質起源のパイライトはきれいなcubicであるので, 結晶の形態から両者は区別できるのでは無いか,とのことです.
なお,今のところ,微斑晶パイライトは確認されておりません. よって,硫黄分圧増加説は保留としておきたいと思います.


噴火予知連に10月6日に提出した資料


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Created:Oct.,06,2000