BN2002 一般セッションプログラム
<理論>
「クラスターBPによるKikuchi近似の計算」
佐藤泰介(東京工業大学)
Loopy BPは元々一変数のメッセージ交換であったが、
これを変数クラスターに拡張した loopy BPがどのよう
な条件下で変分自由エネルギーのKikuchi近似に停留解
を計算するかは明らかでなかった。 本論文はこのよう
な十分条件を提案し、且つKikuchi近似の一般化を計っ
た。その結果得られた BPは、従来のBPのみならずファ
クターグラフ上のsum-productアルゴリズムも含むもの
となった。
「完全2部グラフ型ボルツマンマシンのベイズ予測誤差」
山崎啓介、渡辺澄夫(東京工業大学)
ベイジアンネット、ボルツマンマシン等の学習モデルは
パターン認識、データマイニング等の多くの応用分野がある。
しかしながら、これらのモデルは性質が解明されている統計的
正則モデルではなく、フィッシャー情報行列が縮退する
特異モデルとして知られ、その性質を解明する数理的基盤が確立されていない。
近年、ベイズ推測においては代数幾何の手法を用いることにより、
予測精度の計算が可能であることが示された。
そこで本論文では、完全2部グラフ型の結合を持つ
ボルツマンマシンに代数幾何的手法を適用することで、
予測誤差の上限を導出する定理を証明した。
その結果、モデルの有効性を定量的に議論することが可能となった。
「α-ダイバージェンスを用いた平均場近似の拡張」
豊泉太郎(東京大学)
複数の確率変数についての確率分布が与えたれたとき、各変数の期待値を求め
る問題は重要である。しかし系のサイズが大きい場合この問題は計算量的困難
を生じる場合が多く、より少い計算量で期待値を求める手法が有効となる。
このような近似手法の一つであるナイーブ平均場近似は情報幾何の観点から見
れば、本来の指数型分布を各変数が独立な分布によって近似する手法であり、
本来のm射影(-1射影)を求めるという問題を、e射影(1射影)を求めることで近
似したものと理解できる。
本研究ではα分布族を各変数が独立な分布空間へのα射影によって近似するこ
とで期待値計算に必要な計算量的困難を克服した。またこの拡張した平均場近
似を用いてボルツマンンマシン学習のモデルとなるを分布を拡張した。
<データ解析/モデリング>
「グラフカルモデリングによるアンケートの設問の総合性評価」
丹治肇((独)農業工学研究所)
公共事業の評価の方法のひとつにoutcomesに注目したアンケートによる事業評価があ
る。その場合、アンケートに総合評価に関わる設問を設けることも可能であるが、
個々の評価項目と総合評価項目の間の整合性を点検する手法は不明であった。ここで
は、グラフィカルモデリングが、個々のパラメータ間の独立性を示す特徴に注目し
て、グラフィカルモデリングによる総合性評価項目の点検手法を提案する。実際に、
この手法を用いて、実際に行われた農村CATVのアンケートを分析した結果、グラフィ
カルモデリングによる点検評価の低い設問では問題点が指摘できた。
「遺伝子発現プロファイルデータからの遺伝子間依存関係の抽出」
寺本礼仁(住友製薬・ゲノム科学研究所)、本村陽一(産業技術総合研究所)
DNAチップやDNAマイクロアレイと呼ばれるmRNAの検出技術の急速な向上により、
遺伝子発現プロファイルデータが大量に得られるようになった。これにより、
罹患者の疾患組織由来のサンプルから網羅的な分子レベルでの詳細な疾患の
メカニズムの理解と個体差を反映した医療・創薬研究に大きく貢献すると
期待される。最近癌(悪性腫瘍)サンプル由来のDNAチップデータの機械学習に
よる解析結果の発表がなされ、罹患者の予後予測(腫瘍摘出後の再発・生存時間)
に一定の成功を収めている。
本稿では、これまでのDNAマイクロアレイの解析手法について概観し、病理学的に
分類が困難な肺腺癌(lung adenocarcinoma)の予後予測のpilot studyとして遺伝子
発現プロファイルデータから遺伝子間の依存関係に着目し、予後と相関する遺伝子群
の抽出手法の検討結果を報告する。
「ベイジアンネットによるアドバイス型問題解決システム」
佐藤宏喜、橋本武夫(ダイナスティテクノロジーズジャパン)、本村陽一(産業技術総合研究所)
産業技術総合研究所(産総研)とダイナスティ・テクノロジーズ・ジャパン株式会社
(DTJ)は、ベイジアンネットを応用したITユーザのためのアドバイス型問題解決シス
テムの研究共同を行っている。本年度の研究目的は、障害対応の経験や専門家の知識を
確率的因果モデルによって実際にモデル化し、それに基づいた状況判断とアドバイスを
行うシステムの実装方式確立である。
ベイジアンネットによるアドバイス型問題解決システムは、大別して2つある。一つは
ユーザの状況認識を補足する照会受付け機能(ナビゲータ)、もう一つは対処・操作内
容を状況に応じてアドバイスする機能(トラブルシュータ)であるが、今回取り組んで
いる機能は、ナビゲータの初期版として、ユーザの属性と訴えから対応の難易度を予測
するものである。
確率的因果モデルの構築には、約8,000件の実務データを使用している。データ分析作
業は7月中旬に開始しており、8月にはデータ分析結果と因果モデルの初期版を得る
予定になっている。今回の共同研究の成果を実プロジェクトに繋げることにより、国内に
おけるベイジアンネット実用化の最初の成功例と評価されることを期待している。
「ベイジアンネットによる身体知のモデル化の構想」
古川康一(慶応大学)、植野研(東芝)、五十嵐創、森田想平、尾崎知伸、玉川直世、奥山渡志也、小林郁夫 (慶応大学)
身体知は、訓練によって獲得される、筋骨格系の整合的な一連の動作と考えられる。
身体知獲得の目的は、演奏、踊り、各種のスポーツなどのスキルを向上させることで
ある。身体知の問題は、それが暗黙的であり、職業演奏家や、プロスポーツプレイヤー
が自身で何を行っているのかを把握出来ない点である。本研究の目的は、身体知を
モデル化し、その暗黙知を言語化することである。そのモデル化に、ベイジアンネット
を用いることを検討した。ここでは、その基本構想を明らかにする。
「ドライバの運転行動計測とベイジアンネットを用いた行動解析」
坂口靖雄((社)人間生活工学研究センター)、赤松幹之(産業技術総合研究所)
個人に適合した自動車運転支援システムの実現のためには、運転状態を評価した上で
どのように支援するかの判断が求められるが、支援の適合度を高める上で、過去の運転
行動を蓄積してモデル化することが効果的であると考えられる。
我々は、運転中の操作行動および交通状況を計測するシステムを搭載した実験車を開発
し、実路での運転行動を計測した。さらに、運転行動のモデル化を行うため、ベイジア
ンネットを用いた計測結果の解析を行った。ここでは、交差点で左折する前の減速・停
止行動を対象として、ドライバの一連の操作行動(アクセル、ブレーキ、ウィンカー)
を行う地点、速度等をノードとしてベイジアンネットを構築し、それぞれのノード間の
関連を求めている。この結果から、ある運転行動が通常の運転行動から逸脱しているか
どうかの判定が可能となり、判定に基づいて運転支援を行うことが可能となる。
「人工衛星の診断 −知識ベースアプローチ−」
岩田敏彰,本村陽一(産業技術総合研究所),町田和雄(東京大学)
人工衛星の診断法にはセンサベースのものと知識ベースのものがある.
本論文では知識ベースのものを取り上げる.まず,を55の人工衛星に対
し,104の不具合事例をデータベースとしてまとめた.このデータベースは
「背景」「原因」「現象」「観測」「故障箇所」「衛星名」「ミッション」
「最高軌道」「最低軌道」「打上日」「不具合発生日」を属性としてもつように
整理した.このデータベースに対して,C5.0を用いて決定木を作成し,その結果
から145個のルールとベイジアンネットワークを得た.予想しなかったルールや
属性間の関係が得られ,それらはよく知られている知識ベースの診断法である
FTAやFMEAの概念を含んだものとなっている.
「宇宙分野でのデータマイニング応用の動向」
岩田敏彰,本村陽一(産業技術総合研究所),矢入建久(東京大学),石濱直樹(宇宙開発事業団)
宇宙分野でのデータマイニングに関心を持つ産総研・岩田,
東大・矢入,NASDA・石濱とベイジアンネットワークの研究者
である産総研・本村の4名が産総研の会議室に集まり,意見
交換を行った.本稿ではそのときの話題について報告する.
会合では矢入・石濱・本村が互いの研究テーマについて
紹介し,岩田がまとめを行った.岩田,矢入・石濱の研究を
簡単に紹介し,NASAでの研究紹介や研究の今後の方針に
ついて述べる.
「ベイジアンネット構築ソフトウェア BAYONET」
本村陽一(産業技術総合研究所)、水野道尚(数理システム)
SQLデータベースと接続して属性間の依存関係を評価し、ベイジアンネット
を構築するソフトウェア BAYONETを開発した。新たに初心者でも対話的に
操作できるWizard型式のインタフェースやサポート体制を整え、誰でも簡単
に利用可能なパッケージとして、学術研究、開発用途に広く提供できるよう
になった。
<ロボティクス/情報統合>
「人間ロボット間の共同注意とそれに基づく経験的シンボル接地の統合モデル」
稲邑哲也(科学技術振興事業団/東京大学)
人間とロボットの間に自然な言語対話を成立させるには,シンボルグラウンディ
ング問題を解く必要が生じる.筆者は,この問題の解決にも対話が必要であり,
対話の成立とシンボルグラウンディングの成立は再帰的な関係になっていると
考える.本稿では,この相互発達的な人間とロボットの対話のモデルとして
Bayesian Networkを導入する.そして,シンボルグラウンディングのブートス
トラップとして大きな役割を果たしていると言われている学習者と教示者の間
の共同注意と,シンボルグラウンディングの問題の双方を,同一の枠組の中で
扱うモデルについて提案を行なう.
「強化学習エージェントの確率的知識表現を用いた方策改善」
北越大輔、栗原 正仁(北海道大学)、塩谷 浩之
強化学習エージェントは、置かれている環境についての情報を用いることなく、
試行錯誤的に方策を学習する。本稿では、強化学習エージェントの試行錯誤の過程で
得られるデータ系列と報酬をもとに、情報理論的モデル選択手法によって構築した
Bayesian Networkを用いた方策改善手法を提案する。方策の改善はネットワーク構造
を利用した教師あり学習によって行う。
計算機実験の結果、強化学習による方策の学習機構に加え、Bayesian Networkに
よる方策の改善機構を導入することによって、より効率的な方策の獲得が可能である
ことを示す。さらに、構築されたネットワークが、エージェントの置かれた環境に
おける確率的な知識表現となっていることを示す。
「移動ロボット位置決めのためのセンサプラニング −ベイジアンネットワークの表現と構造学習ー」
周洪鈞、坂根茂幸(中央大学)
自律ロボットの構成において、不確実性を含む状況下で自己位置を推論する技術は
重要である。本論文は、移動ロボットの不確実性を含む位置決め問題に関するセンサ
プラニング手法を提案する。具体的には、ローカルなセンサ情報と行動とグローバル
な位置決めの間の関係をベイジアンネットワーク(BN)で表現する。システムは初めに、
ノードの順序付けを探索するGAと結合したK2アルゴリズムを用いてBNの構造を学習する。
実行時には、学習したBNに基づき、グローバルな位置決めの信念度とセンシングコスト
のバランスを考慮して能動的なセンシング行動を計画する。シミュレーション実験に
より本システムの有効性を検証した。
「ベイズ理論を用いた迷路におけるロボット行動の学習」
菊池直樹,須鎗弘樹(千葉大学)
8個のセンサに反応して左右2つのモータが独立に動くロボットにケーペラ
ロボットがある。このケーペラロボットが迷路上で壁に触れることなく壁を
沿って動く時には各センサパターンに対して適した動き方があると考えられる。
本研究では、ベイジアンネットワークを用いて、各センサパターンにおける
モータの正しい動かし方の学習をシミュレーション上で行った。確率の更新には
ベイズ更新を用い、正しい動かし方をコンピュータ上で学習していく。任意の
マップを与えた時にも対応できる、頑健性を備えた学習システムを構築する
ことを目的とする。発表当日,そのシミュレーション結果をお見せする。
「ベイジアンネットを用いた音響情報と画像情報の統合」
浅野太,本村陽一,麻生英樹,市村直幸,原功,伊藤克亘,後藤真孝(産総研),
中村哲(ATR)
ベイジアンネットにより不確実性を伴ったセンサ入力を確信度付きで取り扱う
ことができる。これによって音響と画像など、異なるモダリティからの情報を
統合する枠組みが単独の情報ソースのみの認識能力を超えるための新しいアプ
ローチとして注目を集めつつある。本発表では、現在、産業技術総合研究所と
ATRで進めている音響と画像情報の統合システム開発プロジェクトについてそ
の概要を説明する。