引張裂罅は,裂罅面に沿っての変位は認められず,裂罅面に垂直な方向に開口する.引張裂罅は剪断裂罅よりも短いことが多いが,例外も認められる.しばしば剪断裂罅に伴って雁行状に配列する.開口した引張裂罅は,多くの場合,流体で満たされており,流体から鉱物が沈澱することにより脈を形成する.裂罅の開口と同時に鉱物の沈澱が進行することが多く,結果として形成された鉱物脈は,脈壁から脈の中心に向かって鉱物の結晶成長が認められる.引張裂罅起源の鉱脈は一般に左右対称の構造を示し,共存する剪断裂罅よりも脈幅が広いことが多い.
剪断裂罅は裂罅面に沿って母岩の変位が認められる.複数のほぼ平行な剪断裂罅が雁行配列する場合,これらは引張裂罅や二次的な剪断裂罅により結合することがある(図1).剪断裂罅起源の鉱脈は,一般に膨縮が激しく,断層粘土を伴う.繰り返し起こる断層運動により複数の鉱化ステージが認められることがある.断層運動により鉱脈の対称性が保存されない場合が多い.
鉱脈の組織から引張裂罅起源のものと剪断裂罅起源のものを区別することには困難が伴う.この2種類の鉱脈の区別は,鉱脈に沿っての地層の変位の有無や2次的な雁行引張裂罅の有無から推測されている.両者は裂罅の端成分であり,実際には両方の性質をもつ鉱脈が多い.また複数の鉱化ステージを持つ鉱脈では,両方の性質が重複する場合も認められる.
3.
メッシュ構造
経済的に重要な熱水鉱床を形成するには大量の流体が鉱床形成場を流動する必要がある.例えば,〜10ppbの金を含む熱水から10トンの金鉱床を形成するには〜1 km3の熱水の流動が必要である.このような多量の熱水が流動する通路は富鉱部を形成することが多い.多くの鉱脈鉱床において,富鉱部はネットワーク状の断層および断層に関連した2次的裂罅に形成され,鉱脈を胚胎する裂罅自身は大きな変位を伴わない.このような断層−裂罅のネットワーク部は,「メッシュ構造」と呼ばれる(図3).正断層場や引張−横ずれ断層場での火山や地熱地帯で頻繁に認められる群発地震の原因はマグマの貫入や過剰流体圧の熱水の移動に伴うメッシュ構造の形成であると考えられている(Sibson, 1996).

図3 3軸応力場で発達した互いに連結した剪断,引張,引張剪断裂罅からなる群発地震のためのHillメッシュモデル(Sibson, 1996).
地殻中の流体の移動は,層理面,節理,断層,葉理,地層境界等の不連続面に影響され,地殻を構成する岩石の透水性は不均一である.もともとこのような不連続面に存在した高流体圧の流体が,不均一な地殻に進入することにより,さまざま方位の脆性構造を作り出し,それらが次々と結びつくことによりメッシュ構造を形成し,岩石の透水性を増加する.このような高流体圧の流体は,厚い堆積層の埋没圧縮,地殻中〜深部での変成作用に伴う脱水作用,マグマの貫入に伴う熱や熱水の放出による過剰圧力,マントルでの脱ガス作用により生じる.
メッシュ構造の形成には,岩石中の物質の不均一性と低有効応力状態が重要である.引張強度に多様性のある層状の岩石は,特に伸張応力場ではメッシュ構造を形成しやすい.引張剪断裂罅または引張裂罅からなるメッシュ構造は,少なくとも局所的にはPf〜σ3の条件を必要とし,有効応力の大きいところでは形成されにくい.引張または横ずれ断層場でメッシュ構造の形成を促進する要素は,個々の引張裂罅の垂直方向での流体圧勾配である.裂罅中の流体圧勾配は,一般に母岩のσ3の垂直勾配よりも小さい.このような裂罅はPf>σ3を満たす深度においてのみ開口する.結晶質岩中の垂直裂罅では,上部100m前後がこの条件を満たすと考えられ,この範囲外では,剪断裂罅を形成する流体圧条件となる.
メッシュ中での脆性裂罅は,その種類により岩石の透水性に異なる影響を与える.例えば,低孔隙率の岩石は一般に裂罅により透水性を増加させ,カタクラスティックな角礫化を起こすこともある.高孔隙率の堆積岩中の単純剪断は孔隙を崩壊させることにより,低透水性の「変形帯」を形成する.また剪断裂罅−引張裂罅メッシュに発達する裂罅に熱水鉱物が沈澱することにより,またはスティロライト溶解面が形成されることにより,透水性が小さくなることが頻繁に生じる.
局地的な応力場に対応する基本的な構造要素の方位を図4aに,雁行状の配列のために個々の剪断帯に発達する引張裂罅を図4bに,リーデル剪断が結合した状態を図4cに示す.異なる種類の裂罅が組み合わさることにより,より規模の大きな剪断−引張裂罅メッシュが形成される.これらのメッシュ構造での変位が増大すると,連結した直線状の断層に進化する.一度断層が形成されると,より小さな過流体圧で断層が再活動する.従って,メッシュ構造の発達は主要な新しい断層構造の発達の前兆現象と捉えられる.

図4 (a)応力に規制されたメッシュ構造を構成する要素(Sibson,
1996).(b)プルアパート部,短縮部で結ばれた断層セグメント.(c)リーデル剪断から発達した断層.P: P剪断,R: リーデル剪断,R': 共役リーデル剪断,T: 引張裂罅.
4.
種々の応力場で形成された鉱脈鉱床
鉱脈を胚胎する裂罅は,鉱床地域の応力場を反映して形成される.この応力場はプレートの沈みこみや大陸地殻の衝突などに起因して広域的に変形地質構造を形成する造構応力場にマグマの貫入やカルデラの形成などに伴う局所的な応力場が重複したものである.地殻浅部の応力場は3主応力軸のうち,1つが鉛直方向であると仮定すると,正断層,横ずれ断層,逆断層の発達する応力配置に代表させることができる(Anderson, 1951).ここではそれぞれの応力配置を伸張応力場,中間応力場,圧縮応力場と呼ぶことにする(図5).鉱脈を胚胎する裂罅パターンには広域的な造構応力場を強く反映したものから局所的な応力場を反映したものまで様々である.ここでは代表的な応力場で形成された鉱脈パターンの例を以下に示す.

図5 Anderson (1951)による断層の力学的分類.
4.1. マグマの貫入による局所的応力場の下で形成された鉱脈
マグマ貫入体の上部では,広域的な造構応力の影響よりも,マグマの貫入に伴う過剰マグマ−流体圧による局所的な応力の影響を強く受けた裂罅が形成される.垂直方向に伸張した楕円体のマグマが地殻浅所(数km)に貫入した場合,その上部では中心付近に同心円状の正断層が,放射状引張裂罅が縁辺部に形成される(Koide and Bhattacharji, 1975, 図6).

図6
数値計算により得られた鉛直方向に伸張したマグマ体上部に発達する裂罅パターン(Koide and Bhattacharji, 1975).内側に同心円状,外側に放射状引張裂罅が発達する.内側の同心円状裂罅は上下方向に連結することにより正断層を形成する.
西南北海道に位置する手稲金・銅浅熱水性鉱床は,鮮新世前期に形成された安山岩質の手稲火山の中心部付近に位置する.鉱床は強珪化岩を中心とする放射状(一部同心円状)の含金銀石英脈からなる(図7).鉱脈はルソン銅鉱・硫砒銅鉱・テルル鉱物を含む高硫化系の三山鉱床群と黄銅鉱・方鉛鉱・閃亜鉛鉱に卓越する中間流化系の黄金沢鉱床群に区分される.鉱化作用の年代(4.4-4.0 Ma)が手稲安山岩の年代(3.7 Ma)に近接していること,放射状鉱脈の中心部に珪化岩が位置することから,手稲火山の形成直前に放射状鉱脈の中心部にマグマが貫入し,引張裂罅の形成と共に鉱化作用が生じたと推定される.

図7 異なる応力場での鉱脈パターン.Sleeper鉱床とSigma鉱床は断面図,その他は平面図(上方が北).黒色太線スケールは500m.Sleeper鉱床の灰色線は鉱化作用を伴わない正断層,黒色線は鉱化作用を伴う正断層.El Salvador鉱床の黒色短線は後期石英細脈の卓越方位,灰色部は鉱化作用時に貫入した花崗閃緑岩の分布を示す.
鉱脈鉱床には分類されないが,ほとんどの斑岩型鉱床にはマグマの貫入に伴う放射状の細脈が発達する.チリ北部に位置するEl Salvador斑岩銅鉱床では,約42Maの花崗閃緑岩の貫入により,斑岩銅鉱化作用が生じている.鉱化作用は,ストックワーク状の石英細脈に伴われ,黒雲母やアルカリ長石で特徴づけられる初期のステージ,モリブデン鉱化作用を伴う漸移ステージ,フィリック変質を伴う後期ステージに大別される(Gustafson and Hunt, 1975).初期ステージの石英細脈は不規則・断続的で,500˚C以上の高温熱水により塑性条件下で形成されている.一方,後期のセリサイト・黄鉄鉱を伴う石英細脈は,初期の脈と比較すると方向に規則性があり,直線的で,より低温の熱水(<350˚C)から脆性条件下で沈澱している.この後期の細脈は,脈の中央部を中心とした対称構造が顕著で,脈に沿っての母岩の変位はなく,引張裂罅の特徴を示す(Gustafson and Hunt, 1975).この後期の石英細脈は,前期と後期の鉱化ステージの間に貫入した花崗閃緑岩体(L斑岩)の周辺部に西北西−東南東方向にやや卓越した放射状の方位分布を示し(図7),マグマの貫入により生じた局所的な応力場の下で形成されたと推定される.
4.2. 広域的造構応力場の下で形成された鉱脈
4.2.1. 伸張応力場での鉱脈
伸張応力場での鉱脈鉱床は低硫化系浅熱水性鉱床が形成されることが多い.鉱脈は正断層,または正断層に伴う二次的引張裂罅に胚胎する.
米国ネバダ州北部のSleeper低硫化系浅熱水性金鉱床は,この地域で約16Maに開始したBasin and Rangeテクトニクスの
最初期の流紋岩質マグマの貫入に伴い形成している.この鉱床付近では,約16Maの玄武岩および粗面岩溶岩・火山砕屑岩が三畳紀の堆積岩を覆い,さらに流紋岩斑岩が上部を覆っている.これらの岩石は16-8Maの広域的引張運動に伴う北北東−南南西のステップ状正断層で切られ,Basin and Range地形を形成する(図7).Sleeper鉱床はこれらの正断層およびその近傍に胚胎する含金石英−氷長石脈と,主としてその上盤側に分布する微細引張裂罅を充填する低品位網状鉱石からなる.5条の主要な鉱脈が知られており,いずれもこの地域の正断層に平行な走行を持つ(図7).高品位縞状石英脈は走行方向に1200m以上,傾斜方向に500m以上連続し,最大幅は3mである.珪化作用・金銀鉱化作用が複数のステージを持つことは,南北方向の正断層が繰り返し活動したことを示す(Conrad et al., 1993).これらの正断層は鉱化作用後も活動し,Sleeper鉱床を300-600m変位させている.
4.2.2. 中間応力場での鉱脈
中間応力場では浅熱水性鉱床に加えて,中熱水性鉱床,ゼノサーマル鉱床が主として形成される.鉱脈は主として横ずれ断層,または横ずれ断層に伴うプルアパート部や二次的引張裂罅に胚胎する.
西南北海道に位置する鮮新世後期〜更新世前期に形成された鉱脈は東西と北西−南東方向のものが卓越する(図8a).これらの鉱脈は,近傍の安山岩〜デイサイト火成活動に伴い形成したと考えられている(Watanabe, 1990a).いずれも浅熱水性鉱床の特徴を持つが,豊羽(Ag-Cu-Pb-Zn)鉱床の南東部では熱水の温度は350-400˚Cに達しており,ゼノサーマル鉱床の特徴を併せ持つ(Ohta, 1991).

図8 西南北海道北部の鉱脈.a. 西南北海道北部の鮮新世後期〜更新世前期の鉱脈の卓越方位.b.豊羽,稲倉石,千歳福神沢鉱床の鉱脈(平面図).矢印は剪断の方向を示す.
これらの鉱脈のうち,西南北海道北部に位置する豊羽,千歳(Au-Ag),稲倉石−大江(Mn-Pb-Zn)鉱床はいずれも一方向に発達した横ずれ断層に胚胎している.それぞれの鉱脈は数100mから1kmの水平延長距離を持ち,豊羽や稲倉石鉱床では,個々の鉱脈が引張裂罅により連結し,全長2-3kmの鉱脈系を形成する.豊羽鉱床や千歳鉱床では東西方向の右横ずれ断層に,稲倉石−大江鉱床では北西−南東方向の左横ずれ断層に鉱脈が胚胎しており,それぞれ北西―南東および東西方向の引張裂罅を伴っている(図8b).これらの鉱床では様々な規模のプルアパート構造が発達しており,プルアパート部に富鉱部が形成されている.豊羽鉱床では東西方向の鉱脈に沿って約240mの右横ずれ変位が認められるが(Watanabe, 1990b),それ以外の鉱脈では大きな横ずれ変位量は認められない.これらの鉱脈を胚胎する横ずれ断層の変位は,これらの鉱脈が西北西−東南東方向のσ1,北北東−南南西方向のσ3,鉛直方向のσ2の広域応力場の下で形成されたことを示す.
一方,西南北海道南部に位置する八雲マンガン・鉛・亜鉛鉱床は,N60˚EとN60˚Wの共役な剪断帯に胚胎する鉱脈から形成され(図7),それぞれに東西方向の二次的引張裂罅を伴っている.これらの形態からほぼ東西方向のσ1,南北方向のσ3,鉛直方向のσ2の応力場の下で形成されたと推定される(渡辺,
1986).
4.2.3. 圧縮応力場での鉱脈
圧縮応力場で形成される鉱脈の代表的なものは中熱水性鉱床に分類される造山性金鉱床であり,西オーストラリアのYilgarn Craton, カナダのSuperior Province, ジンバブエの太古界のグリーンストーン,古生代のオーストラリア南東部でのLachlan褶曲帯やカナダ東部のMeguna地塊,中生代以降の環太平洋地域(アラスカ,カリフォルニア,ニュージーランド)に認められる.これらの金鉱床は大陸地殻中の地震−非地震漸移境界上部の深度約15-20kmに約350˚Cの熱水により形成される.金鉱床を胚胎する逆断層や剪断帯中の変形様式は,一般にマクロスケールで見ると脆性から脆性−延性漸移領域にまたがる(Cox, 1999).
2000トン以上の金を生産したオーストラリア,ビクトリア州のBendigo-Ballarat帯は中期古生代のLachlan褶曲帯中に位置する.Bendigo-Ballarat帯ではオルドビス紀の堆積岩類がデボン紀中期に広域短縮(<65%)および低度の緑色片岩相の変成作用を受けている.この結果,これらの岩石中には垂直の軸面を持つシュブロン褶曲と急角度の逆断層により切断されたほぼ垂直な壁開面が形成している.含金石英脈は逆断層および2次的な水平引張裂罅,褶曲頂部に胚胎する(図9).比較的変位の少ない断層は,褶曲翼部で地層面に平行になることもある.鉱化作用はσv=σ3の圧縮応力場で,褶曲の最終段階に起こっている.ここでは熱水の起源は変成作用に求められ,熱水の温度は約300˚Cと見積もられている(Sibson and Scott, 1998).

図9 Bendigo-Ballarat帯での含金石英脈(黒色)の模式的産状図(Sibson and Scott,
1998).
4.3. 小さな造構応力場の下で形成された鉱脈
水平面内の差応力の小さな造構応力場では,剪断裂罅は形成されず,引張剪断裂罅や引張裂罅が発達し,大きな透水性を持つメッシュ構造が形成されやすい.流紋岩と玄武岩とのバイモーダル火成活動に伴う低硫化系浅熱水性金鉱脈の多くはこの条件下で形成されている.
南九州浅熱水性金鉱床区の北薩地域では鮮新世から更新世にかけて菱刈,串木野,大口鉱床に代表される低硫化系浅熱水性金鉱脈鉱床が数多く分布する.これらは流紋岩〜デイサイト火成活動に伴われ,鮮新世の安山岩や白亜紀の堆積岩類を母岩とする.
大口鉱床では,N40˚EおよびN60˚E方向の鉱脈が卓越し(図7),いずれも北西に約60˚傾斜している.これらの鉱脈は200 m〜1500mの走向方向の延長距離,90 m〜240 mの傾斜方向の延長距離を持ち,0.3-3mの脈幅を持つ.このうち最大規模のN40˚E 走向の3号脈にはN60˚E方向の鉱脈との組み合わせからなるプルアパート構造が認められ,富鉱部を形成している.N60˚E走向の鉱脈は,@平行する裂罅が多い,A延長距離が短く脈幅が広い,B熱水角礫岩を伴う,など引張裂罅の特徴を持つのに対し,N40˚E走向の鉱脈は延長距離が長く,通常上盤に粘土を伴う.これらの特徴からN60˚E, N40˚Eの鉱脈はそれぞれ,引張裂罅,右横ずれ剪断裂罅と判断される.一方走向延長の短いN80˚W80˚Nの鉱脈群も認められ,これらの脈の一部は北東−南西系の脈を左横ずれ変位させている.以上の特徴から,大口鉱床の鉱脈はN40˚EとN80˚Wの剪断裂罅,N60˚Eの引張〜引張剪断裂罅の組み合わせからなり,これらはN70 ˚E方向のσ1,N20˚Wのσ3により形成されたと推定される(池田,
1962).
菱刈鉱床の鉱脈は本鉱,山神,山田の3鉱床群からなる(図10).これらの鉱床は白亜紀の堆積岩と更新世の安山岩類を母岩とする含金氷長石−石英脈からなり,縞状構造の顕著な部分を含む.山田鉱床の一部でN30˚E走向の鉱脈が認められるものの,これら3鉱床の鉱脈群の走向は50˚Eに一定している.鉱脈の傾斜は,ほぼ垂直で平行脈群を形成する.主要な鉱脈の走向延長距離は200-700mで,脈幅は本鉱および山神鉱床では1-3m, 山田鉱床では2-5mである.これらの鉱脈は潜頭性であり,標高150mから-100mの標高差250mの間に主として分布する.鉱脈に沿っての地層の変位はほとんど認められない.また鉱脈の中心面を中心とする対称構造が顕著である.以上の特徴は,菱刈鉱床の鉱脈が主にN40˚W方向のσ3の下で形成された引張裂罅からなることを示す(Uto et al., 2001).

図10 菱刈鉱床の地質概略および鉱脈分布図(Ibaraki
and Suzuki, 1993).
本鉱の芳泉,瑞泉脈では白亜紀の堆積岩類と更新世の安山岩類との不整合付近に高品位部が認められる.本鉱および山神鉱床では一般に脈の上半部ほど金の品位が高く下部に向かうと急激に品位が下がるが,山田鉱床ではこのような特徴は認められない(Ibaraki and Suzuki, 1993).鉱化熱水の沸騰及び天水の流入が金の沈澱メカニズムと考えられ,複数の金鉱化ステージが単一の脈内に認められる.@石英脈の形成深度が一定で潜頭性であること,A脈形成の最初期には天水の関与が少なく金に富むマグマ起源の熱水が卓越すること(Matsuhisa and Aoki, 1994)は,これらの石英脈が天水の循環する既存の裂罅に形成されたものではなく,最小圧縮主応力(σ3)を超える流体圧を持つ深部熱水が脆性破壊を誘発して形成した鉱脈群であることを強く示唆する.
5.
広域応力場の変化と鉱脈−豊羽鉱床での鉱脈方位の変化
一般に一つの鉱床区の中では,鉱脈の方位は一定方向に卓越することが多く,広域応力場を反映したものと考えられる(堀越,
1983).しかし詳しく見ると,時代や場所により微妙に鉱脈の方位が変化することがある.また一つの鉱床の中でも新旧の鉱脈による切断関係が認められることがある.このような鉱脈の方位の変化は,時代や場所による応力場や構造運動の多様性を反映した結果として生じている.圧縮応力の方位の転換が鉱脈の方位に影響を及ぼした例として,豊羽鉱床での事例を示す.
豊羽鉱床の鉱化作用は,鉱脈の切断関係から前期と後期に大別されている(阿古目ほか, 1970).前期脈は2.9-1.6Ma, 後期脈は2.7-0.5Maの熱水性セリサイトのK-Ar年代年代を示し,現在のところ前期・後期鉱化作用に明瞭な時間区分を設定することは出来ないが,大局的には前期脈は後期脈がより古い年代を示す(Sawai et al., 1989; 図11).前期には,東西,西北西−東南東,北西−南東系,および南北系の裂罅に熱水が流れており,この中でも東西系の鉱脈が最も発達している.東西系,北西−南東系の裂罅では,それぞれ右横ずれ,左横ずれの変位が認められる.後期には,西北西−東南東〜北西−南東および南北の鉱脈が形成されており,それぞれ右横ずれ,左横ずれの変位が認められる.後期鉱化作用では,前期に形成された西北西−東南東〜北西−南東の裂罅が再活動しているが,東北東−西南西〜東西系の脈の大部分には熱水は流れていない(図11).鉱脈裂罅の示す剪断の方向から,前期鉱化作用時にはN60˚W,
後期鉱化作用時にはN30˚W方向のσ1が復元される.鉱脈から復元されたσ1の方位の変化はこの地域の広域応力場の変化(渡辺, 1993)と一致することから,鮮新世後期から更新世前期に生じた広域的な圧縮応力方位の変化に伴って,豊羽鉱床では熱水の流動する裂罅系が変化したと考えられる(Watanabe and Ohta, 1995).後期鉱化作用時に前期鉱化作用時に形成された北西−南東系の鉱脈が再び鉱化作用の場となったのに対し,東西系の鉱脈の大部分が再活動しなかったのは,圧縮応力の方向と東西系の鉱脈裂罅との角度(60˚)が大きくなり,東西系の裂罅が再活動しなかったためと説明される.

図11 豊羽鉱床の前期・後期脈の平面分布とσ1の方位(Watanabe and Ohta,
1995).太線部は前期・後期にそれぞれ鉱化熱水の流れた部分を示す.矢印は剪断の方向を示す.後期鉱化作用時には東北東−西南西〜東西方向の裂罅に鉱化熱水は流れていない.
6.
まとめ
地殻内の過剰流体圧の流体が,岩石物性および応力場に対応して各種の脆性破壊を起こし鉱脈鉱床を形成するとするSibsonの一連の論文は,マグマから分離した熱水や地表水が既存の割れ目を循環して鉱脈鉱床を形成するといった古典的な熱水性鉱脈形成モデルを覆しつつある.今後の熱水性鉱脈鉱床の探査にあたっては流体の移動通路となるメッシュ構造のタイプや位置の把握が重要になるであろう.
長野県松代町で1965年に始まった松代群発地震の際には,流体の移動に伴って地殻変動が起こっている.震央部では約1mの隆起が認められたが,多量の地下水噴出により沈降に転じ,最終的には総隆起量の約30%が回復した.約70%の永久変形は流体の通路となったメッシュ構造に鉱物沈澱が起こったことによると推定されている(大竹,
1976).
南九州浅熱水性金鉱床区では,基盤岩の突起構造による高重力異常と鉱床の位置が一致することが知られている.菱刈鉱床でも,鉱床を中心として基盤の白亜紀堆積岩が突起した構造を示し(図12),この突起構造による高重力異常が鉱床発見の糸口になった.この基盤の突起構造の原因には,マグマの貫入による隆起(Ishihara et al., 1986),陥没構造の縁辺部(久保田, 1986),第四紀安山岩類堆積以前の古地形(金属鉱業事業団・住友金属鉱山, 1987)などの説があるが結論は得られていない.突起域は鉱脈の分布域と良い一致を示すだけでなく,最も突起した部分が鉱脈の高品位部に一致する(図12).この一致をマグマの貫入や陥没構造,古地形で説明することは困難である.菱刈鉱床の鉱化作用が,群発地震を伴う過流体圧熱水の移動による流体脆性破壊の結果であるとすれば,松代群発地震の際と同様の地殻変動が生じていても不思議はない.基盤岩が突起した部分の下部にメッシュ構造の存在し,その部分を流動した多量の熱水が富鉱部を形成したと考えることも可能である.もともと10ppbのオーダーの金を含んでいた熱水が100トンの金を沈澱するためには,松代群発地震の際に流出した水の約1000倍の熱水を必要とする.従って,菱刈鉱床本鉱や山神鉱床での基盤の突起量(約100m)が松代での隆起量をはるかに越えることも説明できる.このような群発地震,メッシュ構造の形成,流体の移動と鉱物の沈澱,地殻変動の関係は未だ十分解明されてはおらず,これからの実証的研究が望まれる.

図12 a. 菱刈鉱床本鉱・山神鉱の鉱脈分布と白亜紀堆積岩類と第四紀安山岩類との不整合面深度分布(m).b. 瑞泉1脈−菱泉2脈,芳泉2脈の金品位分布.実線は不整合面,点線は鉱脈下部での4g/tの品位境界線(Ibaraki and Suzuki, 1993).
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