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斑岩銅鉱床 渡辺 寧 1. はじめに 斑岩銅鉱床は地殻浅部に貫入した斑岩に関係する鉱染〜網状の銅鉱床であり,一般的に次のような特徴を持つ.1)地表下2-4 kmに貫入した角閃石や黒雲母を斑晶として含む中性−酸性貫入岩体(直径数100 m〜2 km)の頂部に形成する.2)沈み込み帯を伴う陸弧や島弧で形成される.3)貫入岩体内部及び周辺部に発達する鉱染〜網状鉱床で大きな熱水変質帯(数km3)を伴う.硫化鉱物の分布と熱水変質帯は側方に累帯構造を示す.3)Cu-MoまたはCu-Auを特徴とする金属元素の組み合わせを持つ.4)角礫パイプや角礫岩脈を伴い,時には角礫部に鉱化作用が認められる.5)浅成変質作用を受け初成鉱床上部や初成鉱床から離れた位置に二次富化鉱を形成することがある.平均的な鉱床は数百万トンの銅を含有しているが,初生鉱の平均銅品位は1-0.6%と低い.斑岩銅鉱床は,低い鉱石品位にもかかわらず多くは露天掘りで採掘されるため生産コストが安く,世界で生産される銅鉱石の50-60%を供給している.同様の規模の大きな貫入岩に関連した比較的低品位の鉱染鉱床に斑岩モリブデン,斑岩錫,斑岩金鉱床がある. 斑岩銅鉱床の開発は,米国ユタ州のBingham鉱山を端緒としている.Bingham渓谷では,1900年初頭まで約6%の銅品位の鉱脈が小規模に採掘されていた.銅硫化鉱物の浮遊選鉱技術の開発により,1904年に操業形式が変えられ,0.75-2.5%の品位の鉱石を大規模に採掘するようになった.Binghamでの成功はすぐに米国南西部やチリの斑岩銅鉱床の開発に引き継がれた.その後1970年代後半まで北米,中−南米,太平洋南西部各地で斑岩銅鉱床の開発が行われ,詳細な地質・鉱床の研究が行われた.しかしながら1980年代以降の銅価格の下落により,斑岩銅鉱床探査の意欲は一時急激に失われた. 一方で,1980年代のインドネシアやフィリピンでの高金品位巨大斑岩銅−金鉱床(Grasberg, Batu Hijau, Far Southeast)の発見は斑岩銅鉱床に新たな付加価値を与えた.また80年代後半から90年代にかけての銅の溶媒抽出選鉱技術(SXEW法)の発展とチリでの異地性酸化銅鉱体の発見(El Tesoro, Damiana)は,銅の生産コストを下げることを可能にした.さらに,ソビエト連邦の崩壊や共産圏の体制の変化に伴い,これまで余り注目されてこなかった東−中央−西アジアでの探査活動が活発化し,モンゴルでは新鉱床(Oyu Tolgoi)が発見された.このため環太平洋地域や中央アジアを中心に再び斑岩銅鉱床が注目されている.
2. 斑岩銅鉱床の時空分布と鉱床規模 斑岩銅鉱床の形成年代は,太古代後期から第四紀に至るまで幅広いが,多くの鉱床は中生代以降に形成している.太古代後期の鉱床としては,西オーストラリアの銅−モリブデン鉱床(Coppin Cap)や銅−金鉱床(Boddington),カナダ楯状地の銅−金鉱床(Clark Lake, Lac Troilus)が報告されているが,これらの銅−金鉱床はいずれも銅に乏しく規模の小さいものである(Rowins, 2000).太古代−原生代の比較的大きな規模の銅−モリブデン鉱床として,中国のTongkuangyu (2.6Mt Cu),ナミビアのHaib River (1.8 Mt Cu),インドのMalanjkhand (6.5 Mt Cu)が報告されている(図1, 表1).古生代の斑岩銅鉱床は,ウズベキスタン〜カザフスタン,カナダのアパラチア山脈,オーストラリアの東Queensland,シベリア,中国黒龍江省やモンゴル南部等の造山帯に報告されている.中生代から新生代にかけての斑岩銅鉱床は,環太平洋地域の沈み込み帯に広く分布する(図1).また西アジア(トルコ,アルメニア)から東アジア(モンゴル,中国)にかけて三畳紀以降に接合した陸塊縁辺部にも点々と分布する.
図1 世界の主要な斑岩銅鉱床の分布.●は斑岩銅鉱床を示す.各鉱床の番号は表1の鉱床の番号と同じ.
斑岩銅鉱床は,その定義にもあるように銅品位は低いが鉱床の規模が大きいことを特徴としている.例えばLowell (1974)は,平均銅品位0.1%以上の鉱石が2000万トン存在するものを斑岩銅鉱床とみなしている.世界の主要鉱床は銅量100万トン以上であり,最大規模のChuquicmataやEl Teniente(チリ)では5000万トン以上に達する.その他の銅量1000万トン以上の鉱床は,Bingham (米国)(23 Mt), Cerro Colorado (パナマ)(13 Mt), Collahuasi (26 Mt), Radomiro Tomic (23 Mt), Escondida (34 Mt), Los Pelambres (21 Mt), Andina (37 Mt), (以上チリ), Kalmakyr (ウズベキスタン)(27 Mt), Sar Cheshmeh (14 Mt), Tampakan (フィリピン)(12 Mt), Grasberg-Ertzberg (インドネシア)(28 Mt)があり,巨大鉱床はチリに集中していることがわかる(表1).
表1 主要な斑岩銅鉱床の金属量(生産量+埋蔵量)と年代
3 テクトニック・セッティング 斑岩銅鉱床はプレート沈み込みに伴う陸弧または島弧火成活動に関連して,一般に変形を受けた隆起帯の周辺に特定の時期に集中して形成される.斑岩銅鉱床は,主に1)プレートの収束速度の大きな地域,2)異地性地塊の沈み込みの起こっている地域,3)海底火山列や非地震性海嶺,海膨の沈み込んでいる地域に形成される(Watanabe, 1998). Alaska-Yucon地域やBritish Columbia地域では,沈み込む海洋プレートがファラロンプレートからクラプレートに変わることにより島弧直交方向のプレート間の収束速度が100-120mm/年から>150mm/年に増加している(図2).米国南西部からメキシコ北部にかけてもファラロンプレートと北米プレートとの収束速度は約80Maから50Maにかけて60mm/年から160mm/年に増加している.この収束速度の増加とともに,これらの地域では斑岩型鉱床の形成数が急激に増加する(図2).これらの地域ではプレートの収束速度が150mm/年前後になると斑岩型鉱床の形成が顕著になるが,中米や南米では必ずしもプレートの収束速度と斑岩型鉱床形成数とは正の相関を示さず,収束速度の小さい時期にも斑岩銅鉱床が形成している.Alaska-Yukon地域で収束速度が>200mm/年になる50Maに斑岩銅鉱床が形成されていないが,これは沈み込むスラブの傾角が小さくなり,大陸内部での火成活動が終焉したためである.
図2 陸弧直交方向のプレート間収束速度の時代別変化と斑岩型鉱床の形成頻度.
異地性地塊の沈み込みに伴う鉱床の形成は,AlaskaからBritish Columbiaにかけての地域で顕著に認められる.Alaska-Yukon地域には,北米大陸に付加した古生代〜新生代前期の異地性地塊が広く分布する.代表的な異地性地塊としてWrangellia複合地塊,Southern Margin複合地塊,Yakutat地塊が挙げられる.Wrangellia複合地塊は,幅約200 km, 長さ約2000 kmにおよぶ異地性地塊の集合体で,約100Maから74Maにかけて北米大陸に,沈み込み・衝突・付加しており,この複合地塊の沈み込み時期に起こったカルクアルカリ質深成火成活動(Omineca深成岩)に伴って斑岩金鉱床(Pebble Copper, Fort Knox),タングステン鉱床(Kalzas, Skate Creek)が形成している(図3).また新生代(<40Ma)には,Southern Margin複合地塊およびYakutat地塊の沈み込み・付加がWrangellia複合地塊の海溝側で起こっている.この時期には,先に付加したWrangellia地塊中に新たに起こった火成活動に伴い,斑岩銅鉱床(Margerie Glacier, Cork, Pyramid)や斑岩銅−金鉱床(Bee Creek, Rex),斑岩モリブデン鉱床(Mike)が形成されている(図3).漸新世以降カナダBritish Columbia州南部〜米国Washington州でもCrescent 地塊が北米大陸に沈み込み・付加している.このため大陸側のカスケード弧では,北部(カナダ−米国国境)に向かうにつれて火山活動が減衰し,噴出岩を伴わない深成岩の貫入活動に移り変わる.この貫入活動に伴い斑岩銅鉱床(Glacier Peak)が形成されている.ユーラシア大陸の斑岩銅鉱床も,大陸地塊が衝突・付加する直前の大陸縁辺部での深成火成活動に伴われている.例えばシベリア地塊とモンゴル−北中国地塊は三畳紀前期に衝突し一つの大きな地塊を形成するが,この衝突直前の240Maの深成活動に,モンゴルのErdenet斑岩銅鉱床が伴われている.
図3 アラスカ−ユーコン地域の100Ma以降の斑岩型鉱床と異地性地塊の分布.SMCT: Southern Margin複合地塊,WCT: Wrangellia複合地塊,YK: Yakutat地塊.
斑岩銅鉱床は,海底火山列や非地震性海嶺,海膨の沈み込んでいる地域にも形成される.Tehuantepec海嶺が沈み込むメキシコ南部,Cocos海嶺の沈み込むパナマ北部,西側から海嶺の沈みこむフィリピン・ルソン島などが代表例である(図4).これらの地域では,海嶺・海山列の沈み込みとともに,地殻浅部へのマグマ噴出を伴わない貫入活動が活発化し,斑岩銅鉱床が形成されている.
図4 海嶺沈み込みと斑岩銅鉱床分布.a. メキシコ南部,b. パナマ北部,c. フィリピン北部.いずれの地域でも中新世末または鮮新世以降,非地震性海嶺の沈み込みが続いており,第四紀火山の分布が途切れた位置に変動帯および斑岩銅鉱床が形成される.
斑岩銅鉱床形成に適したテクトニック・セッティングは,いくつかの要素が複合して実現されることもある.例えば白亜紀−古第三紀の米国南西部では,約65MaのFarallon海嶺の沈み込みとプレートの収束速度の上昇の2つの効果が,また中新世〜鮮新世のチリ中部では,比較的若い年代の海洋プレートの沈み込み,プレート収束速度の増加およびJuan Fernandez海嶺の沈み込みの3つの効果が重複したと推定される. このような斑岩銅鉱床が形成するテクトニック・セッティングに共通する特徴は,1)大陸または島弧に形成される火山帯の背弧側への位置の移動,2)火山帯での火成活動様式の噴出活動から貫入活動への変化および火山帯の非連続化,3)褶曲や逆断層の発達する変動帯の形成および急激な地殻の上昇,である.これらの特徴は沈み込む海洋プレートスラブの角度が小さくなることで説明される.スラブの角度の浅化は沈み込むスラブと上盤の大陸,または島弧のプレートとの結合力を増大させる.この結合力の増大は,上盤プレートの火成弧での応力場を,伸張応力場から非伸張応力場(中間または弱圧縮応力場)に変化させる.より圧縮的になった応力場は,水平面内での差応力を減少させることにより容積の大きなマグマ上昇体を形成する一方で,マグマの噴出活動を抑制し,斑岩銅鉱床形成に適したテクトニック・セッティングを実現する(Watanabe, 1998).しかし圧縮応力が強くなりすぎるとマグマの地殻浅部への貫入活動は起こらなくなり,斑岩銅鉱床も形成されなくなる.斑岩銅鉱床の形成には,マグマの地殻浅部への上昇は起こるが噴出活動は抑制される微妙な広域応力場が要求される.
4. 火成活動 斑岩銅鉱床はマグマの貫入に関連する鉱化熱水系により形成される.巨大な鉱床(>鉱石量100百万トン)は,通常比較的大きな(直径~5 km)貫入岩または複合岩体に,比較的小さな鉱床は直径1 km以下の小さな貫入岩に伴われる.斑岩銅鉱床は単一の貫入岩に伴われることもあるが,通常は複数の貫入岩により構成される複合岩体での比較的後期の貫入岩に伴われることが多い(Titley and Beane, 1981).Sillitoe (1973)は,鉱化作用に関連した貫入岩は成層火山の深部相と見なしたが,鉱化作用を伴う複合貫入岩体は必ずしも火山岩を伴わず,成層火山の存在が鉱床形成の必要条件ではない. 斑岩銅鉱床を伴うマグマ−熱水系には,様々なタイプの角礫岩が含まれる.これらの角礫岩は,マグマ熱水角礫(マグマから放出された熱水の過剰圧によるもの),熱水マグマ角礫(マグマと外来起源の熱水との相互作用によるもの),マグマ角礫(マグマの断片化と噴出によるもの)に区分される(Sillitoe, 1985).角礫の形成時期は,鉱化作用以前,鉱化作用時,または鉱化作用後と様々である.これらの角礫は岩脈状またはパイプ状の形態を持ち,規模の大きなものは直径が1 km以上に及ぶ. 斑岩銅鉱床を伴う貫入岩の化学組成は変化に富む.一般的にはカルクアルカリ系列の分化の進んだ中性から酸性の組成(石英閃緑岩−石英モンゾナイト−花崗閃緑岩)を示す(図5).米国南西部,メキシコ北部,南米の大陸縁辺部では花崗閃緑岩や石英モンゾナイトが,フィリピンやカリブ海等の島弧では,低カリウムの石英閃緑岩が一般的である.島弧ではそのほかに花崗閃緑岩,石英モンゾナイトや閃長岩も認められるが,大陸縁辺部のものと比較すると,カリウムに富む島弧の貫入岩はアルカリ長石班晶を含まない(Kesler et al., 1975).カナダの先異地性地塊付加期(>100Ma)の鉱床やアルゼンチンのフラットスラブ地域に形成された斑岩銅鉱床は,石英に乏しいアルカリ系列の閃緑岩−モンゾナイト−閃長岩貫入岩に伴われものも存在する.斑岩銅鉱床に関係する貫入岩は多量の磁鉄鉱やスフェーンを伴い,磁鉄鉱系列の花崗岩類に属する(Ishihara, 1981).Iタイプ,チタン鉄鉱系列のモンゾナイトや閃長岩,花崗岩にも斑岩銅金鉱床が伴われることがあるが,これらはいずれも規模が小さい(Rowins, 2000).斑岩銅鉱化作用に関連した貫入岩は,上部での非顕晶質の石基を伴う斑状組織から深部での等粒状組織まで組織の多様性を持つが,普通,斑状組織の部分が鉱化作用にとって最も重要である.
図5 斑岩銅鉱床に関係した火成岩のモード組成(Misra, 2000).
斑岩銅鉱床を伴う貫入岩の87Sr/86Sr初生値には大きな多様性があり,島弧の鉱床では0.705より小さく陸弧では0.704-0.710と大きい(Titley and Beane, 1981).このことから島弧での斑岩銅鉱床に伴うマグマは,上部マントルまたは海洋地殻起源であり,陸弧でのマグマは上部マントル物質と大陸地殻や沈み込んだ堆積物との混合物が起源であると推定される.しかしながら,陸弧・島弧のいずれの斑岩銅鉱床地帯にも多くの鉱化作用を伴わない貫入岩が存在し,これらは鉱床を伴う貫入岩と岩石学的特徴や87Sr/86Sr初生値の点で区別がつかない.このことはマグマ供給場の違いが鉱床の生成に直接関与しないことを示している. チリでは,火成岩のストロンチウム同位体組成やLa/Yb比が急激に増加する時期に斑岩銅鉱化作用が生じている(図6).このような化学組成の変化は,地殻の厚化またはマグマと地殻物質の混合による(Kay and Abbruzzi, 1996).米国南西部でも,REEパターンの系統的変化から,斑岩銅鉱床形成期に近づくにつれ地殻物質とマグマとの混合作用が活発化したことが明らかにされている(Lang and Titley, 1998).これらの現象は,斑岩銅鉱床形成期に地殻に働いた応力が強まったためと説明される.
図6 斑岩銅鉱床形成場での時代による火成岩の化学組成変化.a. チリ中部(南緯32-34˚)での火山フロント付近での火成岩のストロンチウム同位体組成の変化(Stern and Skewes, 1995).斑岩銅鉱床を伴う貫入岩の値は黒印,それ以外は白抜印で示す.b. チリ北部マリクンガ地域での火成岩のLa/Yb値の変化(Mpodozis et al., 1995).
5. 鉱化作用と変質作用 斑岩銅鉱化作用では,関係貫入岩の体積よりもはるかに大きな規模の熱水系が形成され,複雑な鉱化,変質作用の過程を持つ.初生の熱水変質帯は,鉱物組み合わせにより,カリウム(potassic, またはK silicate)変質,フィリック(phyllic, またはsericitic)変質,プロピライト(propylitic)変質,酸性(advanced argillic)変質に大別される(表2).カリウム変質帯は貫入岩を中心とする熱水系の中心部を占め,その外側にはプロピライト変質帯が広がる.フィリック変質帯は,熱水系の中央上部に位置し,カリウム変質帯,プロピライト変質帯に重複する.フィリック変質帯の中心部には紅柱石が認められることもある.フィリック変質帯の上部にはパイロフィライトが伴われる.酸性変質帯はフィリック変質帯の上部または側方に形成される(図7).粘土化変質帯は浅成変質の結果広範囲にわたり形成される.
表2 斑岩銅鉱床の主要な熱水変質タイプ
図7 斑岩銅鉱床における模式的変質帯分布 (Sillitoe, 1995を改変).
カリウム変質やフィリック変質には,岩石全体,または特定の鉱物を置換する浸透変質と細脈に沿って生じる局所変質の2種類が認められる.これらの浸透変質,局所変質の検討により,斑岩銅鉱床の変質作用はいくつかのステージに区分される. Gustafson and Hunt (1975)およびGustafson and Quiroga (1995)は,El Salvador鉱床での研究に基づき,細脈の形成時期を前期(EB, A),漸移期(B, C),後期(D)に大分している(表3).前期はカリウム変質期,後期はフィリック変質期に相当する.
表3 El Salvador鉱床での脈タイプ
斑岩銅鉱床の初生鉱化作用は貫入岩と母岩のいずれにも認められる.鉱石鉱物が岩株状の裂罅中に細脈として沈殿,または貫入岩や母岩に鉱染することにより鉱石を形成する.主要な鉱石鉱物は黄銅鉱で,少量の斑銅鉱を含む.初生の輝銅鉱や銅藍が産出することもあるが,これらの多くは浅成変質の際に形成される.その他に砒四面銅鉱,四面銅鉱,輝水鉛鉱,硫砒銅鉱が含まれる.黄鉄鉱は最も豊富で広い範囲に分布し,磁鉄鉱,赤鉄鉱も認められる.初生鉱化作用には,斑岩を中心に数100 mから数kmにおよぶ同心円状の累帯構造が認められる.中心部は一般に低品位の核があり,外側に向かって斑銅鉱−黄銅鉱帯,黄銅鉱−黄鉄鉱帯,黄鉄鉱帯が同心円状に形成される(図8).銅鉱化作用は主としてカリウム変質帯全体に認められるが,黄銅鉱の沈殿時期は,カリウム変質帯(例えばEl Salvador; Gustafson and Hunt, 1975)からフィリック変質帯の形成時期(Far Southeast; Hedenquist et al., 1998)まで鉱床により多様性が認められる.斑岩銅鉱床の一部は,米国西部のBinghamやButte鉱床のように周辺部に鉱脈状の銅−鉛−亜鉛鉱床を伴う.またフィリピンのFar Southeast鉱床のように,同一の熱水系により上部に高硫化系浅熱水性金鉱床(Lepanto)を伴うこともある.
図8 El Salvador鉱床での硫化鉱物累帯と変質類帯(Gustafson and Hunt, 1975).X, K斑岩は銅鉱化作用をもたらした貫入岩,L斑岩は銅鉱化作用後に貫入し,鉱化作用中心部を破壊したと説明されている. マグマの貫入から鉱化作用の終了までの期間は,Far Southeast鉱床(フィリピン)では30万年以内(Arribas et al., 1995),Potrerillos鉱床(チリ)では23万年以内(Marsh et al., 1997),Batu Hijauでは16万年以内(Garwin, 2002)と,20-30万年以内であると見積もられている.
6. 鉱床形成モデル 斑岩銅鉱化作用は結晶しているマグマから放出される流体に伴って形成される.マグマ−熱水系のモデリングによると,平均的な斑岩銅鉱床を形成するには,関係火成岩である斑岩のみでは鉱床形成のために十分な金属や熱水の量を供給することはできず,最低でも数10km3のマグマが必要である(Cline and Bodnar, 1991).このようなマグマは,地下数kmにおいてマグマ溜まりを形成し,対流を起こしながら冷却し結晶化する.結晶化の初期にマグマから放出される流体は温度の低下と共に低塩濃度の蒸気と高塩濃度水に分離する.高塩濃度水はマグマ溜まりから地表下2-4 kmにまで伸びる斑岩の頂部でカリウム変質帯を形成し,蒸気はさらに上方で酸性変質帯を形成する.高塩濃度の熱水はマグマ中の金属元素を溶かし込み,温度の低下と共に金属元素を硫化鉱物として沈殿する.マグマの結晶化が進むにつれて対流が止まり,低塩濃度の熱水が放出されることにより,後期のフィリック変質が形成される(Shinohara and Hedenquist, 1997). 実際の斑岩銅鉱床では,鉱化作用の途中に新たな斑岩が貫入したり,角礫パイプが形成したりしてもう少し複雑である.El Salvador鉱床では,初期の高塩濃度水によるカリウム変質帯および鉱石鉱物の沈殿(A脈の形成)の後に,鉱床の中央部に新たなマグマ(L斑岩)が貫入することにより,初期の鉱化帯の中央に貧鉱化帯が形成されたと考えられている(Gustafson and Hunt, 1975; 図9).その後にフィリック変質作用とB, C, D脈が形成され,最後にL斑岩を中心とする放射状の熱水角礫岩が形成される.熱水角礫岩には酸性変質が伴われる.
図9 El Salvador鉱床の模式的形成モデル図(Gustafson and Hunt, 1975を改変).a. X, K斑岩の貫入.b. X, K斑岩から分別したマグマ水によりもたらされた熱水変質帯および初期鉱化帯.c. L斑岩の貫入と後期鉱化作用.フィリック変質にはほとんど天水の寄与は認められない.d. 最後期の熱水角礫岩および酸性変質帯.マグマから放出された蒸気が天水と混合することにより形成(Watanabe and Hedenquist, 2001).
斑岩銅鉱床のカリウム変質,フィリック変質をもたらした熱水の起源は酸素・水素同位体組成により推定される(図10).一般に初期の高温のカリウム変質は"マグマ水"(マグマと同位体平衡状態にあった水)に卓越し,後期のより低温のフィリック変質には循環する天水の寄与が認められる(Sheppard and Taylor, 1974).このフィリック変質をもたらした熱水には多様性が認められる.El SalvadorやEl Teniente,その他のチリの斑岩銅鉱床,フィリピンのFar Southeast鉱床に伴われるフィリック変質をもたらした熱水は極めて狭い範囲の水素同位体組成(-40+/-10‰)を示す.同様にEly, Bingham, Santa Ritaのフィリック変質をもたらした熱水の組成も狭い範囲の水素同位体組成を示すが,先のグループのものと比べると10‰程度低い.YeringtonやBritish Columbiaの鉱床は一つの鉱床中でも50‰以上の大きな水素同位体組成範囲を示す.これらの多様性の原因はマグマと流体との間の同位体分別が生じた際に,その系が閉鎖系であったか開放系であったかの違いによると説明される(Taylor, 1988).閉鎖系では水素同位体組成の分別は小さく開放系では大きい.従って,El Salvador鉱床他のフィリック変質帯は閉鎖系で,YeringtonやBritish Columbiaのそれは開放系で生じたと考えられる. もし高度に脱ガスした後のマグマから流体が分別すると,Butteのように大きく枯渇し,なおかつ均質な水素同位体組成を持つことが期待される(Hedenquist and Richards, 1998).フィリック変質をもたらした熱水にも少なくとも75%以上の"マグマ水"成分が認められ,Yerington鉱床のフィリック変質のように天水が卓越するケースはまれである.
図10 斑岩銅鉱床のカリウム変質,フィリック変質をもたらした熱水の酸素・水素同位体組成図(Hedenquist and Richards, 1998).灰色四角領域は"マグマ水"を示す.カリウム変質をもたらした熱水の組成は黒線域,フィリック変質をもたらした熱水の組成は斜線部で示す.B: Gingham, BC:
このような酸素・水素同位体組成の最近の研究は,地殻浅部に貫入したマグマの熱が大きな天水循環系を形成し,この循環系がマグマの冷却と共に貫入岩の中心部をも取り込み,斑岩から供給された金属元素を斑岩の縁辺部で沈殿したとするTaylor (1974)のモデルが成立しないことを示している.
7. 二次富化作用 ほとんどすべての初生斑岩銅鉱床は浅成変質と二次富化帯に覆われている.極端な場合には,経済的に採掘可能な鉱石(平均銅品位1.0-1.5%)はほとんどすべて浅成変質帯に含まれる.二次富化鉱に共通する性質はその形態であり,水平的に広くブランケット状に発達する(図11).厚さは著しい場合には200 mに達する.地下水面より上位の酸化帯からの金属の溶脱は硫化鉱物−主に初生黄鉄鉱−の酸化による硫酸酸性水による.酸化帯に残された金属は酸化物,水酸化物,炭酸塩,硫酸塩または珪酸塩として沈殿する.酸化帯に特徴的な鉄・銅鉱物は,赤鉄鉱,針鉄鉱,ジャロサイト[K2Fe6(SO4)4(OH)12],赤銅鉱(Cu2O),アントレライト[Cu3(SO4)(OH)4],ブロシャン銅鉱[Cu4(SO4)(OH)6],胆礬(CuSO4·5H2O),孔雀石[Cu2(OH)2(CO3)],藍銅藍[Cu3(OH)2(CO3)2],珪孔雀石(CuSiO3·2H2O)等である(Anderson, 1982).溶脱した金属イオンは地下水面下部の還元的環境に達すると輝銅鉱や銅藍として沈殿し,浅成硫化物富化帯を形成する.地下水面の変動に対応して,酸化,溶脱,富化のサイクルは繰り返され,富化帯の銅含有量は高められ,初生硫化物はほとんどすべて輝銅鉱に置換される.この輝銅鉱の層は,その後の酸化を受けることにより溶脱・富化帯の上部に酸化鉱を形成する(図11).
図11 Radomiro Tomic鉱床(チリ)の東西断面図(Cuadra and Rojas, 2001).上部酸化鉱はアタカマイト(40%),含銅粘土(31%),珪孔雀石(19%),銅マンガン土(7%)から,下部酸化鉱はアタカマイト(70%),含銅粘土(10%),珪孔雀石(16%),銅マンガン土(1%)からなる.これらの酸化鉱は,先に存在した二次富化鉱がその場で酸化して形成されたと考えられ,上部酸化鉱は銅に富む流体が側方から流入し,含銅粘土,珪孔雀石,銅マンガン土を沈殿することによりさらに品位が高くなったと考えられる.
異地性鉱床(Exotic deposit)は,初生鉱体から溶脱した金属イオンが鉱体周辺での地下水の動水勾配に従って鉱体から離れた場所に銅酸化物として沈殿することにより形成される鉱床をいう.El Salvador鉱床では,透水性の高い後鉱化作用の粗面岩の貫入部を中心に金属元素を溶脱した酸性の地下水が,アタカマ礫層に覆われた地下水の流路に沿って流れ出し,基盤の安山岩類との反応により酸性水が中和されたところで金属イオンが沈殿している.異地性鉱体(Damiana, Quebrada Turquesa)は,銅の起源である初生鉱の位置するインディオムエルト地域から主として2方向に8 kmにわたって分布している(図12).これらの鉱床では,基盤の安山岩類の裂罅とその上部の河川礫層下部5-20 mが含銅マンガン土により膏結されている.これらの異地性鉱体はほとんどが含銅マンガン土からなり,少量の珪孔雀石,トルコ石,孔雀石を伴う.Damiana及びQuebrada Turquesa鉱体ではそれぞれ1.8Mtと0.4Mtの銅鉱量が見積もられている. 二次富化作用を規制する重要な要因は初生の黄鉄鉱の量,二次富化作用の継続時間,および気候である.異地性鉱体を含む二次富化鉱は南米等の半乾燥地域に最も著しく発達する.二次富化鉱は,初生鉱床生成以降の天水の循環により形成されるが,二次富化鉱体保存のためには鉱体形成後,気候が乾燥化することにより天水の流入が途絶え,地層の削剥量が小さくなることが必要である(Alpers and Brimhall, 1988).チリ北部では40Ma以降始新世−漸新世境界,漸新世−中新世境界と中新世中期の3度にわたって気候が乾燥化したことが推定されており,El Salvador地域ではそれぞれの時期に二次富化鉱が形成されている.この地域では,気候が極端に乾燥化した中新世以降には二次富化鉱の形成は行われていない(図13).
図12 El Salvador地域の初生鉱体と異地性鉱体の位置図(Mote et al., 2001b).a. 平面図,b. 断面図.断面線(A-B)は図aに示す.
図13 El Salvador地域およびチリ北部での異地性鉱体を含む二次富化鉱の形成年代確率分布(Mote et al., 2001a). 8. 起源物質 斑岩銅鉱床の硫黄や金属元素の起源は各種の同位体組成をもとに議論されている. 斑岩銅鉱床をもたらしたマグマの持つ硫黄同位体組成は,鉱床中の硫化物と硫酸塩の同位体組成や(Ohmoto and Rye, 1979),火成岩の全岩硫黄同位体組成(Sasaki et al., 1984)よりマグマ起源の硫黄が卓越すると考えられている.斑岩銅鉱床の鉛の同位体組成の検討によると,1)鉱床への上部地殻物質の混合はほとんど無いこと,2)鉱石鉛同位体組成は関係火成岩のものと同一であること,3)鉛同位体組成は一つの地域内では極めて均質であること,の特徴を持つ.これらの特徴は下部地殻の溶融前に鉛同位体組成の均質化が広範囲にわたって行われていることを示す(McCulloch and Woodhead, 1993).Re-Os同位体組成によると,チリのAndacollo, El Teniente鉱床のOs同位体組成は鉱床内では均質であり,non-radiogeneticであることから,1)Os(およびCu)は地域的な上部地殻を構成する岩石起源ではなくマントル起源のマグマからもたらされたと推定されている(Freydier et al., 1997).これらの結果はいずれも銅の起源がマントルであることを示唆している.
9. まとめ 世界の銅生産量の半分以上を担う斑岩銅鉱床は,沈み込み帯を伴う火成弧において,非伸張応力場の下で地殻浅所に貫入したバソリス−斑岩の頂部に形成される鉱染〜網状の銅鉱床である.斑岩銅鉱床を伴う貫入岩はカルクアルカリ系列,磁鉄鉱系列の中性−酸性の化学組成を持ち,鉱床を形成する熱水・金属元素の大部分はマントルを起源物質とするマグマからもたらされる. 斑岩銅鉱床の鉱化・変質形態は,斑岩を中心とした鉱化−変質累帯構造が顕著であるなど類似しているものの,マグマの化学組成,酸性変質の形成時期,マグマからの熱水の分別様式(閉鎖系・開放系),熱水のマグマ−天水比,金属元素の沈殿時期,構成金属元素比(Cu/Mo/Au)および金属量等に多様性が認められる.これらの多様性が何に起因するのか,どのような相互関係があるのか,金属元素の起源はどこに求められるのか等,今後の研究課題はつきない.
10. 参考文献
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