金の国アスティラ

Astyra, the other gold country

渡辺 寧

WATANABE Yasushi

地質ニュース2002年12月号

1.はじめに

マルコポーロの東方見聞録に遡ること数千年,ジパング以外にも金の国と呼ばれた国が存在した.アスティラ(Astyra, 現トルコ共和国の一部)である.アスティラの中心地トロイ(写真1)は紀元前30世紀に始まる青銅器時代に建設されたエーゲ海沿岸の都市である.ドイツ人シュリーマンにより発掘されたこの古代都市は,紀元前2500年~2000年頃にエーゲ海交易の中心地として最も栄えたが,紀元前1200年頃のトロイ戦争により都市は滅亡への道をたどる.トロイの木馬の話でも有名である.この都市の繁栄を支えたのは,金や銅を主とするアスティラの豊富な金属鉱物資源である.トロイの伝説的な王プリアムの膨大な富はこの地域で生産された金によるもので,イヤリング,腕輪,首飾りを始めとする数々の金製品(口絵1-2)が発見されている.

写真1 トロイ遺跡.

 

このアスティラの金属鉱物資源ポテンシャルを再び見直す動きが1990年から始まっている.浅熱水性金鉱床をターゲットとした民間鉱山会社の探査活動が活発化し,フランスの地質調査所に相当するBRGMを中心とするヨーロッパの研究グループがGIS(地理情報システム)を用いた鉱床データベースの作成を実施している.わが国もトルコ政府の要請をうけて1960年代からトルコ鉱物資源調査開発総局(MTA)との間で国際協力事業団を通して資源開発調査や人材派遣を行ってきた.

なぜアスティラが鉱物資源の宝庫となったのか?資源探査と並行してこの疑問を地質学の点から明らかにしようとする試みも始まっている.産業技術総合研究所地圏資源環境研究部門では2001年から2004年度にかけてMTAと共同で「西部トルコ地域における地質−地球化学モデリング」と題する共同研究プロジェクトを実施している.このプロジェクトの最終目標はトルコ西部における鉱物資源探査・評価技術の向上であり,そのためにこの地域の鉱化作用の実態を解明しようとするものである.私は2002年6月24日から7月25日までこのプロジェクトを実施するためにMTA(写真2)に滞在した.ここではアスティラを含む北西アナトリア地方の地質と鉱物資源の紹介を行い,アスティラが鉱物資源の宝庫となった原因を探ってみる.

写真2 アンカラにあるトルコ鉱物資源調査開発総局入り口.アンカラでは有名で,ほとんどのタクシーの運転手は場所を知っている.

2.北西アナトリア地方の古代金・銅鉱山−古代人恐るべし

 北西アナトリア地方では,いくつかの金鉱床が青銅器時代から開発されていた(第1図).この地図をみて驚くのは,これらの鉱床が現在開発中,または探鉱中の鉱床と見事に一致するからである.また他の多くの地域に見られるように砂金を採取したのではなく,浅熱水性の鉱脈を開発しているからである(写真3).探査指針の一つに「古代人の採掘跡は徹底的に探査せよ」というのがあるぐらいなので,現代人は鉱床探査に関してほとんど進歩していないのかもしれない.

第1図 青銅器文明時代の北西アナトリアの国名と金鉱山の分布.トロイ(Toroya)を中心とする地域が範囲がアスティラと呼ばれていた.

 

写真3 Söğüt金鉱床.石灰岩塊中の剪断帯に沿って古代人が金を採掘した跡.トルコ鉱物資源調査開発総局が2002年に試錐を実施しており,古代人を上回る成果を挙げることが出来るかが問われている.

熱水変質帯をたよりに鉱徴地にたどり着くと,かつてアスティラ人が鉱石を採掘していた坑道跡や,金や銅を分別した選鉱・精錬所跡に遭遇することがある.金鉱床に良く見られるのは,平板な石に直径20cm程度の溝を掘ったチャンネル石(写真4)である.このチャンネル石は側方に数多く並べられ金粒の重力選鉱に用いられたらしい.

写真4 Kartaldag鉱床のチャンネル石とその復元図.金の重力選鉱に使われた.

これ以外にも鉱石の粉砕に用いられた石臼や石水桶(写真5)等が認められる.銅は主として花崗岩周辺のスカルン鉱床から採取されていた.鉱床周辺では鉱滓が広がり銅を精錬したことが伺える.面白いことにスカルン鉱床に伴う磁鉄鉱は採掘の対象とはならなかった様で(写真6),中東部アナトリアに繁栄したヒッタイト人が見れば驚くかもしれない.アスティラ人の掘り残した磁鉄鉱は現在,露天掘りで採掘されている.品位の低い斑岩銅鉱床に手をつけていない.

写真5 アスティラ時代に作られた石水桶.現在でも水場で使用されている.

 

 

写真6 始新世Kozak花崗閃緑岩に伴うAyazmantスカルン鉱床.中央部の土砂はアスティラ人が銅の鉱染帯を採掘した跡.両側の黒色部は磁鉄鉱帯,さらにその外側には柘榴石帯が広がる.

 

3.トルコの中生代−新生代テクトニクス

北西アナトリア地域は複雑な地質構造発達史を持つ構造帯で,複数のステージの引張・短縮テクトニクスを経験している.元来トルコは二畳紀~ジュラ紀前期には古テチス海の北側からの沈み込みの場であったが,三畳紀前期にはトルコを南北に2分する縁海(Karakaya海)が形成した.このKarakaya海はジュラ紀最初期には閉じた.三畳紀後期に現在の地中海の東延長部が拡大し,新テチス海を形成した.ジュラ紀中期には古テチス海が閉じる一方,新テチス海は白亜紀前期に最も範囲が広がった.白亜紀中期~後期には現在の黒海に相当する地域で縁海の拡大が生じた(第2図a).白亜紀後期には新テチス海の範囲は狭まり,アラビアプレートの衝突により,トルコ全土にわたりオフィオライトの付加が起こった.トルコ西部では白亜紀後期に新テチス海を境として北のPontidesと南のAnatolide-Tauridesの二つの陸塊が存在したが,Campanian最末期(78Ma)のPontidesでの火成活動の終了後,Anatolide-TauridesがPontidesに潜り込む陸塊の衝突が起こった.この衝突は火成活動の終了後やや時間間隙をおいて暁新世(65Ma)から開始している(Okay et al., 2001).白亜紀最末期から始新世中期にかけて,沈み込み帯背後で縁海が再び拡大する一方で,陸塊同士の衝突も起こり(第2図b),始新世後期には縁海は閉じ,最終的にアラビア地塊が東部トルコにおいてユーラシアプレートに衝突した(Şengör and Yilmaz, 1981; 第2図c, d).

第2図 トルコの中生代−新生代テクトニクス概略(Şengör and Yilmaz; 1981).a. 白亜紀後期−暁新世.b. 始新世中期.c. 始新世後期−中新世前期.d. 鮮新世−第四紀.

アラビア地塊の東部トルコでの衝突の結果,東部アナトリアでは中新世中期−後期にかけて地殻の厚化と短縮が生じ,アナトリア地塊は横ずれ断層を伴って西に15mm/年の速度で相対的に移動した.このアナトリア地塊の運動方向は,西に向かうにつれ,西方から南西方に方向を変え,南北方向の引張を北西アナトリアにもたらした.そのため,西アナトリアでは,東西または北東−南西,西北西−東南東方向の正断層が活動し,中新世後期以降に数多くの地溝が形成されている(Gürer et al., 2001; Alıcı et al., 2002; 第2図d; 写真7).

写真7 Kozak地塁(手前)とBiga半島(対岸)との間に広がるEdremit地溝.中央はエドレミット市街.

これらの地溝の内部または近傍では中新世から第四紀にかけて,単成火山群を構成する玄武岩と流紋岩からなるバイモーダル火山活動が生じている(写真8).北西アナトリアではバイモーダル火山活動が中新世後期から開始し,南西アナトリアではアルカリ玄武岩からなる活動が鮮新世−第四紀に生じている.このアルカリ玄武岩は主要・微量元素組成およびPb, Nd, Sr同位体組成から海洋島玄武岩様の組成を持つアセノスフェアがマグマの主要な起源と考えられており,中新世前期までのカルクアルカリ質の弧火山活動とは性格を大きく異にしている(Alıcı et al., 2002; 第1表).

写真8 流紋岩の単成火山を改変して作られた古代の城砦.

第1表 北西アナトリアに分布する火山深成複合岩体のマグマ系列と時代(Yılmaz, 1990)

位置

岩体名

漸新世

中新世前期

中新世後期

鮮新世前期

鮮新世後期

第四紀

a

Chanakkale-

Bayramic

 

CA

A

A

 

b

Biga

 

 

CA

?

A

 

c

Gönen

 

 

CA

 

?

A

 

d

Susurluk

 

 

CA

CA

?

A

 

e

Ezine

 

 

 

(10.2)

 

A

 

f

Gülpinar

 

 

CA (21.5)

(16.0)

 

 

 

g

Ayvacik

 

 

(17.0)

CA

 

 

 

h

Edremit

 

CA?

CA

 

 

 

i

Balikesir-

Bigadiç

CA

(13.0)

?

A

j

Ayvalik

 

CA (23.6-)

 

A

 

 

k

Bergama

 

 

CA (18.5-)

CA

A

 

l

Dikili-

Çandarli

 

CA (19.0-

15.7)

A

 

m

Menemen-

Foça-Izmir

 

CA (21.5-

16.5)    A

 

 

 

CA:カルクアルカリ系列,A:アルカリ系列,( )内の数字は放射年代値.

各火山深成複合岩体の位置は第4図に示す.

4.北西アナトリア地域の地質

4.1.基盤岩類

北西アナトリア地域の基盤岩は,北からSakarya帯,Izmir-Ankara接合帯,Menderes-Taurius地塊に区分される(第3図).Sakarya帯はPontides大陸の南側に位置する小さな大陸地塊であり,北部および南部の境界はオフィオライト帯が取り巻く.Izmir-Ankara接合帯はSakarya地塊とTaurius地塊の間に取り残された新テチス海のオフィオライトである.Menderes地塊はゴンドワナ大陸の北縁部の変成岩からなる.これらの基盤岩類を覆いこの地域には漸新世以降の陸成堆積物と火成岩類が分布する.

第3図 北西アナトリア地域の基盤テクトニック図(Bozkurt and Oberhänsli, 2001).

Sakarya帯の基盤岩類はUludağ累層とYenişehir累層の二つの変成作用を受けた地層からなる.Uludağ累層は片岩,片麻岩,角閃岩とミグマタイトからなり,石炭紀花崗岩類の貫入を受けている.これらの岩石は不整合でアルコース砂岩(Cambazkaya層),浅海性二畳紀石灰岩(Derbent石灰岩),浅海〜深海性三畳紀石灰岩および砕屑岩(Karakaya層)に覆われる.Yenişehir累層はオフィオライトと火山・砕屑岩からなり,これらは三畳紀後期に含藍閃石緑色片岩相の変成作用を受けている.これら二つの変成岩からなる累層はジュラ紀前期〜白亜紀後期の河川,浅海,深海成の海進堆積物に覆われる(Elmas and Yiğitbaş, 2001).Sakarya帯西部のBiga半島の基盤岩類は三畳紀以前の時代の石英−雲母片岩で特徴づけられる.このユニットは石灰質片岩,大理石,変珪岩,曹長石−緑泥石片岩,蛇紋岩を含む.上部は再結晶した石灰岩と頁岩との互層,浅海性石灰岩および変砂岩泥岩互層からなる.これらの岩石は三畳紀から暁新世中期のブロックを含むオフィオライトメランジェに覆われる.これら付加帯の構造の形成時期は角閃岩の変成年代から前期白亜紀と考えられている.

Izmir-Ankara帯は変成を受けた,または非変成のオフィオライトメランジェからなり,橄欖岩のナッペを含む.北のSakaryaと南のMenderes-Taurius地塊との間の海洋地殻の断片とされる.この帯は30-100kmの幅をもつが,西に向かうほど幅が狭くなり,北西アナトリアでは1本の断層帯となる.

Menderes-Taurius地塊はいくつかのテクトニックユニットが逆断層で接合している(第3図).これらのユニットには藍閃石片岩からなるTavşanlı帯,巨大な中生代の石灰岩ブロックを含むマストリヒト期〜暁新世のグレーワッケ質砂岩からなるBornovaフリッシュ帯,緑色片岩相の変成作用を蒙った古生代−中生代堆積岩類からなるAfyon帯,先カンブリア紀の片麻岩および緑色片岩相−角閃岩相の変成作用を蒙った古生代−暁新世堆積岩類からなるMenderes地塊,中生代堆積岩類と橄欖岩スラスト層からなり始新世後期から中新世前期の間に定置したLycianナッペが含まれる.

Biga半島Kazdağ山地の片麻岩・角閃岩の変成作用は中新世前期に深成岩の貫入と共に起こり,約24Maに地下約14kmから7kmまで上昇したことが明らかにされている(Okay and Satir, 2000).また中新世前期には始新世に変成作用を受けたMenderes地塊中にナッペ構造が形成されている(Güngör and Erdoğan, 2001).これらのことは始新世−中新世前期に形成された高圧変成岩類は中新世前期に急激に上昇したことを示す(Bozkurt and Oberhänsli, 2001).但しこの上昇運動は,短縮テクトニクスによるもの(Yılmaz, 1990)と伸張テクトニクスによるもの(Seyitoğlu and Scott, 1996; Okay and Satir, 2000)の異なる説明が与えられている.

4.2. 新期火山・堆積岩類 

 西部アナトリアでは漸新世後期から中新世前期に新生代の火山岩類,堆積岩類が広く上記の基盤岩類を覆う(第4図).新期堆積岩類は上下2つのユニットに区分される.下部ユニットは漸新世後期から中新世前期に大陸性の広い湖堆積盆に堆積した石灰岩・マール・シルト岩である.上部ユニットは下部ユニットを高角の不整合で覆い,地溝を中心に堆積している.上部ユニットを構成する岩石は下部ユニットのものより粗粒で,砂岩・礫岩および空隙の覆い湖成石灰岩からなる.局所的に上部ユニットを覆うさらに新規の堆積物が認められるが,これらはBayramiç地溝のような細く深い地溝中に限定される.

第4図 北西アナトリア地域の新生代深成岩類,火山岩類と熱水性金属鉱床の分布(Engin et al., 2000).アルファベットは第1表に示す火山深成複合岩体の位置を示す.鉱床につけられた数字は第2表の鉱床の番号と同じ.

北西アナトリアの新生代の火成活動は前期中新世のカルクアルカリ系列の中性−酸性マグマの活動と,中新世後期以降のアルカリ玄武岩と流紋岩とのバイモーダル火山活動に区分される(Yılmaz, 1990; 第1表).この両者の火山岩類は不整合関係にある.中新世前期の火山岩には直径10-20 kmの花崗閃緑岩を主とする深成岩類が伴われ火山−深成複合体を形成し,Sr同位体比が高く(0.705-0.709),地殻物質の混入が顕著である(Karacık and Yılmaz, 1998; Can Genç, 1998; Altunkaynak and Yılmaz, 1998).一方,中新世後期に属するアルカリ玄武岩は一般に単成火山群を形成し,低いSr同位体比(<0.704)で特徴づけられ,アセノスフェアマントル起源のマグマを主体としたものに地殻起源の流体が加わり,組成がやや改変したものと考えられている(Tankut et al., 1998).

5.北西アナトリア地域の金属鉱物資源

 北西アナトリア地域の金属鉱床はほぼ新第三紀の火成岩の分布と良い一致を示す(第4図).この地域には主として8種類の金属鉱床が分布する(第2表).

第2表 北西アナトリアに分布する主要な鉱床タイプ

鉱床タイプ
形成時期
関係火成岩
関係
テクトニクス
代表例(鉱量・品位)
 
リスウェナイト金鉱床
不明
超塩基性岩
 
Dombaycilar (探鉱中)(1)
剪断帯胚胎
金鉱床
始新世後期−
中新世前期?
不明
ナッペ?
Papazlik (不明)(2)
スカルン
鉄−銅鉱床
始新世後期−
中新世前期
花崗岩,花崗閃緑岩
 
Samli (3.63Mt: Fe 55%)(3)
Liica (探鉱中)(4)
Atizi(不明)(5)
Ayazmant (6.7Mt: Fe 51 %)(6)
Balya (13.5Mt: Zn 4.5%, Pb 2.6%, Ag 58g/t)
斑岩銅−モリブデン−金鉱床
白亜紀後期−
暁新世,
始新世後期−
中新世前期
花崗岩,花崗閃緑岩斑岩
短縮
Tepeoba (探鉱中)(7)
Kisladag (74Mt: Au 1.4g/t)
Muratdere (探鉱中)
Domaniç (不明)
Tupekaikonagi (不明)
石灰岩胚胎
金鉱床
不明
花崗岩?
横ずれ剪断?
Söğüt (探鉱中)
浅熱水性金鉱床
始新世後期−
鮮新世
安山岩,
デイサイト,流紋岩
低硫化系:
伸張(陸上)
Ovacık
(29t: Au 9.6g/t, Ag 11.0g/t)(8)
Ivrindi (0.44Mt: Sb 6%, 0.97Mt: kaolinite)(9)
Küçükdere
(1.5Mt: Au 5.0g/t, Ag 11.8g/t)(10)
Kubaşlar (探鉱中)(11)
Madengağ (0.02Mt: Au 5.8g/t)(12)
Kartaldağ (0.05Mt: Au 5.2g/t)(13)
Şahinli (2.8Mt: Au 5.8g/t)(14)
Beyköy (2.8Mt: Au 1.1g/t)(15)
Arapdağ (1.7Mt: Au 1.3g/t)
Sülüklügöl (1.0Mt: Au 0.4g/t) Kaymaz (1.0Mt: Au 6.0g/t)
Efemçukuru (2.5Mt: Au 13.7g/t)
Gümüşköy (25.7Mt: Ag 180g/t)
角礫岩胚胎バライト−鉛−亜鉛鉱床
始新世後期−
鮮新世
安山岩,デイサイト,流紋岩
伸張(海底)
Korudere
(0.5Mt: Pb 8%, Zn 2% Ag 300g/t, 9.4Mt: BaSO4 31%)(16)
Yalakkayor (探鉱中)(17)
堆積性鉄鉱床
始新世後期−
第四紀
安山岩
 
Eymir (11.0Mt: Fe 47%)(18)
Kuşçayırı (0.37Mt: Fe 40%)

鉱床の番号は第4図と同じ.無番号は第4図に含まれない.

 リスウェナイトは日本人になじみのない岩石で,熱水変質により炭酸塩化,珪化した超塩基性岩のことを指す.形成時期や熱水の起源等は不明であるが,剪断帯の形成に関連しているらしい.Biga半島南西端のDombaycilar鉱徴地(第4図)では,剪断帯に沿って幅数10mにわたって蛇紋岩がリスウェナイト化している.ここではアンケライト,菱鉄鉱が多量に形成されており,クロム鉄鉱の存在により,かろうじて源岩が蛇紋岩であることがわかる.部分的に金の鉱染が認められ,現在地化学探査により鉱化範囲を調べている.

 Papazlik剪断帯胚胎金鉱床(第4図)はBiga半島の南の付け根部に位置する.ここでは雲母片岩中の剪断帯に幅30cmほどの方鉛鉱・閃亜鉛鉱を含む石英脈が認められ,数g/tの金が鉱染しているという.下盤には薄い大理石層があり,大理石の粗粒部を置換したものと思われる.

 規模の小さなスカルン鉱床は漸新世〜中新世前期のこの地域のほとんどすべての花崗閃緑岩−花崗岩体(Salarya, Kozak, Eybek)に伴われる.柘榴石,透輝石,透角閃石,緑廉石等のスカルン鉱物が累帯構造し,その中心部に磁鉄鉱や黄銅鉱からなる鉱体が認められる.現在この地域では磁鉄鉱が採掘されている(写真6).Şamlı鉱床では,20×80×10mの磁鉄鉱鉱体が採掘されている.64,000トンの鉱石(鉄品位58-62%)が1957年当時に見込まれている.

 トルコでは操業されている斑岩銅鉱床は存在しないが,鉱徴地は数多く発見されている.北西アナトリアでは,斑岩銅鉱床は,白亜紀後期から暁新世と中新世の2時期に形成されている.エスキシェヒル西方では白亜紀後期から暁新世の花崗斑岩にDomaniç, Tupekaikonagi, Muratdere鉱徴地が伴っている.このうちMuratdere鉱徴地は地化学探査異常をもとにMTAにより2001年に発見され,2002年に早速,試錐調査が行われている(写真8).試錐コアでは,カリウム変質帯,フィリック変質帯,プロピライト変質帯および斑岩銅鉱床に典型的な前期脈,漸移脈,後期脈,最末期の熱水角礫岩が認められた.漸移脈の黄銅鉱と輝水鉛鉱,後期脈に黄鉄鉱が含まれている.

Biga半島のTepeoba(写真9)では,中新世前期のEybek花崗閃緑岩−花崗岩体上部に発達する角礫岩に銅,モリブデン,金の鉱化作用が認められる(第5図; 写真10, 11).

写真8 Muratdere鉱徴地でのチャイを飲みながらの討議.皆自分の意見を主張して一歩も引かない.1本目の試錐ではフィリック変質からカリウム変質をかすめてプロピライト変質に突入し,鉱化熱水系の中心を捕えることは出来なかった.左から二人目がTandoğanEngin氏.

写真9 Tepeoba村の全景.Tepeobaとは丘の上のゲルハウス(遊牧民の家)という意味.

写真10 Tepeoba鉱徴地の角礫岩.角礫は母岩の砂泥質変成岩,アプライト質花崗岩からなり,基質は熱水鉱物である黒雲母と電気石からなる.基質には黄銅鉱,輝水鉛鉱が鉱染している.

写真11 Tepeoba鉱徴地の接触変成岩.やや角礫化しており,孔雀石が鉱染している.

 

第5図 Tepeoba鉱徴地の簡単な地質図.鉱床は横倒しになっており,北側が鉱床下部,南側が上部に相当する.図は鉱床上部が上になるよう南北を逆にしている.

 

ここでも2002年に3本の試錐が行われ,年度後半にかけてもう1-2本の試錐が行われる予定である(写真12).花崗岩の南側にはスカルンまたは黒雲母や紅柱石を含む接触変成岩が広がっている.その一部が幅200mにわたり角礫化しており,基質には熱水性の黒雲母,電気石が認められる.この基質に黄銅鉱,輝水鉛鉱が鉱染している.まだ品位分析は行われていないが,角礫部分は平均1-2%以上の銅品位を持つと思われる.角礫岩を粉砕して椀かけを行うと金が濃集する.角礫岩のさらに南方にはより低温で形成されたフィリック変質帯が広がり,この鉱化変質帯の南北方向の岩相・変質帯の変化は,もともとの上下方向の断面を示していると推定される.

 

写真12 Tepeobaでの試錐風景.コアが上がる度に一喜一憂する.鉱化作用が角礫岩のみでなく下部の花崗岩にも広がっているのが判明した.

北西アナトリア地域の金属鉱床は,石灰質岩が何らかの形で関与したものが多い.Söğüt金鉱床(写真3)もその一つである.ここではSöğüt変成岩類及び石灰岩のオリストリスを含む石炭紀〜二畳紀Karakaya累層が分布している(第6図).地表部ではKarakaya層中の大理石が部分的に珪化を受け,石英や方解石の細脈群が形成されている部分に金の鉱化作用が認められる.1965-67年に開発された坑道では,剪断帯に沿ってN40-50ºW走向,幅1.3-2.1mの方解石−石英脈が23m側方に追跡されている.この脈は緑泥石,セリサイトを伴い,自然金,金テルル化物および少量の黄鉄鉱,鉄酸化物を含む.地表部に残された古代人のずり堆積場を再調査した結果,1g/t品位の鉱石が百万トン確認されている.今年行われているMTAの試錐調査の結果が楽しみである.

第6図 Söğüt鉱床地質図(Yıldirim, 2002).

 

 浅熱水性金鉱床は北西アナトリアで最も期待されている鉱床タイプである.高硫化系および低硫化系鉱床のどちらも認められるが,低硫化系鉱床の数が圧倒的に多い.高硫化系鉱床の代表例はトロイ時代に採掘されたKartaldağ鉱床で,ストラボンの博物誌にも触れられている.陶器の年代測定によると紀元前1500年の年代が得られているが,この年代は,鉱床開発の最初,または最後の年代を示すものではない.現在,ÇanakkaleMadencilik Companyが探査活動を行っている.この地域は古生代の片岩を新生代の安山岩・デイサイト溶岩が覆っており,石英−明礬石からなる北東方向の熱水角礫岩が最上部を占めている(写真13).その周辺に鉄酸化物帯が発達し,二次富化鉱の金は主としてリモナイトに伴われている.酸化帯の下部には石英脈が数条あり,黄鉄鉱の卓越する部分の金品位が高い.鉱石鉱物は自然金,硫砒銅鉱,黄鉄鉱,黄銅鉱,方鉛鉱,バライト,白鉄鉱,ルソン銅鉱,ファマチナイト等からなる.石英脈はセリサイト変質を伴っている.

写真13 Kartaldağ鉱床最上部の熱水角礫岩.石英と粗粒明礬石からなる.

 低硫化系鉱床は中新世後期以降に形成された地溝の周辺部に集中しており,流紋岩の単成火山が分布する地域に多い.その多くは潜頭性でシリカシンターやオパール質熱水角礫岩を伴っており(写真14),鉱床の削剥深度は極めて浅い.エドレミット南東のKüçükdere鉱床はエドレミット地溝(写真7)の南縁に位置する(第7図).鉱床は中新世の安山岩に胚胎し,N45ºE方向,幅数mの鉱脈群からなる.鉱脈は角礫化構造,縞状構造が顕著な石英脈からなり,方解石やアンケライトを脈石鉱物として含む.硫化鉱物は微量の黄鉄鉱のみであり,金粒が縞状部の石英や炭酸塩鉱物に含まれている(写真15).母岩は珪化,セリサイト化,粘土化が著しい.流体包有物の充填温度から金の沈澱は約220ºCで生じたと推定されている.現在この鉱床では金5.0g/t,銀11.8g/tの鉱石1500万トンが埋蔵鉱量として計算されている.

 

第7図 Küçükdere鉱床位置図および地質概略図(Çolakoğlu, 2000).

 

 

写真14 Kubaşlar鉱床の熱水角礫岩−カルセドニー質石英脈.延長1km,平均脈幅2.5m.地表部では平均500ppbの金を含む.部分的に氷長石が縞状に含まれる.

写真15 Küçükdere鉱床の含金石英脈.黒色部はマンガン酸化物を含む方解石.

角礫岩胚胎バライト−鉛−亜鉛鉱床は低硫化型浅熱水性金鉱床と同様の地域に分布するが,海底火山活動に伴って形成している.Yalakkayor鉱床近傍には層状マンガン鉱床が分布する.現在鉛および亜鉛を小規模に生産しているKorudere鉱床(写真16)では,安山岩質角礫岩中の剪断帯に沿って幅20-50mの角礫岩が形成され,その一部が再び剪断を受け方鉛鉱・閃亜鉛鉱が鉱染している.幅2-3mの3条の鉱化帯が存在し,それぞれの鉱化帯の延長距離は100-150mである.角礫岩は主としてバライトにより膏結されている.周辺の岩石はカオリナイト,スメクタイト変質が広がる.この鉱山では鉛品位が6-12%,亜鉛品位が2%,銀品位が65g/tであり,50万トンの埋蔵量が残されている.

 

写真16 Korudere鉱床.熱水角礫岩中の方鉛鉱,閃亜鉛鉱を小規模に採掘している.

 日本では見向きもされない堆積性の鉄鉱床もトルコでは重要な鉱物資源である.層状鉄鉱床は安山岩質火山の縁辺部に位置する.この地域での代表例はEymir鉱床である(写真17).この鉱床は中新世の安山岩火山縁辺に形成された湖沼に形成された堆積性鉱床である.上流には酸性溶脱を受けた安山岩が広く分布している.鉱床では,1300m×250mの範囲に最大75m(平均16m)の厚さの鉱体がカオリナイト化した安山岩の上部に分布する.鉱体は赤鉄鉱の塊状鉱と角礫鉱からなり,鉄明礬石を伴う.塊状鉱には植物化石が含まれる.角礫は酸性溶脱を受けた安山岩礫でその多くは上流の安山岩火山からもたらされたと思われる.1953年から操業されており,9.6百万トンの鉱石が1964年に見込まれ,平均品位は鉄43%である.0.3-0.4%の砒素が含まれる(MTA, 1964).

 

写真17 Eymir層状赤鉄鉱鉱床.

 

6.ゴールドラッシュの予感

 北西アナトリアの金属鉱床はこの地が経験した剪断,短縮,伸張テクトニクスに関連して形成されている.多様な構造場を反映してこの地に分布する鉱床の種類も多様性に富む.その中でも,短縮テクトニクスに関連して形成された斑岩銅−モリブデン−金鉱床と引張テクトニクス時に形成された浅熱水性金鉱床が重要であろう.特に引張テクトニクスによる地溝の形成とアルカリ系列の火山活動は鮮新世以降の新しい時期に生じており,これらの活動に伴う低硫化型浅熱水性金鉱床はほとんどが潜頭性である.従ってこれから規模の大きな鉱床が発見される可能性も残されている.

北西アナトリアで現在操業中の金鉱床は2001年に金の生産を始めたイズミル付近に位置するOvacık鉱床(金量29トン,品位9.6g/t)のみである.ここでは試験的に金の回収に青化精錬法が導入されている.トルコ政府は,環境に及ぼす影響が小さいと判断できれば青化精錬法を一般的に許可する見込みで,現在,多くの鉱床(第2表)がその行方を見守っている.青化精錬法の認可により,トロイ時代以来のゴールドラッシュが北西アナトリア地域で起こる可能性は大いにある.

文  献

 

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