有珠火山2000年噴火の山体変動
-セオドライトによる北麓,西麓の変動観測-

宝田晋治(地調)・西村裕一(北大)・羽坂俊一(地調)・高橋裕平(地調)・
中川 充(地調)・渡辺和明(地調)・斎藤英二(地調)・風早康平(地調)

  

Ground deformation of the Usu 2000 eruption: theodolite monitoring at the northern and western foot of Usu Volcano, Japan

Takarada, S. (GSJ), Nishimura, Y. (Hokkaido Univ.), Hasaka, T. (GSJ), Takahashi, Y. (GSJ), Nakagawa, M. (GSJ), Watanabe, K. (GSJ), Saito, E. (GSJ) and Kazahaya, K. (GSJ)

日本火山学会秋季大会,茨城大,2000.9


 西南北海道の有珠火山は2000年3月31日13時7分に22年ぶりに噴火を開始した.地質調査所と北海道大学は合同でセオドライト(精密経緯儀)やEDM(光波測距儀)による山体変動観測を実施している.ここでは,セオドライトによる有珠火山北麓と西麓の変動観測結果を紹介する.

1. 北麓の山体変動

 有珠火山北西の北屏風山西尾根斜面付近では,噴火の数日前から多数の断層や地割れが見られた.また,北東山麓の壮瞥温泉周辺でも3月30日ごろから,多数の右横ずれ雁行割れ目群が観察され,北麓全体が北側へせり出すような変形が見られた.このため,より定量的に山体変動を計測する目的で,4月5日から洞爺湖東の洞爺水力発電所のある高台から,壮瞥温泉,洞爺湖温泉街周辺の建物の角など14ヶ所の目標物を決めて,セオドライト観測を行っている.その結果,洞爺湖温泉街西の洞爺温泉中学校では4月5日から4月25日までの間に約1.6mの北側へせり出しが観測された.また,洞爺湖温泉街中央付近の建物でも,この期間に約1m北側にせり出したことが確認できた.しかし,これらの建物の鉛直方向の変位はほとんど観測できなかった.4月下旬以降は北麓の変位はほとんど観測されなくなった.山体の変動中心は,山体西麓の西山西火口群周辺に移動したと考えられる.

2. 西麓の山体変動

 西麓の西山西火口群周辺では,4月上旬から正断層群が発達し,顕著な山体変動が見られた. そのため,4月13日より南西麓の火口群の南南西3.3kmの地点にある虻田歴史公園(K1)からセオドライトによる山体変動観測を開始した.目標点は,正断層群内南部にある傾いた家(目標点1, 2),正断層群中央から南西520mの地点にあるとうやこ幼稚園(目標点3, 4),虻田洞爺インターチェンジ(IC)の南東450mにある高速道路の橋(目標点5),傾いた家の東にあるポール(6)とあずま屋(7),虻田洞爺ICのループ内にある建物(8)の8点とした.その後,火口周辺に設置したEDM用の反射ミラーの支柱等を加えて14点の目標物を計測している.観測は4月・5月は平均2日に1回,6月・7月は平均3日〜7日に1回の割合で計測を行っている.
 正断層の内部にある目標点1, 2, 6, 7は,4月中旬には1日50cm〜1mの隆起速度が観察できた.その後,徐々に隆起速度は減少し,6月中旬では1日約10cmとなり,7月下旬ではほぼ隆起が停止したように見える(図1).4月13日〜7月27日までの間に,目標点1, 2は約12m隆起した.一方,目標点1, 2はこの期間にK1から見て西方に約3.3m移動した(図2).目標点3, 4のとうやこ幼稚園は4月13日〜7月27日の間に約4m隆起し,K1から見て西方に約3.4m移動したことが明らかになった.目標点5の高速道路や目標点8の洞爺虻田ICではほとんど変動が観測されなかった.

有珠火山2000年噴火のHPへ