北海道駒ヶ岳1998年10月25日の小噴火

A phreatic eruption at Hokkaido Komagatake Volcano on Oct. 25, 1998.

Takarada, S. (GSJ), Nakagawa, M., Yoshimoto, M., Kitagawa, J., Yoshida, M., Ui, T. (Hokkaido Univ.), Okazaki, N., Hirose W., Ishimaru, S. (GSH), Sapporo District Meteological Observatory and Hakodate Marine Meteological Observatory

地球惑星科学関連学会1999年合同大会,代々木,1999. 6.


 西南北海道の北海道駒ヶ岳火山では,1998年10月25日9時12分から約6分間火山性微動が観測された.このとき山頂部の昭和4年火口で水蒸気爆発が起こった.これは,前回1996年3月5日以来の小噴火であった.この小噴火によって,山体の東麓に火山灰の降灰があった.われわれは10月26日〜28日に山麓部の降灰調査を行い,11月13日に山頂部の調査を行った.ここでは,(1)降灰分布,(2) 山頂部や山腹・山麓の降灰の状況,(3)顕微鏡による観察結果,(4) 降灰量について報告する.降灰量は約3,000トンと小規模であったが,ここで示す方法で噴火直後に降灰調査を行えば,このクラスの小噴火でも噴出量を推定することが可能である.

 降灰の主軸はN100oEの方向である.降灰域の幅は,火口から3kmで約2km, 火口から10kmで約3.5kmである.上空から確認できる降灰域は火口から3〜4km付近(〜200g/m3)まであるが,現地調査では火口から10kmの国道沿い(〜10g/m3)でも確認できた.

 昭和4年火口内部の南東端にある'96年噴火時のA火口が今回の噴出口である.A火口は大きく広がっており,昭和4年火口の内壁にも厚さ10-20cm以上の火山灰が付着している.火口北北西の昭和17年の亀裂西端では,降灰の層厚は4-7cmであった.降灰は,シルト〜粗粒砂のサイズの火山灰が主体であり,直径数mm〜数cmの岩片も含んでいる.火口リムの西側ではほとんど降灰は見られないが,直径10cm〜1mサイズの噴石が多量に散らばっている.そのほとんどが昭和4年噴火でできたアグルーチネートでできている.周辺には多くのインパクトクレータがみられる.火口から2.7kmの主軸上では,約1-2mmの厚さで火山灰が堆積していた.しかし,火口から9kmの国道沿いでは,降灰は微量で,笹の葉の上に点状に付着している程度であった.

 実体顕微鏡と偏光顕微鏡を使った観察では,火山灰は,駒ヶ岳の山体を構成する既存の岩石と同種の安山岩質岩片,鉱物片,および粘土鉱物を主体とする微細分からなる.一部変質した岩片も含まれている.岩片や鉱物片はほとんどが角がとれて摩耗している.新鮮な急冷ガラスなどのマグマ物質は含まれていない.したがって,今回の小噴火は水蒸気爆発であったといえる.

 火山体東部の山腹・山麓の53地点で降灰調査を行い,33地点から定面積サンプルを採取した.山腹では砂防えん堤や作業小屋のトタン屋根などから面積を測ったうえで採取し,山麓ではおもに火山灰のついた笹の葉を地点ごとに5-30枚採取した.実験室に持ち帰ったサンプルは乾燥重量を測定し,各地点の面積(笹の葉はスキャナーで読み込んで面積を算出)で割って,単位面積あたりの重量(g/m3)を求めた.それらをもとに等層厚線図を作成し,各等層厚線の面積と重量の関係をいくつかの折れ線で近似する方法(宇井・他,1997)を使って降灰量を求めた結果,約3,000トンとなった.これは,'96年3月の噴火の120,000トンに比べて1/40の規模の噴火であった.