巨大海底岩屑なだれの流動・堆積機構  
-オアフ島沖Nuuanu-Wailau 岩屑なだれ堆積物とハワイ島沖Hilina地すべり-

宝田晋治(地調)・宇井忠英(北大)・吉田真理夫(北大)・吉本充宏(北大)・三浦大助(電中研)・James G. Moore (USGS)・Peter W. Lipman (USGS)・佐竹健治(地調)・John R. Smith (Univ. of Hawaii)・仲 二郎(JAMSTEC)・坪山乃博(JAMSTEC)・樋泉昌之(日海事)

Transport and depositional mechanism of giant submarine debris avalanches: Nuuanu-Wailau debris avalanche deposits and Hilina slump, Hawaii

Takarada, S., Ui, T., Yoshida, M., Yoshimoto, M., Miura, D., Moore, J.G., Lipman, P.W., Satake, K., Smith, J.R., Naka, J., Tsuboyama, N., and Toizumi, M.


第16回しんかいシンポジウム,品川コクヨホール,1999. 11.


 ハワイ諸島周辺海域には,15以上の巨大海底岩屑なだれ堆積物が分布している(Lipman et al., 1988; Moore et al., 1989).1998年のKR98-08, 09の航海では,「かいれい」と「かいこう」によって,オアフ島北東方沖とハワイ島南東沖の海底調査を行った(仲・他,1999; 宇井・他,1999). また,今年の8月,9月にもYK99-07, 08の航海で「よこすか」と「しんかい6500」を使った同海域の調査を行った.
オアフ島北東方沖には,約5000km3の,オアフ島クーラウ火山起源のNuuanu岩屑なだれ堆積物と,モロカイ島西モロカイ火山起源のWailau岩屑なだれ堆積物が分布している.また,ハワイ島南東沖には,Hilina地すべりが存在する.Hilina地すべりは,〜10cm/yの割合でクリープ変形を続けており,1975年のM7.2の地震では数m変位し,津波が発生している.Hilina地すべりは,巨大海底岩屑なだれ発生前の前兆現象であるとする説が有力である.本研究では,これらの堆積物の調査結果から,巨大海底岩屑なだれの流動機構や堆積構造の特徴を明らかにすることを目的としている.これまでに,海底岩屑なだれ堆積物を直接観察して,内部構造や流動機構を議論した例はほとんどない.

1. ジグソ−クラック
 
'98年の「かいこう」,'99年の「しんかい6500」による調査では,Nuuanu-Wailau岩屑なだれ堆積物,Hilina地すべりの両方に,陸上の岩屑なだれ堆積物でもよく観察できるジグソ−クラックが見られた.そこで,まず始めに,このジグソ−クラックに着目し,ジグソ−クラックの1mあたりの本数,上下方向の変化,側方変化,クラックの形態(フラクトグラフィ),フラクタル次元,クラックの異方性の定量的測定を試みている.ここでは, (1) クラックの1mあたりの本数と,(2) フラクタル次元の解析結果について紹介する.
岩屑なだれのジグソ−クラックに関しては,未だに,いつ,どのようにして形成されるのかが明らかになっていない.すなわち,(1)発生前の給源での地すべり的な変形によってできるのか,(2)1980年のセントヘレンズ火山のように,給源でブラストが発生したときの衝撃波でできるのか,(3) 流走中に岩屑なだれ岩塊どうしが衝突してできるのか, (4) 流走中に基底部からの剪断応力によってできるのかということが不明である.

2. 1mあたりのクラック数
 
現在までに,'98年の「かいこう」によって撮影したDive 90, 91, 93, 95, 98のビデオ画像の解析を行っている.Dive 90はNuuanu岩屑なだれ堆積物,Dive 91, 93, 95, 98はHilina地すべりの画像である.また,'99年の「しんかい6500」によって撮影したDive 6K496〜511の画像解析も現在行っている.6K496〜501, 510, 511はNuuanu-Wailau岩屑なだれ堆積物,6K504〜509はHilina地すべりの画像である.各潜航による観察では,Nuuanu-Wailau岩屑なだれ堆積物は,多数のジグソークラックが入った火山性の角礫岩や溶岩流でできていた.また,それらを覆う斜面に平行な厚さ数m以下の層理の発達した角礫層が観察できた.Hilina地すべりの西部は,よく固結した火山砕屑性の砂岩,シルト岩およびこれらと互層する火山角礫岩でできていた.これらがよく破砕された露頭も多数観察できた.Hilina地すべりの東部は緻密な枕状溶岩などでできていた.
 ジグソークラックの写っているビデオ画像を高解像度のビデオキャプチャーを使ってパソコンに取り込み,グラフィックソフト上で,クラックを記入した.今までに「かいこう」の画像について,全体で125枚の画像を取り込んでいる.また,「しんかい6500」の画像は現在とり込み作業を行っている.「かいこう」の画像のうち,「かいこう」のロボットアームの一部の長さなどから露頭のサイズを特定できる36枚の画像について,1mあたりのクラックの数を計測した.Dive 90のNuuanu岩屑なだれ堆積物の1mあたりのクラックの数は4〜12本となった.また,Dive 91, 93, 95, 98のHilina地すべりのクラックの数は0〜14本となった.

3. フラクタル次元
 
1mあたりのジグソークラックの数は,露頭の大きさを特定できるスケールが画像中にない場合は,計測できない.そこで,スケールがなくてもクラックの複雑さを定量的に表現できるフラクタル次元を求めた.Box counting法(高安, 1986)を使用し,NIH-imageで計測した.
Dive 90のNuuanu岩屑なだれ堆積物のジグソークラックのフラクタル次元は,D=1.28-1.52となった.一方,Dive 91, 93, 95, 98のHilina地すべりのジグソークラックのフラクタル次元は,D=1.18-1.58となった.
 比較のために,陸上の西南北海道の有珠善光寺岩屑なだれ堆積物中の玄武岩-安山岩質溶岩に見られるジグソークラックのフラクタル次元を計測したところ,D=1.56となった.
 また,「しんかい6500」でNuuanu-Wailau 岩屑なだれ堆積物から採取したジグソークラックの入った岩石のスラブ試料をスキャナーでとり込み,同様の方法でフラクタル次元を求めた.その結果,D=1.25〜1.32となった(下図).

Nuuanu岩屑なだれ堆積物中の岩石スラブ試料(6K497-9)のフラクタル次元(D=1.31)