北米セントヘレンズ火山1980年岩屑流の堆積構造と流動機構

宝田晋治(地調/UCSB)・Richard V. Fisher (UCSB)

地球惑星科学関連学会1998年合同大会,代々木,1998. 5.


Abstract:

 岩屑流の流動機構については,いまだに多くの議論が続いている.また,流れ山や岩屑流岩塊の形成過程についても,多くの不明な点が残されている.そこで,北米セントヘレンズ火山の1980年岩屑流堆積物について,流れ山の形態・岩屑流岩塊の変形構造・岩屑流基質の特徴等を約2カ月間にわたって野外調査し,岩屑流の流動機構,流れ山・岩屑流岩塊の形成過程を明らかにすることを試みた.

 調査は,主にセントヘレンズ火山北西麓のHummocks Trail周辺と,北麓のJohnston Ridge,Spill Over周辺で行った.流れ山のサイズは直径数10cm〜500mであった.流れ山は,Modern dacite, Basalt-andesite unit, Older dacite等を母材とした岩屑流岩塊(DB)とそれらを囲む岩屑流基質(DM)からなる.比較的新鮮な流れ山の斜面傾斜は25-35度であり,安息角に近い.また,同種の物質の流れ山が比較的近接している場合が多い.これらの事実は,流路の拡大や基盤の凹凸によって,岩屑流が減速・堆積した際に,広がりながら分裂し,各々のかたまりの不安定な部分が重力によって崩れて流れ山の形状になったことを示唆する.DBの変形構造には,(1) 正断層によってブロック状に変形している,(2) 頂部に縦方向のクラックができている,(3) 水平方向に約50mにわたって割れている,(4) 内部が幅数10cmの網の目状のクラックによってほぐれかかっている等が観察できた.(2)-(4)のクラックの内部はDMが埋めている.こうした変形構造は,岩屑流が流走中や広がりつつ堆積する間に,DBが流路の凹凸や基底部・側壁からの剪断応力等によって変形し,その過程でできたクラックのすき間をDMが埋めたことを示唆している.マッシブな溶岩でできたDBの一部は,数10cm〜数mmのサイズに細かく割れていることが多い.こうした細かい割れ目や比較的大きいサイズのジグソークラッックの形態は,これらのクラックが岩屑流の流走中に形成されたのではなく,給源での地滑りに伴う急激な圧力解放で内部の高圧熱水系が爆発的に膨張した際にできたことを示唆している.また,岩屑流堆積物基底部の20-70cmの範囲には逆級化構造がみられる.この範囲は,岩屑流の流走時の境界層を示している可能性が高い.