→新潟県中越地震の成因モデルへ

フィリピン海プレートの運動にともなう東北日本の西進(高橋雅紀)

300万年前以降の復元模型


 房総半島の東方には日本海溝と伊豆小笠原海溝,および相模トラフから駿河トラフ,さらに南海トラフへとつづく海溝(trench)が一点に会合しています.いずれの海溝(およびトラフ)もプレートの沈み込み境界であり,3つの沈み込み境界が合流する地点を海溝-海溝-海溝型三重会合点(TTT triple junction)といいます.ここでは,厚さ90kmにも達する厚くて硬い太平洋プレートがユーラシアプレート(東北日本)とフィリピン海プレートに沈み込んでいます.
 フィリピン海プレートは北西に3〜4cm/年の速度で移動していますので,伊豆-小笠原海溝の位置はその西向きの速度で西に移動します.このとき三重会合点では太平洋プレートが西向きに沈み込んでいますので,もし東北日本を含むユーラシアプレートを変形させないと,伊豆-小笠原海溝の北端である三重会合点は房総半島沖へと西に移動することになります.その場合,日本海溝と伊豆-小笠原海溝は東西にずれていくことになります(下図参照; McKenzie & Morgan, 1969の有名な論文で,ほとんどの地球科学者が受け入れてきました).

現在から未来への予想模型(McKenzie & Morgan, 1969流のモデル)


 しかし,日本海溝と伊豆-小笠原海溝はいずれも太平洋プレートの沈み込み口ですから,それがずれていくということは断層によって太平洋プレートが剪断されていくことを意味します(下図参照).三重会合点を取り囲む3つのプレートのうち太平洋プレートが最も頑強ですから,太平洋プレートが剪断されるよりも,より弱い(柔らかい)部分が変形するはずです.
 したがって,太平洋プレートが剪断されないとする,すなわち日本海溝と伊豆-小笠原海溝が連続的につながるとすると,フィリピン海プレートの北西への運動にともなって日本海溝も西に移動するしかありません.東北日本(を含むプレート)の東端が日本海溝ですので,日本海溝が西に移動すると東北日本も西に移動せざるを得ないのです(最上部のアニメーション参照).
 この運動の一部は日本海溝に沈み込む太平洋プレートによりユーラシアプレート側が浸食(造構性浸食:tectonic erosionといいます)されるでしょう.しかし,残りの運動は硬い海洋プレートからなる日本海との間に挟まれた,より柔らかい東北日本の地殻を東西に短縮して消化するしかありません.
 東北日本の地質は火山の発達する範囲(背弧域といいます)が変形しやすく,今から1500万年前の日本海の拡大時期に多数の正断層が形成されました.断層に沿って厚い地層が堆積しています.300万年前に日本列島は強い東西圧縮応力場となり,東北日本のうち特に変形しやすい背弧域で地殻が東西に短縮し続けています.そして,古傷である正断層が今度は逆断層として再活動し,厚く堆積していた比較的柔らかい堆積層が褶曲しつつ隆起していると考えられています.
 このように,今回の新潟県中越地震を含む日本海東縁の地震活動の原因はフィリピン海プレートの運動にあると私は考えています.しかし,この内容は今年9月の地震学会で口頭発表*したばかりであり,多くの地震研究者と議論を交わし認知されているわけではありません(数名を除いてほとんどの研究者はまだ知らないと思います).このような理由から現段階ではまだ論文化しておりません.ただし,今回の地震を含む日本海東縁の短縮テクトニクスを理解するためには,まだ私の個人的見解の域を脱してはいないのですが,重要な視点と考えておりますので,ここに概要を説明いたしました.なお,論文化されていませんので,内容の取り扱いには十分注意しつつ参考にしてください.

太平洋プレートの剪断破壊概念図


日本列島を含むユーラシアプレートを変形させないと,日本海溝と伊豆-小笠原海溝はトランスフォーム断層により右ずれに離れていきます(McKenzie & Morgan, 1969の予測).このとき,日本海溝と伊豆-小笠原海溝はいずれも太平洋プレートの沈み込み口なので,海溝がずれていくためには太平洋プレートがトランスファー断層により剪断されていく必要があります(沈み込むプレート=スラブを剪断する断層がトランスファー断層で北側落ちの正断層,一方,剪断された太平洋プレートの南側部分と北側のユーラシアプレートとの境界は右横ずれのトランスフォーム断層).仮にこのような運動が300万年間続いたとすると,その間に太平洋プレートは10cm×300万年間=300km移動しますので,太平洋プレートの剪断される長さは300kmに達します.厚さが90kmもある古くて硬い太平洋プレートが容易に剪断されるはずがないので,伊豆-小笠原海溝の西方への移動にともなって日本海溝も西に移動しなければなりません.その結果,上に乗っている東北日本も西に移動させられ,変形しやすい日本海東縁で地殻が東西に短縮していると考えています(上のアニメーション).

「日本列島のE-W短縮テクトニクスの原因とその開始時期」高橋雅紀

(日本地震学会講演予稿集2004年度秋季大会,B048, pdf)

→新潟県中越地震の成因モデルへ

戻る