日本列島の圧縮テクトニクスの問題
太平洋プレートの沈み込みと地震活動(概念図)
太平洋プレートは10cm/年の速度で西に移動し,日本海溝に沿って東北日本の下に沈み込んでいます.この沈み込みにともなって蓄積された応力が岩石の破壊強度を超えると大きな地震が起こります(海溝型地震).これに対し,東北日本の内陸部でも地震が起こりますが,さらに西方の日本海東縁では今回の新潟県中越地震のような大きな地震が起こります.日本海溝に沈み込む太平洋プレートの影響が,なぜ遠くはなれた日本海東縁まで達しているのか,研究者間でも意見が分かれています.
地層の変形を地質学的に研究することによって,このような東西方向の圧縮変形が過去300万年間にわたって継続してきたことが知られています.しかし,300万年前より古い時代には1000万年以上もこのような強い圧縮場にはならなかったことも,地質学により明らかにされています.では,なぜ日本列島は300万年前から突然強い圧縮場になったのでしょうか.そしてなぜ太平洋プレートの沈み込み帯(日本海溝)から遠くはなれた日本海東縁まで東西方向に短縮変形しているのでしょうか.現在の日本列島の地震活動の原因を紐解くためには,この2つの問題をまず解決しなくてはならないのです.
研究の経緯
そもそも私は1500万年前以降のフィリピン海プレートのオイラー極(回転中心)を探していまいた.それは,これまで多くの地質学者,地球物理学者が挑戦してきましたが,誰もすっきりとした結論を導けなかったからです.地表地質を20年間調べてきて,島弧規模のテクトニクスが把握されてきたので,それらを支配したであろうプレートの運動と組み合わせたかったのです.太平洋プレートの運動は4300万年前以降は現在とほぼ同様であったことが明らかにされていますが,フィリピン海プレートの過去の運動は全くの未知数でした.そこで,地質学的証拠を満足するようなオイラー極を探した結果,過去のオイラー極は三重会合点の東方に位置していたことが判明しました.そして,このオイラー極を使ってフィリピン海プレートを運動させると,1500万年前以降の日本列島のテクトニクスがきわめて良く説明できることが判明したのです(TTT三重会合点の安定性を参照してください).
ところが,そのオイラー極は現在の位置と大きく異なります.ということは,フィリピン海プレートのオイラー極は,あるとき現在の位置に移動したことになります.また,現在のオイラー極では日本列島が圧縮応力場になるのは自明(短縮テクトニクスの原因を参照してください)であることも分かったので,圧縮応力場の開始時期はオイラー極が現在の位置に移動したタイミングであると判断できます.これまでは,地層の変形の開始時期や山地の隆起時期により,圧縮応力場の開始時期がある程度推定されてきました.しかし,その原因がフィリピン海プレートの運動であることが分かったので,オイラー極の移動,すなわちフィリピン海プレートの運動方向の変化に起因する地質学的証拠を見つければ,より直接的なタイミングを知ることができます.そこで,沈み込むフィリピン海プレートの運動方向が変われば,前弧海盆(下図)の発達様式に何らかの反応が記録されるはずだと予想し,その地層がよく分布している房総半島の地質を調べました.
房総半島の前弧海盆堆積物は1500万年前以降ずっと堆積してきましたが,一回だけ中断していること,その中断を境に古い前弧海盆と新しい前弧海盆の成長様式は大きく異なっていることが知られています.その中断は黒滝不整合として地質学においては昔から知られた有名な不整合です.つまり,フィリピン海プレートの運動方向が変化したとすれば黒滝不整合の時期しか考えられないのです.黒滝不整合のタイミングは地層の年代を整理すると250〜330万年前の間であると考えられます.ただし,房総半島の東方の海底下には陸上に露出していない地層が伏在していることが知られており,上限の年代である250万年前はより古くなるはずです.現段階では黒滝不整合の年代は300万年前と考え,そのタイミングでフィリピン海プレートのオイラー極が現在の位置に移動し,その結果東北日本が西に移動し始めて日本列島が圧縮応力場になったと私は考えています.
これら地震学会で発表したフィリピン海プレートが支配する日本列島のテクトニクスについては,追ってホームページ上にわかりやすく説明したいと考えています.学会では12分しか講演時間がなかったので,誰も理解できなかったと思いますし.ただ,まだ論文化しておりませんので引用文献としては上記の講演要旨しかありません.できるだけ早く論文化しようと考えておりますが,それまでは要旨(pdf)を引用してください.
300万年前ころの房総半島から三浦半島,足柄地域にかけて沈み込むフィリピン海プレートの復元モデル.三浦半島から房総半島にかけて露出する葉山-嶺岡隆起帯の古期岩類はフィリピン海プレートの沈み込みにともなって隆起した外縁隆起帯(trench-slope breakあるいはouter ridge)と考えられます.それより海溝側(南側)には付加帯が成長し,その上の凹みには局所的に堆積盆(slope basin)が形成されました(千倉層群や豊房層群等).一方,嶺岡隆起帯より陸側(北側)には広く緩やかな堆積盆(前弧海盆: fore arc basin)が発達し,厚い地層が堆積しました(安房層群や上総・下総層群).黒滝不整合は安房層群と上総・下総層群の境界に存在する堆積の中断で,フィリピン海プレートの沈み込む方向が変化したため形成されたと考えています.
日本地震学会2004年秋季大会講演要旨(pdfファイル; いずれも1MBくらい)

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