超鏡対話での共存感・一体感を説明する認知心理モード

森川 治、橋本亮一

独立行政法人 産業技術総合研究所 人間福祉医工学研究部門

(〒305-8566 つくば市東1-1-1中央第6、 {morikawa.osamu|hashimoto-r}@aist.go.jp)

概要 超鏡では、対話相手の映像に自分の鏡像映像を重畳表示することにより、対話者全員が一緒にいる映像を使って対話をする。超鏡画面上で隣り合った対話相手とは、物理的にすぐ隣にいる感じ(共存感・一体感)を覚えながらの対話ができる。しかし、単に合成映像を作って表示すれば、このような共存感・一体感が得られるわけではない。本報告では、画面上での相対位置関係RPARを定義し、RPARの対話への利用方法により認知心理モードを定義し、超鏡対話で共存感・一体感が得られるメカニズムを説明する。


Cognitive Modes Explaning Feeling of Coexistence and Unity in HyperMirror Communication

Osamu MORIKAWA and Ryoichi HASHIMOTO

Abstract: HyperMirror is a video communication system in which all participants watch images that display all of them together, which are prepared by superimposing mirror reflections of the participants. Users feel physically together with people displayed next on a HyperMirror image, but synthesizing images is not enough for them to acquire the feeling of coexistence and unity. This paper describes the cognitive mechanisms of the feeling of coexistence and unity in HyperMirror by defining Relative Positioning Among Reflections (RPAR) and analyzing cognitive modes which are defined based on RPAR..

(PDF 284KB)

1. はじめに

 テレビ電話などの遠隔視覚対話において、共存感や一体感を得るために多くの研究がされている[1]-[6]。それらの多くは、できる限り実空間での対話に近づけことを目標に研究が進められている。

 超鏡では、遠隔視覚対話に適した新しい対話空間を提供することにより、共存感や一体感を得ている[7]。対話に利用する映像は、各地にいる対話者全員が、あたかも同室にいるような様子を、鏡に映した内容である。対話者が物理的に同室にいるか否かに係わらず、画面上では等質となって表示される。超鏡映像は対話仲間が、同一空間に存在する感覚を提供する。この共存感は、家族団欒や友達との雑談のように、用件を伝えるというより、むしろ対話自体を楽しむ場合に重要である。また、遠隔問診や遠隔共同作業、遠隔講習、遠隔パーティなど、新しい遠隔サービスを実現する場合にも、心理的距離を低減する共存感は重要である。

 しかし、何も調整せずに、ただ単に合成映像を提示しただけで、共存感・一体感が得られるわけではない。本報告では、画面上での相対位置関係RPAR (Relative Positioning Among Reflections)を定義し、RPARの対話への利用方法により認知心理モードを定義し、超鏡対話で共存感・一体感が得られるメカニズムを説明する。

(a) 2地点の場合の結線図

(b) 3地点の場合の結線図

図1 超鏡対話システムの結線図

2. 超鏡とは

  超鏡(ハイパーミラー)は、映像と音による対話のための仮想空間である。それは、離れた空間が融合してできた、一つの新しい空間である。対話者が超鏡空間に入り込むことで、遠くの人や物と同じ場所に、一緒にいるように感じて(以下、共存感・一体感と呼ぶ)対話する。遠隔対話であっても、対面対話と同等に、場合によっては対面対話以上に親密に対話することが可能である。

 超鏡対話空間を具現化するシステムを、「超鏡対話システム」と呼ぶ。画像合成手法や表示方法によりいろいろなシステムが存在するが、概念的には、2地点の場合、対話者を撮影するカメラと合成映像を表示するモニタを2組と、画像合成装置1台で構成される(図1-a)。3地点以上の場合、カメラとモニタを1組づつ増設する(図1-b)。

図2 対話相手との共存感・一体感を感じると、同室にいる場合と類似した行動が発現する。遠隔地にいる女性の注意を喚起するために肩をたたこうとする男性と、後ろを振り向く男性

 超鏡では、図2上段のように、対話相手の空間の事物を指差すことができる。男性2名と女性は、実際は別々の場所にいる。立っている男性は、後ろの棚を指差しながら、そこに女性が持っている置物を置くように指示を出している。

 図2下段は、男性が女性に話し掛けようとしたところ、女性は画面右の書庫の上に注意が向いてしまい、男性の呼びかけに気がつかない。そこで男性は、注意喚起のために肩を叩こうとし、座っている男性も、後ろを向いて女性に声をかけようとしている。

 実際には、女性は別の場所にいるので、肩を叩くことはできないし、座っている男性は振り返っても、自分のいる空間の背景(青カーテン)を見るだけで、女性を見ることはできない。

 この事例は、超鏡対話の共存感・一体感は、図2上段のような機能的な側面だけでなく、図2下段のような情緒的側面も併せ持っていることを示している。言い換えれば、遠隔視覚対話であることを理解しているにもかかわらず、思わず肩を叩こうとしてしまう行為や、振り向いてしまう行為を対話者に誘発する力を、超鏡対話環境は持っている。

3. 映像間の相対位置関係RPAR

 RPAR とは、ディスプレイ上に表示される事物の位置、大きさ、姿勢などの相対位置関係のことである。自己像と対話相手の像が同時に表示される超鏡画面には、自己像と相手の像とのRPARが存在する。そのため、「自己像は相手の像の右にある」、「自己像の目の高さに相手の肩の像がある」、あるいは「自分のお辞儀の方が深い」といった、自己像と相手の像とのRPARが特に、対話に重要な情報を引き出すことができる。

図3 RPARの2種類の解釈例。文字は画面上に人物と一緒にあるが、一般には「人物のいる空間に文字がある」とは解釈されない(左)。しかし相互作用を伴うと、「文字が人物と同一空間にある」という解釈が浮上する(右)。

 RPARの異なる解釈例を、図3を使って説明する。図3は、ポスターの一部である。人物と文字が同一画面上に配置してあり、文字と人物とのRPARが存在する。

一般に、図3左では、文字「大会長」の人物とのRPARは「人物に対する説明」として意味ある位置関係、「HIS 2000」は人物とは無関係の位置関係と解釈される。文字の(人物のいる空間においての物理的な)大きさは存在しない。しかし、人物が文字「2000」をつかむ図3右では、我々は文字と人物が共存する仮想空間を想起し、そこでの事象として解釈する。すると、文字「2000」は横幅約80cmの大きさをもつ物体と認識される。その直後に、再度、図3左を見ると、文字「HIS 2000」と人物のRPARを、始めとは異なる解釈が可能になる。すなわち、図3左は文字と人物が共存する仮想空間であり、文字「HIS 2000」は人物の前上方に位置し、横幅約150cmの大きさがある、という解釈である。しかし、文字「大会長」の人物とのRPARの解釈は変化しない。

 RPARは、Morikawaら[8] がこれまでの超鏡対話研究の過程で、マルチウィンドウ型(MW)やピクチャーインピクチャー型(PinP)などを含めて、相手と自分の映像を同時に表示するビデオ対話全般の、認知心理的効果を解明する鍵になる概念として提起したものである。

 PinP型やMW型での対話者にとって、相手の像と自己像の位置関係は、あくまで今見ている自分の側のディスプレイ上だけの関係であり、相手に通じない概念として、通常は無意識のうちに排除している。これに対し、超鏡では、対話者は「自分が今見ているのと同じ画面を、相手も見ている(WISIWYS : What I See is What You See)」と判っているので、RPARは対話者間に共通なものと認識され、その結果、対話の手がかりとして自然に利用できる。

 対話者がRPARを共通理解することにより、指差しや、身体移動、身体配置、事物の比較などを、超鏡空間という共通の背景(文脈)の元で解釈することができ、対話に使えるようになる。

4. RPAR解釈方法による対話への効果

 図1の事例の通り、RPARを対話者が共通理解することで、指差し等の指示動作が対話に利用できる。指示動作が可能になると同時に、「これ」「このあたり」「この書類」といった指示語が、遠隔視覚対話でも使えるようになる。

 「これくらいの大きさ」「こんな形」といった事物の比較も可能になる。例えば、折り紙の教示、バレーや踊りの教示といった、大きさ、形、姿勢、動作などを、精度良く比較しながら伝えることができる。

 これら機能的な直接的な効用だけでなく、一緒にいるという安心感や、以下に述べる効果も期待できる。

なぜ正面顔より斜め顔を好むのか?

 森川ら[9]は、超鏡対話における対話者の配置と話しやすさの関係を、カメラと立ち位置の関係を変化させて計測し、対話者が画面上で内向きの時に話しやすいと感じることを確認している。超鏡対話では、正面顔よりも、少し横にずれた斜め横顔を好むという結果である。これは、従来の暗黙の仮定、すなわち、「ビデオ対話では正面顔が好まれる」に反する内容である。これも、対話者のRPAR解釈方法を使って説明できる。

 Argyle & Dean は、アイコンタクトの機能として、接近と回避の機能をあげている[10]。アイコンタクトを取ることにより、対話相手との心理距離を縮めることができるが、度を越すと相手を威嚇してしまい、心理的距離を引き離してしまう、という意味である。そのため、適切なアイコンタクトの量が存在すると主張している。さらに彼らは、対話者間の空間距離と視線行動の関係を調べる実験を行い、人と人との親密性には一定の均衡水準があり、人はその水準を保つように行動するという親和葛藤理論(affiliative conflict theory)を提唱している。すなわち、空間距離が接近すればアイコンタクトの量が減少し、空間距離が拡大すればアイコンタクトの量が増大する。

 対話者が、対話者間の空間距離をRPARから読み取り、相手が自分のすぐ近く、例えば「右隣り50cmに居る」と感じれば、Argyleらの親和葛藤理論により、アイコンタクトの威嚇の意味が浮上し、対話者はあまりアイコンタクトを取らないことで、心理的距離を一定に保つことになる。

斜め顔を「自分に注意を向けている」と感じるメカニズム

 森川ら[11]は、超鏡対話では、正面顔では、実空間の自分への注意と感じるが、斜め顔なら、画面内の自分と実空間の自分の両方への注意と感じることを、実験により示した。そのため、カメラ目線の対話相手でなくても、安心して対話できる。 これも、対話者が超鏡映像のRPARを、どのように解釈しているかを考えることで説明できる。

 森川[12]は、斜め顔を自分への注意と感じるメカニズムを説明する認知モデル(図4)を提案し、そこには、2つの認知的ギャップがあることを示した。

 状態A:対話者Sが画面上の相手RPの正面顔をみると、「相手が自分を見ている」と感じる。

 状態B:もし、正面顔でない斜め顔の場合、「自分に注意を向けていない」と感じるだけではなく、視線の先にある画面上の事物に注意を向けていると感じる。

 状態C:見ている先の画面上に別の人RSがいれば、RPがその人RSを見ているかも知れないと感じる。これは、RPとRSのRPARを、対話に有効な関係と解釈する、すなわち、両者が同一空間にいると解釈する事である。

 状態D:もし、対話相手RPがその人RSに注意を向けていることを支持する情報、例えば、その人RSと対話相手RPの動作に、話の要所要所でその人がうなずいたり、相づちをいれる等の、同期現象が見られる場合、対話相手RPがその人RSを見ていることを確信する。

 状態E:画面上に表示されているその人RSが自己像であり、自分Sと同一視できれば、斜め顔の相手RPは、(結果的に)「自分に注意を向けている」と感じ、さらに、「自分を見ている」と感じることになる。

 上記の説明モデルには、明らかに2つの認知的ギャップがある。認知的ギャップ1は、対話相手と自己像は、画面上で視線が合わないにもかかわらず、身体同期などの対話の文脈情報により、対話相手は自己像を見ていると感じる点である(状態C→状態D)。

 認知的ギャップ2は、画面上の自己像と自分を同一視できる点である(状態D→状態E)。

図4、超鏡対話における視線理解の説明モデル

 この2つの認知的ギャップを乗り越えることにより、対話者は、斜め顔を自分への注意と感じることになる。さらに、対話者は超鏡空間を、実空間と密接に関連している仮想空間として頭の中に構成でき、対話者本人がその空間に入り込んだと感じることができ、対話相手との共存感・一体感を得ている。

図5、各種実験に用いている超鏡システム

5. 超鏡対話の認知心理モード

 超鏡対話システムを使いさえすれば、誰もがRPARを同じように解釈し、自然に対話に利用できるわけではない。これは、例えば、両眼視差のある2つの映像を見せられても、立体視ができる人とできない人がいる状況に似ている。また、RPARを対話に有効に利用できる場合でも、そのレベルはさまざまである。例えば、斜め顔を自分への注意と感じるメカニズムの場合、画面上の自己像を自己と同一視できないと、自分への注意と感じないばかりでなく、画面上の自己像が邪魔に感じることになる。

 約6年間のいろいろな場面での超鏡対話観察から、対話空間を少なくとも4種類の異なる見方(認知心理モード)で解釈していることが判った。それらを導き出した観察データは、いわゆる心理実験のように条件をコントロールした環境での観察だけでなく、研究所一般公開のデモ実演、研究所見学者の様子、業務打ち合わせ等のフィールド実験、小学校、大学での遠隔授業、など多岐にわたる観察データである。それらの中から、4種類の認知モードを示唆する対話事例を以下に述べる。

RPAR解釈レベルを示唆する対話事例

事例1

 研究所に見学に来た来訪者の事例である。対話者は当然のことながら、超鏡対話の未経験者である。超鏡システムは図5に示すような、2地点クロマキー合成型の超鏡システムである。配線はAVケーブルによる直結である。対話者の標準立ち位置は、実背景側はカメラ・スクリーンから300cm、青背景側は360cmの位置である。撮影範囲はいずれも対話者のひざから上とし、対話者が対話相手を見るとき、斜め横約20度から対話者を撮影する位置にカメラを設置する。画像合成はクロマキーにより行っているため、画面上では青背景側が常に実背景側の前景として表示される。

 見学者は青背景側に入室した直後、スクリーン上の実験者を見つけてその正面に行こうとする。正面まで行くと映像上で見学者は実験者と重なってしまい、実験者が悲鳴をあげる。これを聞いて、自分が映像上で相手の身体にぶつかったこと、相手も同じ映像をみていること、さらに自分の立ち位置が自己像の立ち位置を決めることに気づき、映像上で適切な対人距離を取れるようになる。

 この事例から利用者のRPARの解釈には、これを完全に無視する段階があることがわかる。控え室で模範対話を見学した後であっても、画面は相手を映すためのものとの先入観に邪魔されるのか、自分も表示されているのを忘れてしまう。

 実験者の悲鳴を聞くことにより、お互いが同じ映像を見ているため、RPARが共有されていて、対話に利用できることに気が付き、適切な対人距離を取ったり、握手したりできるようになる、という過程をたどったことがわかる。

図6、RPARを無視して、実験者と重なってしまった見学者。実験者は、彼女を適切な立ち位置に誘導する。

事例2

 研究所に見学に来た来訪者の事例である。対話者は、超鏡対話の未経験者である。対話者の前方に机とこけしが2つ、一組は実験者側に、他方は見学者側にある。

 見学者は、交代で超鏡対話を体験し、はじめに立って体験し、次に画面右のいすに座って対話に参加する。この事例の見学者は、双方のこけしを指差した後、手を前に出して背後にあるテレビを指差した(図7上左)。座っている男性(直前に超鏡対話を立って経験した見学者)に、「君、テレビは後ろだよ」と言われ、実験者と共に後ろのテレビを指差す(図7上右)。このときの見学者は、実際にはテレビに触っているわけではなく、青背景のカーテンを触っている。

 その後、実験者が抜け、見学者だけで対話を楽しんでもらったところ、この見学者は、別室にいる女性の肩をたたくなど、RPARを使った対話を楽しんでいた(図7下)。


図7、RPAR理解の変化。はじめは前方に手を出してテレビを指差し、仲間に指摘され後方へ手を出す指差しに変更。仲間だけの対話時には、別室の女性の肩を叩くなど、積極的にRPARを使った対話を楽しんでいる。

事例3

 大学と研究所をインターネットで接続して、業務打ち合わせの会議を行った事例。全員が超鏡対話の経験者であり、熟練者がほとんどであるが、一部、経験の浅い対話者もいた。研究所側にクロマキーヤーがあり、大学側では、自分達の映像は一旦、研究所に送り、そこで合成された映像を受信して表示する。そのため、大学−研究所間を往復するだけの遅延がある。研究所側はその遅延がない。

 このときは、照明の照度、カメラアングル等を両サイトでそろえることができなかった。また、音質も劣悪で、相手サイトの発言が聞き取りにくかった。セッションの最後に、大学側がひとりずつ研究所側に話しかけたが、このときはカメラ目線の対話者が少なからずいた。

 この場合、悪い音質のために、何度も聞きなおしが起きた。また同じ理由から、自然に声を張り上げての会話となった。また、サイト間でのやり取りは少なく、大学側で進む議論を、研究所側は私語をしながら見守る形となった。しかし、自己像を指示具として使用するのが見られた。

 この状況では、自分たちはこちら側、彼らはあちら側にいると意識され、同じ対話空間にいるという意識は希薄であった。画面上で身体が交差しても、全く何も感じない対話者がいた。対話の際にも無意識のうちに普通のテレビ電話的な使用法が出てしまったが、自己像を指示具に使えるのでRPARは対話に有効利用できた。

事例4

 研究所に見学に来た来訪者の事例である。対話者は、超鏡対話の未経験者である。

 ひととおりの超鏡での指差しの体験が終了したあと、実験者と対話を継続している。実験者により、画面右側に移動するように求められるが、クロマキー合成の設定のために、対話相手の後ろを通って移動することが不可能なことに気が付く。すると、実空間で相手の前を横切るときのマナーが発現し、腰をかがめて失礼を詫びる動作をしながら移動した(図8)。

図8、見学者が実験者の前を、腰をかがめ、謝りながら横切る

 体験後の質問で見学者は、この失礼を詫びる動作は無意識のうちに出たと報告している。この事例では、見学者はRPARが対話に利用できることを理解しているだけでなく、それが実感のレベルにまで達している。すなわち、映像の上であっても対話相手の前を横切ることは無礼な感じを与えそうだと情緒的な無意識の行動に影響を与えている。

4種類の認知心理モード

 以上の事例を踏まえ、RPAR解釈の仕方を分類したところ、以下の4種類の認知心理モードが認められた(表1)。

表1、超鏡対話における4種類の認知心理モード

認知心理モード RPARを対話に使用? 自己像は必須要素? 実空間の自分と自己像
0 使用しない 不要 分離
1 使用する 不要 分離
2 使用する 必要 分離
3 使用する 必要 一体化

「モード0」

 自己像を含む超鏡映像には、自己像とのRPARが存在するが、それを無関係と解釈するモード(0)と対話に有効と認識するモード(1−3)がある。前述の通り、PinP型やMW型での対話者は、基本的にRPARは存在するが利用しようとは思わない。モード0は、超鏡映像をPinP型やMW型と同様に解釈していると言える。

「モード1」

 画面上の自己像とのRPARを対話に有効利用できると認識するが、像の相対的な大きさに意味を感じてはいない。図3のポスターにおける「大会長」という文字に相当する解釈である。自己像は、事物を直接指差すカーソルとしてしか認識していない。したがって、相手や相手側の事物の指差しは可能であるが、自己像が対話の必須要素とは感じない。カメラ設定の良し悪しには無頓着である。自己像はシルエットであっても良く、指示する必要のない場合には、自己像が表示される事を邪魔に感じることになる。

「モード2」

 画面を対話空間として感じ、自己像は対話空間を構成する必須要素であるとして認識する。そのため、自己像表示を邪魔に感じることはない。対話相手が話している相手は、画面上の自己像であったり、実空間の自分であったりと、「図と地の関係」のように一定しない。自己像と実空間の自分は分離して認識され、対話に参画しているのはどちらか一方と感じる。

 対話相手は、画面上の自己像のすぐ近くにいるのであって、実空間の自分のすぐ隣にいるわけではない。像の相対的な大きさが、対話の主導権取得に心理的に作用する。3人以上の対話では、身体の一部だけでも画面内で表示されていると、対話への参加意識が強まり、全く自己像が表示されないと、対話からの疎外感を感じる。

「モード3」

 モード2と同様、画面を対話空間として感じる。さらに、画面上の自己像と実空間の自分が融合した自己が、対話に参画していると感じる。超鏡映像は、本物の鏡のように実空間を写していて、画面上の対話相手は、実空間でも自分のすぐそばにいると感じる。超鏡映像は、そばにいる透明な対話相手を見るための魔法の鏡と理解する。相手が自己像に殴りかかった場合には、避けたり、防いだりする身体動作が無意識のうちに発現する。実空間と同様に、パーソナルスペースが自然に保たれる。

6. 超鏡対話における一体感

 超鏡対話の特徴のひとつである共存感・一体感を覚えるには、認知心理モード2あるいは3で対話する必要がある。モード2、3では、超鏡映像を見て、その映像が撮影されるような超鏡空間、実際には存在しない3次元空間を、頭の中に構成して対話する。超鏡対話における共存感・一体感は、対話者が構成した超鏡空間に、自己像が入り込む没入感(immersive)と言い換えても良い。

表2、超鏡対話設定項目

* カメラの高さ:対話者の目の高さの平均値
* 撮影範囲:対話者のひざから上
* 拡大率:両地点に同じサイズの紙を用意し、それらが同じ大きさに写る
* カメラの設置位置:標準の撮影位置の対話者がスクリーン上の対話相手を見た場合、お互いの顔が約20度、内向きに撮影されるように、一方はスクリーン右、一方はスクリーン左
* 照明:対話者が全員同じ方向から
* スクリーンの大きさ:標準の撮影位置の対話者が等身大から1/2倍で
* スクリーンの明るさ:周辺と同じ明るさ

 超鏡映像が「全員が一緒にいるような映像」でないと、整合性のある3次元空間が構成できず、モード2、3での解釈は困難になる。事例3のように、超鏡対話の経験者であっても、対話環境に不備があると、RPARを有効に活用できない。つまり、超鏡映像を見て、その映像が撮影されるような3次元空間を構成する難易度が、認知心理モードに影響し、対話に影響を与えている。特に、モニタとカメラの配置、拡大率の差異、カメラアングル、自己像表示の遅延時間の影響は大きい。例えば、自分と相手のカメラの拡大率が10%違っていたとしよう。テレビ電話ではそれほど対話に影響は無いが、超鏡対話では、同じ150cmの身長の人が並んでいる場合、一方は165cmのように写り、非常に不自然な映像になってしまう。同様に、カメラアングルの調整が悪いと、一方が空中に浮いたような映像になるため、共存感・一体感が喪失する。

 遠隔対話システムにおいて発生する問題の多くは、映像・音声の品質と遅延に起因している。これらの問題は、技術開発によりいずれ解決されるであろう。しかし、これらの問題が解決したとしても、従来の遠隔対話システムでは、対話相手との心理的距離が縮まるとは考えられない。

 本研究では、十分な映像・音声の品質が確保された場合にも残留する問題、心理的距離感、を軽減することを目指している。そのため、AVケーブル直結の超鏡システムを、実験・観察用に主に使用している(図5)。また、表2に示した項目に注意を払って設置し、運用している。さらに、対話者がRPARの存在および対話相手との共有に気づくように、指差しと握手をはじめに体験するようにしている。

 超鏡以外にも積極的に自己像を含む映像を使って対話するシステムとして、StefanらのReflection of Presence[13]、MaesらのALIVE[14]、安田らの透過型ビデオアバタシステム[15]等がある。これらの対話システムで行われている対話を、認知心理モードの観点から捉えてみると、指差しなどの自己像とのRPARを対話に有効利用する認知心理モード1での対話は確認できる。しかし、双方が実在するような3次元空間を構成し、そこでの共存感・一体感が得られる認知心理モード2、3での対話はなされていないようである。

7. おわりに

 対話メディアが有効に人々に使われるためには、人々がどのようにその対話メディアの環境を理解して対話しているかを知る必要がある。本報告では、超鏡システムの画面の理解方法を分析し、対話相手との共存間・一体感が得られるメカニズムを説明した。共存感・一体感は、一緒にいると錯覚するような超鏡映像により生まれ、握手など対話者間の意識的な相互作用により強化される。さらに、一緒にいる場合と同じ状況、例えば無意識に表出したジェスチャー等が正しく伝わることにより、さらに共存感・一体感が強固になる。

 超鏡対話を応用すれば、従来のビデオ会議システムでは困難であったような、RPARを効果的に利用した新しい遠隔サービスが実現可能である。例えば、遠隔共同作業、遠隔問診、接客などの遠隔講習、遠隔パーティなどが考えられる。このようなサービスを提供する場合、利用者がどのようにRPARを対話に利用することになるかということを、事前に正確に把握しておくことが必要である。

 提供される遠隔サービスに適合したRPAR利用が行われそうな場合には、ユーザビリティの問題は生じない。しかし、過大なRPAR利用が想定されたり、逆に、過小なRPAR利用が想定される場合には、適切な手段を講じて、利用者に適切な利用を促すことが必要になる。あるいは、利用者のRPAR利用に適したサービスを提供できるように、システムの改良が必要になる。

参考文献

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