概要 超鏡は、対面対話を模倣しない新しいビデオ対話方式である。実空間では、話しやすい対話者間の位置関係、話しにくい位置関係があるが、超鏡にもそのような位置関係があるらしい。本論文では、超鏡対話における対話者の配置と話しやすさの関係を、カメラと立ち位置の関係を変化させて計測した。対話者両者が超鏡画面上で近くにいる場合、お互いが画面上で内向きの時に話しやすいと感じること、相手が自己像の方を向いているよりも、自己像が相手の方を向いている事の方が、話しやすさに重要であることが確認された。
自己像を表示する超鏡対話は、対面対話を模倣しない新しいビデオ対話方式である[1][2][3]。超鏡では、全員が1つの画面に合成された全く同じ映像を見て対話をする(図1)。遠隔地の対話相手と肩を並べて対話することができ、対話相手を含め画面上のすべての事物との相対位置関係を対話に利用できる[4][5]。また、超鏡には対話者を分断する壁は存在しない。その為、対話者は自由に超鏡画面内を移動できる。
図1、超鏡システム
超鏡対話には、話しやすい配置と話しにくい配置があるらしいことが約4年間にわたる利用観察の結果、見えてきた。対話者のアンケートの中に「自分に話しているのは分かるが、そっぽを向いて話しているようで、自分だけに話している気がしない」「まじめに話す気が無いように感じる」、3人で話している場合「自分だけが話の輪から外れている気がする」といった内観報告があった。それは対面対話における視線の不一致に相当する感覚らしいことが分かってきた。
本報告では、対話者が話しやすいと感じる配置について、カメラと立ち位置の関係を変えて実験したデータを元に考察する。
ビデオ対話システムでは、カメラ位置と話し手との位置関係により映像が決まる。その映像は聞き手の位置とは無関係に、どこにいても同じように解釈される。つまり、写真や絵画における「モナリザ視線効果」(モナリザの前を歩いた場合、観察者がどこに立っても同じ視線を感じ取ってしまう効果)と同様な傾向が実験により観測されている[6][7][8]。このため、従来のビデオ対話システムでは、話し手がディスプレー上の聞き手を見ると、聞き手は、話し手が自分を見ていないと解釈してしまう(図2)。逆にカメラ目線(カメラを見ている目線)で話をすると、聞き手全員が、話し手が自分を見ていると解釈してしまう。その結果、一般のビデオ対話において、画面上にいる複数の対話相手のうちで特定の人物とだけ視線一致を取ることはできない。
図2、ビデオ対話における視線。
超鏡対話でも対話相手の映像は、一般のビデオ対話の場合とまったく同じである。話し手が画面の聞き手を見ても、それはカメラ目線ではないので、この映像だけでは、聞き手は見られた気がしない。しかし超鏡画面上には話し手だけでなく、聞き手の自己像も表示されている。そこには超鏡独自の世界があり、話し手も聞き手も、その超鏡空間の構成員として認識される。この両者が超鏡空間の要素であるという認識が、見られている相手を同定する場合の知的スキーマとなって働く。利用観察によれば、対面対話におけるアイコンタクトに相当する場面で、彼らは身体を画面上で聞き手の方を向けることで知的スキーマを制御して対話した[2]。特定の人物に視線を送る場面では、アイコンタクトと同様に、身体を送る相手に向けてスキーマを制御した。さらに、それだけでは特定できない場合には、手を振って身体同期をとる、画面上で肩を叩く、対話相手を指差す、近寄るなど、いろいろな知的スキーマをごく自然に活用して対話した。そのため、超鏡では話し手が画面上の聞き手を見ると、聞き手は見られている事が分かる。
このように超鏡対話では、対面対話における視線の果たす多くの役割を、超鏡画面上での相対位置関係を有効に利用した知的スキーマを制御することで対応できる。そのため、超鏡対話において視線が直接、対話進行上で問題になる事は無かった。言いかえれば、伝えたい視線が伝わらずに困ることは(無いわけではないが)、少なかった。しかし、対話進行に表面上は問題にならなくても、前述のような視線一致に相当する感覚の差異が、話しにくい原因になっていることも事実である。
すなわち、対話システムにおける種々の問題には、対話に必要な情報がシステムでは「伝えられない」といったレベルから、「伝わるが使いにくくて使えない」、「使いにくいが使える」、「快適に使えるが副作用が問題になる」、「副作用なしに快適に使える」等々、多くのレベルがある。本論文で扱う超鏡での視線問題は、これらのレベルのうち「快適に使えるが副作用が問題になる」レベルに位置している。
そこで、超鏡画面上での表示位置と顔の向きとの関係を調べ、それにより話しやすさがどのような影響を受けるかを、心理実験の主観評価計測を行うことにした。
一般にビデオ対話では、話し手は画面上の対話相手を見ながら対話する。その為、相手がスクリーン上でカメラに近い位置に表示されていると、話し手は正面顔に近い顔で写ることになる。逆に、相手がカメラから離れれば離れる程、話し手の映像は正面顔からずれて横顔に近くなる。
超鏡では聞き手の映っている画面上に、話し手の自己像も表示される。例えば、スクリーン左端にカメラが設置されていて、画面上に2名の聞き手A,Bがいるとする(図3)。この場合、話し手の自己像の表示位置が領域1(A、Bより左側)であれば、話し手が聞き手A,Bのどちらを見ても、超鏡画面上では話し手が聞き手A、Bの方を向いた映像になる。聞き手Aを見る場合とBを見る場合の違いは、話し手の顔の向きに表れる。正面顔に近い方がAを見ている場合で、横顔に近い方がBを見ている場合である。

図3、自己像の表示位置と顔の向き。
話し手の自己像が領域2(A、Bの間)にあれば、聞き手A,Bどちらを見ても、画面上では話し手が聞き手Bの方を向いた映像になる。聞き手Aを見ていても、画面上ではAの反対側を見たような話し手の像になる。
話し手の自己像が領域3(A、Bより右側)であれば、どちらの映像も対話相手の反対側を見ているような自己像となる。
超鏡では同一画面上に自己像も表示されるため、画面上の自己像の表示位置によって、顔の向きの持つ意味が異なってくると考えられる。そこで、対話相手の表示位置、自己像の表示位置それぞれを変化させた場合の話しやすさの主観評価実験を行った。被験者は10歳代から50歳代までの男女36名(内女性18名)である。実験は顔見知り2名一組で行った。
実験装置は2地点−クロマキー合成型の超鏡対話システムを構成している。各部屋の前方に、プロジェクタとスクリーン、カメラを設置する。クロマキー合成の為に、第2室の後方は青いカーテンを設置する。スクリーンは縦90cm、横120cmの大きさで、床面から90cmの高さに垂直に設置する。カメラはスクリーン脇(第1室は左側、第2室は右側)の高さ150cmの位置に配置する。カメラとスクリーン中央との距離は70cmである。被験者の立つ位置は、スクリーン中央から第1室は300cm、第2室は360cmの位置と、その左右80cmの各3個所ずつとする。本論文では以降、この3個所の立ち位置、左、中央、右を第1室をl、c、rで、第2室をL、C、Rと表記する(図4)。
図4、実験装置の配置。
カメラと被験者の距離が第1室と第2室では異なるが、画面上では同じ大きさ、同じ位置に表示されるようにカメラの拡大率を調整する。具体的には、カメラを調節して撮影範囲が、被験者の3個所の立ち位置を含む、左右210cmの領域になる様に設定する。この時、画面上にはそれぞれ50cm間隔で表示される。カメラおよびスクリーンの精度はNTSCのテレビ信号レベルである。2部屋のカメラで撮影されたビデオ信号はクロマキー合成装置により合成され、各部屋のプロジェクタに送られ、左右反転されてスクリーンに表示される。
第1室と第2室では、カメラまでの距離が異なる為、顔の向き(横顔の度合い)も異なる。例えば、第2室の右端の位置(R)の被験者がスクリーン左(L')を見る場合を考える(図5)。カメラはRの前方360cm、左10cm(=80-70)に、L'は左130cm(=80+50)にある。被験者がカメラを向いたときに正面顔が撮影されるので、L'を向いた場合には、左を向いた横顔が撮影されることになる。簡単な計算により、正面を向いた場合を0度として、その角度は約18度とわかる。そしてスクリーンにはその鏡映像が表示されるので、スクリーン左側(カメラの無い方)を18度向いた横顔が表示される。同様にして、C'を見る場合、R'を見る場合や、別の立ち位置(C,R)における角度も計算できる。
図5、第2室における顔の向き。
計算の結果、立ち位置毎に若干の違いはあるものの、第1室ではカメラに近い方から3°、13°、22°スクリーンの右側(カメラの無い方)を向いた横顔が撮影され、第2室では同じくカメラに近い方から3°、11°、18°カメラの無い方(今度はスクリーンの左側)を向いた横顔が撮影される計算になる。
実験では始めに、環境に慣れてもらう為に、超鏡システムについて簡単な説明をした後、画面上での握手、相互の空間の事物の指差しを体験させ、5分程、自由な対話を体験させる。その後、被験者達は、実験者の指示した位置に立ち、握手をし、お互いに相手に挨拶や呼びかけを行ってから、その場所での映像の自然さ、話のしやすさを7段階(「非常に自然で話しやすい」「自然で話しやすい」「すこし自然で話しやすい」「どちらとも言えない」「すこし不自然で話しにくい」「不自然で話しにくい」「非常に不自然で話しにくい」)で評価する。立ち位置の組み合わせは全部で6通りあるので、これらの評価はあらかじめ乱数により決めておいた順序に従って行う。6通り全部の立ち位置の評価が終了した後、全体を通しての感想や意見を自由記述の形で述べさせる。
7段階の主観評価を「非常に自然で話しやすい」を+3点、「非常に不自然で話しにくい」を−3点に得点化して統計処理を行った(図6)。その結果、第1室の被験者が画面上で第2室の被験者より左側に立ち、画面上でお互いの顔が向き合う場合{lR,cR,lC}には正の評価を、逆に右側に立ち、お互いに外側を向き合う場合{rL,rC,cL}には負の評価であった。特にお互いの映像が画面上で離れている場合{rL}には最も低い評価であった。図6より、話しにくい{rL}、どちらとも言えない{rC,cL}、話しやすい{lR,cR,lC}の3種類の評価グループがあるように読める。そこで、各条件間の評価値の差異をステューデントのt検定を行ったところ、危険率1%以下で、3グループ間に有意差が認められた。またグループ内の評価値には有意差は認められなかった。
図6、実験結果。内側を向き合う条件で話しやすいという評価。
また、角度の違い(第1室対第2室)による評価値への影響を調べたところ、カメラとの距離が近く、角度の変化量が大きい第1室の方が顕著であった。すなわち両者が画面両端にいて外側を向いていて話しにくいと評価された{rL}条件では、より低い評価であり、話しやすいと評価された{lR,cR,lC}条件では、より高い評価の傾向にあった。なお、第1室と第2室の評価値間(標本数は各18件づつ)の差異を検定したが、有意な差は認められなかった。また、同じ映像に対する比較ではなく、「同じ位置関係」に対する比較も行ったが、やはり有意な差は認められなかった。なお、「同じ位置関係」というのは、「画面中央の人がいて、中央の人の顔が向いている方にもう一人がいる」というcR-lCペアと「画面中央の人がいて、中央の人の顔が向いている反対側にもう一人がいる」というrC-cLペアの意味である(図7)。
図7、同じ位置関係(cとC、Rとl)の比較。
前実験では、お互いの顔の向きが内側を向いている場合には高い評価を、お互いが外側を向いている場合には低い評価であった。そこで、お互いの顔の向きが同じ方向である場合の話しやすさの主観評価を調べることにした。
実験状況は、前実験と同じ部屋で行い、第2室のカメラをスクリーン右側に設定した。この条件ではどの位置に立っても、全員の顔は画面右側を向いている。従って、お互いの顔の向きが向かい合う状況は得られない。必ず画面左側の被験者が右側の被験者の方を向いていて、右側の被験者はさらに右を向いているような映像となっている。立ち位置と顔の傾きの関係は実験1と同様に計算できる。実験手順、被験者も実験1と同じとした。
前実験と同様に、7段階の主観評価を得点化して統計処理を行った(図8)。図8より明らかな様に、評価傾向は前実験と異なり、被験者の画面上での左右差は評価に余り影響していない。代わりに、両者の画面上での距離、及び表示位置の影響が大きかった。両者が左右に離れている場合{rL,lR}が評価が低く、並んで立つ場合では、カメラに遠い{rC,cR}より、カメラに近い{cL,lC}、すなわち正面顔に近い方が、評価が高い傾向にある。しかし、評価が高いといっても、実験1での話しやすい立ち位置の3条件よりかなり低い。しかし、平均値の比較では第2実験の評価値の分散が大きいため統計的には両者間に優位差は認められなかった。
図8、実験1と実験2の結果比較。
第1室と第2室を比較すると、両者の間に顕著な差が読み取れる(図9)。第1室の被験者が左側に立っている{lR,cR,lC}場合、第1室では評価が高く、第2室では評価が低い傾向にあった。逆に第1室の被験者が右側に立っている {rL,rC,cL}では、第1室では評価が低く、第2室では評価が高い傾向にあった。つまり、画面左側に表示された被験者の評価値は高く、画面右側に表示された被験者の評価値は低かった。
図9、実験2の第1室と第2室の違い。
第1室と第2室の平均値を検定したところ、離れている場合{lR,rL}において、危険率1%以下で有意差が認められた(ステューデントのt検定)。また、画面右側に並んで立っている内の{cR}では、危険率5%以下で有意差が認められたが、他の3条件では有意差は認められなかった。
次に、同じ映像に対する比較ではなく、「同じ位置関係」に対する比較も行ったが、やはり有意な差は認められなかった。なお、ここでの「同じ位置関係」というのは、cR-rC、lC-cL、rL-lRペアのようにお互いの位置を交代した立ち位置の意味である(図10)。第1室の被験者が画面中央に立ち、第2室の被験者が画面右側に立つcR条件の(画面中央の)第1の被験者の評価値と、第1室の被験者が画面右側に立ち、第2室の被験者が画面中央に立つrC条件の(同じく画面中央の)第2室の被験者の評価値とを比較すること、同時に両条件で画面右側同士の評価値を比較するという意味である。すると、両者は類似した評価傾向を示し、全般にカメラとの距離が近く角度の変化量が大きい第1室の方が評価値の変化が顕著であった(図11)。両者の平均の差異を検定したところ、有意差は認められなかった。
図10、同じ位置関係(cとC、Rとr)の比較。
図11、実験2の結果において、同じ位置関係の場合の第1室と第2室の比較。
実験-1では、お互いの顔の向きが内側を向いていれば、話しやすいと感じる。両者の画面内での距離が隣り合う場合(実空間換算80cm)と、離れて立つ場合(実空間換算160cm)では差異は無い。一方、顔の向きが反対を向いている場合には、画面で隣り合う場合は、話しにくくはないが、離れると話しにくいと感じる。
実験-2では、必ず画面左側の被験者が右側の被験者の方を向いていて、右側の被験者はさらに右を向いているような映像となっている。各映像に対する評価は、画面左側の被験者の評価が高く、右側の被験者の評価が低い結果となった。また、「同じ位置関係」の映像に対する評価で比べると、両者は類似した評価傾向を示した。
超鏡対話では自己像が表示される為、「対話者としての自己」とそれを観察している「観客としての自己」が存在する。超鏡画面を評価する場合、客観的な第3者の「観客」として評価するのではなく、被験者は「観客としての自己」として自己像を中心に評価している。相手が自分の方を向いている事も大事であるが、それよりも、自己像が相手の方を向いている事が重要で、これが話しやすく感じるかどうかに大きく影響している。
相手の映像であれば、相手が自分のほうを向いていないことは好ましくはないが、やむを得ない事として受け入れる。しかし、自分の映像であれば、自分は画面上の相手のほうを向いて話をしているが、画面上では、そのようには表示されない。画面上で相手を向いて話している映像となるように行動したい[9][10][11]が、そのような映像では、画面を見ることができない。画面上で「観客としての自己」の望む姿を演じることができない。すなわち、演じることのできる身体表現と、演じたい身体表現との間に埋められない差があり、その点が不満となる。視線の代用[12]として、身体を相手の方に向けることが観察されている[3]が、これも、今回観察された現象と基を同じくすると解釈できる。
さらに実験1、2を通して、カメラとの距離が近く、角度の変化量が大きい第1室の方が、評価値の変化が顕著であった。この事も、話しやすさが相手の映像よりも、自己像から大きく影響を受けている事を示している。
これらは、実空間におけるソシオペタルとソシオフーガル[13][14]に対応する反応と解釈できる(図12)。
ソシオペタルな位置関係
ソシオフーガルな位置関係
図12、ソシオペタルとソシオフーガル
実空間において、対話をしたければ、相手の方に顔を向け、双方が中心視で見合えるような位置関係を選択する。それが結果的に、ソシオペタルな位置関係(図12上段)となる。一方、やむをえず同じ場に居合わせなければならない場合には、お互いに無関係に振舞うために、双方が中心視で見合うことが困難であるような位置関係を選択する。それが結果的に、ソシオフーガルな位置関係(図12下段)となる。
話したい欲求により、人々は位置関係を制御する。逆に、位置関係が人々の会話を制御する側面もある。
ソシオフーガルな立ち位置であれば、対話相手は視野外、あるいは視野内であっても周辺視に位置する。いずれにしても、双方が中心視で見合うことが困難である。その結果、ソシオフーガルな位置関係では、相手の存在を知覚しつつも、双方共、無関係に振る舞い、対話しない事が自然である。
しかし超鏡対話では実空間とは異なり、画面上でソシオフーガルに相当する位置関係であっても、超鏡画面上の対話相手を中心視で見ながらの対話が可能である。超鏡画面上でのソシオペタルな位置関係における視野と同じままである。つまり、実空間における位置関係から必然的に得られる
「ソシオペタルの位置関係になる → お互いに相手を中心視で見ることができる → 会話をしたくなる」
「ソシオフーガルの位置関係になる → 相互に相手を中心視で見ることが困難になる → 会話をしたくなくなる」
という一連の因果関係が超鏡では成り立たない。
超鏡対話においてソシオフーガルな位置関係が話しにくいという評価を受けたのは、物理的な視覚刺激(中心視野では相手を見られない、見るのが困難)が原因ではないということになる。お互いの位置関係がソシオフーガルであるという認識が知的スキーマとして機能し、話しにくいという評価につながったと解釈できる。くり返しになるが、この「話せるが、話しにくいとも感じる」不自然さが、前述の「快適に使えるが副作用が問題になる」レベルの視線問題であり、本論文で焦点を当てているレベルである。
対話するとき、話し手は聞き手を常に見続けながら話す訳ではないが、要所要所では、聞き手を見ることにより、聞き手の状況を把握する[15]。同様に、聞き手も話し手を常に見続けながら聞く訳ではないが、やはり要所要所で話し手を見たり、うなずいたりすることにより、自分が話をちゃんと聞いている事を話し手に伝えている[16][17]。
これらの行為自体は当事者にとって意味を持つだけでなく、周囲の第3者に対し、話し手と聞き手を特定する役目も担っている[18]。ある一瞬の映像だけでは話し手と聞き手を特定することは難しいにしても、しばらく観察していれば、周囲の人は、誰がその話に参加しているかを知ることができる。我々が3人以上で「対話をする」とは、実は「話し手または聞き手になる」だけでなく、「周囲の第3者になる」事も含んでいる。超鏡では、自己像が表示される為、自分が話し手であっても周囲の第3者としての視点を持つことになる。この周囲の第3者である「観客」としての視点で行動することが、超鏡対話の円滑な進行に貢献していることが示されている[4]。
この他の事例として、超鏡画面上で対話相手との距離を一定に保とうとする行為が観察されている[19]。これは実空間におけるパーソナルスペース(他人の侵入によって不快感を感じる領域)に対応すると考えられる[20]。
なお対話者が、超鏡画面を自己を含む独自の世界と認識し、超鏡画面上での相対位置関係を実空間の相対位置関係と同様に扱う事は、超鏡システムの設計思想である。その意味で、この実験結果は、設計意図通りに超鏡システムが機能していることを示す事例になっている。
本報告では、超鏡対話における対話者の配置と話しやすさの関係について述べた。
超鏡対話は対面対話とは異なる新しい対話空間である。実空間では、対話者間の位置関係により、お互いの視野が変化する。そのため、ソシオペタルな位置関係では話が弾み、ソシオフーガルな位置関係では、お互いの視野に共通部分が少なくなり、結果的に対話が抑制される。しかし、超鏡対話では、位置関係が変化しても視野はほとんど変化しない。それにもかかわらず、超鏡空間での対話者の相対位置関係は、実空間のそれと類似した意味を持つ。
第1実験により、両者がお互いに画面上で内向きの時に話しやすいと感じることが分かった。また、顔の向きが内向きでない場合には、両者が画面上で近くにいる必要があることも分かった。これは、実空間におけるソシオペタルの位置関係に相当する。逆に画面上でお互いの顔の向きが反対を向いているとソシオフーガルに相当する配置となり、話しにくく感じる。さらに第2実験により、相手が自分の方を向いている事も大事であるが、それよりも、自己像が相手の方を向いている事が重要であることが分かった。それは、超鏡対話における「観客としての自己」の視点での評価と言える。
超鏡対話は、対話者に対面対話と違うという事を明かにし、ありのままのメディアの特性を人間が熟知して、それを使いこなす事を期待して設計してある。本結果は、超鏡画面上での位置関係を、実空間での位置関係と同一視し、実空間での知識を超鏡対話時の知的スキーマとして対話に利用している事を示している。これは、超鏡システムの設計意図通りに、利用者が行動している事の傍証と考える。
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