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三宅島2000年7月噴火の噴出物の岩石学的検討

−新鮮な火山ガラスが本質物で ある 可能性について−

地質調査所 2000.07.31

※2000.08.06内容追加

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2000年7月に新たに生じた山頂火口起源の降下火山灰について、走査電子顕微鏡
(二次電子像および反射電子像※0)を用いた微細組織の観察と、EPMAを用い
た斜長石および磁鉄鉱の化学分析を行いました。火山灰には新鮮な発泡ガラスが
含まれ、これをMyk2000g(※1)と呼んでいます。Myk2000gは、多面体状の外形を
示し、細かい気泡に富み、鉱物化学組成が均質で、噴出した火山灰粒子の圧倒的
多数を占めます。これらの特徴はマグマ水蒸気爆発の噴出物と考えて矛盾がない
ものです。また、噴煙の観察にはマグマの関与を示唆する数々の特徴(※2)があ
ることも考慮すると、一連の噴火は「マグマ水蒸気爆発(※3)」だった可能性が
高いといえるでしょう。

※0 走査電子顕微鏡写真等は、
  ../../../../../Works/Event/Miyake2000/
  から閲覧可能です。

※1 岩石成因論を進めるため、今後Myk2000gを細分類する可能性があります。

※2 マグマの関与を示唆する事柄として、以下があげられます。
・噴煙が黒かった事
・コックステールジェットが見えた事
・噴火継続時間が長かった事
・山頂火口から放出される噴石の中に、空中で炸裂し粉砕されたように見えるも
    のがかなりの数認められたこと( これです)※2000.08.06内容追加


※3 どのようなタイプのマグマ水蒸気爆発かに関しては、
  今後の検討を要します。


 試料や分析手法等について:

観察した試料は、は8日、14日午前、午後に放出された火山灰です。これらを超
音波洗浄器で水洗し、0.25から0.15mm区間に篩分けました。これについて実体顕
微鏡(7/18 予知連に報告済)による観察を行い、つぎに、試料の一部を片面研磨
し、反射電子像(7/22 予知連に報告済)による観察を行うとともに、EPMAを
用いて斜長石微斑晶と磁鉄鉱の化学組成を分析しました。

なお、0.25から0.15mm区間とそれ以外の粒子との間には、実体顕微鏡で見た限り
では、種類等の大きな差は認められませんでしたが、今後電子顕微鏡やEPMA
による確認を行う予定です。


主要な観察分析結果:

・噴出物は、新鮮な多面体状の発泡ガラス片(Myk2000g)、岩石片のほか、結晶片
  から構成されます。

・構成粒子のうち、新鮮な発泡ガラス片がもっとも多く、特に14日の噴出物では
  約半数程度含まれています。
  (0.15-0.25mmの粒径について、0.1mm以上の粒径については構成物量比はほぼ
  同じです。より細粒部分については今後検討を予定しています。)

・8日の火山灰中のMyk2000gは直径50-100μmの気泡を含み、主に黒色-暗灰色で、
  赤褐色のもの、赤黒まだらのものを伴います。
  黒色-暗灰色の粒子は、14日よりも透明度が高い傾向があります。
反射電子像等はこちら

・14日の火山灰中のMyk2000gは直径10-30μmの気泡を含み、
  大部分が黒色-暗灰色を呈します。
反射電子像等はこちら

・岩片は、山体を構成していたとみられる玄武岩片(新鮮なものと変質したもの
  あり)のほか、基盤に由来するとみられる変質した白色岩片を比較的少量含み
  ます。

・結晶片は、斜長石、輝石のほか、斜長石と輝石、磁鉄鉱の集合体があります。
  一部の結晶片は、まわりに新鮮なガラスが付着することから、
  Myk2000gと同源と考えられます。

・Myk2000gの微斑晶斜長石組成は、7/8と7/14とで若干異なりますが、
  それぞれ一つの集団を形成します。
組成グラフ等はこちら

・14日のMyk2000gの斜長石微斑晶組成は、宮坂・中川(1998)による1940年山頂ス
  コリアの斜長石斑晶リム組成と同範囲(An60-90)ですが、その頻度分布幅は狭
  いです。
組成グラフ等はこちら

・8日のMyk2000gの斜長石微斑晶組成は、宮坂・中川(1998)による1940年山頂ス
  コリアの斜長石斑晶リムの組成分布に比べて、An組成が若干低いです。
組成グラフ等はこちら

・Myk2000gの磁鉄鉱化学組成は、類質岩片や変質岩中のものとは明瞭に区別され
  ます。
  特に14日のMyk2000g中の磁鉄鉱化学組成は、非常に狭い範囲に集中します。
  ※但し、組成の若干異なる集団も認められ、Myk2000gの組織の違いに対応して
  いるようにみえます。特に、8日のMyk2000gには、磁鉄鉱化学組成が14日とは
  明瞭に異なるものが含まれていて、今後慎重な分類作業をする余地があります。
組成グラフ等はこちら


・8日火山灰中のMyk2000gは直径50-100μmの気泡を含み、発泡形態は、
  津久井・鈴木(1995)による三宅1983年新鼻のマグマ水蒸気爆発噴出物に
  似ています。

・14日火山灰中のMyk2000gは直径10-30μmの気泡を含み、発泡形態は、
  津久井・鈴木(1995)による三宅1983年新澪池のマグマ水蒸気爆発噴出物に
  酷似しています。

・Myk2000g中の磁鉄鉱には離溶組織がみられませんが、
  類質岩片や変質した粒子中のものは離溶組織を示すものが多く見られます。


以上のような特徴を、山体内の雑多な噴出物の破砕(水蒸気爆発)でつくることは
不可能ではありませんが、困難だと考えられます。むしろマグマ水蒸気爆発の噴
出物と考えたほうが矛盾がありません。


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