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三宅島2000年8月18日噴出物について

火山弾に敷かれた/付着した赤灰色火山灰の加熱温度
  −空気中で加熱した火山灰との色分析比較−

8月18日には高温のマグマ物質が放出されていた

地質調査所 2000.08.31

担当:宮城磯治


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■結論

8月18日のカリフラワー状火山弾に 敷かれた/敷かれて直接接触している赤灰色火山灰は、 同噴火で堆積した青灰色火山灰が高温酸化されたものと考えられる。 火山灰が火山弾により焼かれた際の推定温度は、敷かれた(1cm下)ものが約350 ℃、 付着した(接触)火山灰が約550 ℃ と見積られた。

なお、この温度は「火山灰が焼かれた温度」であって、 「噴石の温度」ではありません。そこで、 火山灰が約500℃に加熱するために必要な噴石の温度を知るために、 「熱い噴石が火山灰を加熱する過程」の熱伝導数値シミュレーションを 東宮@地調氏にお願いしてます。近々に結果が公開されるでしょう。--- はい、計算結果が出ました。 これです。 この計算例によると火山弾の初期温度は、 下に敷かれた火山灰(「below」, 1cm下)が焼かれた温度(300-350℃)の約三倍になり、 また、 下に敷かれて接触している火山灰(「contact」, 接触部)が 焼かれた温度(約550℃)の約二倍になることが予想されます。 このように、below, contactどちらの見積もりでも、火山弾の初期温度は 約1000℃ 程度と推定されます。 よって、 8月18日には高温のマグマ物質が放出されていた ことが明らかになりました。

-----以下補足説明-----
この仕事をするきっかけを与えてくださった研究機関の方々により、 本研究の結論に起因する誤解や疑問に関して指摘をいただきましたので、 以下に補足説明をします。 誤解の例としては、 誤解0 :「あの水蒸気爆発でそんなに熱いものが出たなんて信じられない」や、 誤解1 :「地調は(地下水の関与のない)マグマ噴火だと考えている」や、 誤解2 :「新澪池の溶岩噴泉の例では本質物は赤熱していた (それなのに今回は赤熱していないから、マグマ噴火ではないはずだ)」や、 誤解3 :「そんなに熱いものが降ったらすぐ火災になるはずだ (それなのに火がでなかった)」や、 誤解4 :「表面が1000℃もある火山弾なら赤熱状態のものが見えてもいいはずだ (それなのに今回は赤熱していない)」などです。

誤解0〜2は、 単に、受け手の思い込みに由来するものです。 なぜならば、私が主張していたことは 「マグマ水蒸気爆発(マグマと水が関与)であり 水蒸気爆発(マグマが直接関与しない)ではない」、 であって、わたしも地調も 「今回の噴火は(地下水の関与しない)マグマ噴火だ」 と主張したことは一度もないからです。

誤解3は、 なんともいえません。 本研究によれば、噴石から1cm離れた火山灰の温度は 300-350℃程度まで加熱されたと見積もられ、 この温度は木材(250-260℃)や木炭(250-300℃)の発火点 (物質を空気中で加熱するとき、火源がなくとも発火する最低温度) を若干越えています。 たしかに熱いものが降れば火が出る可能性はあります。 しかしながら、燃える物の上に直接落ちなければ、火は出ません。 噴石が比較的多く降った山頂部はすっかり灰に覆われています。 火山灰は、燃えません。 噴石で壊された牛舎や納屋は土間なのでそのような床は燃えませんし、 宇都@地調談によればそこに落ちていた噴石はあきらかに異質岩片 だったとのことです。 したがって、牛舎が火事にならなかったのは当然のことです。 ですが、山頂近くに剥き出しの木材が全くないとはいいきれませんし、 その木材の上に、 熱がうまく伝わるように密着(発火に必要な温度上昇のため)しつつも、 かつ空気の通りも良い(発火に必要な酸素供給のため)ように 適度に隙間もあるようなうまい具合いに火山弾が落ちる可能性は ゼロとはいいきれません。 このように、誤解3については決め手がありませんが、 火災が起きなかったことはとくに不思議ではないでしょう。

一方、誤解4については、 一部こちらの表現不適切があったかもしれません。 結論を言うと、 熱伝導シミュレーション計算において初期条件として 噴石の温度は表面も内部も同じ温度にとったのは 「前提」であって、 シミュレーションの「結果」ではないことに ご注意下さい、ということです。

実際には、噴石が火口を出て空気中を飛行する間に その表面が冷却されるはずです。 その場合、 この計算の「前提」が成り立つのは、 冷却された部分の厚みが噴石の直径に比べて無視できるほど小さい場合、 すなわち噴石の直径がある程度大きい場合に限られます。 そのような(着地前にあるていど冷却を受けた)噴石が火山灰を焼いた温度から、 その噴石の初期温度を見積もっています。 ※表面が冷却された火山弾でも、 内部からの熱伝導で再び表面を加熱することが可能です。

さて、もしもこの計算の「前提」が成り立ちにくいほど小さな噴石や、 より効率的に冷却を受けた噴石について、 同じ「前提」のもとに 初期温度を見積もった場合は、 実際の温度と見積もり温度はどういう関係になるでしょうか? 実際の噴石の温度は見積もりより高温になるはずです。 というのは、 仮定したよりも表面温度の低い噴石によって、 それに敷かれた火山灰を同じ温度まで焼くためには、 より高温な内部温度が必要になるからです。 しかもそのような噴石は、内部が高温であるにもかかわらず、 表面は冷却されているために赤熱してみえないでしょう。 また、マグマ水蒸気爆発で放出されるマグマの塊は、 火口を出る以前にも、地下水との接触によって冷却を受けるはずです 今回のような方法で見積もられるのはそのような冷却後の温度です。 したがって、地下水に触れる前の温度は、 見積もりよりさらに高いはずです。 いずれにせよ、 8/18日に高温のマグマが放出されていたという結論を変える必要は、ありません。
-----以上補足説明-----

■分析試料

  • 赤灰色火山灰
    [1 ]村営牧場に落下した直径約15cm のカリフラワー状火山弾に付着する赤灰色火山灰.
    [2 ]カリフラワー状火山弾直下の赤灰色を呈する火山灰
  • 8/18 噴出火山灰
    [3 ]火山豆石含有青灰色火山灰

    ■作業

    電気炉を用いて、試料3を11種類の温度(200‐ 600 ℃)と時間(6‐ 360 分)で 空気中で加熱処理した。 加熱後の試料と、試料1 と2 の色を測色計で測定し、La*b*色空間で表現した。

    ■結果

    電気炉で加熱した試料3 群と試料1,2は、 a*‐ b*色平面上でほぼ同じ色変化トレンド (加熱とともに赤みと黄色みが増加する)上に乗ることがわかった。 加熱温度が同じ場合、火山灰の赤み(a*値)は加熱時間とともに増加する。 温度−時間平面上に色(a*[ 赤み] )の等高線を描くと、 色によって加熱時間と温度の間に制約を与えることができる。 もし2 時間程度の加熱であれば、 火山弾に付着した火山灰は約550 ℃、 底に敷かれた火山灰層は約350℃程度の加熱を受けたことになる。


    加熱による火山灰の色変化
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    加熱温度、加熱時間、赤みの関係
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