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超精密カラー立体地図

行政,観光,教育等においては,特定地域の地形をユーザに提示する必要がある.このような場合,実際の地形を正確に縮小した立体地図を用いれば,地形図の読取りに不慣れな一般ユーザも地形を容易かつ正確に把握することができる.しかしながら従来の立体地図は主に熟練技能者が地形図を読取りながら手作業で製作しているため,高精度の立体地図製作は困難であるとともに多大な製作コスト・時間を要するという制約がある.

その一方,精緻な地形・景観を表示する優れたソフトウェア多数存在する.しかしながら

といった体験は,マウスとディスプレイだけを介したバーチャル世界との相互作用では決して代替することができない.そのため,どうしても「現物の」立体地図を製作する技術が必要となる.

最新世代 彩色マイクロ岩手山 (粉体積層造形+新機能カラー画像フィルム,2010年)

彩色マイクロ岩手山

この地図の作成に当たっては,国土地理院長の承認を得て,同院発行の数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである.(承認番号 平20業使,第181号)

サイズ
300 mm×250 mm
東西15 km×南北12.5 kmに相当
15万ポリゴン
縮尺
1/50,000
20 mmが1 kmに相当
表面画像
1/25,000地質図を1/2に縮小
新機能カラー画像フィルムに印刷
立体地図に貼り付け

産業技術総合研究所 地質標本館 秋の特別展「イーハトーブの石たち-宮沢賢治の地的世界-」(2010/11/16~2011/01/30)にて展示.

要素技術1. 精密な地形の造形

地形情報をデジタル化した数値地図データを計算機に読込み,3次元立体モデルを造形可能な各種ラピッドプロトタイピング装置

に入力すれば,高精度立体地図を低コスト・短時間で製作することができる.

要素技術2. 高画質カラー画像の付加

新機能カラー画像フィルム
柔軟かつ伸縮性があるため,複雑な凹凸面に皺にならず貼り付け可能
高画質カラー画像(地形図,地質図,衛星写真 等)を一般的なインクジェットプリンタで印刷可能

↑ここに至るまでには,10年間の道程と多くの人々との邂逅があったので御座いまする.

第1世代 マイクロ筑波山 (光造形,2000年)

マイクロ筑波山

この地図の作成に当たっては,建設省国土地理院長の承認を得て,同院発行の数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである.(承認番号 平12総使,第181号)

サイズ
360 mm×400 mm×高さ44 mm
東西18 km×南北20 kmに相当
28万ポリゴン
縮尺
1/50,000
20 mmが1 kmに相当
比高2 (高さを2倍に強調)
造形時間
43時間
造形費用
30万円

第2世代 マイクロ群馬県 (紙積層造形,2005年)

マイクロ群馬県

この地図の作成に当たっては,国土地理院長の承認を得て,同院発行の数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである.(承認番号 平16総使,第543号)

サイズ
260 mm×380 mm×高さ59 mm
東西13 km×南北19 kmに相当
19万ポリゴン
縮尺
1/50,000
20 mmが1 kmに相当
比高1.25
造形時間
21時間
造形費用
6.4万円

光造形は高精度の反面コストも高いということで紙積層造形に変更し,大幅なコストダウンを達成.懸念していた造形精度は,光造形と比較して特に遜色ない

次世代への課題

ふにゃふにゃマイクロ群馬県見たまえ小野寺君,神流川流域の大変動を!

後述するように本モデルは展示中に水をかけるため,十分な耐水性が求められた.そこで紙積層造形モデルにエポキシ樹脂を浸含し,さらに耐水塗装を施して万全を期したが,わずか1週間の展示リハーサル(本番は2ヶ月)で無残に変形してしまった.耐水層のピンホールから水が浸透し,内部で紙が膨潤したと考えられる

第2世代改 耐水マイクロ養老川 (紙積層造形+真空注型,2005年)

耐水マイクロ養老川

この地図の作成に当たっては,国土地理院長の承認を得て,同院発行の数値地図50mメッシュ(標高)を使用したものである.(承認番号 平16総使,第542号)

サイズ
260 mm×760 mm×高さ39 mm
東西13 km×南北38 kmに相当
38万ポリゴン
縮尺
1/50,000
20 mmが1 kmに相当
比高4 ←XVLを利用したネットワーク経由プロセスで決定
造形時間
計123時間 (6分割して造形)
造形費用
15.3万円

千葉県立中央博物館の企画展「旅する地球の水」(2005/07/02~08/31)にて展示.立体地図に実際に水をかけて降水が川となる過程を体感する展示であるため,完璧な耐水性が要求された.そこで紙積層造形モデルからシリコーンゴムで雌型を型取りし,さらにエポキシ樹脂を雌型に真空注型することにより一体構造とした

真空注型に挑戦

真空槽
少し狭いが,人も入れる(洒落になっていない).減圧すると,真空槽の6面にはそれぞれ約8トンの大気圧が作用する
これだけ大型の真空槽が簡単に見つかり,快く使わせて貰えるのが産総研のイカスところ Special thanks to... なお,JAXA(宇宙航空研究開発機構,産総研の斜め向かい)にはもっと豪快な設備がある
オリジナル&雌型
紙積層造形によるオリジナル(手前)とシリコーンゴムで型取りした雌型(奥),型取り作業でもシリコーンゴムを真空脱泡している
注型
エポキシ樹脂 主剤+硬化剤+着色剤を混合し,1次真空脱泡を経て雌型に注型
真空脱泡さらに激しく真空脱泡
注型後の2次真空脱泡.10 Pa程度(大気圧の1万分の1)に減圧すると,エポキシ樹脂が室温でグツグツ沸騰する
真空脱泡完了
細かい凹凸がビッシリの大型モデルにもかかわらず,大気圧に戻すと気泡は全く無い
焼鈍処理
硬化後に雌型から取出し,軽~く焼き鈍して歪取り+強度向上
お手軽かつ安全な熱源として,布団乾燥機を使用
2つで十分ですよ
色違いで複製,左から 次の機会には,ブラックライトで照らすと妖しい蛍光を発するモデルや川筋に沿ったフォグ染色を試してみたいものである

さらなる課題

  1. モデルを6分割して造形したため,継ぎ目に段差が生じてしまった.装置の最大造形サイズを利用できれば2分割で造形可能なはずだが,複雑な等高線形状を切断する過程に長時間を要し,それを装置がタイムアウトエラーと判定してしまうという制約があった
  2. 紙積層造形では山頂部を小さな紙片を小面積で接着することになるため,その部分が欠落しやすい.特に本モデルは地形の凹凸を4倍に強調したため山頂が切り立った形状になり,簡単に欠けてしまうことが多かった
  3. 紙積層で立体地図のように複雑な形状を造形すると,不要部分の除去に随分と手間と時間を要する
  4. 本立体地図は注型品としては分厚いモデルであるため,大量の樹脂が一気に反応して高熱を発するおそれがあった.そこで硬化が急速に進行するポリウレタンやポリエステルではなくエポキシ樹脂を使用し,さらに反応時間が極力長いタイプの硬化剤を選択した.それにもかかわらず実際には結構な発熱があり,硬化中の樹脂が収縮してモデル側面で雌型との間に隙間(ヒケ)が生じてしまった.そこで混合容器に残った未硬化の樹脂をかき集め,慌てて隙間に充填するというスリリングな場面もあった
  5. モデル裏面をくり抜いて厚さが極力均一なシェル形状にすれば,硬化反応が穏やかに進行するため発熱に伴う問題を解消し,さらにモデルを軽量化することができる.ただしそのためには今回行った片面取りによる型取り+注型作業ではなく,より熟練を要する両面取りを習得しなければならない
  6. モデルが分厚いため,透明着色剤は少な目の方が良い感じ
  7. 型取り+真空注型では,オリジナルから2回のコピーを経てモデルを複製することになる.これに対して立体地図の形状を反転した雌型を直接造形すれば1回のコピーで複製可能となり,工程数・製作コスト・形状精度の劣化を最小限に減らすことができる

第3世代 量産型マイクロ筑波山 (粉体積層造形+バキュームフォーム)

大人の事情により,画像は準備中

サイズ
125 mm×125 mm×高さ32 mm
10 km四方に相当
7.7万ポリゴン
縮尺
1/80,000
12.5 mmが1 kmに相当
比高2
原型造形時間
3時間
粉体積層造形では,不要部分をエアで吹き飛ばして簡単・短時間に除去可能
原型造形費用
3万円
後処理
石膏ベースの粉体積層モデルに超低粘度エポキシ樹脂を浸含して補強
複製時間
約5分,熟練すればもっと速い
複製費用
125円

バキュームフォーム作業 (ビデオ WMV 425 kB)

バキュームフォーム
バキュームフォーム (真空成型)
低コスト,短時間,軽量,ただし要熟練
ストレート法 (今回の方法)
熱して柔らかくした樹脂シートを雌型の内側に密着
(原理的には)型の精度を劣化させず直接転写可能 ←これ重要
モデルの形状を反転した雌型を製作しなければならない
↑ラピッドプロトタイピングでは,簡単なデータ変換により反転型を造形可能
雌型の凹部分(山頂・稜線に相当)から空気を抜くための通気穴に要配慮
ドレープ法
樹脂シートを雄型の外側に被せて密着
モデルと同形状の雄型を製作すれば良い
樹脂シートの厚さ分だけ精度が劣化

「等身大の技術体験」 バキュームフォーム作業の教育効果

関連技術

特許 公開特許公報 特許公報

特許4572387
高精度立体地図作製方法

こぼれ話

ラピッドプロトタイピング技術の一つである光造形法は複数の起源に遡るが,発明者の一人は日本の小玉 秀男氏である.1980年に小玉氏は光造形法のアイディアを実証する試みとして,エベレストの立体地図を製作した.

北口 秀美 光造形法の発明

それから30年後の2010年,本ページの技術を使ってエベレスト近辺のカラー立体地図を製作する機会を得た.最新の衛星リモートセンシング技術,ラピッドプロトタイピング技術,新機能カラー画像フィルムが融合した成果がエベレストに回帰するとは,偶然ではあるが実に感慨深い.

マイクロエベレスト

エベレスト近辺50 km四方,サイズ約900 mm×900 mm

JAXA 宇宙航空研究開発機構 筑波宇宙センター展示館にて展示中.

展示館のオープン当初は良く目立つ場所に配置していたが,動線確保のためか次第に隅に移動しつつある.来訪の機会があれば,だいち周辺を探してみてくだされ.また筑波研究学園都市のカラー立体地図も製作したが,こちらは起伏に乏しい地味な地形であるうえ,エベレストよりもさらに眼に触れにくい場所に置いてある.

リンク

国土地理院
数値地図
地図と測量の科学館
日本地図センター
産業技術総合研究所 地質調査総合センター
数値地質図
JAXA 宇宙航空研究開発機構
陸域観測技術衛星 だいち ALOS Advanced Land Observing Satellite ←設計寿命を2年以上超えて働いただけでなく,機能停止間際には東日本大震災による変動を観測するなど,大変お疲れ様でした.
陸域観測技術衛星2号 ALOS-2
地球観測研究センター
衛星リモートセンシング
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