3.ナノバブルの世界
3.1.千葉氏との出会い(余談から失礼します)
REO研究所の千葉金夫はある時に不思議な経験をしました。宮城県のある水族館の水質浄化を依頼されてオゾンマイクロバブルを利用した浄化の取り組みを実施していたとき、水質の安定化のために様々な試行錯誤を続けていた過程で、ピンク色の水ができあがりました。マンガンなどを含んだ水にオゾンを供給すると水がピンク色を呈することがあります。これはマンガンイオンの価数が上がって過マンガン酸イオンとなったための発色であり、水中のオゾンが分解などされて無くなるとこのピンク色も消え去ります。ところが千葉が目にした水は数日経ってもピンク色が消えずに残っていました。この奇妙な現象は千葉に強烈な印象を与えたものの、その実体については不明なままでした。その後、産総研との共同研究を実施する過程で、マイクロバブルやその圧壊のメカニズムを理解した千葉は、当時は未完成であった技術を完全なものとして完成させました。
我々はこのピンク色をした水をオゾンナノバブルと名付けています。実は千葉氏と知り合う以前に自分自身はマイクロバブルの気泡粒径の変化や電位測定、圧壊技術の検討を進めていました。その過程で自然放置のマイクロバブルが擬似的に安定化している可能性が高いことを発見し、同時に電解質の高い条件下でマイクロバブルを強制的に圧壊させたとき、より微細な気泡として長期に安定できるのではないかとの考えを抱くに至りました。そんな折りに、REO研の千葉氏と出会い、彼の作った不思議な水を目にするに至り、また千葉氏がその技術を現実のものにしつつあることを知りました。そして、彼に対してその不思議な水の実体が、より微細で安定化した気泡である可能性が非常に高いことを伝えました。
現在、千葉氏とはマイクロバブルの応用を含めて様々な技術開発を進めています。その出会いにおいて将来を決定づけた極めて短い会話があります。「この泡は消えると思いますか?」「なかなか消えなくて困っています」。
私はマイクロバブルを研究する過程で、その特異性が水中での消滅にあることを発見していました。当時はそのことを理解している人は誰もいませんでした。同時に、逆説的ですが、消えるように見えて消えない泡も存在することについて確信に近い感覚を得ていました。千葉氏が行っている排水処理場を見せてもらったときに、この人物がただならぬ傑物であることを悟りました。世の中で自分しか知り得ないはずのマイクロバブルの圧壊という現象を既に実用化技術として完成させているわけですから。そこで彼がどこまで理解しているかを試したいと思い「この泡は消えると思いますか?」という質問を投げ掛けました。その答えは私にとっては衝撃的でした。世の中の人はマイクロバブルさえ理解していないはずなのに、その先にあるものを知っている。禅問答のようなやり取りは私にとって彼を理解するのに十分な会話であったと思います。彼はただ者ではない。千葉氏も私に同様なものを感じられたのかもしれません。この日を境に新しい歯車が大きく回り始めました。その後の道のりは研究や技術の点から見ればジェットコースターのようでした。同時に、マイクロバブルを含めて新しいものを世の中に広めることの苦難を味合わさせられた日々でもありました。思い返したくもない出来事も多数ありましたが、良きにつけ悪しきにつけ、その先頭にあったのが「ナノバブル」でした。この世のものとは思われないこの「技術」について少しだけですが紹介させて頂きます。
なお、千葉氏の「・・・困っています。」という語尾にはナノバブルだけではない深い意味が含まれています。これは「困ったこと」ではなく、新たな未来への入り口でもあるように思われます。