
高熱伝導セラミックスは、発生する熱を速やかに伝達、拡散し、緩和、冷却する等の熱媒体としての役割を果たすことから、高集積電子回路用の基板材料、レーザー発振部等の放熱部材(ヒートシンク)、半導体製造装置の反応容器部材、精密機械部材、冶具部材等の分野への応用が着実に進んでいる。
高熱伝導セラミックスとして確固たる地位を築いたのがAlN 及びSiCである。これらのセラミックスは、1981年では熱伝導率は100Wm-1K-1以下であったものが、1980年代後半には単結晶並みの熱伝導率(270 Wm-1K-1)を示すものが研究室レベルで開発された。特に、AlNセラミックスの熱伝導率は理論値(320 Wm-1K-1)の84%に達し、その応用のみならず基礎科学の観点からも高い興味を持たれた1)。 本解説では、高熱伝導AlNセラミックスの微構造や特性についての最近の知見を報告するとともに熱伝導メカニズムについて述べたい。
セラミックスの熱伝導率は、粒子内における格子欠陥、転位、ひずみ、固溶体等の結晶欠陥、粒界相や気孔等の存在により低下する2)。AlNの場合、その熱伝導率は不純物酸素により大きく影響される。酸素はAlN内では窒素原子の位置に置換固溶すると考えられ、その固溶限界は約1.5at%と推定される3)。固溶により、(1)式に示すようにAl位置にAl空孔を生成し3)、それがフォノンを散乱させる点欠陥となり、その量に応じてAlNの熱伝導率は大きく低下する。
不純物酸素量がさらに増加すると、ドメインバウンダリー4)、積層欠陥5),6)等の結晶欠陥を生じる。このため、AlNの高熱伝導率化には不純物酸素に起因する結晶欠陥の除去が重要である。

図1 AlN, SiC, Si3N4セラミックスの熱伝導率の向上とそのプロセス因子
AlNセラミックスの熱伝導率は、図1に示す(1)助剤の添加、(2)粒界酸化物の析出、(3)高純度原料粉末の添加、(4)還元焼成により向上した1)。それぞれのプロセスについて詳細に検討した結果、@添加した助剤(Y2O3、CaO)がAlN粒子表面上に存在するAl2O3と反応して液相を生成し、液相焼結機構による焼結性の向上2)、AY2O3添加に伴う複合酸化物(例えばAl2Y4O9等)の粒界3重点での析出による粒内の酸素固溶量の低減2)、B高純度微粉末原料の添加による不純物元素の低減と焼結性の向上7)、C還元窒素雰囲気下の焼成によるYNの生成及び粒界相成分の試料表面への移動による粒内酸素量の低減8)によることが明らかになった。通常市販AlN粉末を助剤無添加で緻密化することは困難である。助剤の添加は熱の流れを阻害すると考えられるが、(a)焼結時にAlNを分解させない、(b)酸素に 起因する結晶欠陥の減少を誘導する複合酸化物を粒界に析出する助剤種の選択により、高熱伝導率化を大幅に図ることができた1)。 (a)については、助剤共存下でのAlNの熱力学的安定性、つまりAlN、金属、窒化物の酸化反応における標準自由エネルギー変化の評価、(b)については助剤を含むAl2O3化合物の生成標準自由エネルギー変化から説明される。図2にAlNの高熱伝導率化を達成するための(a)及び(b)の熱力学条件をまとめた相図1)を示す。 この結果、Y2O3及びCaO助剤がAlNの熱伝導率の向上に大きく貢献することを熱力学考察により明らかにした。一方、SiCの熱伝導率、さらには近年顕著な向上が見られるSi3N4の熱伝導率においても、AlNと同様に高純度原料微粉末の添加、焼結を促進しかつ粒界に化合物を析出する(固溶しない)助剤種の添加が有効である(図1参照)。
表1に各種AlNセラミックスの特性を示す。試料Aは、AlNにY2O3(5.2mass%)を加えた成形体を1800℃で2時間 AlN製坩堝で焼成したものである。試料BとCは、試料Aをさらに1900℃でそれぞれ20時間及び100時間、グラファイト製坩堝に入れ、還元窒素雰囲気下で熱処理したものである。1900℃で熱処理したAlNセラミックスは室温において200 Wm-1K-1以上の高い熱伝導率を示し、100時間熱処理した焼結体(試料C)は単結晶並みの熱伝導率(272 Wm-1K-1)を示した。表1の粒界相は、X線回折(XRD)による同定結果である。試料BとCについては粒界相の存在は確認されなかった。 粒界に析出する結晶相(複合酸化物)は、AlN,Al2O3,Y2O3の量から、状態図より推察することが可能であり、報告例も多い9)〜11)。今回の還元雰囲気焼成の場合、(2)式に示す反応により時間経過とともにAl2Y4O9相は、ほぼすべてY2O3相になる。さらに焼成時間の増加に伴い、(3)式に従いY2O3相も消滅し、YNはその蒸気圧の高さから系外(試料表面)に移動するため粒界相量は大きく減少する。
得られた試料の酸素量及びその挙動を燃焼式分析にて測定し、その結果12)を図3に示す。AlNからの酸素の放出は加熱温度に対して2つのピークが見られた。高温側で観察された酸素の放出ピークは窒素の放出後に観察され、これはAlNの分解により生成する酸素、つまりAlN粒内に固溶した酸素に起因するものである(領域II)。一方、低温域で観察された酸素ピークは粒界に存在する酸化物からのものである(領域I)。これらの結果から粒界及びAlN粒内における酸素量、セラミックス全体の酸素量を求めると表1になる。比較のために、単結晶のデータ3)も示した。高熱伝導を示す試料Cの場合、粒界の酸素量は0.03%、粒内酸素量は0.02%であり、従ってセラミックス全体酸素量は0.05%である。この酸素量は極めて少ないことから、そのため試料Cの熱伝導率は高純度単結晶と同等の値を室温において示したと考えられる。
熱伝導率が150Wm-1K-1以下の場合、不純物酸素に起因するドメインバンダリーや積層欠陥等の粒内欠陥が観察され、その詳細な観察及び解析結果は論文5),6),13)を参照して頂きたい。これらの欠陥は透過型電子顕微鏡(TEM)によるウイークビーム法6)等により、欠陥箇所のコントラストを浮かび上がらせることにより、比較的容易にその存在を観察できる。しかしながら、低い酸素濃度においては、高分解能電子顕微鏡(HREM)を用いてもその状態を知ることは容易ではない。表1に示すように、試料Cは粒内酸素量が微量であり、その結果AlN粒子内における結晶欠陥等の存在はHREM観察では確認されなかった。
HREMを用いて、AlN(表1の試料BおよびC)の微構造を詳細に観察した結果を示す。図4は試料Bの解析結果である。XRD分析では粒界相の存在は検出されなかったが、TEM観察により粒界3重点に結晶相の存在を確認できた。観察したすべての粒界相は、電子回折および元素分析によりY2O3相であり、もはやAl2Y4O9相の存在は確認されなかった。このことから、(2)式の化学反応の進行を示す。

図5 試料Bの2粒子界面のTEM像
(a)界面が少し傾いた状態、(b)界面がedge-onの状態
Y2O3助剤を添加したAlN焼結体では、2粒子界面において界面相が存在しない報告14)がある。界面相の有無は焼結挙動及び熱伝導性を議論する上で重要な因子であり、正確な観察結果が求められる。図5は試料Bの2粒子界面のTEM像である。図(a)では界面相が観察できないのに対し、図(b)には約2nmの薄い非晶質相の存在がはっきり確認できる。この差は、界面が電子線に対して平行(edge-on条件15))度の違いだけである(場所はほぼ同じ)。図(a)は界面付近にフリンジコントラストが観察できるので、2粒子界面がedge-on条件にほぼ近い状態である。しかし、さらに(a)の粒界を約1−2度程度傾けて精密にedge-on条件にすると、図(b)のように界面相が現れる。一般に、Si3N4は自形を持つ粒子形状のため比較的edge-on条件に粒界をあわせやすく、薄い界面相の存在が多く報告されている16)。これに対し、AlNは粒界が直線的ではないものが多く、さらに2粒子界面相の幅は2nm以下と非常に細い。そのため、界面相の観察は容易ではなく、2粒子間に界面相が存在しないと報告されたと考えられる 。
2粒子界面を詳細に観察した結果、薄い界面相はアモルファス相で構成され、AlN以外にY,O成分が検出された17)。この結果は、焼成過程においてAlN-Y2O3-Al2Y4O9系の液相を生成し18)、1900℃の高温においてもその液相は安定的に存在していることを示唆する。生成した液相は、固体粒子を包むように液相が広がり、その液相の毛細管現象により固体粒子を引きつける再配列機構、さらには溶解析出機構により液相焼結が進行する19)。焼結体の高熱伝導率化も液相が強く関与し、AlN粒子の液相への溶解及び析出により高純度化される。これはAlNのC軸格子定数の変化からも推察される20)。
高熱伝導率(272 Wm-1K-1)を示した焼結体の界面はどうだろうか?1900℃で100時間焼成したAlNセラミックス(試料C)のTEM像を図6に示す。粒界3重点には結晶相の存在は確認されなかった。粒子界面は0.6 nm前後の薄いアモルファス相で覆われ、その界面からはAlNに加えてY,O成分が検出された12)。これらの界面の全酸素量は0.03 mass%(表1)であり、非常に微量である。得られた結果から、(3)式の化学反応の進行により粒界相量を減少し、さらにはAlN粒子の純度の向上(固溶酸素量、不純物量等の減少)を示している。

図7 焼成条件が変化したときの粒界構造の変化
(a)粒界3重点、(b)2粒子界面
図7に1900℃で焼成したときの熱処理時間の違い(20時間と100時間)による粒界3重点及び2粒子界面の変化を模式図で示す。20時間焼成では観察された粒界3重点にはY2O3結晶相があり、Y2O3結晶相の周りはアモルファス相で囲まれている17)(図7(a))。焼結時間の経過と共に、不純物酸素や金属は粒界3重点に濃縮され、液相は固体間を移動しながら系外(試料外)にYNとして排出し、図7(b)に近づいていくと推察される。
最近のBeO助剤を添加したSiCセラミックスの研究においても、2粒子界面のアモルファス相の存在が微構造観察により確認され、微量の液相が存在し、それが焼結に寄与することを明らかにした21)。
多結晶セラミックスと単結晶の大きな違いは粒界の有無であり、その粒界効果は測定温度を変化したときの熱伝導率の違いに大きく反映される。また、各温度における熱伝導率からの平均的なフォノンの散乱距離の計算により、熱伝導率に及ぼす重要因子を把握できる。
図8に各種AlNの熱伝導率の温度依存性を示す22)。同時に、Slackによって報告されたAlN単結晶の熱伝導率及びそのデータをもとに計算されたAlNの理論熱伝導率3)を示す。セラミックス及び単結晶の熱伝導率は共に低温域から徐々に増加し、最大値に達した後温度上昇に伴い低下する。材料間の熱伝導率の差は300K以下の低温域で顕著に現れた。
AlNのような絶縁性材料の場合、その熱伝導率はフォノンの寄与が極めて大きい。フォノンによる熱伝導率は、以下の式で表される。
ここで、 mはDebyeモデルにおけるDebye振動数(kθD/h)、c は角振動数 を持つフォノンの熱容量への寄与、v( はフォノンの群速度、l( はフォノンの平均自由行程である。フォノンは、格子欠陥、転位、ひずみ、固溶体等の粒内欠陥、粒界や気孔等の存在により散乱される。また、フォノンと粒内欠陥、粒界等との散乱プロセスはフォノンの平均自由行程の逆数には次のような加成性がある23)
lppはフォノン-フォノン散乱距離、 lpdはフォノン-粒内欠陥散乱距離、 lpgはフォノン-粒界散乱距離である。
(4)式に各温度におけるAlNセラミックスの熱伝導率を導入するとフォノンの平均自由行程lC 、AlNの理論熱伝導率を導入するとフォノン-フォノン散乱距離lppが得られる。図9に温度が変化した時のフォノン散乱距離をまとめた。同時に、単結晶の熱伝導率から計算した単結晶のフォノンの平均自由行程lsも示す。温度低下に伴い、l ppは長くなる。一方、セラミックス(試料C)のl cは室温では約60 nm、100 Kでは約300 nm、50 Kで約1000 nmとなり、20 Kで約6μmにほぼ一定となる。6μmの長さは、セラミックス粒子径とほぼ一致する。このため、20 K以下の温度ではフォノンの散乱は粒子の大きさ、つまり粒界の存在によって大きく制御される。尚、試料Cにおいて粒界でのフォノン散乱の効果が低温で明確に現れるのは、低温になるに伴いl ppは長くなり(逆にフォノン-フォノン散乱数は小さくなる)、粒界にあるアモルファス物質(厚さ:0.6nm、図6(b)参照)の存在によるフォノン散乱が際立つためであろう。一方、単結晶の場合粒界が存在しないため、極低温でのl Cや熱伝導率において測 定試料の寸法効果が観察される。
20K以上の測定温度や室温でのl Cはどうであろうか?セラミックスのl Cは室温では約60 nmであり、AlN粒子径よりも極めて小さい。これは、(5)式の関係から、フォノン-粒子内欠陥散乱やフォノン−フォノン散乱の効果が極めて大きいためである。つまり、室温付近ではフォノン-粒子内欠陥散乱やフォノン−フォノン散乱が熱伝導率を制御する。これについては、@粒子内欠陥数(点欠陥等)は2粒子界面の数は極めて多く、それにより室温付近ではフォノン-粒子内欠陥の散乱度数の増加、A試料が極少量の粒界相でかつ薄い膜(約0.6nm)で構成されているため、フォノン-粒子内欠陥散乱やフォノン−フォノン散乱に比較して粒界内でのフォノン散乱度合が小さい等の理由によると考えられる。一方、高温になるに従い、フォノン−フォノン散乱が大きくなり、それが熱伝導率を支配する23)。温度が変化したときの種々の散乱プロセスに対する散乱度数については文献24で報告している。
1983〜1990年の短期間にAlNの研究開発が飛躍的に進み、その用途は確実に進んでいる。単結晶並みの熱伝導率を示すAlNセラミックスについてその応用は明確になっていないが、多結晶体の中で最高の熱伝導率を示すこの材料の用途は確実にあるはずである。そのため、読者の方々からその用途及び可能性については御教示を頂ければ幸いである。
謝辞
本研究を進める上で御指導を頂いた龍谷大学 故浦部和順教授、長岡技術科学大学 石崎幸三教授、富山大学 森克典教授に厚く御礼申し上げます。
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