フラーレン・ナノチューブ

C60は,12個の5角形と20個の6角形が並び, 炭素が60個集まって, サッカーボールの形をした分子です. C60は,1985年,Kroto 氏らによってはじめて合成されました. 理論的には,既に1970年に大澤映二氏 (当時,北海道大学;現在,ナノ炭素研究所)によって, 存在を予言する研究が行われていました. 発見の15年も前のことです.C60を半分に切り, 間に10個炭素原子を挟んで化学結合を作ると, ラグビーボールの形をした, C70分子となります.C70は, C60に次いで存在量の多いフラーレン分子です. 更に10個炭素原子を間にはさみこむとC80分子になります. 更に10個はさむとC90分子になります. これを何度も繰り返していくと, 図に示すように分子がだんだん長い形状になっていき, 最終的には無限に長いチューブ状の物質となります. これをカーボンナノチューブと言います. 直径がナノメートルのサイズを持っていることから付けられた名前です. 1991年に飯島澄男氏(NEC)によって発見されました. これは電子顕微鏡を操作中の飯島氏の写真です.

カーボンナノチューブは,軽いにもかかわらず曲げに強いと言う性質があります. 構造的には, 炭素が蜂の巣格子をなしたグラファイト平面を管状に丸めて作った形状をしています. ナノチューブ上の炭素が螺旋を巻いている場合には, グラファイト平面の丸め方によって, 右螺旋と左螺旋の2通りの構造が可能です. 生体系のDNAも螺旋を持った構造をしていますが, 人工物質のカーボンナノチューブにも同様の性質があるという対比は面白いです. 電子状態の可能性には,金属になる場合と半導体になる場合の2通りがあって, 金属的ナノチューブと半導体ナノチューブの存在比は,1対2です. 金属になるか半導体になるかは, グラファイト平面からナノチューブを作る時の丸め方によって決まります. 炭素だけからなるカーボンナノチューブだけでなく, ホウ素や窒素原子を含むヘテロナノチューブも合成されています. BNヘテロナノチューブは, 化学結合がイオン性結合に近い性質を持つために,その電子状態は絶縁体です. また,C60 などをカーボンナノチューブの中に入れてきれいに並べることができます. フラーレンが中に並んだナノチューブを ピーポッドと言います. さやえんどうとの類推から付いた名前です. ピー(豆)がフラーレンで, ポッド(さや)がカーボンナノチューブに当たるというわけです.

ナノテクノロジー研究部門においては, カーボンナノチューブの生成過程を研究し, 光学的性質や輸送現象等の基礎物性を測定しています. また,理論計算によってナノチューブの電子状態を解明し, 新奇な物性予言を目指しています. 新炭素系材料研究開発センターとの共同研究として, 「超微細インクジェット技術」を用いてカーボンナノチューブを電界放出ディスプレイへ応用する研究やピーポッド系における物性の研究を進めています.


カーボンナノチューブの研究紹介(納米版)

産業技術総合研究所

ナノテクノロジー研究部門

K. Harigaya